夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
アビドス砂漠を一台の大型バギーが駆け抜けていく。そのバギーの運転席に座っているのは《便利屋68》の社長、陸八魔アルだ。
「いや~、ゴメンねアルちゃん。車を運転できる人がいなくて頼んじゃって」
「フフッ、全く問題ないわ。社長の私にかかれば、車の運転もお茶の子さいさいよ!」
助手席のホシノの軽い雰囲気の謝罪に、アルはカッコつけた態度で返す。膝が若干震えているが。
《便利屋68》は本来、アビドスの防衛組として動く予定だったのだが、《守護者》に向かう為の足――車を運転できる人物が攻略組にいなかった為、急遽アルが運転手を買って出たのである。半分見栄であったが。
鉄道の列車で向かう案もあるにはあったが、《守護者》の戦闘能力を考えて回避行動の取れない列車は危険と判断されて車で近づく事となった。
何せ、《守護者》は人間と同じ体躯と大きさでありながら、その戦闘力は異常なまでに高い。現に、ヒマリが提供した映像データ……ビナーとの戦闘では一方的に攻撃していたのだから。小回りの効く機動力の高さに加え、ビナーに匹敵する火力。特に銃火器から放たれた放射状の一撃はビナーの装甲を二、三発で溶解させていた。ビナーの装甲を溶解させる程の火力を唯の列車が受ければ、確実に消し炭となるのが容易に想像がつく。
「前衛はおじさんが務めるけど……アツコちゃんも本当に前に立つの?」
「うん。盾もちゃんとあるから」
ホシノの質問にアツコは問題ないと返す。今回のアツコの装備は【カイザブレイガン】だけでなく、【メロンディフェンダー】も持ち込んでいる。純粋な盾ゆえに防御力は高く、“神秘”と合わせればホシノ同様に障壁も展開できる。本当にアグレッシブな生徒会長様である。
「い、今更ですけど……本当にソレで良かったんですか?ソレは確かに強力ですけど、その分扱いづらいと言いますか……加減が難しいと言いますか……」
「心配しなくても大丈夫だって!メインで使うわけじゃないし、こう言う時は火力が大事なんだし!」
「セリカちゃんの言う通りですね。そのサイズで戦車の主砲に匹敵する威力は、戦力になりますから」
ヒヨリが心配げに問い掛けるも、セリカは問題ないと言葉を返す。そんなセリカが借りた“備品”は……【フルボトルバスター】。結構強力な銃火器ではあるのだが、その仕様上から扱いがとても難しい武器なのだ。反動だって強いし、連射もしづらい。後、純粋に重い。
そんなセリカに同意するように頷いたノノミが選んだ“備品”は、【ホークガトリンガー】と【ウォーターメロンガトリング】。贅沢に二つも借りている。片手持ちが可能なのに威力と射程がミニガンレベル……単純に考えても二倍の火力である。
『私の方も、雨雲号で援護できれば良かったのですが……』
『あの威力と機動力を見る限り、直ぐに墜とされて終わると思うよ』
アビドス高校が所有する大型ヘリで援護できればと口にするアヤネに、近くにいた鬼方カヨコが現実的な意見で返す。二人の役目は後方支援……各地域の作戦の進捗具合の通達とナビゲートだ。
『……左後方から敵が近づいてきているよ』
「すぐに撃ち倒しますね~」
カヨコからの報告に、ノノミがにこやかに答えて【ホークガトリンガー】と【ウォーターメロンガトリング】を構えて躊躇なく弾幕を張っていく。通常なら弾数を考慮する必要があるのだが、どちらも弾切れ知らずの武器。つまり、好きなだけ撃ち放題なのだ。
「じゃあ、おじさんも試し撃ちしておこうかな。使い勝手を確認しておかないとね」
『チャージライズ!――フルチャージ!』
ホシノも【アタッシュショットガン】を折り畳みしてチャージを完了させ、ノノミと同じガトリングのイメージを描きながら引き金を引く。
『ガトリング!カバンショット!』
【アタッシュショットガン】の銃口から、針のような弾丸がガトリングガンのように次々と飛び出てくる。その針のような弾丸は容赦なく後方から迫っていたロボット兵士達を穿ち、霧散させていく。
「えーと……とにかく気合いを込めてから、トリガーを押せばいいのよね!?」
『フルフルマッチデース!』
セリカも持ち手を力強く握って気合いを込めると、キャノンモードの【フルボトルバスター】から機械音声が発せられる。起動に成功したセリカは、そのまま銃口をロボット兵士達に向けてトリガーを押し込む。
『フルフルマッチブレイク!』
【フルボトルバスター】からエネルギー弾が何発も放たれ、砂埃と爆風を盛大に撒き散らしながらロボット兵士達を吹き飛ばしていく。吹き飛ばされたロボット兵士達が溶けるように消える中、セリカは反動と虚脱感から情けない格好で倒れていた。
「これ……撃っただけで、こんなに疲れるの……?」
「普通に撃つだけならそんなに疲れないけど……さっきのような必殺技は別かな。慣れていないと、数回撃ったら気絶する場合もあるし」
【カイザブレイガン】で撃ちまくっているアツコはセリカの疑問にそう答える。本来は使えないものを無理筋で使っているからなのか、それとも別の理由からかは不明であるが、大技を使用すると疲労を覚えるのだ。
「えへへ……痛いですよね。苦しいですよね。あ、複製されたお人形さんですから、何も感じないんですかね?都合よく利用される人生って、本当に辛いですよね。そうならなかった私の人生は、満たされてますよね」
ネガティブなのかポジティブなのかよく分からない事を呟きながら、ヒヨリは【ガンガンハンド】でロボット兵士達の頭部を躊躇なく吹き飛ばしていく。通常の射撃ではあるが、単純に撃つだけでも十分な成果が出るのがアリウスの“備品”だ。弾切れの心配が一切ないのだから。
「うへ~、本当に凄いね、コレ。白服さん達が自治区の外に持ち出すのを禁止にするのも分かる気がするよ」
実際に使ってみて、改めて“備品”の危険性を理解したホシノは気怠げながらも内心で真剣に頷く。前回の《エデン条約》の時や今回の件のような深刻な事態でない限り、これらは争いの火種になりかねない。便利には違いないので、存分に利用させてもらうが。
そうして時折迫る《守護者》の配下を迎撃しながら、攻略組は目的の場所へと辿り着く。
《虚妄のサンクトゥム》のすぐ傍に佇む件の《守護者》――慟哭の王女は茫然自失したかのような雰囲気で立っている。まるで、広大な場所を独りで彷徨っているかのように。
「それじゃ、此処からは徒歩で行こうか。このままじゃ、狙い撃ちにされるからね」
ホシノの提案に全員が頷く。アルも色合いと形状から借りた【アタッシュアロー】を手に車から降り、全員が警戒しながら慟哭の王女へと近づいていく。
「え?これ、銃じゃなくて弓になるの?」
……アルのポンコツぶりが露呈しつつ。アタッシュケースを肩に担いで優雅に歩く姿が、最高にアウトローの社長だと想像した故に。実際、社員二名も褒め称えていたし。
盾持ちのホシノとアツコが先頭となって慎重に近づいていく。射程圏内に入る手前で慟哭の王女が此方に気付いたかのように黒塗りの顔を向け、徐にショットガンらしき銃火器を構える。
直後、そのショットガンから容赦なく火が噴いた。
「「!」」
ホシノとアツコが手持ちの盾を構え、全力の防御姿勢を取る。二重の円形の障壁が展開されてすぐ――凄まじい熱量と衝撃が叩き込まれる。二度、三度と間髪入れずに同質の威力が二人が張った防壁を容赦なく叩いていく。
「ひ、姫さん!ホシノさんも、大丈夫ですか!?」
「……ん。大丈夫」
「おじさんも大丈夫だけど……これは何度も受け止められないね。持ち手が凄く熱くなってるよ」
ヒヨリが心配げに叫び、アツコとホシノは大丈夫だと返す。同時に何回も防げないとも。
何せ、ビナーの装甲を溶解させた程の威力なのだ。それが連射できるとなればその脅威度も跳ね上がるし、ましてや二人がかりで何とか防げているのだ。まず、マトモに受ければ蒸発してしまうだろう。
そんなアツコ達の前で、慟哭の王女の周辺からチリチリ……と何かが焼けるかのような音が聞こえてくる。同時に独白のような声が脳裏に響いていく。
――私が先輩を、みんなを殺した。
――私が犠牲になれば、みんなを守れる筈だった。あの日の後悔と過ちを、繰り返さない筈だった。
――なのに、結果は真逆だった。同じ失敗を繰り返して、みんなを深く傷つけて、不幸と苦しみだけを押し付けた。
――こんな筈じゃなかった。私は、苦しめたくなかっただけなのに。大切なみんなを、守りたかっただけなのに……
――私は、最初から存在してはいけなかった。私の存在そのものが、間違いだったんだ。
強い後悔と自己否定の独白。聞くだけで胸を締め付けそうな独白が終わった直後、慟哭の王女を包み込むかのように火柱が上がる。その熱量は凄まじく、余波だけで火傷を負いそうな程だ。
セリカが反射的に自前のアサルトライフルで慟哭の王女を撃ち抜こうとしたが……アサルトライフルから放たれた銃弾は慟哭の王女に届く前に溶解し、蒸発してしまう。
「嘘でしょ!?」
セリカが驚愕の声を上げていると、慟哭の王女はゆっくりとした動きでショットガンを構える。その銃口が自分にとって向いていると気付いたセリカは慌てて横へと大きく飛び出る。近くにいたノノミ達も同時に横へと飛んだ直後、凄まじい熱線が通過していく。砂漠を転がるヒヨリは這いつくばった姿勢で【ガンガンハンド】を構えて連射するも、一瞬の火の手が上がるだけで終わってしまう。
「備品の攻撃も通っていないですぅ!このままじゃ、みんな仲良く焼かれちゃいますよぉ!どうせ死ぬなら、美味しいものをたらふく食べておくべきでしたぁ!」
「まだ死にたくないわよ!?そういえば、これって何でもありなのよね!?」
『チャージライズ!――フルチャージ!』
ヒヨリの嘆きにアルは白眼を剥きかけながらも、【アタッシュアロー】を折り畳んでチャージを完了させる。
「ガトリングとか爆撃もありなら、冷凍光線もいけるわよね!?」
アルは一か八かで、冷凍光線をイメージしながら【アタッシュアロー】のトリガーを物理法則ガン無視で引き出し、引っ張り切ってから手を放す。
『フリージング!カバンシュート!』
鏃の部位から冷気を放つ水色の光の矢が放たれる。冷気が宿った光矢が慟哭の王女の足下に当たると、蒸発したように湯気が慟哭の王女を包み込む。
「直ぐに溶けた!?どれだけ熱いのよ!?」
「でも、全く意味がなかった訳じゃない。現に少しマシになっているから」
アツコが周囲の熱気が少々下がった事を告げた直後、慟哭の王女はショットガンを今度はアルに向ける。それも、力を溜めるかのように銃口に焔を集めて。
「アレ、絶対にヤバいやつ!」
「社長さん、委員長さん。壁を作るイメージで最大限の力を込めてチャージ技を使って。その後は私と委員長さんの防壁で防ぐ」
「分かったよ、アツコちゃん」
「りょ、了解よ!」
『『チャージライズ!――フルチャージ!』』
『メタルライジング!カバンストライク!』
『メタルライジング!カバンバスター!』
アツコの要請にホシノとアルは頷き、最大出力の大技を防御目的で放つ。ホシノとアルによって銀色に輝く鋼鉄が攻略組の前に壁のように聳え立ち、直ぐにアツコとホシノが手持ちの盾を構えて障壁を展開する。
展開して構えた直後、最初に受けた時とは比にならない熱量と衝撃が二人に襲い掛かる。壁も溶解し、障壁も吹き飛び、盾の持ち手が異常なまでの熱を帯び、握る手を焼いていく。アツコもホシノも、焼かれる痛みを覚えながらも盾を握る手の力を緩めず、踏み留まる。
「「ホシノ先輩!」」
「姫さん!」
「私は大丈夫だから、準備して!」
「あれは多分、防御用の熱も使っている筈……だから、この機会を逃したら駄目」
「分かったわ!今の貴女達……最高に、アウトローよ!!」
アルはホシノとアツコを彼女なりの称賛で褒め称えると、チャージを完了させた【アタッシュアロー】を構え、二人の全力に応える。
『フリージング!カバンストライク!』
今度は一矢ではない、数えるのが面倒な量の矢が慟哭の王女に迫る。冷気を帯びた無数の矢は、今度は蒸発することなく慟哭の王女の身体を氷で覆っていく。
「セリカちゃん!」
「分かってるわ!ノノミ先輩!」
『アルティメットマッチブレイク!』
ノノミとセリカがこの好機を逃さないと言わんばかりに、大量の弾幕と莫大なエネルギー弾を容赦なく叩き込む。大量の“熱”を攻撃に回し、無数の冷気の矢で“熱”を失った慟哭の王女は二人の攻撃をマトモに受けてしまい、砂漠を転がっていく。
二人からも猛攻を受けた慟哭の王女は力を振り絞るかのように立ち上がろうとするも、それよりも早くチャージを完了させたホシノが眼前に立ち――銃口を突き付ける。
『「…………」』
ホシノは無言で、慟哭の王女を見つめる。その目には哀れみと同情、悲しみが宿っている。
ホシノは脳裏に響いたかのような独白で、慟哭の王女の正体に気付いていた。彼女は――自己犠牲の果てに同じ過ちを繰り返した、もう一人の自分なのだと。
(……本当に馬鹿だよね。私がみんなを守りたかったように、みんなも私を守りたいと考えるのは当たり前なのに……白服さんが本気で怒ってくれなかったら、私は気付かないままだったんだよね……)
だからこそ、ホシノは誓う。
『バーニング!カバンバスター!』
ホシノは渾身の一撃――慟哭の王女に負けず劣らずの熱線を彼女へと叩き込む。その一撃を受けた慟哭の王女は、消し炭となるかのように消えていく。
慟哭の王女が消えると……《虚妄のサンクトゥム》も連動するかのように崩壊していくのだった。
慟哭の王女
アビドス砂漠の《虚妄のサンクトゥム》を守護する《守護者》。戦闘が始まると火柱が立ち昇る程の焔と熱を纏い、相手はおろか銃弾さえも近づけさせない。
手持ちのショットガンから放たれる銃撃はもはや熱線。マトモに食らえば大火傷は確実であり、渾身の一撃は鉄をも焼き尽くしてしまう程。
正体はテラー化した小鳥遊ホシノの劣化コピー。原作の不完全な反転とは違い、こちらは完全に反転した状態。劣化コピーでオリジナルより半分ほど力は落ちているが、脅威なのには代わりない。