夢の力で青春を手助け   作:ライダー志望

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sied:復興委員会と異形の大人達

アリウス。

パテル、フィリウス、サンクトゥスの同盟――トリニティ総合学園の設立に最後まで反対し、弾圧によって歴史の闇とへ消えた学園の名前。

アリウスは廃校……とはなっておらず、カタコンベを経由しなければ辿り着けない区域へと逃げ込み、その存在を保っていた。

否、学校としての体裁すら崩壊している。意見が対立し、限られた物資を巡って互いに奪い合う、内部抗争へと突入してしまったのだから。

それが何百年も続き……たった一人のキヴォトスの外から“漂流”した人間によって終息した。

 

当然ながら、自治区内の再建は簡単な事ではない。内戦の影響によってほとんどの建物は廃墟同然であり、内戦の原因の一つとなった物資不足は相変わらずなのだから。

しかし、そんな状況のアリウスにおいて、巨大な建造物――校舎だけはまるで新築であるかのように存在感を保っていた。

別に校舎が暗黙の了承の不戦地域だったわけでもなく、【ポルタパシス】のような立ち入り禁止の禁足地だったわけでもなく、なけなしの意地で戦火を免れていたわけではない。この校舎も少し前までは外も内も荒れ放題だった。にも関わらず、校舎だけが新築同然になっている理由は……

 

『リカバリー!』

「ふん!」

 

緑色のラインが走った銀色タイツの人物――ナイトアリウスがリカバリーカプセムの力で修復したからだ。本当にリカバリーカプセムは無法だと思う。性能と出力の違いから一発で直せたわけではないが。

ナイトアリウス――速水恭介は仕事が終わったと云わんばかりに変身を解除する。まだやるべきことは多数存在するが。そんな速水恭介の現在の肩書は“アリウス復興委員会”の顧問である。

 

アリウスは長い内戦によって、学校としての機能が完全に死んでいる。その状態で生徒会を立ち上げても無意味なのと、アリウス復興の“象徴”の必要性から立ち上げた。委員長は“ロイヤル・ブラッド”と呼ばれる、世襲制となっている生徒会長の席に付けるアツコが務めている。

その復興委員会は現在、顧問抜きで会議を開いていた。メンバーはアツコ、サオリ、ヒヨリ、ミサキ、アズサに加え、面倒見の良さから参加を打診された梯スバルの六人である。

 

「オクラ、ピーマン、キュウリの収穫が始まり、食料問題の解決に希望が見えてきている。ジャガイモと人参、大根はまだだが、順調に育っているそうだ」

「野菜ばかりで、味も良くないけどね。食べられるだけ、マシなんだろうけど」

 

サオリの報告に、ミサキが溜め息混じりで呟く。

 

「野菜を育てるのも、人生のように大変ですね……クッキーなんて、夢のまた夢ですよね」

「ヒヨリ。クッキーの主材料の小麦は野菜ではなく、穀物だと教えられた事を忘れたのか?」

「それにクッキーを作るには小麦粉だけじゃなく、牛乳、バター、卵も必要です。一番の問題は小麦を小麦粉に加工する手立てが、今の私達にないことですが」

「うん。作り方が分からないから、育てても食材に落とし込めない。“作る”ことがこんなに難しく、大変だって知らなかった」

 

そう。アリウス内で主食となる小麦と米の生産に踏み込めていないのは、食材に落とし込む手段を知らず、持っていないからだ。当然ながら小麦も米も、収穫したらすぐに食べられる物ではない。野菜も調理という過程はあるが、小麦と米は製粉、精米と呼ばれる工程を通過しなければならない。それをしなければ、マトモに食べることができないからだ。

 

「その辺りはまた先生に頼るしかないが……場所くらいは私達で用意しないとな」

「他の皆さんにも協力してもらい、水田に適した場所を幾つか見つけています。距離はそれなり離れていますが、許容すべきかと」

「苗はないですけどね。苗って外で買えるのでしょうか……?」

 

ヒヨリは不安げに呟くが、事前にアツコと一緒に先生と話し合っていたサオリが今後の予定を交えて答える。ちなみに先生は顧問をしている恭介のことだ。

 

「そこは先生と一緒に調べるしかないが……今度外に出向いた際、有精卵を買うと先生は言っていた」

「有精卵?卵に種類でもあるの?」

「ああ。話を聞いた限りではあるが、有精卵の卵は羽化……雛が孵る可能性があるそうだ。もちろん確実ではないそうだが……」

「雛……ヒヨコ……鶏さん……卵が毎日タダで手に入るようになるんですか!?」

「うん。あくまでメスの鶏しか産まないけど」

「じゃあ、早く外で売れそうな物を見つけないと駄目ですね!あ、でも、お金になりそうな物はまだ残ってますかね……?」

 

食料問題ばかりではあるが、アリウス自治区は復興に向かって確実に前へと進んでいた。

 

 


 

 

――とある密室のような不思議な部屋。その部屋の円卓のテーブルを囲うように、四人の異形の人物がいる。

一人は顔が黒曜石のように黒く、亀裂のような白い光が目と口を形容している人物。

一人はマネキン人形の頭部で、頭が文字通り二つある人物。

一人は首がなく、後頭部が描かれた絵画を抱えている人物。

最後の一人は肌が赤く、頭部に無数の眼を持った人物――ベアトリーチェ。

明らかに“普通”ではない人達の集まり。その集まりで、黒の人物が笑みを浮かべるように言葉を発した。

 

「クックックッ……まさか、このキヴォトスで“神秘”でも“恐怖”でもなく、ましてや“崇高”でもない。“色彩”や“無名の司祭”とも縁のない“力”がこの世界に紛れ込むとは……実に興味深いですね」

「ええ。あの“テクスト”は私も実に興味深い。“夢”を介することで本来のテクストを書き換えているようですから」

「そういうこったぁ!!」

「確かに。あれは私も興味がある。“夢”を介する“神秘”は幾つか存在するが、夢の物を現実に持ち出すような力は、過去に存在しない。物を生み出すという点では【クラフトチェンバー】と酷似しているが、あれとは別の理屈であろう」

 

ベアトリーチェ以外は新たな研究対象を見つけたかのように関心を示すが、実害を被ったベアトリーチェは不快感を隠すことなく声を発する。

 

「随分と呑気ですね。黒服。フランシス。マエストロ。あの敵対者は今すぐにでも排除すべきだと言うのに」

「排除ですか……理由を御伺いしても?」

「理由など、わざわざ口にするまでもないでしょう」

 

黒の人物――黒服の質問にベアトリーチェは察しろと言いたげな答えを返す。そんな答えになってない答えを捕捉するように首なしの人物――ゴルコンダが抱えている絵画――フランシスが説明を入れる。

 

「マダムはあの者に、自身の計画を根底から台無しにされたからでしょう。私が提供した技術……ヘイローを破壊する技術まで使って、アリウスを支配化に置くことが失敗してしまいましたから」

「そういうこったぁ!!」

 

フランシスにマダムと呼ばれたベアトリーチェの計画――自身の考える“崇高”への道において、アリウスの支配はその準備段階だった。

トリニティにゲヘナ、ミレニアムは勿論、廃校寸前のアビドスでもベアトリーチェの計画には不適切だ。

基本的に学園は【連邦生徒会】……このキヴォトスの支配者と呼べる組織が把握できる状況にある。その連邦生徒会の目が届く所で学園を支配しようとすれば、確実に連邦生徒会の妨害が入る上、その学園の生徒達も抵抗するだろう。

アビドスは自然現象によって衰退し、連邦生徒会からも見捨てられたも同然の学園区域だ。その点だけを見れば条件を満たしてはいるが、アビドスは年々生徒の数が減って来ており、戦力としての利用はできない。加えて、アビドスは黒服の実験場だ。興味深い対象への時間を掛けたアプローチ……その仕込みの為に裏で暗躍している最中だ。

 

互いに互いの実験の邪魔をしない……その不文律を破るほどベアトリーチェは子供ではないし、今後の活動において悪手であることも理解している。だからこそ連邦生徒会の目も届かず、自身の手駒としても利用できる学園――アリウスに目を付けたのだから。

本来であれば何も知らない“生徒”の掌握は容易く、力と恐怖による支配でアリウスを手中に収められる筈だった。それが、たった一人――速水恭介によって“退学”という形で追い出された。

 

「ええ。ですから、あの者は今すぐ排除すべきなのです。断言しても構いません。彼は確実に我々に致命的な不利益をもたらします」

 

ベアトリーチェの即時排除の意見に、黒服達は肯定も否定もしない。まるで、排除するなら一人でやって下さいと言わんばかりの態度だ。

そんな黒服達の態度にベアトリーチェは苛立ちを発し、今にも感情を爆発させそうな雰囲気を放っていく。そんなベアトリーチェを見かねたかのか、黒服がまるで宥めるように言葉を発する。

 

「ベアトリーチェ。確かに結果的に貴女は不利益を被りましたが、それは対応と手段を致命的に間違えたからです」

「間違えた?何をですか?私の計画を進めつつ、障害を排除する為に必要な手を打っただけです」

 

黒服の指摘にベアトリーチェは不快感を隠さず言葉を返す。計画の要である“ロイヤル・ブラッド”――秤アツコを手中に収めつつ、障害となる速水恭介を排除する。それのどこに間違いがあったのかと。

そのベアトリーチェの反論に、黒服はその理由を順を追って説明していく。

 

「彼女……貴女の計画の要であるロイヤル・ブラッドは既に彼の保護下にあり、彼女以外の生徒もそれなりの数が集まっていました。加えて、廃墟化していたとはいえ校舎が彼等の活動拠点でした」

「?それの何処に問題があるのですか?」

 

黒服のその言葉に、問題そのものがあるとは思えないベアトリーチェは問い掛ける。その答えを黒服ではなく、問題点に気付いたフランシスがもたらす。

 

「……成程。仮初めの符号(テクスト)とはいえ、“学園”として機能していたのですね。作物について教えながら共に育てる……それも確かな“学び”となるでしょう」

「そういうこったぁ!!」

「確かに。芸術にも学びがあるように、作物の育成にも学びがあっても不思議ではない。学校は学ぶ場所……その概念が偶然にも彼の周りで復活していたのか」

 

フランシスの説明によって、マエストロも理解したように深く頷く。

 

「ええ。その通りです。生徒を支配して生徒会長を目指す者と、限定的とはいえ学園の機能が復活した生徒のいる校舎……この時点で()()()()()()()()()()()()()()

 

無論、偶然の産物ですが……と黒服は付け加える。

ベアトリーチェは兵士を育成する“軍学校”なら、速水恭介は生産者を育成する“農耕学校”だ。異なる理念と概念だったからこそ、異常が起きることなく二つの学園が同時に存在できた。生徒会長を目指す者と歴代生徒会長の血を継ぐ者。この二つも要因の一つであることも黒服は同志達に伝える。

その説明を聞き、理解を深めていたマエストロは一つの疑問を浮かべる。

 

「だが、黒服よ。その理論で言えば、マダムがロイヤル・ブラッドを手中にした時点で学園は一つになるのではないか?てっきり学園同士の抗争で破れた結果かと……」

「いえ。マダムが彼女を手中に収めても、まだ学園は二つのままだったのでしょう。ロイヤル・ブラッドは彼の教え子でしたから」

「!そうか。その理屈であれば、あの学園の権力者の代理として彼は立つことができる。加えて、最初は対話から入っていた。つまり――」

()()()()()()()()()()()……学園の在り方に対する論争から入っていたという訳ですね」

「そういうこったぁ!!」

 

ここまで理解すれば、フランシスもマエストロも今回の全容が把握できる。これでは確かにベアトリーチェが敗けたのも必然だ。

合併に向けての話し合いで、教育理念がぶつかり合うのは至極当然。その話し合いの姿勢を速水恭介は貫いていたのに対し、ベアトリーチェは指摘に逆上して議論を最初に放棄した。

加えてその後の対応も問題だ。自らの配下にした生徒を人質とし、速水恭介はその生徒達を見捨てることなく保護した。これによって、立場を放棄した者と全うした者としても違いが出た。

その結果、生徒を傷つける生徒とそれを防ぐ講師の図が出来上がり……どう足掻いてもベアトリーチェの負けが約束されてしまったのだ。

 

「逆に言えば、この構図だったからこそ、マダムは生き延びれたとも取れます。彼処はカタコンベも含めて、特異な力が働いてますからね」

「つまり、この結果は彼の持つ“力”によるものではなく、このキヴォトスの“法則(ルール)”に基づいたものであったと」

「確かにこれでは彼を敵対者とは呼べませんね。むしろ、マダムは自身の選択で今回の物語の舞台装置(マクガフィン)に成ったのですから」

「そういうこったぁ!!」

 

フランシスの舞台装置(マクガフィン)発言に、ベアトリーチェは無言で睨み付ける。さすがにここまで説明されれば、ベアトリーチェも自身が選択を間違えた事を理解できる。

あの時、速水恭介と相対した時にベアトリーチェはこう告げるべきだったのだ。これは生徒会長同士の、これからのアリウスについての協議であると。

生徒会長同士の話し合いだと宣言すれば、あくまで代理の立場としか立てない速水恭介の権限を無くすことができる。それが出来ずとも、議論で言い負かせていればまだ勝算があった。それに手駒を人質ではなく兵士として使えば、学園同士の抗争の場へと持っていくことも出来た。

勿論、ベアトリーチェの速水恭介を排除する意思は消えていない。だが、自身の落ち度を認められる程度には大人だ。

 

「……分かりました。あの者への対応は保留としましょう。計画を根本から練り直す必要もありますしね」

 

ベアトリーチェは黒服達にそう告げると、まるで闇に消えるかのようにその場を後にする。黒服達はすぐには去らず、もう少しだけ言葉を交わしていく。

 

「……フム。彼女は彼よりは大人ですね。プライドが高くとも、目的の為に呑み込む事ができますから」

「ああ。アレは我々……ゲマトリアの汚点だ。方法の是非はともかく、言動に一貫性がないのは芸術家としても見過ごせない」

「彼も彼なりのルールで動いていましたが、自らの望む物語以外は認めませんでしたからね。物語は多種多様で、千差万別だと言うのに」

「そういうこったぁ!!」

 

黒服達はその言葉を最後に、その場を後にする。全ては“崇高”への道を見つけ、“崇高”へと至るために。

 

 

 

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