夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
×月∀日 薄らと晴れ
ベアトリーチェの負の遺産が本当に厄介だ。本当に何てものを残してくれたんだ、あの怪人女。
子供達を死兵にする洗脳教育に、ヘイロー破壊爆弾を始めとした大量の兵器……後者はまだしも前者が厄介だ。この教えが内戦状態だったアリウスに骨身に染み付く程に説得力がありすぎた。
当然、頭ごなしに否定しても納得しないのは目に見えているから、虚しいについてとことん議論する方向で解決を図ろうと思う。個人的に虚しいの解釈は、己を振り返り、省みる為の言葉だと思うけど。
ベアトリーチェが残していった兵器に関しては、彼女の下にいた生徒達の証言を元にして、銃火器は生徒達の武器として利用することにした。爆弾は通常とヘイロー破壊の違いが分からないから、安全に処分させてもらった。
ただ、ベアトリーチェを叩き出したからなのか、それとも私がベアトリーチェ以上に危険人物と認識されたからなのか、アリウスの内輪揉めが急に成りを潜めた。後者に関してはサオリ達に物凄く呆れられた反応をされたけど。
とにかく人数が更に増えたことで、安全な寝床の確保が急務となった。応急措置した廃墟を使う手もあるが、食料問題もまだ解決していない。それで私の足りない頭で考えた結果、リカバリーカプセムで校舎を最優先で修復することにした。広い場所を優先して修復し、寝袋等は夢の中で片っ端から回収すれば何とかなるだろう。幸いなことに、リカバリーカプセムを優先して強化していたしね。原作のゼッツのように一発で全部直せたら楽なんだが、私のリカバリーカプセムにはそこまでの力がないんだよな。
畑の野菜は順調に育ってはいるが、やはり苦味が強く腹持ちも悪い。土自体が養分不足で痩せこけているのが理由なんだろうな。自前の肥料も養分足らずだろうし。肥料の作り方もほとんど知らないし。
ともかく、今回の夢の中はみんなの寝袋確保だ。何時ものゴミ集積所で、片っ端から破れた寝袋と布団を扉へと放り込んでいく。一人じゃ重労働だけど、今回は【プロジェクションカプセム】の能力で二人で回収作業が出来るからな!分身も便利だぜ!
それでも回収した寝袋と布団の修復は一人だけだけど。寝袋のデザインがエビフライにクレープ、熊にアザラシと色々だった。
×月√日 曇りのち晴れ
学生の本分は勉強だ。しかし、哀しいことに今のアリウスは学園としての役割を果たせていない状態だ。
勿論、ただ生きるだけなら食料問題の解決に奔走するだけでも十分かもしれない。だけど、それだけではアリウスが再び行き詰まるのは目に見えている。
だから今後の事を考えて勉学の時間を設けることにした。いきなり始めると皆が混乱するし、必要な物が何一つ揃っていないから説明だけに留めたけど。
ただ、勉学と聞いたサオリ達の反応は完全に首を傾げていた。アリウスの復興に必要と感じたと説明したら、一応の納得はしてくれたけど。
勉強の為にはノートに筆記用具……教材も必要だ。身振り手振りで、口だけの説明じゃ、内容を理解仕切れないだろうし、私もそこまで博識じゃないしな。筆記用具は夢の中で回収できても、教材は無理だろうし……
ゼッツの世界じゃ他人の夢に潜れたけど、此方だとあくまで私の夢の中でしかない。夢の中で図書館に行ければ良いんだけど。
いや、意外と行けるかもしれない。夢は無限の可能性があって、本来は出来ないことも夢の中なら出来ていたし。例を上げるなら、主人公は本当は英語を喋れないけど、夢の中なら流暢に英語を話せてたし。
だから、夢の中の例の扉のノブに手を掛けて強く念じた。この扉の向こう側はあらゆる知識の本が大量に並んでいる図書館であると。そうやって念じて扉を開けると、目に入った光景は何時ものゴミ集積所ではなく、壁の本棚に大量の本がびっしりと収められた図書館だった。
念のため近くの本棚から本を一冊引き抜いて中身を確認したら、ちゃんとした内容の本でハリボテでないことに安心できた。ただ、その図書館の本を外へと持ち出すことは不可能だった。見えない壁にぶつかったかの如く、塞き止められた水の如く。
本の持ち出しが不可能なら、此処で必死に読んで覚えるしか手がないのか。そこまで都合の良い夢じゃなくて残念だ。
取り敢えず、付け焼き刃の知識で精米、製粉について覚えてみよう。あのゴミ集積所が私の知識と直結するなら、製粉機と精米機のジャンクが現れるかもしれない。
今回の夢は私の勉強だな。人生死ぬまで勉強という言葉を、今回ほど身に染みたことはない。
×月◇日 晴れ
あ、頭が割れるように痛かった。吐き気も強く、起き上がることすらままならなかった。それで皆に凄く心配されてしまった。おかげで日記にまた間が空いてしまった。
あの図書館、時間感覚がおかしいからなのか、それとも還元方法が脳内だからなのか分からないけど、それなりに反動があるみたいだ。あまり多用はできそうにない。
その代わり、前回目論んだ事は上手くいった。精米と製粉の機械、その廃棄品が夢のゴミ集積所に出てきて回収に成功したのだから。
当然、機械だけでは意味がない。その機械を動かす為の電力が全くないのだから。例の太陽光パネルは一枚だけだし、蓄えられる設備もないからその場限りの電力。早い話、発電所がないと作業の効率化が図れない。
発電は太陽光だけではなく風力も取り入れるべきだな。火力発電は仕組みがさっぱりだし、水力発電は適した水路がないから困難だ。原子力発電はリスクが大きすぎるから論外だ。
場所自体は荒廃した発電施設を再利用する形で利用すれば何とかなるだろう。建造物に関してもそうだが、昔のアリウスの人達の技術力はかなり凄かったんじゃないか?未開の筈だった地域を、伝統ある街並みにまで発展させていたのだから。
あれ?ひょっとしたら製粉の機械も本当は探したらアリウス内で見つけられたんじゃないか?クッキーの存在を知っていたくらいだし。現物を見たことがあるみたいだったし。
いや、それよりも電力確保が大事だな。風力発電は風の有無で発電量が左右されてしまうのが難点だけど、メンテ等の観点から選択肢がないんだよな。多少目を離しても問題ないのがそれくらいしかないし。
確か、実験段階か試験段階だったか、ニュースか何かで新しい構造の風力発電機があったし。安全性と整備性が上がって、発電量も増えてた筈。うろ覚えだから自信はないけど。
それでも、アリウスの復興に向かって前に進んでいるのは確かだ。最初は私の生活の為だったのだが、今のこの状況も悪くないと思っている自分もいる。
ベアトリーチェという危険人物を除けば、だが。あれは絶対に舞い戻って来るだろうから、撃退できるように私自身も強くならないとな。
△月⇔日 雨
雨だと貯水以外に出来ることが少ない。全くないわけじゃないけど。
それにずっと皆動きっぱなしだったし、たまには何もせず身体を休める日があっても良いと思い、今日の作業はお休みにした。
しかし、意外にもこれが苦行になりかけていた。やることが何もないから、暇で落ち着かない生徒がほとんどだった。実際、多くの生徒達が私に学校について聞きに来たくらいだし。
それで私の知る限りの学校について話した結果……学校らしさを出す為に、委員会や部活を形だけ立ち上げるという微笑ましい行動が起きた。
生徒会は学校が復活したら立ち上げると決めて、“アリウス復興委員会”が代わりとして立ち上げられた。メンバーはアツコを委員長としてサオリ、ミサキ、ヒヨリ、アズサの五人に加え、梯スバルという他の子に慕われているアツコ達と同い年の少女も加わった。
部活は食料研究部やサバイバル部といった、現在の復興の延長線の活動が部活として行うという決定がされた。部活という響きが学校らしくて、面白そうだと。それに役割分担したら復興も順調に進められるかもしれないと。
今回の日記は普段より書くことは少ないが、とてもホッコリする一日だった。夢ではゴミ集積所から物を回収しまくっていたけど。
――アリウス第二生徒会室にて。
「やっぱり外での活動は難しい?」
「ああ。外での活動……資金調達の労働には、身分や所属の証明が必要になる」
「それらが不要な仕事は汚れ仕事……気持ちが暗くなるものばかりです。健全な仕事は良くて工事現場くらいです」
生徒会副会長のサオリと風紀委員長のスバルの報告に、生徒会長のアツコは予想していたように溜め息を吐く。
「ただ、一番の目的だった他学園の情報はある程度は揃えられた」
「ええ。トリニティは品位の高い学園と謳っていますが、実際は派閥争いで結構ドロドロですね。あくまで上流階級の話ですが」
サオリとスバルはある程度纏めた報告書をアツコだけでなく、会計のミサキと書記のヒヨリ、風紀委員のアズサにも手渡していく。その報告書を見て、ミサキはポツリと呟く。
「……店舗爆破に他人の敷地を無断で掘削……ゲヘナはテトリストか何かなの?」
「それも自治区の学園内だけでなく、他学園でも行っていると……?本当に学園として機能しているのか?」
「学園として存在しているから、機能はしているんだろうな。恐怖で押さえ込んでいた時期があったみたいだが」
「恐怖……昔のアリウスのように、暴力で言うことを聞かせていたんですかね?そんな辛くて痛いことが、ゲヘナでは今も当たり前なんですかね……?」
「さすがに今は違うみたい。好き勝手しても学園としての体裁が保っていることは評価できると思う。……真似は出来ないし、しないけど」
ゲヘナの校風は《自由と混沌》。その校風の通りに生徒が好き勝手に活動して、周りに大迷惑を振り撒きまくっている。自由と横暴がごちゃ混ぜになってそうな気がするが、そんな校風でも学園として認められている点に関しては生徒会長の手腕は確かなものなのだろう。
……積極的に仲良くなりたいとは思わないが。特に“美食研究会”と“温泉開発部”は要注意対象だ。万が一にでもどちらかがアリウスに足を踏み入れでもしたら、自給自足がメインのアリウスにとって生活を脅かすレベルのやらかしとなる。
部員までしっかり記載している辺り、サオリとスバルの警戒度がかなり高い位置にあると察せられるのも理由の一つだ。
ちなみにではあるが、サオリ達には役員以外の肩書もある。
アツコは園芸部の部長。サオリは食料研究部の部長。ミサキは電気工学部の部長。ヒヨリは裁縫部の部長。アズサはサバイバル部の部長。スバルは吹奏楽部の部長だ。
部長とは言っても、生徒会としての活動等から実際の運営は副部長が行っている。それでも各々が各々で、楽しんでいるが。アツコは花を栽培しているし、ヒヨリは原料の綿から服を作ってるし、スバルも後輩達と一緒に楽器を演奏している。
サオリは調理法や保存法を試しているし、ミサキは面倒くさがりながらも電気設備の研究をしている。アズサは獲物を捕らえるトラップの設置法や、工作活動の鍛練に余念がない。
これも復興が順調に進んだ事で余裕が生まれつつある証でもある。事実、彼女達の部活以外にも鉄道開発部、家具製造部などといった、実利を兼ねた部活が他にもあるのだから。
「それじゃあ今回の主題……制服について話し合おうか。ここは第二生徒会室だから、たっぷり話し合える」
「裁縫部のおかげで、作成の目処が立ったからな」
「えへへ。それほどでもないですよぉ」
「頑張ったのはヒヨリじゃなくて、他の部員達だけど。ヒヨリはファッション誌の拾い集めばかりだし」
そんな彼女達のやり取りを、上段のデスクで書類を片付けている“校長”は暖かく見守っている。それも、このアリウスにおけるいつもの日常であった。