夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
《守護者》――殺戮の魔女が待ち構えている場所は、カタコンベを経由しないと決して辿り着けない区画にあった。
その為、作戦担当のハナコを除く《補習授業部》とミカ、サオリはカタコンベの入口前で準備をしていた。
『《守護者》までのルートは、私の方でナビゲートします。アリウスの《地図作成部》の皆さんと司書長のウイさんのおかげで、ルートが割り出せていますので』
「お願いしますね、ハナコちゃん」
ハナコの言葉に、【マグナバイザー】を借りたヒフミは案内をお願いする。その横では【ゼンリンシューター】の調子を確認するアズサもコクリと頷いている。
「何で私は弓なの?」
一方で【ヴラムブレイカー】を渡されたコハルは疑問を口にしていたが。ちなみに【ヴラムブレイカー】はイブキとレッドウィンターのトップであるチェリノも借りている。プリン繋がりで。
「……そろそろ時間だ」
「それじゃ皆、行っくよー!」
ミカの軽い号令により、一同はハナコのナビゲートに従って殺戮の魔女が待ち構えている場所へと向かっていく。勿論、道中には《守護者》の配下――
「あ、あの時のシスターモドキさん達だけではなく……ペロロ様の舎弟さん達まで!?」
「戒律の守護者だけではなく、ドン・ペロロの配下まで……!」
かつてのドン・ペロロが付き従えていた、鶏の集団まで配下にされた事実にヒフミとアズサの瞳に義憤の焔が宿る。皆が愛するモモフレを、悪意ある形で利用したのだから当然と言える。
そんな悪用されている聖徒会と鶏舎弟達を、ミカは【オーソライズバスター】の通常射撃のみで倒していたが。
「ねぇ、サオリちゃん。この子達、話で聞いていたより弱いんだけど」
「おそらく、本来の定義から外れているからだろう。聖徒会は戒律の守護、鶏達は鶏肉を粗暴に扱った者への制裁だからな。ただの戦力として利用されているなら、有利な立場で動けるルールは適用されないと見ていい。あくまでも姫から聞いた話だがな」
ほとんど一撃で倒せている事に疑問に感じるミカに、サオリがかつてアツコから聞いた話を交えた憶測で返す。実際、レールガンモードの【ギーツバスターQB9】のレールガン一発で数体まとめて倒せているのだから、耐久性に関してはかなりの弱体化が入っている。
「来て下さい!ペロロ様!」
『アドベント』
「いや、流石にペロロを喚べはしな……」
喚ばれるのは《マグナギガ》という名のロボットだとサオリは告げようとしたが、地面からヌルリと現れた存在に目を丸くしてしまう。
上部に【ギガキャノン】。左右には【ギガバレル】と【ギガハンド】。頭部に被せられた【ギガホーン】に加え、胸には【ギガアーマー】があるが、それは装備状態。断じて武装が合体した姿ではない。
そして、それらを装備しているのは……舌をベロンと出した鶏――ペロロだ。それもヒフミの二倍の身長を有するサイズの。
「……本当に来た」
「凄いな、ヒフミは。本当にペロロを喚べるなんて」
ペロロ改め《ペロロギガ》が喚ばれた目の前の事実にサオリは目を丸くし、アズサは流石だと目を輝かせる。
「では、お願いします!ペロロ様!」
ヒフミのお願いに応えるように、ペロロギガは全ての武装を展開し、一斉放射で火を噴かせる。
砲撃、銃撃、爆撃。ランチャー、キャノン、マシンガンにミサイル。完全に武器庫のペロロギガは聖徒会も鶏達も豪快に吹き飛ばしていく。本来は【マグナバイザー】と接続して運用するのだが、蹂躙を続けているペロロギガは完全に独立して動いている。鈍足とはいえ、前進までしているのだから。
聖徒会も鶏達も、ペロロギガに攻撃を仕掛けているが、謎のバリアが張られているせいで攻撃は届かず、一方的に吹き飛ばされて消えていく。そんな無敵のペロロギガによる蹂躙は二分くらい続き、全てを吐き出したペロロギガは役目は終えたと言わんばかりに消えていった。
『ヒフミさんが喚ばれたペロロギガによって、道中の配下達は消滅しました。今なら消耗を抑えて《守護者》へと辿り着けますね』
当初の作戦が壊れた事にハナコは苦笑しながらも、良い方向に転がったから良しとした。自称普通の生徒の変数は、ハナコの明晰な頭脳でも読み切れないから仕方ない。仕方がないと言ったら仕方ないのだ。それに、《シスターフッド》のサクラコも合流する予定……
「……皆さん、お待たせしました」
タイミングが良いのか悪いのか、《守護者》までの道のりの安全圏が確保された状態でサクラコが姿を現す。拝借した【イクサカリバー】を手に、シスター服とレオタードを融合させたような服装の格好をして。
『……!?』
「えっと……サクラコちゃん?その姿は……?」
ハナコは驚愕したように息を呑み、ミカは困惑した表情でソレを指摘する。ソレはかつての《ユスティナ聖徒会》の礼装……数百年前の衣装なのだから。
「これは最後の聖徒会長が残した、《ユスティナ聖徒会》の礼装……これが私の“覚悟”です」
サクラコは《ユスティナ聖徒会》の負の連鎖を断ち切る覚悟で身に纏ったのだが、哀しき事にその覚悟は曲がった形で伝わることになる。
「……覚悟、か。数百年前の衣装を直接着るのは、相当な覚悟がいるだろうな」
「念のために聞くが……着る前に洗濯はしたのか?それとも、定期的に洗濯をしていたのか?後者なら、衛生面での問題はないのかもしれないが……」
「え?あの……?」
ユスティナの暗き歴史を断ち切る決意表明なのに、何故洗濯の話になるのかとサクラコは困惑の表情を浮かべる。幾ら丁寧に保管していても、そのまま着るのは抵抗を覚えるもの。ましてやその礼装は肌に密着するタイプ……普通の服よりも何倍も抵抗を感じるタイプの服装なのだ。
「時間的に洗濯している時間はなかったよね?つまり……」
「不衛生のままで、ソレを着ているんですか!?」
「え、エッチなのも不衛生なのもダメ!死刑!」
「死刑!?いや、あの、皆さん!?何か、勘違いされて――」
『これがサクラコさんの“覚悟”……!私もその覚悟にお応えします!!』
衛生面を心配された挙げ句、作戦担当も一瞬の早着替えでスクール水着になったりと、場は散々だ。変な所で決意表明したサクラコの、ある意味自業自得の結果とはいえ。
サクラコも加えた攻略組はそのまま目的地へと進んでいき、《守護者》である殺戮の魔女と対面する。全身は他の《守護者》同様に真っ黒で、背中には片翼だけとはいえ天使の羽がある。黒色なのも相まって、堕天使のようにも見える。
――何で、こうなっちゃったのかな……?
他の《守護者》同様、殺戮の魔女の独白はサオリ達の脳裏に響き渡る。もはや、戦闘の前口上だ。
――先生はあの日からずっと眠ったままで、ナギちゃんもセイアちゃんも死んで……みんなが私のせいだと責め立てて……
――だから殺した。私を騙したアイツらも、その後ろにいた赤い大人も、元から嫌いだったゲヘナの連中も、私と同じ悪い子達はみんな、私がこの手でヘイローを破壊し尽くして、殺した。
――なのに、みんなは化け物、魔女だと私を非難し続けて……庇った子も同じ目に合わされて……
――何でこうなったのかな?ただ、仲良くお茶がしたかっただけなのに……
――悪い子は何も望んだらいけなかったのかな?何も望まなかったら、先生達もああはならずに……
その独白に、ヒフミ達は表情を曇らせる。その独白で、殺戮の魔女の正体が
「そっか……私、何かが違っていたら、あんな風になっていたんだね。みんなを傷付けて苦しめる、魔女に……」
その正体……聖園ミカの“もしも”を目の当たりにしたミカ本人は、作り笑いと共に誤魔化そうとする。明らかにショックを受けているミカに、独白からある事実に気付いていたサオリとアズサは話し掛ける。
「ミカ。お前が気に病むことじゃない。それに、その何かはもう起きはしない」
「うん。彼女の独白には、
そう。ミカを騙した人物達と、後ろにいた赤い大人。それが自然と結びつくのは、ベアトリーチェに支配された場合のアリウスだけだ。
『その可能性は高いでしょう。もし、アリウスの先生が関わっていたとしたら、“白い大人”となっている筈ですから』
「“白い大人”とそれに近しい存在の匂わせは、欠片もありませんでした。お二人の推測は、間違っていないと思います」
ハナコとサクラコも同意していると、殺戮の魔女はその手のサブマシンガンをサオリ達へと構える。同時に彼女の頭上に不気味な黒い穴も出現する。
殺戮の魔女のサブマシンガンが火を噴いた瞬間――黒い穴からサッカーボールサイズの小さな隕石がサオリ達に向かって、マシンガンの如く次々と降り注いだ。
『シールド!ブースター!――ブーストタクティカルインパクト!』
皆の前に出たサオリはブレードモードの【ギーツバスターQB9】を地面に線を刻むように振るい、青白く光る障壁を張って銃撃と隕石の雨を防ぐ。だが、どちらも威力が高いのか亀裂がどんどん入って大きくなっていく。
「クッ!」
サオリは二度、三度と障壁を張って防いでいく。サオリが必死に防ぐ中、ミカ達は攻撃が止み次第、一斉に攻撃しようと準備を進めていく。
『アドベント』
『ヒッサツ!』
『オーソライズ!』
サオリが必死に防いでいる間に大技の準備が完了し、障壁が砕けると同時に殺戮の魔女の攻撃が止む。その瞬間を狙い、それぞれの武器が一斉に火を噴いた。
『フルスロットル!』
『プログライズバスターダスト!』
『ヴラムシューティング!』
ペロロギガの一斉放射が、大量のエネルギー弾が、拳の形をした巨大なエネルギー弾が、無数の光の矢が、殺戮の魔女へと殺到する。ついでに巨大隕石も落ちてきて、盛大な爆発と土煙が殺戮の魔女を覆い隠すが……殺戮の魔女は健在。多少のダメージはあったようだが、二の足でしっかりと立っている上に頭上の黒い穴も健在だった。
「頑丈すぎじゃんね!私、こんなに頑丈じゃないんだけど!?」
「いえ……ミカさんは此くらいならケロッとしているかと」
ミカの悪態にサクラコはあり得そうだと返していると、殺戮の魔女はリロードを終えたのか再びサブマシンガンをサオリ達へと向ける。
「ダメ!」
コハルは再びあの銃弾と隕石の雨霰が来ると察し、何とか阻止しようと矢を放つ。放たれた矢は殺戮の魔女ではなく、サブマシンガンの銃口へと吸い込まれる。
まるでどこぞの映画のようなクリティカルが炸裂し、殺戮の魔女の持っていたサブマシンガンが爆発して使い物にならなくなる。殺戮の魔女は使い物にならなくなったサブマシンガンを投げ捨てると、右手を掲げて頭上の黒い穴を段階的に大きくしていく。それに呼応するように、今までと比較にならない巨大隕石が顔を覗かせつつ。
「アレ、絶対にヤバいじゃんね!」
「ミカさん!同じ隕石でどうにか出来ませんか!?」
「無理だって!あんな大きさの隕石、私じゃ出せないって!」
サクラコとミカが言い争っている間にも、顔を覗かせた隕石の表面が赤熱化していく。誰が見ても、超威力の隕石。当たれば“ヘイローの破壊”は免れない。
『あのサイズは“備品”の火力でも破壊は間に合わない……仮に破壊できたとしても、二発、三発と撃てる可能性も……』
「だが、何か手はある筈……!彼女に敢えて近づくか、隕石の発射を止めるか……」
「それとも打ち返す、とか?」
「アレをどうやって打ち返すの!?」
「打ち返す……?」
ヒフミの呟きにコハルが問い返すようにツッコミを入れる横で、疲労で片膝を着いていたサオリはヒフミの言葉を反芻する。直後、妙案を思い付いたように立ち上がり、バックルの装填部分に手を翳す。
『ハンマー!ブースター!』
「え?サオリちゃん!?」
「……彼女の言う通り、アレを打ち返す。アレをぶつければ、《守護者》といえど無傷では済まない筈だ」
「……確かにソレしかないじゃんね」
『アックスライズ!――ゼロワンオーソライズ!』
ミカもサオリの行動に驚きこそしたものの、サオリの告げた提案にそれ以外の有効な手がないと考えて【オーソライズバスター】をアックスモードに変更。サオリと共に最大級の技で打ち返そうと構える。
「なら、私は【ゼンリンシューター】の技を撃ち込んで軌道変化を試みる。真正面から打ち返すより、幾分かマシになる筈だ」
「じゃあ私は……ペロロ様にお願いして隕石を受け止めてもらいます!」
「じゃ、じゃあ私も止める方に!」
隕石を打ち返す算段を立てている間に準備が終わったのか、殺戮の魔女が右手を振り下ろすと同時に巨大隕石がサオリ達に向かって轟音と共に放たれる。速度はそんなに速くないが、ちょっとやそっとでは止まらないことは明白だ。
「ペロロ様!お願いします!!」
「上手くいって!」
『ヴラムシューティング!』
ヒフミのお願いを聞き、ペロロギガは巨大隕石の前に立つ。コハルも【ヴラムブレイカー】から弓なりになるように上空へと矢を放ち、ペロロギガの前にプリンの壁を作り上げていく。プリンの壁が出来上がると同時に、鈍い音と共にプリンの壁が凹む。そのまま突き破るように巨大隕石が顔を出し、待ち構えていたペロロギガがソレを受け止める。ペロロギガは徐々に後ろへと押されながらも、圧し潰されることなく巨大隕石を受け止めていく。
『ヒッサツ!フルスロットル!』
そこにアズサが【ゼンリンシューター】の必殺攻撃――《マガル》効果のある銃撃を巨大隕石に何度も撃ち込み、巨大隕石の軌道を変化させていく。
「ミカ、合わせろ!」
「サオリちゃんもね!」
「私もお手伝いします!」
『ブーストタクティカルインパクト!』
『ゼロワンバスターボンバー!』
そこにサオリとミカ、ついでにサクラコが渾身の一撃を叩き込む。【ギーツバスターQB9】の刀身から形成されたハンマーと、【オーソライズバスター】の斧部分に形成された巨大な拳。そこにブレードを展開した【イクサカリバー】が押し込むように叩き付けられ、巨大隕石は一瞬の停滞の後、倍の速度を伴って打ち返された。
『――!?』
自身の攻撃が打ち返された事実に、殺戮の魔女が驚愕したように身体を硬直させる。直後、打ち返された巨大隕石が殺戮の魔女の身体を圧し潰した。
鼓膜が破れる程の轟音と、吐血しそうな程の衝撃波。それらを一身に受けたサオリ達は後ろへと吹き飛ばされる。誰もが地面へと転がって倒れる中、状況を見守っていたハナコが朗報を告げる。
『……《虚妄のサンクトゥム》が崩壊を始めました。同時に《守護者》の反応も消失……何とか撃破できたようです』
殺戮の魔女が無事に倒せた事に、サオリ達は地面に転がったまま安堵の笑みを浮かべるのだった。
殺戮の魔女
堕天使を彷彿とさせる《守護者》。とても頑丈で戦車の砲撃でさえ蚊に刺された程度のダメージにしかならない。頭上から隕石をマシンガンの如く放ち、その威力は戦車砲レベル。巨大隕石は核弾頭かと疑うくらいの威力。ペロロギガとプリンの壁がなければ共倒れとなっていた。
その正体はテラー化した聖園ミカの劣化コピー。ある意味プレナパテスルートの末路とも言える。
ペロロギガ
ヒフミが【マグナバイザー】で喚び出した、ペロロそっくりの謎の存在。《マグナギガ》の武装を全身に装備しており、火力と防御力はオリジナルと同等となっている。
何故喚び出せたかは、本人の愛の深さ故だろう。元がしっかりあればテラだった可能性もあり、その場合はどっちが本体かと議論になるレベル。