夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
要塞都市エリドゥにて。
「ユウカ先輩!お願いですから反省部屋に帰らせて下さい!私の役目、もう終わりましたよね!?」
涙目で情けなくユウカへと懇願するのは、桃色の髪のツインテールの少女――元《セミナー》の黒崎コユキ。《
彼女は倫理観の低さ故に数々の問題を起こしており、改善が見られなかった事で《セミナー》から一度席を外されている。最新の問題……ミレニアムの債権を勝手に発行した挙げ句、その債権を使ってカジノで荒稼ぎしようとし、その資金で他学園への転校を目論んでいた。その途中で《C&C》(主にネル)によってコテンパンにされ、お馴染みの反省部屋へと叩き込まれていたのだが……
「まだ終わってないわよ、コユキ。貴女に解除してもらいたいセキュリティはまだまだあるんだから」
そんなコユキの懇願を、ガンモードの【ガンガンセイバー】と【バットクロック】を拝借しているユウカは即切り捨てていた。そのすぐ隣では【トリガーマグナム】を手にしているノアが笑顔を保っている。
ユウカ自身も、コユキの起用に思うところがないわけではない。だが、コユキの無自覚に等しい能力……直感による電子暗号の解析力がどうしても必要だった為に《セミナー》へと復帰させたのだ。
その理由は、作戦担当のリオからもたらされる。
『ええ。私が作ったエリドゥのセキュリティ……《守護者》に乗っ取られたそれらを数分で解除できるのは、貴女しかいないわ』
そう。かつてリオがミレニアムの予算を秘密裏に横領して作り上げた要塞都市エリドゥ……その都市のシステム全般が《守護者》によって奪われてしまっているのだ。それも、短時間で各所に改造まで施して。
「《守護者》のいる地下区画までのゲートのセキュリティは完全に独立状態……それも個別にだから本当に面倒くさい」
「そうね。加えてこの都市にあった機体も敵の手に落ちている……マトモにやっていたらかなりの時間が掛かるわね」
【アタッシュアロー】の矢で飛行ドローンを撃ち抜くミサキの呟きに、ブラスターモードの【ファイズブラスター】で奇抜なデザインの警備マシーンを破壊し続けているヒナも同意するように頷く。実験都市と聞いていた割に、防衛機構がガチガチである事に疑問はあるが、問い質すべきではないだろう。
ミレニアムとしても、可能な限り自治区の生徒達だけで対処したいのが本音だ。だが、《虚妄のサンクトゥム》はミレニアム自治区内に二ヵ所も落ちている上、最高戦力の数が足りていない。《ゲーム開発部》をそちらに回す案もあったが、忘却の射手の反応等から人数重視で配置せざぬを得なかった。
その為、分別のつくミサキとヒナが割り振られた。二人なら深くは突っ込まないし、戦力としても申し分はないのだから。
「それより皆さんの銃!デザインもですけど、中身が色々とおかしくないですか!?何でそんなにバカスカ弾を際限なく撃てるんですか!?特にその弓みたいな武器は、本当におかしいですって!ウチの学園の新しい技術なんですか!?それなら私にも下さいよ!」
「あげられる訳ないでしょ!これらは他学園からの借り物なんだから!」
コユキの要望にユウカは怒鳴るように無理だと返す。実際、これらの武器は非常事態から急遽用意された借り物……終わったら返却が約束されているのだ。ミレニアム生として本当に惜しいのだが、アリウスに対して色々とやらかした側なのだ。穏便な対応をしてくれている事もあり、ユウカとしてもこれ以上の不躾な対応は取りたくない。当然、リオ達も。
だからこそ、【トリガーマグナム】で撃ち抜いているノアも駄々をこねるコユキに忠告を飛ばした。
「もし借りパクでもしようものなら……酷い悪夢で毎日魘される事になるでしょうね」
「にはははっ!ノア先輩、ご冗談が本当にお上手…………本当に冗談ですよね?」
コユキは冗談だと笑い飛ばそうとしたが、ノアの笑みが“黒い笑み”だった事に猛烈な不安に駆られていく。そんなコユキに追い討ちを掛けるかのように、自身の愛銃のように【ファイズブラスター】でアバンギャルド君達を掃射し続けるヒナがミサキに話しかける。
「仮に返却に応じなかったら、どうなるのかしら?」
「……力づくで回収してから、一月くらいは寝たきりかな。トラウマになるレベルの悪夢を見せて、二度と馬鹿な真似はさせないようにするんじゃない?」
「……まあ、妥当かしらね。ネル先輩も、数時間とはいえ悪夢に魘されて堪えていましたし……」
「あのネル先輩が!?」
ユウカも参戦した呟きに、自業自得のトラウマを刻まれたコユキは驚愕すると同時に身体を震わせる。コユキは想像してしまったのだ。自身が想像する悪夢……ノアに毎日説教されるという心がガリガリ削れる光景を。
「で、でも、夢ですからすぐに忘れて――」
『残念ながら夢だから忘れる何て事はないわ。ネルもその数時間の悪夢が一月の体験で、今でも鮮明に覚えている程よ』
淡い期待もリオによって砕かれ、コユキは謎の銃火器に関してだけは手は出さないと心に決めた。現実と遜色のない悪夢など、トラウマになるイメージしか浮かばないのだから。
一人だけ通常武器であるものの、殲滅力には定評があるヒナがいる時点で並大抵の戦力では相手にならない。それも最終フォームの武器の【ファイズブラスター】だから、鬼に金棒状態だ。
本来は変身強化アイテムも兼任している武器であるが、ベルトがないから唯の強力な武器に留まっている。制御の為の【ファイズフォン】も完全固定であり、取り外しは不可能となっている。
戦力の大部分はヒナが片付け、セキュリティはコユキが逐一解除して……一同は《守護者》がいる地下区画へと辿り着く。
『…………』
《守護者》――滅亡の管理者は無言のまま、手元の端末らしき黒い板を操作していく。直後、滅亡の管理者のすぐ後ろへと何かが轟音と共に落下する。
その落下物の正体は【アビ・エシェフ】。トキのパワードスーツとして開発され、滅亡の管理者の手に堕ちた強化外装型の機動兵器。そのパワードスーツをユウカ達の前で滅亡の管理者が装着し、臨戦態勢へと入るのだが……
「……ダサッ!?」
その見た目に対して、コユキが思わずダサいとツッコミを入れた。何故なら……トキの意見を反映させて作られたデザインから、大きく異脱していたからだ。
まず、下半身。二脚ではなく多脚へと変更されており、形状は蟲か蜘蛛に近い。バックパックに相当する部位にはレドームのような巨大な円形物と、砲口付近に奇妙なカバーが取りつけられている四門の砲身が追加され、見た目のヘンテコさが増している。巨大な腕部も四つに増設されており、タワーシールドのようなものまで取り付けられている。まるでアバンギャルド君を【アビ・エシェフ】へと改造したかのような見た目だ。
総じて……本当にダサい!!
『!あ、あれは……設計データの段階で白紙となった【アビ・エシェフ零号機】!?』
「……アレを知っているんですか?リオ会長」
『ええ。トキの意見を聞いて地上型として完成させた【アビ・エシェフ】の……原型と呼ぶべき機体。陸戦も空戦も行える万能型で、データ上の総合スペックは【アビ・エシェフ】より上よ』
ユウカの質問にリオが説明で返してすぐ、【アビ・エシェフ零号機】は背中の武器――可動式のビーム砲を四つ全てを正面へと展開して青白いビームを放つ。
放たれた四条のビームをユウカ達は急いで躱し、ヒナが直ぐ様【ファイズブラスター】で反撃に出る。【ファイズブラスター】から大量の光弾が放たれるが、それらはタワーシールドによって防がれてしまう。それも鋭角な回避行動による最低限の被弾で。
「下半身のあの脚部のスラスターで高速機動を可能にしている……?いや、それだと反応の速さに説明が……」
『【アビ・エシェフ】にはエリドゥからのシステムアシストで、演算による高精度な未来予測が可能よ。おそらく零号機にも、ソレが備わっているわ』
「……本当に面倒ね」
ヒナは面倒そうに呟きながらも、【ファイズブラスター】による連射を続けていく。本来は狭い場所で不利な場所にも関わらず、多脚を活かした機動性によって解消されてしまっている。
ミサキ達もヒナを援護すべく【アビ・エシェフ零号機】に攻撃を仕掛けていくが、未来予測によって回避されるかタワーシールドによって弾かれるだけに終わってしまう。
その【アビ・エシェフ零号機】もお返しと言わんばかりに、四本の腕の内の二本の腕に装備された三門のガトリング砲とビーム砲で反撃してくる。ガトリング砲で回避行動を取らせ、その先にビーム砲を撃ち込むという実に嫌らしい手段で。
そこでヒナはダメージ覚悟で【ファイズブラスター】を乱射しながら突撃し、【アビ・エシェフ零号機】は防御姿勢を取りつつビーム砲で狙い撃つ。さすがにビームを受けるのはマズイのか、ヒナはビームが放たれると同時に大きく跳躍してビームを避ける。
『オメガインパクト!』
『マキシマムドライブ!』
『ダイナマイティング!カバンシュート!』
そのタイミングで、ミサキ達は武器による必殺技を放つ。ユウカは【ガンガンセイバー】と【バットクロック】を合体させたライフルモードで放ち、命中すれば無事では済まない攻撃だ。
だが、【アビ・エシェフ零号機】は低い駆動音と共に電磁障壁を展開。電磁障壁を張りながら後退して直撃を防ぎ、ショットガンが搭載された腕部で上から仕掛けようとしたヒナへと攻撃を仕掛ける。
「――うぐっ!?」
連続で放たれる散弾を受けてしまったヒナは苦悶の声を洩らすと共にバランスを崩し、地面へと落下してしまう。【アビ・エシェフ零号機】はそんなヒナへとトドメ……を差さずに、別方向へとビーム砲の砲身を向けて躊躇なく発射する。
「うひゃぁああああああああっ!?今、ビームが掠りました!頭皮スレスレを掠めて、嫌な音が聞こえましたよ!?私、ハゲてませんよね!?焼かれて大惨事になってないですよね!?」
リオの指示でドサドサに紛れてエリドゥにハッキングを仕掛けようとしたコユキは、頭頂部を押さえてその場に屈み込む。本人は隠れているつもりだろうが、【アビ・エシェフ零号機】に対しては全くの無意味な行動だ。それを証明するように、コユキを狙うビーム砲が二つに増えて容赦なくコユキに向かって放たれていく。
「いやぁああああああああっ!ユウカ先輩、助けてくださぁああああああいッ!!」
コユキは涙目でユウカに助けを求めながら逃げ回るも、そのユウカもガトリング砲の弾幕から逃れるべく物陰へと隠れている為、コユキの期待には応えられない。
「本当に厄介!」
『チャージライズ!――フルチャージ!』
同じく物陰に隠れているミサキは苛立ちを隠さずに吐き捨てながら、【アタッシュアロー】を折り畳みしてチャージを完了させる。そのまま上部に向かってレバーを引き出しながら構える。
『ブレイキング!カバンストライク!』
【アビ・エシェフ零号機】の上部に向かって矢を放ち、放たれた矢は目標の上部で象の足のような鎚となって猛烈な勢いで落下する。【アビ・エシェフ零号機】は二つの腕のタワーシールドで鎚を受け止め、その場で動きが止まる。そこに【ファイズブラスター】を乱射するヒナが突撃し、【アビ・エシェフ零号機】に更に防御体勢を取らせる。
「これで――」
ヒナは懐に入り、至近距離から攻撃を叩き込もうとする。しかし、それは堅い音と共に伸長した砲身――蛇のように変形した砲身によって妨げられてしまう。
砲口のカバー部位が上下に動き、口のようにガシガシと動作確認のように動かす。伸びた砲身も蛇のようにくねくねと動き――そのままヒナの腕へと噛み付いて動きを封じてしまう。
「!?痛――」
完全に予想外の動きに反応が遅れ、噛み付かれたヒナは苦痛に顔を歪める。噛み付いた箇所からキュィイイイン……と不気味なチャージ音も響かせている。このままビームを放つのだと確信したヒナは何とか噛み付きから逃れようとするが、両腕に強く噛み付かれているせいで逃れられないでいる。
そのままビームがヒナの両腕を焼く――直前で地下区画の灯りが一斉に消える。
『……!』
地下区画……否、エリドゥ全体のメイン電力が落ちたことで【アビ・エシェフ零号機】の制御システムにエラーが生じる。直ぐにサブ電力に切り替わって再度灯りが点くも、制御システムもエリドゥに依存していた【アビ・エシェフ零号機】は一瞬だけパワーダウンしていたこともあってヒナの脱出を許してしまう。
ヒナは噛まれた箇所の痛みを堪えつつ、【ファイズブラスター】による連射を至近距離で滅亡の管理者へと叩き込む。距離を取ろうにも、装甲の一部にしがみ着かれている為引き剥がせない。ならばと変形させた砲身で対処しようとするが、そうはさせまいとミサキ達が動く。
『マキシマムドライブ!』
『オメガインパクト!』
『アメイジング!カバンシュート!』
ミサキ達の攻撃により、可動部に被弾した砲身の三つが破壊される。残された一本で対処しようと滅亡の管理者は調整していると、バイザーの液晶モニターにエラーを知らせる画面が表示される。
「にはははははっ!どうです!?私、ちゃんとやってやりましたよ!」
『本当に並外れた能力だね……おかげで漸く仕掛けられたけど』
コユキによってセキュリティが突破され、《ヴェリタス》によって機能不全を起こされた【アビ・エシェフ零号機】は強力な兵器から錘へと成り下がってしまう。完全に打つ手が無くなった滅亡の管理者は……ヒナの掃射によって姿を保てなくなって霧散していった。
『……《守護者》の反応は消えたわ。同時に《虚妄のサンクトゥム》の崩壊も始まっているわ』
『これで《守護者》の討伐は完了という訳だな!我々《温泉開発部》がメイン電力を落とした事に感謝したまえ!』
リオの報告に、無線で割り込んできた鬼怒川カスミは自慢気に告げる。リオからの依頼で動いたカスミの言う通り、《温泉開発部》が穴掘りで電力室に侵入してメイン電力を断たなければ、ヒナは無事では済まなかっただろう。
『今回の件で、ミレニアム内でも温泉を掘りまく――』
「調子に乗らないで。他自治区でも問題を起こすようなら……きっちり締め上げるから」
『ヒィンッ!?』
ヒナの絶対零度の眼差しによる釘差しに、カスミは情けない悲鳴を上げる。そんなやり取りをミサキが溜め息混じりで眺める中、ユウカ達は搭乗者がいなくなった【アビ・エシェフ零号機】の近くで機体の確認をしていた。
「……一応、既存の技術で改造されてるわね。発展させた技術もちらほらあるけど」
「何で《守護者》はわざわざ改造して戦ったんですかね?」
『きっとその《守護者》の戦闘力は高くはないのでしょう。代わりに技術面で飛び抜けていますが』
『そうね。零号機の再現に留まらず、発展までしてみせた……開発者としては複雑ね』
リオのその言葉に、《守護者》の正体に当たりを付けているヒマリは呆れ混じりで溜め息を吐くのであった。
アビ・エシェフ零号機
トキが使用する想定で作られた【アビ・エシェフ】の前身である、設計データのみに存在する機体。合理的かつ、前衛的な形状のため見た目の評価はアバンギャルド君と同等。
ただし、中身は凶悪そのもの。エリドゥによるシステムアシストがあるものの、改造前の【アビ・エシェフ】の総スペックを大きく上回っている。背中の大型レドームは電磁障壁を張ったり、周囲を探知する為の装置である。
滅亡の管理者
要塞都市エリドゥを掌握した《守護者》。その正体はテラー化した調月リオ。反転した事により、短時間で機械設備等の改造が可能となっている。エリドゥとアビ・エシェフの製作者でもあるからこそ、短時間での掌握と奪取、大規模な改造を可能とした。戦闘能力そのものは《守護者》の中では一番下。
独白がなかったのは、言うだけ無駄という合理的思考によるものから。