夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
シャーレの会議室にて。
「五つの《虚妄のサンクトゥム》の崩壊を確認しました!」
「これで残るは後一つ……」
「サンクトゥムタワー跡地の《虚妄のサンクトゥム》と《守護者》だけだね」
サンクトゥムタワー跡地以外の《虚妄のサンクトゥム》が攻略され、残すは後一つ。これを攻略すれば、一先ずの危機からは脱する事が出来る。
しかし、そう簡単には事が進まないのもお約束だ。
「最後の《虚妄のサンクトゥム》の《守護者》……観測された反応を見る限り、一番強い反応を示しています」
「加えて戦闘も継続中……サンクトゥムタワーを破壊しただけあって厄介ですね」
サンクトゥムタワー跡地における攻略組でシャーレの指揮下に入っているのは、《ジャブジャブヘルメット団》のリーダー、河駒風ラブと《七囚人》の一人、《厄災の狐》の異名を持つ狐坂ワカモの二人だけ。だが、戦力としては他の攻略組に劣っているわけではない。
ラブは高いリーダーシップと人柄から、団員達に強く慕われている。この危機的状況も相まって、士気も結束力も高い。
ワカモはキヴォトスでも上から数えた方が早い実力者だ。本来は性格の問題から戦力として起用できないのだが、彼女はシャーレの先生に一目惚れしている。シャーレの先生のお願いであれば、二つ返事で了承する程だ。
そこに加えて、速水恭介も参加している。彼の援護もあって道中の配下を片手間で倒せていたのだが……《守護者》との戦闘では完全に拮抗状態となっている。
「うん。私も全力で指揮するよ」
シャーレの先生は力強く頷くと共に【シッテムの箱】へと意識を移し、専用AIのアロナと教室の中で対話をする。
「アロナ、手伝って」
「もちろんです、先生!このスーパーアロナちゃん、全力で先生の力になりますよ!」
アロナはシャーレの先生のお願いを快く引き受けると、漸く用意できた特別枠をシャーレの先生へと開示する。
「このSP枠を使えば、本来は指揮下に入れる事が出来ない人も先生の指揮下に入れます!生徒以外……ナイトアリウスさんもこれを使えば、先生の指揮下へと入れることが出来ます!!」
アロナのチュートリアルにシャーレの先生は頷くと、新たなコンテンツへと手を伸ばした。
D.U.地区のサンクトゥムタワー跡地。
「リーダー!また攻撃が来ます!」
「全員、近くの物陰に隠れて!」
ヘルメット団の一人が警告を発し、リーダーのラブが大声で指示を飛ばす。ラブの指示に団員達は誰一人逆らうことなく、手身近な物陰へと隠れると――何条もの赤黒い光の線が迅り地面を、壁を焼いていく。
「――ハァッ!」
その赤黒い光の線による無慈悲の断線をワカモは踊るようにすり抜けていき、銃弾を放ちながら《守護者》の虚無の半妖に銃剣を突き刺そうとする。
ワカモの突撃に虚無の半妖は周りの“眼”をギョロめかせるだけで一瞥することなく――左手に持ったライフルで簡単にいなし、回し蹴りをワカモの背中に喰らわせる。
虚無の半妖はバランスを崩したワカモに追撃――せずに、左手のライフルを背中に向けて躊躇なく引き金を引く。ライフルの銃口からは弾ではなく黒い焔が放たれ、後ろから攻撃しようとした恭介を呑み込まんと迫っていく。
「クッ!?」
カリバーモードの【ブレイカムバスター】を振りかぶっていた恭介は攻撃を中断し、咄嗟に【ブレイカムバスター】を盾にして直撃を避ける。高温に晒された恭介は熱波に押されて地面を転がるも、【ブレイカムバスター】の刀身と持ち手を分離させて組み換えていく。
『ランチャーモード!』
ランチャーモードに組み換えた【ブレイカムバスター】を恭介は構え直し、エネルギーをチャージした一撃を虚無の半妖へと叩き込む。放たれた青白いエネルギー弾は虚無の半妖の右肩に当たるも、仰け反るどころか微動だにしない。微々たるダメージしか与えられていないのは明白だ。
「……やはりダメージは与えられないか。唯一効果があったのは【イレイサーカプセム】の攻撃だけ……それも比べたらマシ程度だ」
恭介はマスクの下で苦い表情をする。戦闘が始まってからずっと、虚無の半妖への攻撃は【イレイサーカプセム】による攻撃以外はまるで効いていないかのように平然としており、その【イレイサーカプセム】による攻撃も軽く仰け反る程度で終わっている。仮に《トルネードイレイサー》に変身しても、時間切れで終わってしまうのは明白だ。
――無駄だよ。君達じゃ私に勝てない。《ヒトツメ》に《クロカゲ》……怪異と混ざった私にはね。
虚無の半妖は脳裏に響く声で無情に告げると、その場で独楽のように回転しながら右手を振るう。振るわれた右手から黒い焔が噴き上がり、津波のように燃え広がっていく。同時に虚無の半妖の周りの“眼”からも赤黒い光線が放たれる。
『バリア!』
『ブレイカムキャノン!』
恭介は【ブレイカムバスター】に【バリアカプセム】をセットし、カプセムの力が宿った一撃を上空へと放つ。放たれた一撃が上空で弾け飛ぶと緑色に輝く雨となって降り注ぎ、ラブにワカモ、《ジャブジャブヘルメット団》を緑色の膜で覆っていく。
恭介自身もその膜で覆われ、全員にバリアが張られてすぐに焔の津波が呑み込み、光線が通り過ぎるとほぼ同時に砕け散ってしまう。
――粘るね。いくら粘っても、辿り着く結末は変わらないのに。
「……本当にお喋りだな」
――悪い?何も残せない君達に、丁寧に教えているんだよ?
虚無の半妖は恭介の皮肉にも動じず、上空に向けてライフルを構える。そのまま引き金を引くと焔の珠が放たれ、一定以上進むと無数の火の珠と成って周囲に降り注いでいく。
恭介達は降り注ぐ火の珠を避け、ワカモは避けながら再度虚無の半妖へと肉薄する。虚無の半妖は焔を弾丸として放ち牽制するが、ワカモは臆することなく距離を詰め、合間合間で銃撃を放つ。
ワカモ自身の“神秘”を乗せた銃撃は、虚無の半妖を爆炎の中へと呑み込む。普通の生徒が喰らえばタダでは済まない銃撃だが……虚無の半妖は殆ど無傷。多少の埃を被っただけだった。
「……やはり、《怪異》には効きませんか」
――へえ。漸く気付いたの?元でも百鬼夜行だから当然かな?遅すぎる気もするけど。
ワカモの呟きに、虚無の半妖は嘲るように響かせる。そのやり取りから、何かに気付いたらしいワカモに恭介は話し掛ける。
「ワカモさん。《守護者》の異常な耐久力のカラクリに気付いたのか?出来るなら、私達にも教えてほしい」
「先生様以外に語る口はないのですが……先生様の頼みですからね。特別にお答えしましょう」
ワカモは狐のお面越しでも分かる程に不機嫌なオーラを発するも、シャーレの先生から出来る限りでいいから手を取り合ってほしいとお願いされていた事もあり、不承不承ながらも憶測を口にしていく。
「私も又聞き程度でしか知りませんが……百鬼夜行には《怪異》と呼ばれる特異な存在がいるそうです。その輩共は、とある武器以外では倒せないとも」
「《怪異》?その怪異って奴と、目の前のコイツとどう関係があるのよ?」
ワカモの解説にラブは訝しげな反応を示すも、特異現象に一定の理解のある恭介は得心がいったように頷く。
「なるほど……つまり、この《守護者》はその《怪異》の力を取り込み……いや、《怪異》と融合しているんだな?」
――半分正解。厳密には一体化だけどね。
恭介の至った推論に、虚無の半妖は答えを口にしながらライフルの銃口を恭介へと向ける。勝ち目は一切ないと断言せんと態度で示す《守護者》だが、カラクリが分かった恭介には朗報でしかない。
「――ルーラーメアカプセム!」
恭介は手を掲げて【ルーラーメアカプセム】を呼ぶ。呼び掛けに応えた【ルーラメアカプセム】は恭介の手に収まり――【ナイトインヴォーカーバックル】へと直ぐにセットされる。
――リジェネイション!
セットしてすぐ、恭介は【ルーラーメアカプセム】のボタンを殴るように押し込み、変身シーケンスへと移る。
――レイジング!ナイトシステム!――ライダー、アリウス!リジェネイション!
《ナイトアリウス・リジェネイション》となった恭介は、左手に【トリプルランチャー】を携えている。恭介が直ぐに行動を起こそうとした瞬間、奇妙な感覚が全身を襲う。まるで能力が引き上げられたかのような感覚に恭介は困惑していると、予想外の声が耳に届く。
『恭介さん!聞こえますか!?』
「その声……シャーレの先生か!?何故両耳から貴方の声が……」
『アロナのおかげで、恭介さんも私の指揮下に入れる事が出来たからだよ!状況も理解しているから、全力で支援するよ!』
「そうか。なら、存分に頼らせてもらう」
多少気になる事はあるが、シャーレの指揮による恩恵だと恭介は納得する。シャーレの先生から届く指揮に従い、【ルーラーメアカプセム】の能力を発動する。
『リジェネイション!』
【ルーラーメアカプセム・リジェネイション】の能力――“存在の再定義”を発動させ、ラブとワカモ、《ジャブジャブヘルメット団》が持つ武器を再定義させる。
――何をしても無駄だよ。私にはっ!?
虚無の半妖は無駄だと断言しようとするも、右肩に強い衝撃を受けた事で驚愕したように言葉を詰まらせる。その反応に、《ジャブジャブヘルメット団》の一人が喜色の声を上げる。
「効いた!効きましたよ、リーダー!」
「やっとそのスカした態度が崩れたわね。これまでの分、一気に返させてもらうよ!!」
ラブの号令と共に、一斉に銃弾が放たれ弾幕が形成される。弾幕は虚無の半妖だけでなく周囲の“眼”をも撃ち抜き、《守護者》の精神に痛みを与えていく。
――な、なんで……!?【百蓮】でもないタダの銃で、どうして……!
虚無の半妖は信じられないと響かせているが、恭介がやった事はそこまで難しいことではない。“存在の再定義”――ラブ達の武器を《怪異》に通じる武器へと一時的に再定義しただけだ。最初は虚無の半妖自身の定義を変化させるつもりだったが、シャーレの先生の指揮下に入ったことで可能となった、指揮内による広範囲の“再定義”でラブ達の武器の定義を変化させたのだ。
――虚無の半妖と一体化した《怪異》にも通じる武器として。虚無の半妖は自身に刻まれていくダメージから危機感を募らせ、急いで反撃に転じようとする。
「させるとお思いですか?」
虚無の半妖が反撃に打って出るより早く、ワカモが攻撃を仕掛ける。《厄災の狐》の異名に違わぬ猛攻――爆撃に近しい連撃を叩き込み、虚無の半妖を上空へと打ち上げていく。
ラブにワカモ、《ジャブジャブヘルメット団》が虚無の半妖に猛攻を仕掛けている間、恭介は【トリプルランチャー】に【ショックカプセム】、【ストリームカプセム】、【グラビティカプセム】を順番に窪みに装填していく。
カプセムの装填を終え、持ち手の一つをスライドさせて装填したカプセムを回転させる。
『ショック!』
『ストリーム!』
『グラビティ!』
【トリプルランチャー】の砲口が回転し、エネルギーが溜まっていく。バチバチと音を響かせながら恭介は【トリプルランチャー】を構え――虚無の半妖へと向ける。
「全員、その場を離脱!巻き込まれるよ!」
シャーレの先生から次の行動が伝わり、ラブは部下達に指示を出しながら共に後退。ワカモもシャーレの先生の指示に素直に従って虚無の半妖から距離を取っていく。
彼女達が十分に離れた事をシャーレの先生を介して知った恭介は、一切の躊躇もなく【トリプルランチャー】のトリガーを押す。途端に凄まじい吸引力が砲口から発生し、虚無の半妖は踏み留まることすら出来ずに引き寄せられてしまう。
『トリプル!ボンバー!』
砲口へと密着し、角度と位置を調整されてから虚無の半妖は弾丸の如く吹き飛ばされる。恭介の武器も通じる武器へと“再定義”されていた為、虚無の半妖は全身への強い痺れと衝撃を感じながら飛ばされ続ける。そのままその先にあった《虚妄のサンクトゥム》へとその身を激突させ、身体をめり込ませる。
『恭介さん!』
「ああ!」
恭介はシャーレの先生に短く言葉を返すと、軽快な動作で【ルーラーメアカプセム】のボタンを三回連続で押し込む。
必殺技の準備を完了させ、恭介はその場から走り――顕現した巨大な【ルーラーメアカプセム】へと白い靄となって吸い込まれる。
『リジェネイション、リスタート!』
その機械音声と共に、巨大な【ルーラーメアカプセム】の中央部からライダーキックの体勢でロケットの如く発射される。恭介のライダーキックは虚無の半妖の腹部に深く突き刺さり――[888]から[AAA]へと変化する演出まで出現する。
[AAA]が一際強く光り輝くと同時に、恭介は衝撃を受けたように距離を取る。空中へと放り出され地面へと落下していく中、崩れゆく《虚妄のサンクトゥム》の欠片に紛れるように落下していた虚無の半妖は諦感の声を響かせる。
――本当に、私は何をしたかったのかな…?仮面を被るのが嫌になって……なのに喪いたくないと縋って……百■■■も■■風■も、■■■行も全部壊して……
――本当の自分すら分からなくなって……空っぽのままで存在して……何が嫌だったのかさえ、もう思い出せないや……
「…………」
虚無の半妖の独白に、何も知らない恭介は答えられない。
最後の《虚妄のサンクトゥム》も《守護者》と共に消え去り、空は赤から元の青へと戻っていく。
だが――虚無の半妖の哀しき独白は、恭介の胸の内で反芻し続けるのであった。
虚無の半妖
D.U.サンクトゥムタワー跡地の《虚妄のサンクトゥム》を守る、最後の《守護者》。
《怪異》と呼ばれる存在と一体化しており、その恩恵により特定の攻撃でしかダメージを与えられない。不気味な“眼”によって常に視界が共有されており、視覚外からの不意討ちは通用しない。“眼”は光線も放てる為、攻撃手段としても多用されている。自身も黒い焔を操り、焔の津波や火の雨を繰り出す事も出来る。焔にも《怪異》の特性が宿っており、簡単に消すことはできない。
その正体は黄昏に堕ち、《ヒトツメ》だけでなく《クロカゲ》とも融合した七稜アヤメ。《怪書》を逆に乗っ取った事で制御不能の半妖へと至り、協力者達も破滅へと至らしめた。