夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
黒服との対話を終えた恭介とシャーレの先生が生徒達が待つ会議室へと戻ると、全員がすぐに二人に向かって顔を向けた。
「お帰り。白服さんに先生」
「戻られましたか。それで、一体誰からの呼び出しで……」
「ゴメン、リンちゃん。それには答えられないんだ」
リンの問い掛けを途中で切るように、若干申し訳なさそうにシャーレの先生が答える。その理由は隣にいた恭介が口にする。
「あまり関わらせたくない人物なので……ですが、その人物から色々とお聞きしました。それを今からお話しします。アビドスの皆さんは、覚悟して聞いて下さい」
恭介はそう前置きしてから、二人は黒服から聞かされた事を簡単に纏めながら話していく。
《虚妄のサンクトゥム》という名の六つの塔が、【色彩】と呼ばれる光を届ける為の装置であり、このまま放置すればキヴォトスが滅びる事。
それを実行した者が、恭介と同じ力を持つ存在であること。
そして――シロコが【色彩】によって反転し、その後で亡霊の操り人形となっている事も。
「そんな……シロコ先輩……」
「「「…………」」」
シロコが最悪の状況に陥っている事を知り、対策委員会の面々は重苦しい雰囲気を放っている。そんな彼女達に申し訳なく思いつつも、恭介は話を進めていく。
「シロコさんを拐ったであろう人物……プレナパテスはシャーレの先生と同じ物を持っていたとも語っていました。特に本来は一つしか存在しな物まで」
「彼等については謎も多いし、シロコの事も何とかしないといけないけど……今は目の前に集中しよう。あれらをどうにかしないと、シロコを助けに行くことすら出来ないからね」
シャーレの先生の言葉に、ホシノ達は不安げながらも頷く。事実として、このまま《虚妄のサンクトゥム》を放置すれば何もかもが終わってしまうのだから。
「ヒナタさんとウイさんからの情報によりますと、あれは古書に記されていた、人々を狂気に陥れる光である可能性が高いそうです」
「こちらの調査でも、あれからは人の精神を狂わせる信号が出ている事が確認されたわ。今は塔の周辺だけだけど……エネルギー臨界点に達すれば、あの塔がキヴォトスの各地に出現する事になるわ。その臨界点までに掛かる時間は……約300時間前後」
ナギサとリオからの報告で、《虚妄のサンクトゥム》の危険性が事実であることが裏付けられる。その中で唯一“反転”を経験しているセイアが口を開く。
「【色彩】による反転……私の経験からではあるが、アレは塗り替えに近い。自分という存在が欠落し、消えていく……その感覚は今でもはっきりと覚えている」
「でも、セイアちゃんは校長さんのおかげで……」
「それも完全ではなく、条件付きでだよ。“見た”だけで存在の危機に瀕した程で、予知夢の力を手放して逃れられたんだ。それもある人物からの助言でね」
ミカは無事に生還した事を指摘するも、セイアは無条件で助かったわけではないと返す。夢を渡り歩く予知夢の力を手放す対価を払う事で侵食から漸く逃れられるレベルなのだ。それも、【色彩】と“反転”に一番詳しいであろう人物ですら、言外で完全に元に戻すのは不可能と伝えるくらいなのだから。
「その人物って誰なんだい?もしかしたら……」
「申し訳ないが先生。先生が期待している事には答えられない。彼女……クズノハと名乗った人物も、私と会った時点では手の施し用がないと口にしていたんだ。少なくとも完全に反転したら、反転前には戻せない可能性が高い。知恵は借りられるとは思うがね」
少なくともクズノハには【色彩】と“反転”について自分達以上の知識を持っている事は確かだと、セイアはシャーレの先生に答える。話を聞いていた恭介も難しげな表情だ。その中でリモートで会議に参加していた百鬼夜行のニヤが薄らと目を開けていたのだが、その事実に気付いた者はいない。
「すみませんが、話が脱線しています。今は《虚妄のサンクトゥム》の破壊について話し合うべきです」
「……そうだったね。ごめんね、リンちゃん」
「リンちゃんと呼ばないで下さい」
リンによって話の軌道が修正され、一同は再び《虚妄のサンクトゥム》について議論を続けていく。
「臨界点は300時間前後とはいえ、エネルギーが溜まれば溜まる程、《虚妄のサンクトゥム》の出力は強くなる……だから、時間はもっと少ないと考えた方がいいわ」
「なら、遠方からミサイルでも撃ち込んで破壊すればいいだろう!この非常事態だ!多少周りに被害が出ても問題はない!!」
リオの推察に対し、マコトが強硬手段で破壊すればいいと提案する。実際、ヘリや戦車、遠距離ミサイルでも使って攻撃すれば、塔の破壊はそう難しくないと考えるのが普通とも言える。場所も基本的には周辺の被害を考える必要もなく、唯一考慮しなければならないサンクトゥムタワーも《虚妄のサンクトゥム》に破壊されてしまった状態だ。
だが、その《虚妄のサンクトゥム》は普通ではないのだ。それを証明するかのように、通信で会議に参加していたヒマリが口を開く。
『残念ながらそう上手くはいかないでしょう。その《虚妄のサンクトゥム》に《守護者》とも呼べる存在が現れたのですから』
ヒマリはそう告げると、ある映像データを送ってくる。その数は六つ。そのどれもに黒い人物が写っている。頭上にヘイローらしき光もあるが、ノイズが酷いからなのか、それとも何かしらの阻害が働いているのか、ヘイローの形が霞みが掛かったかのようにボヤけている。まるで、ヘイローから正体を特定されないかのように。
「これが《守護者》だと?キキッ!随分と簡単に倒せそうではないか!」
『結論を出すのが早すぎますよ。その内の一人……アビドス砂漠の《守護者》は、ビナーを一方的に撤退へと追いやったのですから』
ヒマリのその報告に、ビナーを知っている者達は息を呑む。対してビナーを知らない者は首を傾げているが。
「そんなに驚く程なのですか?」
「うん。ビナーは巨大な……蛇のようなロボットなんだ。一度退治した事はあるけど、かなり手強い相手だったんだ」
恭介の質問にシャーレの先生は過去の経験を交えて答える。超高熱のビームと大量のミサイルも厄介だったが、一番の問題は装甲の強度であり、既存の武器ではヒビを入れるのが精々だったのだから。
『そして、エネルギー反応を見る限り、《守護者》と《虚妄のサンクトゥム》は繋がっています。《守護者》を倒さない限り、《虚妄のサンクトゥム》の破壊は不可能と見るべきかと』
「……本当に厄介だね。他に《守護者》に関する情報はないの?」
『残念ながらこの映像だけです。ですが、先生なら……』
「分かったよ。データを直ぐに送って」
ヒマリの意図を察したシャーレの先生はすぐ、【シッテムの箱】に件の映像データを送ってもらう。すぐに結果が出たのか、シャーレの先生はその結果に困惑の表情を浮かべていた。
「……先生?そんなに難しい顔をしてどうしたのですか?」
ユウカの問い掛けに対し、シャーレの先生は質問に答えずに無言で【シッテムの箱】の画面を見せる。そこには送られた《守護者》のデータ……個体名が表示されていた。
アビドス砂漠――“
ミレニアム郊外の閉鎖地域――“
サンクトゥムタワー跡地――“
トリニティとゲヘナの境界付近――“
ミレニアム郊外の新造都市――“
D.U.郊外の廃墟の遊園地――“
「……まるで二つ名のような名称ですね」
『それだけじゃないよ』
王女や大悪魔、魔女や半妖と実に痛々しい名称ではあるが、ビナーを一方的に追いやった“慟哭の王女”の力を考えれば当然の名称かもしれない。
当然、警戒すべきは《守護者》だけではない。それを説明するかのように《ヴェリタス》の副部長――チヒロが通信に割って入る。
『その《虚妄のサンクトゥム》から湧き出てくるかのように他の存在……軍隊やオートマタ、シスターのような集団も確認されているよ。一部は自治区内に侵入して、一般市民にも攻撃を仕掛けてきている』
『ええ。攻略だけではなく、防衛も同時に行わないといけない。それに《守護者》の実力を考えると……』
『こちらの最高戦力をぶつけるべき、ですね。可能な限りではありますが』
チヒロに続くようにヒナとスバルも意見を告げ、改めて《虚妄のサンクトゥム》の攻略が想像より高いものである事をひしひしと感じさせていく。
そのタイミングで、別室である作業をしていたヒヨリとミサキが会議室に入ってくる。
「うぇへへへ……数の確認と書類の作成が終わりましたよぉ。これで、皆さんに一時的に貸し出せますよぉ」
「あくまで此処にある分だけだけど……タイミングが悪かった?」
「いえ。そんな事はないですよ」
ミサキの問い掛けに恭介はそんな事はないと返し、ヒヨリはすぐに背中に背負っていた荷物を降ろして中身を取り出していく。
中に入っていたのは【アタッシュショットガン】と【アタッシュアロー】、【ウォーターメロンガトリング】に【火縄大橙DJ銃】、【マグナムシューター40X】に【ギーツバスターQB9】と様々。それも一つずつではなく幾つもだ。
次々と目の前へと並べられていく“備品”の数々に、用意した方法を知っている者達は改めて苦笑いしていく。
これらは昨晩、恭介が夢の中で大急ぎで回収した物……《明晰夢》の力でこの場に持ってきた、弾切れ知らずの銃火器達だ。この異常事態かつ、必要だと判断して恭介が大急ぎで用意したものだ。回収した時点ではゴミ同然なので、【リカバリーカプセム】でしっかり修繕しているが。
「キキッ!これが噂の備品か!噂に違わず、奇抜なデザインが多いな!」
「元は弾代の節約の為だけどね」
「一通りの使い方のマニュアルもありますから、確認してから選んで下さいね」
各武器の基本的な使い方が書かれた紙も手渡され、何名かはすぐに内容に目を通していく。中には目を通さずにすぐに備品に手を出す者もいたが。
「おじさんはこれを借りるね」
サインだけに目を通したホシノが手を伸ばした備品は【アタッシュショットガン】だ。同じショットガン故に扱いも想像しやすく、汎用性も高いから当然の選択とも言える。
「私はこちらをお借りします」
ミヤコは仕様マニュアルを確認してから、最適と判断した【マグナムシューター40X】を拝借する。ライフルとガンの切り替えができ、対応しやすいからだ。
「……本当に玩具のような見た目もあるのね」
リオが何とも微妙な表情で掴んでいるのは【ガシャコンパラブレイカー】……見た目が完全に玩具にしか見えない武器である。AボタンとかBボタン……まるでゲーム機を組み込んだかのようなヘンテコな外装だ。中身は凶悪であろう事は確信できるが。
「あ、それ。薪割りによく使ってますよぉ。【シンゴウアックス】が一番使い易いですけど、鉈代わりにもなるので意外と使われています」
「そ、そう……オーパーツに匹敵する武器で薪割り……鉈代わり……」
ボタンを押してモードの切り替えを実演しながらのヒヨリの説明に、リオは疲れたかのように呟くしかない。使い道が、あまりに平凡すぎる故に。
「キキッ!私はこれを借りるぞ!マコト様に実に相応しい見た目だからな!」
マコトがそう言って手に取ったのは【ギーツバスターX】だ。性能自体は【ギーツバスターQB9】と大差がなく、単に色が違う程度の武器であはるが、色合いから気に入ったようである。
「じゃあ、私はこれを借りるね♪」
ミカが手を出したのは【オーソライズバスター】。またの名を《薪割り三号》。これも地味に汎用性の高い武器である。
武器の割り振りと同時に防衛組と突入組の編成も進めていき、攻略組の大まかな編成と対応する《守護者》が決まる。
“慟哭の王女”は《対策委員会》にアツコとヒヨリ。
“悲嘆の大悪魔”はC&Cと剣先ツルギ。
“殺戮の魔女”は《補習授業部》にサオリとミカ。
“滅亡の管理者”は《セミナー》にミサキとヒナ。
“忘却の射手”は《ゲーム開発部》に《RABIIT小隊》。
“虚無の半妖”は《ジャブジャブヘルメット団》にワカモと恭介。
シャーレの先生が連絡を入れて協力を取り付けた《ジャブジャブヘルメット団》とワカモに関しては、立ち位置の関係から“備品”の貸し出しが出来ない為、恭介が前線に出て対応する形となった。
段取りが決まり、シャーレの先生が全体の指揮を取る形で攻略作戦が始まる。
「……絶対に助けるからね。シロコちゃん」
「借りれた備品はコレかよ。確かにアタシに合いそうだけど」
「うぇええええ~!何であたしまで~!?」
「それじゃ、派手に行くじゃんね♪」
「《RABIIT小隊》と《ゲーム開発部》、配置に着きました」
「ウフフ……先生様の為に参りますわ」
「それではこれより……《虚妄のサンクトゥム》攻略作戦を開始します!!」
指令室と化したシャーレの会議室にいるリンの号令により、持ち場についていた攻略組は一斉に動き出した。
「さーて……お手並み拝見といこうか。滅亡の引き金が数多にある
その光景を映像から確認している亡霊は、無駄に終わるだろうと考えながらそう呟くのだった。