夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
×月×日 晴れ
連邦生徒会から緊急の招集があった。呼ばれたのは《スクワッド》だけではあるが、念のために私の同行も認めさせたとアツコは語っていたが。
その道中で、連絡先を交換していたホシノさんからの連絡もあった。内容は後輩のシロコさんが行方不明となり、シャーレの先生とも連絡が取れなくなっていると。詳しく話を聞くと、シロコさんはカイザーの不審な動きを見かけて尾行していたそうで、その最中で何かが起きたみたいだと。
先ずは、連邦生徒会の招集の内容を確認してから再度連絡を入れる事を伝えました。行方不明となったシロコさんと連絡が取れなかったシャーレの先生……偶然にしては少し出来すぎている気がしますから。【混沌の領域】からの干渉の可能性も疑いましたが、シャーレの先生に対して好意的に接しようとしている黒服達がそんな悪手を取るとは考えづらいと思い直しました。加えて、私という暴力装置もありますし。
そうして連邦生徒会の会議に同席させてもらいましたが……事態は思ったよりも悪い方向へと進んでいました。
突然キヴォトスの各地で観測された、超高濃度の未知のエネルギー反応。それの調査と対処が今回招集された理由でした。そのエネルギーが観測された場所がアビドス砂漠、D.U.近郊の廃墟化した遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム郊外の新しい都市、D.U.のサンクトゥムタワーであることも。
現象の解明に各自治区の協力が必要不可欠だと、代行のリンさんは告げて協力を求めました。ですが、この非常対策委員会に参加する筈のシャーレの先生の不在が各学園の不和を招いていました。
シャーレの先生の所在をマコト殿が聞き、代行のリンさんが自分達も行方を探していると返したことで会議は崩壊寸前でした。マコト殿が他の万魔殿のメンバーを連れて退出しようとした直前で、私が手を上げて発言の許可をもらいました。今回の件と関係があるかは不明である事を前置きして。
今回の緊急招集に出席していないアビドス高校で、一人の生徒がカイザーの動向を探っている中で行方不明となっている事。それに続くようにシャーレの先生の失踪……妙にタイミングが合っている事を伝えました。偶然の一致の可能性は確かにあるが、行方不明となった生徒は二番手の実力者……加えて途絶える寸前の言葉が、想像の範疇を越える何かを目の当たりにしたかのようだったとも。
ただ、これが余計に事態を混乱させてしまいましたが。この話を聞いたマコト殿がカイザーがシャーレの先生を拐ったのだと早々に判断し、カイザーに襲撃を掛けると宣言したのですから。
そこから話は謎のエネルギー反応からシャーレの先生の捜索に完全に移行してしまい、本来の会議は明後日の方向へと消えていってしまいました。どちらにせよ、連邦生徒会主体の会議は纏まりがなく終わってしまいましたが。
その後は、アリウスが繋ぎとしてトリニティ、ゲヘナ、アビドス、ミレニアムの五校によるシャーレの先生捜索チームが組まれました。本来の目的の為にも、シャーレの先生を見つけるのは急務ですからね。
「ふう……」
「校長、今日も日記を書いていたんだ」
「ええ。基本的に習慣ですから。普段より早いですけどね」
D.U.地区にある高級ホテルのロビーの隅にいた恭介とアツコはそんなやり取りをしつつ、残りのメンバーと共に指定された場所へと向かう。
ホテルのラウンジ……その一室を丸々借りる形でトリニティとゲヘナ、ミレニアムを含めた首脳陣が集まっている。トリニティは現ホストのミカの基本方針から、ゲヘナは《エデン条約》とイブキの好物となりつつある蜂蜜繋がりから、ミレニアムはアリウスに対するやらかしからで。
「後はアビドスの者達だけか」
「時間的に、そろそろ来る筈だけど……」
マコトとリオがそう呟いていると、行方不明のシロコを除いたアビドス復興対策委員会のメンバーがホテル員の案内で到着する。
「うへ~、みんな集まってるね。おじさん達が最後だったかな?」
「ええ。自治区からD.U.地区に赴く以上、貴女達が最後になるのは当然よ」
「でも、仕方ないじゃんね。対策委員会の子の一人が行方不明なんでしょ?内容の分からない招集より、そっちを優先するのも分かるし」
ホシノの若干申し訳無さそうな言葉に、リオは距離的な問題で仕方ないと返し、ミカも事情を汲んだ上で仕方ないと返す。そもそも今回の緊急招集で出席しなかったのはアビドスだけではない。ワイルドハントにオデュッセイア……諸事情から来れなかった者達もいる。特にオデュッセイアは巨大船舶を学園としている都合上、急な呼び出しには対応仕切れない面もある。リモート会議という形でさえ出られなかったのは、対応に追われていた連邦生徒会の不手際でしかないが。
そうして役者が揃った一室で、現時点で判明している事を報告し合っていく。
「まず、おじさんから話すね。シロコちゃんが失踪した場所に向かったんだけど、見つかったのはシロコちゃんが乗っている自転車だけ。砂地には争った痕跡はおろか、足跡さえも本人のもの以外はなかったよ」
「争った痕跡だけではなく、足跡も彼女以外のものはない?それは……少々奇妙ですね」
ホシノの報告にナギサは怪訝な表情を浮かべる。状況的にカイザーに気付かれてしまい、戦闘に縺れ込んだ結果だと思っていたのだが、ホシノの報告を聞く限りそうではない。むしろ、失踪の謎が逆に深まってしまったのだから。
「砂地という足跡が残りやすい地形にも関わらず、失踪した本人の痕跡以外は残っていない……確かに奇妙だな」
「まるで神隠しにあったかのような状況ですね。彼もシロコさん同様に連れ去られたのでしょうか?」
サオリはナギサ同意するように頷き、恭介もシャーレの先生がシロコと同じように連れ去られたのかと疑う。だが、それはリオによって否定される事になる。
「いいえ。先生が連れ去られたのは物理的なものよ。例の緊急招集とアビドスが先生に連絡を入れた時間帯……その間のシャーレのビル周辺にある監視カメラの映像を《ヴェリタス》にハッキングしてもらって確認したら、この映像が見つかったの」
リオがそう告げて手元の端末を操作して、簡易のスクリーンへと映像を写す。そこに写っていたのは、ヴァルキューレ警察学校の校章が刻まれたヘリに乗ろうとしている、シャーレの先生の姿だった。
「ヴァルキューレのヘリ?先生はヘリで移動しようとしていたのかい?これだけなら、失踪する理由にはならないだろうが……」
「でも、実際シャーレの先生は行方不明になっている。完全に怪しいね」
セイアとアツコだけでなく、この場にいる全員がヴァルキューレに対して疑惑を向け始めていく。ヴァルキューレも今回の緊急招集に欠席していたが、それは治安維持の観点からだと思われていた。だが、この映像を見ると別の理由で出席していなかった可能性が出てきている。
「……キキッ!そうか、そういうことか!読めたぞ!今回の失踪事件の犯人が!やはりカイザーが先生を拐っていたな!」
「マコト先輩?一人だけで納得してないでちゃんと説明して下さい。私も分かっていないんですから」
マコトは非常対策委員会の会議で出した結論が間違っていなかったと言いたげに豪語し、イロハが呆れながらも説明を求める。実際、マコト以外はまだ疑問符を頭に浮かべているのだから。
「マコト殿。私からも説明をお願いします。情報の多さで言えば、この場ではマコト殿が一番でしょうから」
「キキッ!いいだろう!このマコト様に感謝しながら耳を傾けるがいい!」
恭介も素直に説明を求めた事に、マコトは更に上機嫌となりながら自身の推理を披露していく。
「まず、最近のカイザーはアビドス砂漠を頻繁に出入りしていた!その目的は“宝探し”である以上、その“宝”とやらが見つかった可能性が高い!」
「……!確かにその可能性は高いです。カイザーは元々、その“宝”を見つける為にアビドスの土地を買収したと口にしていましたし」
マコトの推論は同意したアヤネだけでなく、他の対策委員会もあり得ると言わんげに頷いている。それなら失踪前のシロコの報告にあった、カイザーの動きにも説明がつく。マコトがカイザーの“宝探し”を知っているのも、先の事件でカイザーの不審な動きを伝えた側に位置する人間なのだから、そこから詳しく知っていても何ら不思議ではない。
「だけど、それがどうして先生を誘拐する事に繋がるのかな?その“宝”を見つけただけなら、先生を誘拐する必要はないよね?」
「随分と頭の回転が鈍いな。カイザーのスタンスを考えれば一目瞭然だというのに」
ミカの疑問にマコトは嫌味たっぷりに返す。その物言いにミカはイラッと来るが、シャーレの先生の事が優先なので我慢する。それに半分飾りとはいえ、ホストの立場にいるのだ。トップとしての最低限の礼節を幼馴染み二人から耳に蛸が出来る程に言い聞かせられたので、ミカもその辺りは理解できるようになっている。
それでも言われっぱなしは癪なので、ミカなりに考えて言葉を口にするが。
「……その“宝”が支配に使えるものだから?」
「キキッ!正解だ!」
ミカの半信半疑の呟きに、マコトが当たりだと返す。その瞬間、場の空気が一瞬で緊迫したものとなる。そんな空気に構うことなく、マコトは言葉を続けていく。
「加えてカイザーは、ヴァルキューレと癒着の関係を築こうとしていた!“上”に手回ししてな!」
「……今、さらっとトンでもない事を言わなかった?」
「“上”に手回しですか……どうやら、思った以上に闇が深いですね?」
マコトがあっさりと明かした爆弾発言に、ユウカは顔が引き攣り、ノアはにこやかな笑みを保っている。俗に言う“黒い笑み”の部類ではあるが。
ヴァルキューレの“上”……それは連邦生徒会の防衛室だ。そこに所属する生徒が裏でカイザーと取引して腐敗を推し進めようとしたのだから当然とも言える。後から知った防衛室長のカヤが同じく行方不明なのも、その腐敗から引き起こされた可能性もある。
「……その口振りからして、前から“上”について知っていたように聞こえるんだけど?」
「当然だ!このマコト様に知らない事など存在しない!連邦生徒会が腐っていようと、マコト様の偉大な野望の前ではどうでもいい事だからな!!」
ミサキの疑問に対するマコトのその宣言に、同じ万魔殿のメンバーを含めた一同は納得してしまう。確かに連邦生徒会を軽視しているマコトからすれば、何処が腐敗していようと関係ないし、むしろ
だが、こうなると話が変わってくるし、マコトの推理も真実味を帯びてくる。少なくとも、カイザーがシャーレの先生を誘拐する理由があるのだから。シャーレの先生にアビドスの乗っ取りとヴァルキューレとの裏取引……企みを二回も阻止されているのだから。《お祭り委員会》の件も合わせれば三回だから、また阻止されたら困ると判断するのも不思議ではない。
同時に最悪のシナリオにも気が付く。
「……マコト先輩?その推理が正解だった場合、今のこの状況はカイザーにとって絶好のチャンスじゃないんですか?代行の不信任決議案が提出されて、機能不全に陥っていますし」
「……あ」
イロハの指摘に、マコトはマヌケな声を洩らす。その瞬間、張り詰めていた空気が今度は微妙な空気へと変わっていく。
「……自分で言ってて気付いてなかったの?」
「まぁ……マコトちゃんだからね」
「万魔殿の議長殿の推理は確かに一理あるものだったが、自慢そのものに熱が入りすぎていたようだね」
「真っ先に真相に近づけた人が、肝心な事を失念していたとは……」
「う~ん……仕方ないんじゃないかな?確証を抱いたのもついさっきみたいだし」
「そうだな。議長が気付かなかったら、疑問の堂々巡りだった可能性もあるからな」
「そっちも頭の回転が鈍いんじゃない?頭の栄養が角に行ってるんじゃないの?」
呆れられたり、皮肉を言われたり、フォローされたり、意趣返しされたりと、その言葉の全てが弾丸となってマコトを襲う。
その直後、激しい揺れが各地を襲った。
「本当に手応えがないな。いや、裏で仕込むしか出来ない時点で気付くべきだったな」
真っ暗な空間で呆れたように期待外れだと告げるのは、灰色のタイツスーツに身を包み、暗青色の複眼のあるヘルメットで顔を隠した人物――バニタスだ。バニタスの近くには瞳を薄らと赤く光らせたシロコと、同じく瞳を薄らと赤く光らせた黒いセーラー服に身を包んだ低身長の少女。そして、物々しい格好をして人の顔の輪郭がある仮面で顔を隠した長髪の人物だ。そんなバニタス達の向かい側には、司祭のような格好をした白い人物達が骸のように転がっている。
「いや、自分達は死なない存在だからと慢心していたか?【アトラ・ハシースの箱船】に【シッテムの箱】、そして《
バニタスは《無名の司祭》達に向かって軽く手を振るうと、彼等の転がっている地面がまるでガラスが割れたかのように崩れ、そのまま《無名の司祭》達は“世界の外”へと放り出される。
「本当にこの空間は便利だな。使い勝手が本当に良い。此処限定なのが特にな」
バニタスは愉快そうにしながらも、その心は笑っていない。何故なら――全ては虚しいのだから。
「全ては虚しく、夢は悪夢へと変わる……希望は絶望となり、やがて全ては決められた地点で無意味に終わる。私の世界も、お前達の世界も、そうして滅んだように」
バニタスは独り言のように呟く。その呟きにシロコだけでなく残りの二人――A.R.O.N.A.と《色彩の嚮導者》も無言を貫く。
「じゃあ、始めようか。――エネルギーの大部分を《虚妄のサンクトゥム》の生成に集中。《守護者》達の形成は中断だ」
バニタスが指示を出した瞬間、六つのエネルギー地点が急速に高まっていく。同時並行で生み出そうとしていた《守護者》――その生成エネルギーも《虚妄のサンクトゥム》そのものへと回されたのだから。
だが、このまま《虚妄のサンクトゥム》だけを作っても、直ぐに取り除かれるだろう。《守護者》なき塔の破壊は容易いのだから。
――カオス
――ハッハッハッハッ!
――バニタス!バニタス!バニタス!ナイトメアライダー!カオス!
だが、バニタスにはそれを解決する手段がある。右腕が凶悪な腕となった形態、《バニタス・カオス》の能力と今いる場所《ナムラ・シンの玉座》の権能を使えば。
『カオス』
《バニタス・カオス》となったバニタスは【カオスカプセム】の力を使い、《守護者》の代役として申し分のない……否、それ以上の存在を作り出す。
――シロコ達のキヴォトスにおける“あり得た未来”。その絶望の末路の象徴たる存在を。
『『『『『『…………』』』』』』
黒い靄が人の形を作り、不気味な光を放つヘイローを有した存在へと形作られていく。その数は《虚妄のサンクトゥム》の数と同じく六人。その誰もが圧倒的な存在感を放っている。
“神秘”ではなく“恐怖”……シロコ同様に反転した、規格外の存在だ。彼女達は生まれて直ぐ、溶けるようにその場から消えていく。消滅したのではなく、それぞれが受け持つ《虚妄のサンクトゥム》へと赴いて。
(恨みたければ恨めばいい……この程度を乗り越えられないようなら、無駄だからな……)
バニタス・カオス
【カオスカプセム】で変身したバニタスの派生フォーム。右腕の形状は仮面ライダーギーツのゾンビフォームに近い。
《守護者》
バニタスによって原作の本来の《守護者》達はお払い箱。再現故に真っ黒黒助でオリジナルより劣化しているが、かなりの脅威となっている。