夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
◇月〒日 曇り
先日の大運動会は大盛況の内に終わった。最後のキャンプファイヤーで爆発騒動がゲヘナ生によって引き起こされてしまったが。アコさんとヒナさんが能面で対処したのが印象的だった。
そんな大盛況だった大運動会が終わり、アリウス自治区は何時も通りの日常へと戻っている。自治区内の開発を地に足を着けて、一歩一歩確実に。駆け足だと躓いて大事になりかねないので。
その新たな一歩、豆乳の生産が徐々に安定してきている。豆乳自体は自治区内で作られてはいたが、それも全て手作業による手作り。機械による自動化もないので重労働だ。機械のメンテナンスや電力の安定供給、衛生管理等の問題が山積みだったし。
シャーレの先生から一度、豆乳も作れるならマーガリンも作れるんじゃないかと聞かれたが、哀しい事に現実的じゃないと返した。理由はただ一つ、使える動物性の油脂がないからだ。
マーガリンはバターと違い、植物性の油脂と動物性の油脂を混ぜ合わせた加工品だ。熊と鹿の油脂を使うにはリスクが大きく、不透明な部分が多すぎるのだ。医療体制も未だに低い状態だし。万が一の対処が出来ないのも問題だ。
ただ、何時までも固形の油がないのもそれはそれで問題なので、カカオの栽培に挑戦している。カカオバター、いやココアバターだったかな?動物性の油脂に頼らないバターだった筈だから、挑戦する価値はある。これは《食料研究部》のアイディアだ。私に依存せずに、自分達で調べて挑戦するのは良いことだ。
後、《万魔殿》が《スクワッド》に対して来訪すると連絡をしてきていた。マコト殿は相変わらずの尊大な態度で、自ら赴く事を光栄に思えと豪語していたと。アツコが無理に来なくてもいいと返したら、少々慌てふためいていたそうだが。
○月※日 雨
《万魔殿》はイブキちゃんにデレデレに甘いのだと認識できた日だった。
まさかの主要メンバー全員でアリウス自治区に訪れ、第一生徒会室でマコト殿は取引を持ち掛けた。我々ゲヘナも物資を支援・提供するから、その対価として定期的にお前達が栽培したメロンを寄越せと。
マコト殿のその要求に対して、サオリが代表して無理だと返したが。理由は単純に、栽培時期が限られているから。不適切な時期に栽培しても味も落ちるし、食べられる程の大きさにも成長しづらいとも。
その瞬間、マコト殿は信じられないと言わんばかりの表情で驚愕した。隣にいたイロハさんは予想していたかのような呆れた溜め息を吐いていたが。サツキさんは残念そうに、チアキさんは笑っていましたが。
そして、最年少のイブキちゃんは……泣きました。メロンが食べられないことに。幼子の泣き顔は心にクるものがありましたが、こればかりは本当にどうしようもない。育成、栽培は時期と天候に常に左右されますから。
それでもマコト殿は諦め切れないのか、ハウス栽培に照明等で擬似的に栽培環境を整えても無理なのかと聞いてきました。それもコスト面で採算が全く取れない事、そこまでするなら他自治区に依頼するより、自分達の自治区内でやった方が遥かに安上がりだと伝えたら、見事に撃沈した。
そんなマコト殿の様子に、ミサキが半信半疑で下調べしていなかったのか問い質したら、イロハさんが疲れたように答えました。マコト殿は割と抜けており、今回のような失敗はよくある事だと。同時に今回に関しては自分も似たり寄ったりだったとも。
今回の発端は、イブキちゃんがアリウスのメロンをまた食べたいと言った事から始まったそうだ。イブキちゃんのそのお願いに、マコト殿は私に全部任せろと豪語して今回の交渉へと望んだそうだが……結果はご覧の有り様だ。メロンに限った話ではないが栽培の知識は、調べないと意外と分からないし。
それに、支援も物資を提供されるだけでは根本的な解決には至らない。貰ってばかりではその場しのぎにしかならず、支援も何時までも続けられないのだから。産業らしい産業もないですしね。
マコト殿は規則に縛られて窮屈そうだと嫌味を飛ばしたが、アツコが直ぐに安定した生活を守る為のものだと返しました。同時に自由すぎて“上”に対する関心が低いとも。チアキさんが支持率2%くらいだと同意して、マコト殿は白眼を向いて倒れたのが印象的だった。
ちなみに最終的には蜂蜜の購入で妥協してもらった。保存も効いて、一人分なら消費量も多くないので。
○月‰日 雨
【ポルタパシス】にサクラコさんとウイさんを招き入れた。手続きの為の誓約書付きで。内容は古書と禁書の持ち出しと、複写の禁止。守れないなら立ち入りは許可できないと。ウイさんだけでなくサクラコさんも招いたのは、《シスターフッド》の前身、《ユスティナ聖徒会》に関する歴史もあったからです。アリウスが弾圧から逃れられたのは《ユスティナ聖徒会》の一部の人間から逃亡の手引きを受けたからだったそうですし。もしかしたら、この一部の人間が《シスターフッド》の先駆者だった可能性もありますしね。
ウイさんは誓約書に対して文句たらたらでしたが、破ったら大変な目に合うと伝えたら渋々ながらも呑み込んでくれました。もし破ったら、本が目の前で燃やされ続ける悪夢を毎日見る事になりかねないと伝えたからでしょうが。ウイさん本人は古書館から基本は出たくないそうですが、【ポルタパシス】の書物を自治区の外に出すのは完全にアウトだとアツコから言われているので、説得には本当に苦労しました。
後、150年前から記録を放棄した事にもウイさんは憤慨していましたが、これはある意味仕方のない側面もあっただろうとも宥めました。
【ポルタパシス】にある古書……アリウスの歴史書と呼べる“記録”は栄光とは程遠い、争いと憎しみの負の記録ばかりだったからです。書き手の主観かつ、ある程度は都合良く書き残していたとはいえ、マイナス方面ばかりの記録しか残っておらず、心を削り気持ちを沈めるものばかり。加えて、誰でも閲覧出来ていたのが問題だった。負の記録が誰の目にも入るから、負の感情が育ち易く劣悪な環境も相まって憎悪に拍車が掛かっていたのだろう。
だからこそ【ポルタパシス】への立ち入りを全面禁止にして、負の連鎖の断絶を狙ったのかもしれないとも話した。無知は罪という言葉もあるが、無知だからこそ取れる手があるのも事実だ。何も知らないからこそ、継承は断絶してしまうのだから。それに、記録を残すのも“人”ですからどうしても心の限界は来るでしょうしね。あくまで推察であり、実際のところは分かりませんが。単に嫌気が差しただけかもしれないですしね。
その話を聞いて、サクラコさんは納得したように頷いてくれました。ウイさんは相変わらず不満たらたらでしたが。
それと本の状態が良好だった事にもお二人は疑問を感じていましたが、そこはアリウス自治区特有の“何か”で納得してもらいました。実際、過去にロケットランチャーの爆撃を受けて無傷でしたし。その事実にウイさんが再三発狂しましたが。
○月§日 晴れ
本日はミレニアムの人達が遊びに来た。実際は授業の見学と体験に近かったが。訪れたのは《C&C》と呼ばれるエージェント三人と、《ゲーム開発部》の四人とロボット一名だ。
今回の来訪は《C&C》のリーダーであるネルさんが主体で、アリウスの体育の授業に興味が湧いて来たとのこと。カタコンベをどうやって突破したのかを聞いたら、同じ《C&C》のアスナさんの天性の勘で正解のルートを見抜いたとの事。
《ゲーム開発部》が同行した理由は、新たなゲームの題材を求めてとの事。変身ヒーローネタとして面白そうであり、同時に新入部員のアリスさんが異世界の“勇者”と手合わせしたいとも目を輝かせていました。
そんなアリスさんの期待と羨望の眼差しに、私は彼女の夢を壊さない為に応じる事にしました。子供の夢を守るのも、大人の役目ですからね。
ただ、ケイと呼ばれていたロボットが私の事を新たな攻略対象やら、世界終焉の障害やらと物騒な言葉を呟いていましたが。ちなみに《エンジニア部》は緊急の依頼で泣いていたそうですが。
そんなケイの不穏な発言は流しつつ、アリスさんとは特別授業という形で模擬戦を行いました。そしたら、アリスさんは色々な意味で規格外でした。明らかに超重量物のレールガンを軽々と振り回していましたし。【ブレイカムバスター】のカリバーモード時の使い方を真似て、レールガンを鈍器として使っていました。ご本人曰く、“勇者の剣”だそうです。
ただ、その後が大変でした。私とアリスさんの模擬戦を見て、ネルさんが自分とも戦えと銃を両手に挑戦状を叩きつけたからです。それも勝手にアリウス生から拝借した【アタッシュショットガン】二丁で。
そこからは本当に大変でした。チャージ技……それも大技クラスである【ガトリングカバンバスター】を二丁同時に放ったり、【フレイミングカバンバスター】や【ダイナマイティングカバンバスター】まで放ったのですから。さすがにやり過ぎだった為、現時点での最強フォームで制圧しましたが。
「ハッハッハァッ!マジでスゲェな、コレ!」
『『チャージライズ!――フルチャージ!』』
《C&C》最強のネルは二丁の【アタッシュショットガン】の凄さに笑い声を上げながら、片手だけで乱暴に折り畳みしてチャージを完了させる。そのまま空へと飛び上がり、気合いとイメージを込めて引き金を引く。
「吹きとべぇ!!」
『『ダイナマイティング!カバンバスター!』』
雄叫びと共に、マゼンタ色のエネルギー弾が放射状に描かれるように無数に発射される。着弾した箇所から盛大な爆炎が上がり、グラウンドを容赦なく抉っていく。
「ネルさん!さすがにやり過ぎです!とぉおっ!?」
基本フォーム姿の恭介がネルの暴走に苦言を飛ばそうとするも、爆炎と爆風の衝撃に晒され、防御姿勢を取らざぬを得なくなる。
「アハハ!リーダー、完全にはしゃいでるね!」
「これ、問題にならないかな……?」
「……なるんじゃないかな?」
「なると思うよ。遊びの範疇を越えちゃってるし」
「少なくとも、リオ会長は膝を抱えて泣きますね」
「アリス知ってます!これが修羅場ですね!」
『これがあの大人の力ですか……やはり、彼もこちら側に引き込むべきですね!!』
そんな大惨事を前に、グラウンドの隅に避難していたミレニアム組の反応は様々だ。その半分は不安そうにしていたが。
「こうなっては仕方ないですね……来い!ルーラーメアカプセム!!」
これは完全にアウトだと判断した恭介は、空に手を掲げて【ルーラーメアカプセム】へと呼び掛ける。呼び掛けに応じた【ルーラーメアカプセム】は旋回しながら恭介へと近づき、掲げた手へと収まる。
恭介は【ラッシュカプセム】をバックルから取り外すと、間髪入れずに【ルーラーメアカプセム】をセットする。
――インフィニティ!
――オンユア、マーク……オ、オ、オンユア、マーク……
「……何か、恐ろしい予感を感じるんだけど……」
「アレ、結構ヤバいかも……」
恐怖心を煽るかのような変身待機音に、モモイは嫌な予感を覚えアスナは持ち前の勘から危険性を察知する。対峙するネルも思わず身構える中、恭介は無言で【ルーラーメアカプセム】のボタンスイッチを殴るかのように押し込んだ。
――エクスキューショナー、ナイトシステム!――ライダー、アリウス!インフィニティ!
白と黒の旋風が恭介の身体を覆い、姿を変えていく。物々しい胸当てを装着し、二の腕も太くなった姿――《ナイトアリウス・インフィニティ》への変身を完了させる。
「あ。あの人、終わったね」
「流石にヘイローは破壊されないだろうけど……みっちり絞られるね」
ミレニアム組同様に片隅で見守っていたアリウス生達が、同情するような視線をネルへと向ける。《審判者》としての側面が強く出るあの姿は、結構無慈悲となるのだから。
そんな周りに構わず、恭介は地面を思いっきり強く叩く。すると、まるで噴火したかのように地面が隆起して、その場にいたネルを派手に上空へと飛ばす。
「やろぉっ!」
ネルは悪態を突きながらも両手の【アタッシュショットガン】を連射していくが、着弾しても恭介は微動だにしない。恭介は着弾しようが構わずにそのまま駆け抜けていき、殴り付けるようにボタンスイッチを三回押し込む。
「安心しろ。肉体的なダメージは一切ない」
『インフィニティ、リベイク!』
そんな一声と共に、恭介は掌低を放つかのようにネルの顔へと手を翳す。風圧で若干髪が靡いたネルは、そのまま受身も取らずに地面へと落ちる。
「……終わった?」
ユズが恐る恐るといった様子で窺うと、地面に倒れているネルは顔を真っ赤にして唸っている。一体何が起きているのかとミレニアム組が疑問に思う中、変身解除した恭介がネルの今の状態を簡単に説明する。
「夕方には目を覚ましますよ。それまでは、悪夢を見るでしょうが」
「悪夢!?」
「い、一体どんな悪夢を……?」
「様々な羞恥体験の悪夢です。内容はネルさんの認識任せですが」
羞恥体験の悪夢と聞かされ、モモイ、ミドリ、ユズは顔を青くした。恥ずかしい体験を延々と繰り返されるとか、普通に恐ろしい。それでも軽い方かもしれないが。
ちなみにこれでもかなり加減している。本気なら、永劫の悪夢に閉じ込められるのだから。
「……うぅ。止めろぉ……そんな格好、アタシには似合わ……」
「リーダー、すごい魘されてるね」
「これはかなり貴重ですね。写真に残しておきましょう」
悪夢に魘されているネルをアスナは能天気そうに眺め、トキはこれ幸いにとカメラで撮影する。そこまで危険ではなく、後遺症もなさそうだから。
この一件以降、ネルの暴走は僅かではあるが改善された。後、トキから報告を受けたリオは二日寝込んだ。
ルーラーメアカプセム変身音声の変化:互いに影響を受けた結果。
悪夢のプレゼント:今後の活動において、“殺し”を極力避ける為の恭介が考え出した制裁。《インフィニティ》の力で無限ループの悪夢に閉じ込める。ネルの場合は時間制限を設けて使用した。
その気になれば臨死体験の悪夢を永遠に繰り返す事もでき、ある人物のフラグエリアに深く突き刺さっている。