夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
――シャーレの会議室にて。
「まさか、緊急招集の翌日でこんな事になるなんてね……」
ホシノがそう呟きながらチラリと視線を外に向ける。空は透き通った青空ではなく、血のように真っ赤に染まった空……それも建物も赤く染まる程の異様な光景が広がっている。これだけで十分な異常事態だが、異常はそれだけではない。
「ええ。観測された六つの地点に打ち込まれるように現れた謎の塔……その一つがサンクトゥムタワーを破壊したのだから」
リオも此処まで事態が急速に動くとは想定していなかったのか、暗い表情で言葉を発している。昨日のシャーレの先生の捜索会議……それを遮るように不気味な塔がサンクトゥムタワーを破壊したのだから。
「ですが、不幸中の幸いは先生が見つかった事です。マコト議長の推察通り、カイザーによって囚われていたそうですから」
ナギサがどこか安堵したかのように息を吐いたように、シャーレの先生が傷一つなく無事だった事は幸いだった。マコトの推理通り、カイザーはヴァルキューレの者に変装してシャーレの先生を拉致。自分達の息が掛かった場所に隔離・幽閉していた。それも離反したヴァルキューレの生徒達によって覆されたが。
「防衛室長は依然として行方不明のままだが……別に捨て置いても問題ないだろう。むしろ、余計な事をしかねない者などいない方がマシだ」
「状況証拠だけだけど……ほとんど黒に近いからね。その上、足を見事に引っ張られて対処が遅くなったし」
未だ行方不明のカヤを不要と談じるマコトに、アツコも半目で同意している。連邦生徒会を乗っ取ったカイザーが戒厳令を出したせいで自治区と連絡が一時的に取れなくなり、対応に遅れが生じたのだから。戒厳令はシャーレの先生によって解除されたが、指示も遅れたせいで無駄に時間を浪費してしまった。“備品”の件も合わさって、アリウスから一切の信用がなくなった彼女は泣いていいだろう。完全な自業自得ではあるが。
ちなみに防衛室に対する信用度は、同じ連邦生徒会の人間以外からはマイナスに振り切れている。ヴァルキューレに圧力を掛けられる“上”は限られているし、一連の流れと手口からしてカイザーと共謀していた可能性が高いのだから。信頼できるシャーレの先生を身内の引っ張り合いに利用しただけでなく、想定外とはいえ事態の悪化を招いたのだから不信感を抱くのも当然と言える。実際、この場にいるリン達も擁護できずに無言で目を逸らしているし。
「そのカイザーも、サンクトゥムタワーが破壊された途端に尻尾を巻いて立ち去ったんだよね?代行さん」
「……ええ。彼等はアビドス砂漠で見つけた古代兵器とやらを動かす為に、サンクトゥムタワーを利用しようとしていました。サンクトゥムタワーが破壊された途端、早々に退却しましたが」
「あの慌てぶりからして、カイザーの方も想定外だったのだと思います。想像の範疇ではありますが、その古代兵器で異常事態も解決できると判断したのもあったのではないかと」
ミカの質問にリンは疲れたかのように頷き、ミヤコも推論を交えて頷く。事実、代行の権限を凍結されている間に制圧され、サンクトゥムタワーの制御権を奪おうとしていたのだから。
だが、それも無駄に終わったが。権限を横から奪い、シャーレのビルに幽閉しようとした途中で例の不気味な塔がサンクトゥムタワーを破壊して突き刺さったのだから。明らかな異常事態を前に、報告を受けたプレジデントはトンズラ。ジェネラル達も作戦の続行は不可能と判断したかのように、リン達を放置して引き上げていった。そのあまりの早さにリン達は呆然としてしまい、偶然居合わせたRABBIT小隊も目が点となったくらいだ。
「それより先生は?今度はアリウスの先生もいないし……」
「先生と白服さんは、誰かさんの呼び出しに応じて外に出ているよ。少しでも情報を得る為にね」
ユウカの疑問に、この場で誰と会っているのかを知っているホシノが答える。ホシノもその相手をよく知っているし、理由も話されて渋々ながらも理解は示している。全く信用はできない相手ではあるが、嘘だけは付かない事は知っている。あくまで嘘だけは。
「それ、本当に大丈夫なの!?また連れ去られでもしたら……!」
「大丈夫だよセリカちゃん。今度は白服さんも一緒だからね。例の戦闘形態で向かっていたし」
仮に騙し討ちしようとしてもボコられるだけだろうと、秘密の大金の件もあってホシノはそう考えるのだった。
――シャーレのビルの屋上にて。
「クックックッ……私の呼び出しに応じて頂き、ありがとうございます」
「黒服……」
どうやって此処に来たのかは不明だが、見るからにボロボロの黒服にシャーレの先生は真剣な眼差しを向ける。隣にいる《ナイトアリウス・マジック》の姿をした恭介は、ランチャーモードの【ブレイカムバスター】を携えたまま無言を貫く。
「あの時と同じくお見苦しい姿で申し訳ありませんが、時間もあまりないので本題に入りましょう――《ゲマトリア》は壊滅しました」
黒服がもたらしたその事実にシャーレの先生は目を見開き、恭介は息を呑んで驚く。《ゲマトリア》の壊滅……それが事実ならこの事態は《ゲマトリア》が引き起こしたものではないからだ。シャーレの先生はてっきりフランシスと名乗ったゴルコンダそっくりの人物が関与していたのかと考えていたが、黒服の話が事実なら犯人はフランシスどころか《ゲマトリア》の誰でもない。それどころか、相手は《ゲマトリア》以上に厄介な存在である可能性が浮上している。
「壊滅って……一体何があったの?」
「それに関しては順を追って説明します。少々……いえ、かなり複雑に要り組んでしまっていますから」
シャーレの先生の問い掛けに、黒服は順序を追って話すと伝える。実際、今のこの状況は単なる【色彩】の到来ではないのだから。
「先ず、この状況は【色彩】の到来……いえ、“侵略”という表現が適切ですね。【色彩】がキヴォトスに到来し――狼の神に接触したのです。【色彩】によって恐怖に反転した彼女は、命ある全てのものを、あの世へと導く死の神《アヌビス》となりました」
「狼の神……?一体誰の事だ?」
「貴方もご存知の方ですよ、恭介さん。――白狼シロコさんです」
黒服がもたらした事実に、恭介だけでなくシャーレの先生も固唾を呑んでしまう。行方不明となっていたシロコの安否……それが最悪と言える形で判明してしまったのだから。
そんな二人に構わず、黒服は話を続けていく。自身が知りうる限りの情報……今回の件が“事象”ではなく明確な“計画”によるものであった事を。
「【色彩】……いえ、《無名の司祭》達もそれを理解していて、だからこそ彼女の“崇高”を真っ先に確保したのでしょうが……彼等にとっても想定外の事が起きました」
「《無名の司祭》……?いや、それよりも想定外の事って?」
《無名の司祭》という単語が気になりつつも、黒服の口にした想定外を聞く方が優先だと判断したシャーレの先生は続きを促す。恭介も軽い会釈で続きを促すと、黒服は要となる部分を口にする。
「死の神となったシロコさんより先に私達に接触した人物……亡霊と名乗った者がシロコさんを洗脳して、手中に収めたのです。そして、そのまま彼等の計画を乗っ取りました」
「亡霊……?それに乗っ取った?黒服、その人物は一体……?」
「詳しい事は私にも理解しきれていません。ですが、その亡霊は恭介さんと同じ“外の理”と同じ力を使っていました。左手に持った、籠手のような武器を使うことで」
「!?」
黒服がもたらした情報に恭介は驚愕してしまう。自分と同じ力と籠手のような武器……恭介が知る限りではあるが、該当する武器は【レディガントレット】だけだ。だが、アレには変身機能は存在せず、【ノクスドライバー】や【夢幻ドライバー】にしかなかった筈。武器変身なら【ブレイカムドォーン】があるが、あれは剣の形状だから当てはまらない。
だが、黒服が嘘をつく理由もないしする意味もない。それに、黒服は嘘をつかないのが流儀だ。開示する情報を選んで判断を誘導させはするが。
「……やはり、心当たりがあるみたいですね」
「ああ。だが、それが私の予想通りなら、ソレには変身機能はなかった筈だ。正直、私にとっても未知に近い」
「その辺りは私も気になるけど……今重要なのはそこじゃない」
「そうですね。話を戻しましょう」
シャーレの先生の言葉に黒服も素直に頷き、話を本筋へと戻していく。
「亡霊は“仮面ライダーバニタス”と名乗り、シロコさんと交戦した後に洗脳して手中に収めました。その後は《ゲマトリア》の【秘儀】と【検証結果】を根こそぎ奪っていき……夢を介して私に一連の流れを見せつけてきました。《無名の司祭》と《色彩の嚮導者》……前者は排除し、後者はシロコさん同様に洗脳し、六つの《虚妄のサンクトゥム》……反転したサンクトゥムタワーを形成して落とすところまで」
「つまり……その“仮面ライダーバニタス”がこの事態を引き起こした張本人だと?」
「ええ。厳密には彼等の計画を奪っただけですが」
恭介の問い掛けに対し、黒服は捕捉を入れながらも頷く。仮に亡霊が介入していなくても、《ゲマトリア》の【秘儀】と【検証結果】はアヌビスと成ったシロコに根こそぎ奪われていただろう。《無名の司祭》……太古の存在が暗躍し続けていたと知ったのだから。
――最初から彼等の手のひらの上だったという、情けない事実と共に。敵として相対していた処か、常に後ろから機会を窺われていただけでしかなかったという事に。
加えて、気になる点もある。
「私に見せた夢の中で、バニタスはこう口にしていました。『私の世界も、お前達の世界も、そうして滅んだように』……と」
「世界……?【色彩】によって滅んだ世界が他にもあるという意味なのかい?」
「残念ながら、その問いには正確には答えられません。推測の域を出ていませんので。少なくとも、シロコさん以外は別の世界の存在である事だけは確かかと」
黒服も幾つか予測は立てているが、どれも確証には至っていない。それでも、最悪の可能性だけは意識している。
――バニタスによって排除された《無名の司祭》が、
「……状況は分かった。このままだと一体何が起こる?」
「アレは【色彩】の光を世界中に伝搬させる装置です。放置すればキヴォトスの全ての“神秘”が“恐怖”へと反転し――世界は滅びるでしょう。《無名の司祭》の目的……《名も無き神々》の再臨の為ではなく、ただ純粋に世界を滅ぼす為に」
「……なら、ここからは大人の仕事だね」
シャーレの先生はそう言って懐から一枚の黒いカード――【大人のカード】を取り出す。シャーレの先生は【大人のカード】を使おうとするが、黒服がそれに待ったを掛ける。
「それは止めた方がいいでしょう、先生。そのカードを乱用すれば、貴方は私達と同じ結末を迎える事にもなりますが……それ以上に無駄打ちに終わるからです。《色彩の嚮導者》……亡霊の手中に堕ちたプレナパテスも【大人のカード】を持っているのですから」
「!?」
黒服のその言葉に、シャーレの先生は驚きの表情を浮かべる。同時に黒服の言わんとしている事も理解する。プレナパテスも【大人のカード】を持っている……今ここで【大人のカード】を使って対処したとしても、プレナパテスも【大人のカード】を使ってすぐに対応されてしまうという事なのだから。
「だから、複雑に要り組んでいると口にしたのか」
「ええ。私に一連の流れを教えた事も含めて、ですが。バニタスもそうですが……プレナパテスについても謎が多すぎます。あの者は【大人のカード】だけでなく【シッテムの箱】も所持していました。アヌビスと化したシロコさんも、他のアビドスの生徒が使っていた武器を使っていましたし」
黒服が別世界の存在へと至った理由が【シッテムの箱】だ。アレは世界に一つしかない筈のオーパーツ……同じ物が二つも存在するのはあり得ないのだ。だが、バニタスの世界が複数存在するかのような言葉が、その可能性へと至らせていた。
――平行世界。似て異なる世界の概念。結論から言えば、あの《無名の司祭》は別世界の存在の可能性があり、この世界の《無名の司祭》達は健在である可能性がある。
こうなった以上、《ゲマトリア》として活動するのは不可能に近い。今回のように、横から奪われてしまう危険性があるのだから。最低でも強奪対策の目処が立つまでは、一度解散するしかないと黒服は判断していた。
懸念点があるとすれば、追放し隔離した元《ゲマトリア》の人物が釈放されないかだが……此方から接触しない限りは何もしないだろうと黒服は判断する。フランシスもゴルコンダの記憶を共有しているから、ベアトリーチェに匹敵する性格の悪さを持つ彼でも、それが致命的な悪手でしかないと流石に理解しているだろうからと。見事に読み違えているが。
「ですから、本気で彼等と対峙するのであれば……十二分に警戒しておいてください」
黒服はそう告げると、音も影もなく立ち去っていった。残されたシャーレの先生と変身解除した恭介はサンクトゥムタワー跡に聳え立つ《虚妄のサンクトゥム》を見据えると、解決の為に建物の中へと戻っていくのであった。
原作との相違点
・《虚妄のサンクトゥム》の出現が前倒しとなる。これによりカイザーは早くトンズラした。
・状況証拠から察せられてしまい、カヤの信用はマイナスとなる。これにより、原作以上に振り回される羽目となる。