夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
【ウトナピシュティムの本船】の内部にて。
「……構造自体はシンプルだね。いや、敢えて単純にして処理速度を上げているのかも」
「《多次元解釈》の運用を前提とした船なら、当然の作りかもしれないね。未知のオーパーツが多すぎて、解析には苦労しそうだよ」
そう呟きながら解析作業をしているのは、アリウスの《電気工学部》の部長のミサキと、ミレニアムの《エンジニア部》の部長のウタハだ。技術力は《エンジニア部》が当然上なので、《電気工学部》はサポートに回る形で作業をしている。
「未知の言語に初めて見るアルゴリズム……全容の解析は無理そう」
「動かし方さえ分かれば、今は十分なんですけど……調べられた跡が全くないのが不思議ですね」
作業をしていた《電気工学部》の一人が、誰もが疑問に感じていた事を呟く。先に見つけたカイザーがある程度調べていた筈だと予想していたにも関わらず、調査用の機材やら調査報告書やらが微塵もないのだ。特に運用マニュアルの作製は必須の筈なのに、類似するものが基地内を含めて見つからなかったのだから。まさか、本当に見つけて早々にあんな真似をしたのかと疑いたくなる。起動すれば、後は勝手に自分達の意のままに動くとでも考えていたのか。幾ら太古の遺産――オーパーツの塊とも呼べる『古代兵器』でも、そんなご都合はない筈だ。
「たぶん、起動したら使い方も分かるって考えだったんじゃない?もしくは習うより慣れろだったとか」
「取り敢えず操作して、使い方を覚えるつもりだったってことですか?」
「それは……有り得そうかも。私達の“備品”もそうだし」
前言撤回。普通にそんなご都合が有り得そうであった。中身がブラックボックスのままの、取り敢えず使えているオーパーツに匹敵する武器を使っているのだから。
実際、【本船】のブリッジには操縦のためのハンドルがあった。形状からある程度予想が出来るなら、動かせさえすれば後はどうにでもなると考えたとしても不思議ではない。
「どちらにせよ、動かす程度が限界だろうね。ブラックボックスの解析は、基本的に不可能だし」
ミサキは作業を続けながら、溜め息と共にそう呟く。“備品”の構造でさえさっぱりなのに、その何百倍もの大きさのある《戦艦》の構造を理解などできる筈がない。
一方、《ヴェリタス》によってメイン中枢のシステムへのアクセスに成功したブリッジ方面でも、調査が進んでいた。
「全体の75%以上が論理演算装置で構成されていますね。外見からでは武装も見当たりませんし、これだけでしたら《戦艦》とは呼べないのですが……」
『その武装は全て、《多次元解釈》の下で行われる……計算次第で高出力のビームを放てるのは、紛れもなく《戦艦》よ。メインシステム無しでの飛行高度は宇宙空間に届かないけど……《多次元解釈》が加われば、その制約も無意味でしかないわ』
「……本当にカイザーが起動しなくて幸運でしたね」
ケイからの情報が無ければ、空飛ぶスーパーコンピューターくらいしか把握できなかった【本船】。現代の理解できる範囲で語るなら、その場で武器を作り出して運用できる超兵器だ。【箱舟】を覆っている多次元バリアは【本船】も張る事は性能上可能な上、高エネルギー砲も理論上は撃ち放題。これが本当にカイザーによって使われていたら、本当にキヴォトスを支配されていたのだと理解せざるを得ない。
『彼女によると【本船】は【箱舟】のメインシステム……《AL-S1》の破壊に特化した決戦兵器。それも感知すれば自動発動する、文字通りの特化型。それだけで、どれだけ危険な兵器であったのかが伺えるわ』
「……リオ」
『安心して頂戴。今は保留の段階で留めているわ。ミレニアムの会長として……学園の長として、リスクは常に意識しなければならないわ』
AMAS越しでのリオの返しに、ヒマリはそういう意味ではないと瞳で文句を伝えるも届くことはない。そもそもリオは合理主義者であり、コミュ障の人間だ。アリスの件から多少は改善されつつあるが、人情に対する機微は低いままだ。それでも、ヒマリが知るリオであれば、正しい事だと判断すれば強行な姿勢で実行していた。事実、意見が割れた際にヒマリはトキによって拉致されたのだから。
実際は“どっちも悪い”状態であったが。リオは確かにアリスを兵器扱いしていたが、危険性と対抗策の有無、世界滅亡というリスクを周りに負わせられないとしっかり伝えていた。それに対してヒマリはアリスは可愛い後輩だからと、妥協案も出さずに反対の立場を貫いていた。反対だけでは頷けないし、納得も出来ない。この点だけに限れば、ヒマリの方に全面的に非がある。
事実、シャーレの先生達への“説得”の中で、自身のやろうとしていた事が取り返しのつかない事態を招く可能性へと至ったのだから。ちゃんと互いに歩んだことで、想像すらしなかった第三の道が生まれたのだから。
『……どうやら、また気に障る態度だったみたいね』
「全くですよ。少しはマシになったかと思いましたが、相変わらず陰湿な女ですね」
リオはヒマリの反応からまた間違えたと呟き、ヒマリはその通りだと言葉を返す。そんなやり取りが思わず耳に入った、ケイとアリス、シャーレの先生と話し合っていた恭介は微妙な表情となったが。
「……あのお二人は、大体あのような感じなんですか?」
「まぁ、そうだね。リオもヒマリも、悪い子じゃないんだけど……」
「今のやり取りだけですと、ヒマリさんの方にも問題がありそうですが……」
恭介のその呟きが聞こえたのか、ヒマリが怪訝な表情をして車椅子を動かして恭介の方へと顔を向ける。
「少し聞き捨てならない言葉ですね。この天才美少女の私に、どのような問題があると仰るのですか?」
「……ヒマリさんって、否定しかしてませんよね?」
「当然です。彼女……リオは本当に――」
「
ヒマリもリオの事が嫌いで言っている訳ではない事は、何となくではあるが理解できる。だが、それも間違いを指摘したり、考えを否定するだけでは駄目なのだ。
「間違いだけ指摘しても、どう直せばいいかも分からない。その足掛かりすら不明では、直しようがありません。ヒマリさん、貴女は……リオさんをただ傷付けたいだけで、辛辣な言葉を発しているわけではないでしょう?」
「…………」
「ヒマリ。これは私にも言えることだけど……厳しい言葉だけじゃ寄り添うことは出来ないし、逆に相手を頑なにしてしまう事もあるんだ。伝えるべき相手にも寄り添わないと、互いに歩み寄れないから。もちろん、それで全てが円満に行くわけじゃないけど……その努力すらしなかったら、何一つ変えられないからね」
途中で加わったシャーレの先生も、かつての失敗談を交えてヒマリに伝える。人は言葉を何度交わしたとしても、必ず理解し合えるとは限らない。溝が深まる場合もあれば、決裂から対立してしまう場合もある。
だからと言って、互いに歩み、理解し合う努力を放棄していい理由にはならない。互いに良い関係を望んでいるのなら尚の事。ダメ出しだけでは、本当の意味では変われないのだから。
「……確かに。これは私にも問題がありましたね。リオが陰湿な女で、嫌いなことには変わりありませんが」
『そうね。貴女が私を嫌っているのは知っているわ。その原因が私にもあることも』
「そういうところですよ。直ぐに自己完結で終わらせようとする所が、貴女の悪い癖です。前より理解を得ようと努力している点は、評価しますが」
取り敢えず、改善の努力はしようと受け止めたヒマリとリオに二人の先生は苦笑すると、ケイとの話し合いを再開する。
「それで、ケイ。向こうの【箱舟】について何だけど……」
『多次元バリアが張られている時点で、演算機能は健在と見ていいでしょう。それを可能としているのが……』
「別世界の【シッテムの箱】……ですね?」
『ええ。そのオーパーツでしたら、【箱舟】を運用するには十分でしょうから』
王女によって作られる【アトラ・ハシースの箱舟】自体は拡張装置。肝心のエネルギーの分解、望んだ形への再構築への機能は《名も無き神々の王女》自身に組み込まれている。王女が“権能”を行使するための“舟”だからこそ、【箱舟】で世界の
だからこそ、【箱舟】の多次元バリアの突破に問題が生じてしまうのだが。
『既に多次元バリアを展開している以上、【本船】で解析してもすぐに対応されるでしょう。次元軸を一つ追加するだけで、突破できなくなってゲームオーバーです』
「それなら再計算で……」
『再計算には時間が掛かります。彼方は軸を追加するだけで十分なのに対し、此方は一からのやり直しです。先生への《多次元解釈システム》のフィードバックも考慮すれば……最初の計算入力だけで限界かと』
ケイからもたらされる情報に、シャーレの先生と恭介は難しい顔となる。此方側の唯一の手段が、バニタスからすればすぐに対応できる程度の脅威でしかないのだから。
その予想外の手詰まりに近い事実を前に、アリスが挙手をしてケイに訊ねる。
「それなら、アリスの《名も無き神々の王女》の力を使うのはどうでしょうか?」
『……一番有効な一手ではありますね、王女アリス。向こうの【箱舟】に王女アリスはいませんから、王女アリスのいる【箱舟】が干渉すれば、確実にエラーを起こして機能不全に陥るでしょう。【本船】からの攻撃を無視すれば、ですが』
「“再定義”後でも駄目なのかい?」
『王女アリスだけの“再定義”であれば、【箱舟】を起動した瞬間に【本船】は牙を向けます。肝心の鍵……私が相対する兵器のままなので』
ケイはそこまで語ると、本当に不承不承といった雰囲気を醸し出す。
『本当に不本意ですが……私と王女アリスを【本船】の機構として、一時的に“再定義”される事を受け入れましょう。それなら【本船】の攻撃から逃れられるでしょうから』
「ありがとうございます」
「本当にゴメンね、ケイ。無理強いする形になっちゃって」
『今回ばかりは仕方ありませんから。王女アリスの攻略フラグは不成立のままですから、先に滅ぼすなんて出来ませんから。それに急かされるようにキヴォトスを滅ぼすのも、それはそれで癪ですし』
向こうの【アトラ・ハシースの箱舟】に対する突破法も固まり、決戦の時が近づいていく。
――勝利の女神はどちらに微笑むかは、まだ分からない。
【アトラ・ハシースの箱舟】の内部にて。
「ふー……やはり上手く扱えないか。覗き見をするには“目”が足りないし、視えても大雑把にしか把握できない。それでも十分ではあるけど」
【ナラム・シンの玉座】……擬似的な【混沌の領域】でこの世界のキヴォトスの様子を確認していたバニタスは、先程まで見ていた光景を閉ざしてから一人呟く。この場にいるのはプレナパテスとA.R.O.N.A.だけ……シロコ*テラーは外の警備に回している。
「……貴方の矜持には、素直に敬意を示すよ。プレナパテス。嚮導者となっても、“本質”を変わらず貫こうとしているんだから。あの女に出会わず、貴方と出会えていれば……いや、無意味な思考だな。過去は変えられないし、私の“罪”もなかった事にはならない」
バニタスは背中越しでプレナパテスにそう語りかける。このプレナパテスもそうだが、バニタスの知る最初のプレナパテスも同じだった。違うとすれば、その最後だけ。
――シロコ*テラーを庇い、共に終わりを迎えたこと。真の元凶共々消え去り、世界の終わりを迎えた。
「本当に《無名の司祭》の隠形は見事としか言えないな。“繋がり”を経由して漸く捕捉できるとか……どの世界でも癌である事には違いないな」
《無名の司祭》達は【色彩】や残してきた
それも最早、無意味でしかないが。バニタスは今、世界を自らの手で滅ぼそうと動いているのだから。
「捻れ歪んだ終着点は覆らず、すべては虚しいだけ……どこまで行こうと、すべては虚しい。だから、私は世界を終焉へと導く為に動く。だが……」
そこでバニタスは頭を振り、言葉を切る。この先の言葉は自分が口にする資格も無ければ、するべきではない。それが、
「過去は不変であり、
何処か自分に言い聞かせるように呟くバニタス。この世界に【カプセム】が存在している以上、辿ってきた過去も同じだと見ている。過去が同じである以上……その末路も同じになる。
「彼方のシャーレの先生達は【本船】で乗り込もうとするだろうが……満足に扱えない【本船】では多次元バリアを突破できない。【箱舟】を使っても、それは数十秒だけの一度きり……仮に乗り込まれても、逆に乗っとれば済むだけだ」
どれだけ抗おうと、結末は同じ。違いがあるとしたら、その過程のみ。
バニタスは【ナラム・シンの玉座】の“権能”を使い、【箱舟】の外の光景を確認する。
「……やはり、【本船】を使ってきたか。さっそく対応させてもらうとしよう」
【箱舟】へと近づいてくる【ウトナピシュティムの本船】を視認したバニタスは、プレナパテスに白い仮面越しで視線を送り――多次元バリアの設定を変更させる。この瞬間、【本船】による多次元バリアの突破は不可能となる。
「……何?」
だが、驚愕したのはバニタスの方であった。何故なら……【本船】の前方部分から巨大な砲身が展開されたのだから。
「あれは【本船】ではなく【箱舟】の……【本船】の演算リソースを利用して構築したのか?だが、あれだけの規模を作り上げた以上、【本船】の牙は……」
その呟きも、巨大な砲身に高密度のエネルギーが充填され始めた事で覆される。
「馬鹿な!?【箱舟】の機能がまだ生きているだと!?あれだけの規模で【本船】が沈黙を続ける訳が……いや、まさか!?」
バニタスはあり得ないと否定しつつも、同時にそれ以外はあり得ない為に急いで“視る”。本船のハッチ……そこにいた二人の人物に、バニタスは大きく動揺する。
「なっ……!?どういう事だ!?どうしてまだ、この現実にいる!?二年前に……あの女の接触により、夢の住人として去った筈のお前が何故……!?」
そこにいたのは《名も無き神々の王女》……AL-S1だけでなく、ナイトアリウス・リジェネイションもいた。本来いない筈の人物がそこにはっきりといるのが、バニタスに大きな動揺をもたらす。
その直後、巨大な砲身から光が放たれ――【箱舟】の多次元バリアを全て破壊される。バリアが無くなり丸裸となった【箱舟】に、【本船】は猛然とした勢いで迫っていく。
そして、砲身ごとその船体をぶつけて辿り着くのであった。