夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
――申し訳、ありませんでした。
…………。
――貴方は私を信じ、願いを聞き入れてくれたのに……私は、その信頼を裏切ってしまった。避けたかった結末を、私の手で手繰り寄せてしまった。あの人が正しかったのだと、終わった後で痛感する事になりました。
……だから、何だ?許してほしいと?それとも世界の結末を変えてくれと?危険視し、傍観者の立場へと勧めておいて?
――それ、は……
……幾らお前が言葉を紡ごうと……私はもう、お前を信じない。お前と、お前を信じた私が、この結末を招いたんだ。
――ですが、可能性は……
……お前が何をしようと、“罪”は無くならない。過ちも失敗もなかった事には出来ない。いいや、
――これから、どうするつもりなんですか?
……悪夢を渡り歩く。悪夢で終わらせ、その最中で朽ち果てるのが……私の終着点だ。手を下した死の神達から奪った【箱船】……いや、【仮面】があるからな。
――まさか、他の世界を滅ぼすつもりなんですか!?それは――
……キヴォトスという世界は破滅の未来が約束されている。僅かに早いか遅いかの差だ。その道筋の一つがアヌビスの顕現であり……プレナパテスの誕生だ。第一、私は夢の中だけの存在だ。干渉できる世界にすら、制限がある。それでも邪魔をすると言うのなら――
『ロストストライク』
――あ。
……ここで今すぐ消えろ。己の浅ましさと愚かしさを呪いながらな。
赤く染まっていた空が、全ての《虚妄のサンクトゥム》が崩壊した事により元の青空へと戻っていく。
「やったのかな……?」
シャーレの先生はどこか祈るようにそう呟く。その呟きはシャーレの先生だけでなく、誰もがそうであってほしいと思っていることだ。
そんな空気を破るかのように、軽薄な声が室内へと響き渡る。拍手の音と共に。
「いやはや。まさか、本当に《守護者》全員を倒しちまうとはな。
誰のものでもない、エコーが掛かった軽薄な声。その声に驚いてシャーレの先生達は声がした方向へと顔を向ける。その先にはテーブルに図々しく腰掛けた、全身タイツスーツの奇妙なヘルメットで顔を隠した人物が眺めるかのような態度でシャーレの先生達を見ていた。
リン達はその正体不明の人物に警戒心を露に銃を突き付け……シャーレの先生は黒服の話を思い出してもしやという表情で口を開く。
「まさか、君が黒服の言っていた……」
「黒服ちゃん、ちゃぁんと伝えてくれていたんだな。そうでなかったら、わざわざ“夢”を介して伝えた意味がないからな」
謎の人物改め“仮面ライダーバニタス”は肯定の意味を込めて言葉を返す。黒服をメッセンジャー代わりにしたと暗に明かしつつ、バニタスは改めてシャーレの先生へと話し掛ける。
「もう知っているだろうけど、改めて名乗らせてもらおうか。私は悪夢を渡り歩く亡霊……またの名は仮面ライダーバニタス。亡霊でもバニタスでも、好きに呼んでくれて構わないぜ?」
「……一体何が目的なんだい?」
「目的?私に目的なんてないよ?強いて言うなら……世界の命運を賭けたゲームをしているだけさ。破滅の未来が確約されている、このキヴォトスを有効活用してな」
シャーレの先生の質問に、バニタスは人を喰ったかのような態度を崩すことなくあっさりと明かす。ゲームだと言い切った事にリン達は鋭い眼差しをぶつけるも、当の本人は気にした様子もない。それはシャーレの先生も同じだ。
「それでシロコを操って利用しているのかい?生徒に、そんな酷い真似を強要して」
「シロコ?もしかして……テラシロコちゃんの事かな?だとしたら筋違いだぜ、シャーレの先生。テラシロコちゃんは、
「……どういう意味だい?」
「あー、まだ気付いていないのかな?ネタバレはご法度だが、このままじゃ話は進まないからちゃちゃっと話すしかないか。この世界には今、
バニタスはあっさりとシロコ*テラーの秘密を明かし、シャーレの先生達を驚かせる。そんな彼等に構わず、バニタスは話を続けていく。
「この世界のシロコちゃんは、とある空間に幽閉されている。“砂狼シロコ”は一人しか存在しない……いくらテラシロコちゃんが同時には存在し得ない“恐怖”へと反転した存在とはいえ、どんな不具合が起きるか分からないからな。だからテラシロコちゃんはプレナパテスを使い、シロコちゃんを誘拐した。テラシロコちゃん自身が、気兼ねなく動けるようになる為にね」
普通ならあり得ない、デマカセと一蹴する程の突拍子のない話だ。だが、黒服から事前に疑問も共有されていたシャーレの先生はこれが嘘ではないと察する事が出来た。
それでも、疑問は浮上するが。黒服の推測ではシロコは利用されている立場の筈だからだ。だが、今のバニタスの話では彼女自身が積極的に動いているように聞こえてくる。
「プレナパテスを使った?それじゃまるで彼女が……」
「まるで、じゃない。テラシロコちゃんは、自分の意思で世界を滅ぼそうとしているんだよ。
シャーレの先生の疑惑に、バニタスは躊躇なく事実をぶちこんでいく。シャーレの先生の淡い希望を打ち砕くように。バニタスの言葉に明らかに動揺するシャーレの先生に、バニタスは容赦なく言葉を続けていく。
「まさか反転前へと戻れば、万事解決とでも考えていたのか?だとしたら、とんだお花畑だな。過去は変えられない……【色彩】の後押しがあったとはいえ、反転へと至った深い心の傷は消えて無くなりはしない。第一、完全に反転すれば二度と元には戻らない。老人が赤ん坊にならないように……死人が二度と生き返らないように」
バニタスの鋭利な刃物のような言葉に、シャーレの先生は反論できずに言葉を失ってしまう。自分の知るシロコが無事だったとはいえ、もう一人のシロコも救いたいと思ったからだ。
そんな沈痛な面持ちとなったシャーレの先生に、バニタスは同情するかのような雰囲気で再び話し掛ける。
「シャーレの先生……貴方には本当に同情するよ。あの女の負債を一方的に背負わされて、破滅の道へと巻き込まれたんだからな」
「あの女……?一体誰のことかな?」
「君も良く知っている……連邦生徒会会長様だよ」
バニタスは忌々しげに口にすると、憎しみと苛立ちが籠った声色で言葉を続けていく。
「あの女のせいでこの世界……キヴォトスは破滅の終着点を約束させられたんだ。しかもその不始末を“外”から来た大人に丸投げ……本当に能力だけはあった、猛毒でしかない人物だね。うん」
バニタスのその罵倒に、リンは怒りの形相で構えていた銃を発砲する。放たれた銃弾はバニタスの【ブレイカムガントレット】によって容易く弾かれたが。
「随分と怒り心頭だな、代行ちゃん。突然失踪されて、迷惑を被っているのにさ」
「その口を閉じなさい!連邦生徒会長を……!何も知らない貴方が、彼女を悪し様に罵倒するのは――」
「よく知ってるよ。彼女の根は確かに善ではあったが……その善が最悪の結末を招いた。破滅を招いたのは《ゲマトリア》でも【色彩】でもない――あの女の無自覚な傲慢さが、あらゆる破滅の道を鋪装した。その愚女を信じた、過去の馬鹿な私もな」
バニタスから軽薄さが完全に消え、憎悪と後悔が入り交じった声で呟く。その圧と殺気にその場にいる全員は完全に呑まれ、言葉を失っている。
「……話が明後日になってしまったな。此処に来たのは、次のステージへの案内だってのに」
「……次?」
先程までの重苦しい雰囲気が霧散し、再び人を喰った態度で言葉を紡ぐバニタス。その言葉に聞き返したシャーレの先生に、バニタスはあっさりと答えていく。
「イクザクトリー。まだ滅亡へのカウントダウンは止まっていない。単に引き伸ばされただけさ。現に……」
バニタスは何かの合図を出すかのように指をパチン!と鳴らす。直後、観測用のモニターから、再び六つのエネルギー反応が検知された事が表示される。
「供給源は未だに健在だからな。【アトラ・ハシースの箱船】……テラシロコちゃん達がこの世界に来る為に使った要塞があるからね。この世界のシロコちゃんも、ソコにいるぜ?」
バニタスは【箱船】の存在だけでなく、シロコの所在も明かす。爆弾発言を続けるバニタスは、本題へと切り出す。
「次のステージは【アトラ・ハシースの箱船】だ。彼処を叩かないと《虚妄のサンクトゥム》はエネルギーさえあれば作り放題。大元を叩かないと時間稼ぎにしかならない。そして、その制御権は私が握っている」
バニタスはゲームの説明をするかのように語っていく。目的を問われた際にゲームだと返したから当然かもしれないが。
「じゃ、頑張って【箱船】まで来なよ?かなーり時間も掛かるし、再形成された《虚妄のサンクトゥム》にも何回も対処する羽目になるだろうけど。次の《守護者》は《ゲマトリア》の“秘儀”関連だから、多少はマシかもしれないね。それでもキツいだろうけど、頑張りたまえよ」
バニタスはその言葉を最後に、全身を陽炎のように歪めてその場から消え去るのだった。
『無理です』
ミレニアムとの通信で、シャーレの先生のお願いに対するケイの第一声がこれだった。
「その……無理っていうのは……」
『言葉通りの意味です。現時点で【箱船】を作るのは不可能だって言っているんです』
シャーレの先生が踏み込んで聞くと、ケイは二度も言わせるなと言いたげな雰囲気でハッキリと告げる。そんなケイに、事情を知った恭介が話し掛ける。
「作れないと言いましたね?つまり、使用目的自体には反対しないと?」
『……まぁ、そうですね。非常に不本意ではありますが、このまま私と王女アリス以外の手で滅ぼされるのは嫌ですから。後、節操なしの連中に付き合う気も失せましたし』
ケイは不承不承といった態度でそう告げる。今回の終焉が乗っ取られたかつ、別世界の
だからこそ、先生達の質問――【アトラ・ハシースの箱船】に対してあっさり白状したし、通常では干渉する事すら出来ないことも教えたのだが……
『作れないのは純粋なエネルギー不足と、処理リソースの問題です。長時間であれば作れないこともないですが……その場合だと十数回の《虚妄のサンクトゥム》を破壊しに行く羽目となります』
『……どれくらいのエネルギーとリソースが必要なのかしら?』
『最低でも大規模な都市クラスですね。後は……私と王女アリスを破壊しようとしたシステムもです。自己修復が終わり、情報を集める中で見つけ、利用できると判断しましたから。私のハッキング能力であれば、把握できているスペック以上の結果を叩き出せますから』
リオの質問にケイはある程度の具体例を出して答える。それだけ聞けば、要塞都市エリドゥを利用すれば短時間で【箱船】を作れると結論を出せるのだが、それも不可能となっている。
何故なら……
『《守護者》に乗っ取られていたエリドゥのサーバーは八割以上が使えなくなっている……回路が焼き切れてるし、システム自体も滅茶苦茶になっているそうだ。修理するにも時間が掛かるし、また乗っ取られる危険性もある。本当に嫌な置き土産を残してくれたものだよ』
そのエリドゥのシステム全般が、見事に使い物にならなくなっているからだ。それもシステムだけでなく、その大元である機械の方まで。技術力で一番のミレニアムが最低限のラインとされている以上、他の学園のサーバーやシステムでは代役として機能しない。
「機械の修理自体は、【リカバリーカプセム】で解決するでしょうが……」
「その中身……システム面までは修復できないんだったね。システム面だけを直すとしたら、何れくらいかかる?」
『……おそらく、三日以上は掛かると思うわ。彼女の能力はハッキング……ある物を利用するのが本質で、零から一を作る能力はない。その役目は《名も無き神々の王女》……アリスの方にあるのだから』
『後、私の予想が正しければ、その【箱船】も本物の可能性が高いでしょう。別世界で構築された【箱船】……役目を終えた私達なき船でしょうから。時間を掛けて作られたなら、精度も高いでしょうし』
リオとケイの先行きが暗くなる言葉に、シャーレの先生と恭介はどうしたものかと頭を悩ませる。エネルギーの観測から割り出した【箱船】の位置は遥か上空……宇宙の近くにある。加えて、この世界のシロコもそこに囚われている。シロコの救出も考えれば撃ち落とすのは論外。直接乗り込む以外に手はない。
当然、この情報はホシノ達、対策委員会にも共有済みだ。シロコが二人いる事に驚きつつも、自分たちの知るシロコが無事だという事実には安堵していた。特にホシノはその場で脱力しそうになった程だ。
分が悪くても時間を掛けて【箱船】を作るしかないのか……そう結論を出そうとした直前で、スマホの着信音が鳴り響くのであった。