夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
《虚妄のサンクトゥム》が聳え立つ、ミレニアム郊外の軍需工場付近にて。
「オラオラオアラァッ!!」
「キッヒャヒャヒャヒャッ!!」
進路を抉じ開けるかのように暴れ回っているのは、二丁の【カイザクロスラッシャー】を振り回す甘美ネルと、ブラスターモードとスラッシャーモードの【サングラスラッシャー】を振り回している剣先ツルギだ。二人によってロボット兵達が手も足も出ずに倒れる中、後方から残りのメンバーが援護するように銃撃を放っていく。
「アハハ!本当に凄いね、コレ!」
「ええ。概要は聞いていましたが、想像以上ですね」
ライフルモードの【マグナムシューター40X】で援護する一之瀬アスナと、【マグナバイザー】で同じく援護する室笠アカネは改めて“備品”の有用性を実感する。これらはリオがミレニアムの攻略組の能力と武器の性能を比較し、最適解だと判断して割り振られたものだ。ネルは【アタッシュショットガン】でなかった事に最初こそ不満げだったが、遠近両用の武器とネルの戦闘スタイルが見事に噛み合っていた為、すぐに上機嫌となった。気合いを入れたら《エクシードチャージ》されて、銃撃の威力とブレードの切れ味が上がる謎仕様となっていたから。本来は変身アイテムのスマホで行う行為にも関わらずだ。
ちなみに、《ゲーム開発部》とこの場にいない《C&C》の04に渡された“備品”は【ガシャコンシリーズ】だ。ゲームがモチーフの武器だと教えられ、“相性が良さそう”だという理由だけで渡された。渡された約三名は目を白黒させる羽目となったが。
「……違和感が凄い。威力と射程は申し分ないけど……」
「まあ、確かに。形状が本当に武器らしくないから、違和感がバリバリだし」
【ガンガンキャッチャー】で狙撃している角楯カリンは微妙な表情で呟き、【トレーラー砲】を携えた和泉元エイミも気怠げに同意する。そんな中、ガンモードの【ガンガンセイバー】を構えているイチカが疑問を口にする。
「本当に今更っすけど、馬鹿正直に正面突破するんすか?確か、当初の予定では降下部隊で奇襲を掛ける筈じゃ……」
「その予定だったんだけど、偵察ドローンが全機射ち落とされちゃったからね。落とされる直前の映像も、かなりの弾幕だったし。それも全部ビームというオマケ付き」
本当は陽動と奇襲で《守護者》――悲嘆の大悪魔に襲撃を掛ける予定だったのだが、奇襲ポイントを探る偵察ドローン全てが、悲嘆の大悪魔によって射ち落とされてしまったのだ。それも、圧倒的な殲滅力を見せつける形で。
その映像から上空からの奇襲は危険過ぎると判断され、正面突破のみに切り替えられたのだ。仮にヘリで向かっても途中で撃ち落とされる光景が容易に想像できたから。幸か不幸か、どっちが正面で戦うか揉めかけていた二人を仲良く放り込めたが。
「これで百体目だ!」
「……百ぅッ!!」
実際、討伐数を競うようにネルとツルギは暴れているのだ。作戦変更前に言った、アスナの強い方が行けばいいという言葉が二人の琴線に見事に触れてしまったのだから。
そんな正面突破による力押しが敢行され続ける中、エイミのインカムからオペレーターの声が届く。
『例の《守護者》の反応が、急速に貴女達へと近づいて来ています。後十数秒もしない内にボス戦となりますよ』
「了解。報告ありがとう、ケイ」
『ケイではなく
エイミのお礼に、ケイは呼び方に文句をつけて怒る。戦闘能力が皆無かつ、キヴォトス滅亡を望むケイが何故、オペレーターとはいえ協力しているのか。その理由は……
『ハァ!?急に現れた敵キャラが世界終焉を実行中!?攻略中なのに横から割って入って勝手にクリアされるなど、不快の極みです!!さっさとソイツらを排除しましょう!!』
他の人物に世界の終焉をもたらされるのが嫌なだけという、ある意味魔王思考からくるものだった。このケイの言い分には、思わず《ゲーム開発部》も納得して頷いてしまったくらいだ。攻略途中のゲームを勝手にクリアされたら、普通に頭に来るし。
「みんな注もーく。件の《守護者》が此方に近づいているって連絡が今入ったよー」
「……マジすか」
エイミからの報告に、イチカは表情を引き攣らせる。その直後、上空から紫色の雨が前衛で暴れていたネルとツルギに降り注いだ。
「リーダー!?」
「委員長!?」
アカネとイチカが驚愕と焦燥が入り交じった叫び声を飛ばすと、着弾の衝撃で上がった土埃の中からネルとツルギが飛び出てくる。額から多少の血が流れてはいるが、戦闘には支障はない。
「リーダー、大丈夫!?」
「大丈夫に決まってんだろ。この程度で一々心配すんな」
「怪我の心配より……目の前に集中しろ」
問題ないと言わんばかりのネルとツルギの反応に安堵しながらも、一同は二人が促した方へと顔を向ける。抉られたかのように凹んだ地面に降り立つように、鋭角な一対の翼をはためかせた《守護者》が姿を現す。小柄な体躯にも関わらず、その存在感は圧倒的……重火器らしき武器も異質な雰囲気を放っている。
――ただ、認められたかった。
「……?」
「あ?何で頭ん中で響くかのように……」
突然脳裏に響くかのような独白に、ツルギは首を傾げネルは訝しげに眉を顰める。他のメンバーも困惑する中、悲嘆の大悪魔の独白は続いていく。
――みんなに認めてほしかった。大切だと思えた人に、褒めてほしかった。
――なのに、そのみんなも大切な人も、私の前からいなくなった。他でもない、私の選択のせいで。
――私のせいで、みんなが死んだ。私が余計な事をしたせいで、死なずに済んだ筈の命が、消えていった。
――だから、望んではいけなかった。従順に従う、道具であるべきだった。
自己否定の独白が終わると、悲嘆の大悪魔は手元の重火器――マシンガンの銃口をネル達に向け、殲滅せんと引き金を引く。直後、無数のビームが広範囲にばら蒔かれていく。地面は妬けたように抉れ、近くの遮蔽物でさえもまるで紙屑のように吹き飛んでいく。
『シールド タクティカルブラスト!』
『ガードベント』
アスナは【マグナムシューター40X】で目の前に半透明の水色の巨大な盾を作り出し、アカネが【マグナバイザー】で召喚した盾――【ギガアーマー】を構えて二重の防御姿勢を取る。半透明の水色の巨大な盾は何十発のレーザーを受けて砕け散り、【ギガアーマー】の周囲を土埃で覆い隠していく。
少しして死の弾幕が止み、悲嘆の大悪魔は足によるコッキング動作でリロードを行っていると、土埃の左右からネルとツルギが飛び出てくる。
「お返しだッ!!」
「ヒャヒャヒャッ!!」
ネルとツルギは挟み込むようにして、悲嘆の大悪魔に銃撃を浴びせていく。悲嘆の大悪魔は銃撃を受けながらもマシンガンを構え直し、今度は薙ぎ払うかのように極太のレーザービームを放っていく。
ネルとツルギは屈んだり、飛び上がったりしてその極太のレーザービームを躱す。レーザービームはそのまま周囲の建造物を焼き穿ち――音を立てて崩壊させていく。
「!あの子、空を飛ぶ気だよ!」
持ち前の勘でアスナが警告した直後、悲嘆の大悪魔は翼をはためかせて飛び上がろうとする。カリンにエイミ、イチカの三人がそれを妨害しようと上空に向かって銃撃を放つが、悲嘆の大悪魔は撃たれようと構わずに空へと飛び上がってしまう。
そのまま再度上空から、ビームの弾幕を容赦なく放った。
『ギガント タクティカルブラスト!』
アスナは今度は地面へと描くように【マグナムシューター40X】からレーザーを放ち、分厚い壁を隆起させていく。勘で出来そうな使い方を実践するアスナは見事な仕事をしてくれているが、如何せん相手が悪すぎる。
アスナが作った分厚い壁は容易く粉砕され、その先にいたアスナ達を吹き飛ばしていく。再び土埃が辺り一面を覆い、掃射を終えた悲嘆の大悪魔は再度地面に降り立つと、マシンガンのリロードをしていく。
『『エクシードチャージ』』
『『ダイカイガン!』』
土埃の中から機械音声が響き、リロードを終わらせた悲嘆の大悪魔はマシンガンを未だに立ち込めている土埃に向けて構える。直後、土埃を突き破るかのようにボロボロとなったネルとツルギが飛び出てくる。
「そらぁッ!!」
「シャアッ!!」
『『オメガシャイン!』』
悲嘆の大悪魔のマシンガンの銃口が火を噴くより早く、両手の武器をマシンガンの銃身へと叩き込み――四つの斬撃でバラバラに斬り裂く。
自身の得物を失った悲嘆の大悪魔は使い物にならなくなったマシンガンを捨てつつ、ネル達から距離を取る。距離を取った場所で力強く地面を踏み込むと、足下の影から沸き出てくるかのように同形状のマシンガンが競り上がってくる。
「チッ!何度でも作り直せんのかよ!?」
「だが……漸く隙が出来た」
ネルは忌々しげに舌打ちするも、ツルギは予想外を認めつつも思惑通りだと呟く。何故なら土埃が晴れた後方では――【マグナバイザー】で召喚した【ギガランチャー】を構えたカリンが狙いを定めていたのだから。
「……狙い撃つ!」
大砲ではあるが、狙撃銃感覚でカリンは【ギガランチャー】からエネルギー弾を放つ。反動から後退しつつも、放たれた一撃は悲嘆の大悪魔に直撃。生成途中のマシンガンが弾け飛ぶと同時に、悲嘆の大悪魔も地面を転がっていく。
「この機会を逃したらダメっす!」
『ダイカイガン!――オメガシュート!』
「一気に畳み掛けようか」
『フルスロットル!――フルフルフォーミュラ大砲!』
イチカとエイミは今が最大の好機だと、【ガンガンセイバー】と【トレーラー砲】の必殺技を放ち、高威力の銃撃を悲嘆の大悪魔へと叩き込む。これを逃せば、次がないと肌で理解しているからだ。
必殺技を二つ同時に受け、悲嘆の大悪魔は再び吹き飛ばされる。だが、悲嘆の大悪魔は吹き飛ばされながら体勢を立て直すと、再び自身の足下の影からマシンガンを作り出そうとする。
『『エクシードチャージ』』
『『闘魂!ダイカイガン!』』
「させっかよぉ!」
『メガ!オメガフラッシュ!』
それを許さないと言わんばかりに、ネルが片方の【カイザクロスラッシャー】の銃撃の連射を、ツルギはブラスターモードの【サングラスラッシャー】の必殺技を叩き込む。
二人の銃撃によって悲嘆の大悪魔は思わず仰け反ってしまい、その隙を突いてネルとツルギは一気に距離を詰める。
「倒れろぉ!」
「キェエエエエッ!!」
『メガ!オメガシャイン!』
そのまま互いの武器で交差させるように、ネルとツルギは悲嘆の大悪魔に斬撃を叩き込む。十字を描くように深く斬られた悲嘆の大悪魔は両膝を着いて崩れ落ち……そのまま全身を塵芥へと変えて消滅していった。
「何とか……倒せましたね」
「あー……うん。そうだねー……」
「……本当にギリギリだった。アスナも、完全にスイッチが切れてる」
ほぼ満身創痍のC&Cの面々は疲れたようにその場にへたり込む。特にアスナは意識が朧気となっているのか、生返事でしか言葉を返せていない。
『こちらでも《守護者》の反応の消失を確認しました。ボスが完全に撃破されたことで、例の塔も崩壊を始めています』
「それは良かった。まだ生き残っていたら、本当にお手上げだったから」
ケイからも悲嘆の大悪魔の撃破が成功だと伝えられ、エイミは心底疲れたように溜め息を吐きながらも安堵する。これで二戦目があったら、全滅する可能性が高かったのだから。
「でも……あの《守護者》は誰の複製だったんすかね?あの翼からして、ゲヘナ生の誰かとは思うんすけど……」
「……別に誰でもいいだろ」
「……そうだな。敵は排除した。その事実だけで十分だ」
イチカの素朴な疑問を口にするも、トドメを刺したネルとツルギはどうでもいいと返す。本当に心底どうでもいいわけではなく、追求すべき事ではないからだ。
確証はないが、戦い方から元となった人物は誰なのかをネルとツルギは当たりを付けている。その元となったであろう人物はこの場にはいないし、安易に口にする程人の心がないわけでもない。あんな自己否定の独白を聞いて正体を明かすなど、追い討ちに等しい行為だから。
「とにかく、此処の《守護者》の撃破は完了だな!奴のトドメもアタシが刺したし!」
「……いや。奴にトドメを刺したのは私だ」
「……あ?テメェの目は節穴か?明らかにアタシの一撃がトドメだっただろ」
「いいや。私の一撃が決め手だった」
どちらもトドメを刺したのは自分だと、互いに譲らずに睨み合うネルとツルギ。しばらく睨み合って我慢の限界が来たのか、ネルは借り物の備品をしまって自前の銃を取り出して構える。
「なら、最初の続きと行こうか?アタシは大歓迎だぜ?」
「……面白い」
ツルギもネルに合わせて借り物の武器をしまうと、本来の得物である自身の愛銃を取り出す。そのまま、最初の喧嘩が再開される。ちなみにネルが借り物を使わずに自前の銃に持ち変えたのは、悪夢のお灸は二度と御免だったからだ。タバスコガンの件が完全に消化しきれてなかったとはいえ、やり過ぎであった事に代わりはないのだから。
「ホント、元気だね」
「私たちのリーダーが、本当にすみません……」
「いえ……ウチらの委員長も同じっすから」
この非常事態で最強決定戦を始めた二人に、アカネとイチカは互いに謝り合うのであった。
悲嘆の大悪魔
悪魔のような翼を有する《守護者》。手持ちのマシンガンから放たれる銃弾は実弾ではなくビーム。その威力も分厚いコンクリートの壁を一発で溶解させる程。大技のレーザービームも長大なビームサーベルと遜色がない。敵対者が近づいた途端、自ら出向いて殲滅する程好戦的な動きを取る。
その正体はテラー化した空崎ヒナの劣化コピー。ゲヘナ最強は伊達ではない。