夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
【ナラム・シンの玉座】にて。
「ふー……本当に予想外だった。夢の住人と化した筈の存在が、まだ現実に留まっていたとは……」
バニタスは自身を落ち着かせるように深く息を吐きながら、改めて状況を確認する。
洗脳下に置いているシロコ*テラーを【ウトナピシュティムの本船】に襲撃させ、本来の目的であった干渉用のアンカーを設置する事には成功している。此方にも【シッテムの箱】が手元にある以上、ハッキングを仕掛けられる危険性と盤面を一瞬でひっくり返される可能性は既に浮上しているだろう。
そこは別に想定されていても構わない。むしろ、その為に敢えて暈しも入れずに黒服に見せたのだから。
「此方の【シッテムの箱】を抑える為、向こうはこの【玉座】へと突入する……そうしなければ、勝ち目がないからな」
この世界のシャーレの先生達はシロコの捜索も兼ねて、【箱舟】の各エリアを
「奴がいるなら、このまま計画通りに進めるのは得策ではないな。【カプセム】の力を存分に使えるのなら、此方のアドバンテージが意味を成さないも同然だからな」
バニタスの想定では、向こうの【カプセム】の力は使い捨てだと考えていた。だが、【カプセム】を扱う本人がいて健在なら話が変わってくる。あの姿……ナイトアリウス・リジェネイションを見る限り、【ナイトインヴォーカーバックル】は健在。少なくとも自損確定の《オーバーフェイタル》はまだ未使用と見ていいだろう。
「……計画を一部修正するしかないな。自爆シーケンスのセキュリティを大幅に強化。並びに【玉座】の改竄を開始。《虚妄のサンクトゥム》の形成も《次元エンジン》の破壊に合わせ、段階的にリソースを【玉座】へと集中。【星座】と【聖女】……二体の
バニタスは向こう側の動きを確認しながら、プレナパテス経由でA.R.O.N.Aに指示を出す。シロコ*テラー同様にバニタスの洗脳下にあるA.R.O.N.Aは無言で指示に従い、【ナラム・シンの玉座】を改竄していく。
――カオス
同時にバニタスも【ブレイカムガントレット】に【カオスカプセム】をセットし、間髪入れずに回転させて変身シーケンスへと入る。
――ハッハッハッハッ!
――バニタス!バニタス!バニタス!ナイトメアライダー!カオス!
『カオス』
派生フォームへと変身したバニタスは、能力を発動させて強力な
「……妙だな」
「うん。さすがにこれはおかしいね」
【箱舟】の占領作戦で、第一から第三エリアの《次元エンジン》を破壊して占領下におけた事に恭介とシャーレの先生は、安堵するよりも違和感を先に覚える。その理由は、
『そうですね。向こうの妨害もあるにはあるのですが……此方の想定よりもかなり手緩いですね』
『【箱舟】の自爆シーケンスのセキュリティが異常に高い事を考慮しても……これは明らかに不自然だね』
通信越しでヒマリとチアキが口にした通り、不利な盤面に進んでいる筈なのに対応があまりにも手緩いのだ。幾ら【シッテムの箱】で電子上の盤面を何時でもひっくり返せるとはいえ、こうも緩い対処しかしてこないのは明らかに不自然。一体何が狙いなのかと疑いたくもなる。
『【本船】のどのシステムにも、怪しい箇所は見られないけど……』
『相手の狙いが読めませんね。自爆シーケンスを起動させられないように強固なプロテクトが組まれているのに、《次元エンジン》の守りは薄い……敢えて誘っているのでしょうか?』
ユウカは【本船】のシステムには不自然な点が見当たらないと告げ、ハナコも対応のチグハグさに気味の悪さを感じている。
『第一から第三エリアには、シロコさんの反応はないですね』
『残るは中枢の第四エリア……三つのエリアを占領している今なら、第四エリアの調査は可能だよ』
占領と同時に進められていた、誘拐されたシロコの捜索。占領した三つのエリアには欠片も反応がなく、残るは中枢エリアの第四エリアだけ。奪取した演算リソースを用いて第四エリアをスキャニングしていくと……シロコの反応が二つ表示される。
『!砂狼シロコさんの反応をキャッチしました!場所は二つ!一つは【ナラム・シンの玉座】と呼ばれる管制室と、閉鎖区画です!』
『場所からして、その閉鎖区域にシロコ先輩が……!』
【箱舟】の通信網をハッキングし、その区画の通信設備へと回線を繋げる。画面に映像として表示されたのは……覆面をして周囲を探っている、アビドス高校の制服に身を包んだシロコの姿だった。
『シロコ先輩……』
『ん。やっと見つけてくれた』
「シロコ。怪我はないかい?」
『ん、大丈夫だよ先生。自転車に乗って学校に向かってたら、拉致されただけ』
映像越しではあるが、シロコの無事な姿に対策委員会とシャーレの先生は安堵する。ちなみにシロコが覆面をしている理由は、騒動のどさくさに紛れて高価な物を盗む気満々だったからとのこと。この状況でちゃっかり金目の物を回収しようと考えている辺り、シロコの逞しさが窺える。
「駄目だよ~、シロコちゃん。おじさんが前に言ったこと、覚えてる?」
『ん……“こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになる。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ”……だよね?』
その火事場泥棒をホシノはやんわりと咎めたが。
その後、恭介達は解放されたシロコとも合流し、管制室の扉の前へと立つ。《対策委員会》に《ゲーム開発部》……現時点での最高戦力を引き連れて。《美食研究会》は【本船】の護衛に回しており、この場にはいない。
「此処に今回の首謀者達がいるんだね……」
「アリス達は、これからラスボス戦に突入します!」
『此方でも可能な限りサポートしますが、決して油断しないで下さい』
「それじゃあ……行こう」
シャーレの先生の言葉に全員が頷き、意を決して扉を開けて中へと入る。中は殺風景……サーバーらしき機械は一つもなく、部屋の中央らしき円形のステージには四人が立っている。
その内の一人――バニタスは拍手と共にシャーレの先生達を迎え入れた。
「本当によく此処まで辿り着けたな。私の予想ではもう少し時間が掛かると思っていたが、早い到着だったな。うん」
バニタスは軽い口調で称賛するが、シャーレの先生達は警戒を解かない。
「……本当に私と同じ顔」
移動中にある程度聞かされたとはいえ、本当に同じ顔……シロコ*テラーにシロコは驚いたように目を見開いている。その隣には物々しい格好をした人物と黒いセーラー服を着た少女――プレナパテスとA.R.O.N.Aもいる。シャーレの先生は困惑したようにバニタスへと問い掛ける。
「その黒い子は……?」
「黒い子?ひょっとしてA.R.ON.Aちゃんのことかな?【シッテムの箱】のメインOS……この場所限定で実体化した別世界の助手ちゃんだぜ」
バニタスはシャーレの先生に事も無げに言葉を返すが、初めて見る人物のような反応に違和感を覚える。
「どうしてそんな……いや、
バニタスは何かに気付いた様子を見せるも、直ぐに無駄と切り捨てたのかあっさりと思考を放棄して再度シャーレの先生達に向かい合う。
「このまま最終決戦を始めてもいいが……ここまで辿り着いたご褒美くらいは上げないとな。今なら幾つかの質問に答えてやるぜ?」
何処か小馬鹿にした態度で質問を受け付けると告げるバニタス。後ろ姿まで晒して語る姿勢を取るバニタスに多くは銃口を向けるが、シャーレの先生がそれを手で制しながら疑問をぶつけていく。
「……君は何を知っているんだい?」
「このキヴォトスの、あらゆる破滅への道筋」
シャーレの先生の質問に、バニタスは平淡に、感情が抜け落ちた声で即座に返す。バニタスはシャーレの先生達に背中を向けたまま、言葉を続けていく。
「その内の一つが、【色彩】によって“恐怖”に反転した砂狼シロコちゃんによる終焉……シャーレの先生が植物人間となってすぐに起きたアビドスの悲劇が、それを招いた」
「……アビドスの悲劇?」
「イグザクトリー。その悲劇の内容を語る気はないが……自己犠牲から始まった悲劇によって、テラシロコちゃん以外は死んだ」
シャーレの先生の質問にバニタスがそう答えた瞬間、ガシャンと物が床に落ちる音が響く。その発生源は、【アタッシュショットガン】を落としたホシノからだ。
自己犠牲から始まった……その言葉がそのままの意味であれば、その悲劇を招いたのは、他ならぬホシノから始まったという事になる。その言葉で真っ先に浮かんだのは、ホシノ自身なのだから。
例え別世界でも……否、別世界だとしても、自身の選択が最も避けたかった最悪の結果を引き寄せたと知ったホシノは平静ではいられない。バニタスが嘘を付いていないとも限らないが、彼がここで嘘を付く理由が一つもない。少なくとも、否定できる根拠がない。
バニタスがもたらした衝撃の事実にホシノは顔を俯かせる。セリカとノノミ、シロコの三人はバニタスを睨み付けながらもホシノに寄り添っていく。そんな一同に構わず、バニタスは言葉を続けていく。
「もちろん、こんなものは数ある滅びの一つでしかない。【アトラ・ハシースの箱舟】に【黄昏】、《七人の天使》に《アツィルトの帯》、更には《怪書》に《雷帝の遺産》……これらでさえ、ほんの一部に過ぎない。テラシロコちゃんが反転せずに亡くなっても、別の要素が滅びへと……終焉へと至らせる」
シロコの存在に関係なく、キヴォトスは滅びの運命から逃げられないとバニタスは語る。かつて渡り歩いた、干渉できない世界……【カプセム】無きキヴォトスの終わりを幾つも、何度も見てきたのだから。
「どれだけ足掻こうと、何度抗おうと、すべての物事は虚しく終わる……夢と希望を見据えても、最後には絶望で幕が下ろされる……なら、派手な終焉のゲームとして有効活用した方が、面白いだろう?」
「……本気で言っているのか?」
「冗談とでも思うのか?お前とて、“罪”に焼かれてそうなる」
恭介の問い掛けに、バニタスは顔だけを向けてどこか感情が抜けた声色で返す。心無しか、仮面で隠されて見えない筈の目が、虚ろとなっている目付きを幻視させて。
「さて……質問タイムはこれで終了だ。最終決戦のステージへと、案内しよう」
バニタスは【ブレイカムガントレット】を握っている左手で、器用に指を鳴らす。途端に室内に地鳴りのような低い音が響き渡る。
「な、何!?」
突然室内が揺れたことにセリカが困惑の声を上げると、劇場のような造りであった管制室に幾条もの赤く光る線が迅り抜けていく。その線が一際強く輝くと、まるで切り取られたかのように割れて引き剥がされていく。
「これは一体……!?」
「【ナラム・シンの玉座】は現実と非現実が内包された、不安定な空間。だからこそ……夢の力で干渉できる。そして――」
バニタスはプレナパテスに顔を向けると、プレナパテスはそれに応えるかのように懐から【シッテムの箱】と【大人のカード】を取り出す。【シッテムの箱】の画面は銃弾の穴があり、【大人のカード】は焼け焦げたかのように煤が着いている。直後、【本船】に待機しているメンバーから通信が飛んでくる。
『大変です先生!【ウトナピシュティムの本船】の中枢システムが……一瞬で乗っ取られました!』
「「「「「「!?」」」」」」
リンから焦燥と驚愕が混じった報告に、全員が驚愕したように息を呑む。それが抵抗すら許されなかった早業であることが、向こうのやり取りで証明される。
『そんな……どうして一瞬で!?不自然なログはなかった筈なのに……!?』
『まさか、あの閃光の間に……!?アクセス権を抜き取って、何時でも介入できるようにしていたと……!?』
『完全にこちらからの操作を受け付けなくなってる。その上、扉にまでロックが……』
『通信機能は無事だけど……それ以外は全滅だね』
【本船】が一瞬で残っていた者達を閉じ込める檻と化し、オペレート以外は出来なくなった面々。一瞬で盤面をひっくり返された事に誰もが困惑せざぬを得ないでいる。幾ら【シッテムの箱】でも、一瞬で【本船】のシステムを乗っ取る事は不可能の筈だから。
その答えを、バニタスがもたらす。
「こっちの【シッテムの箱】は
【ナラム・シンの玉座】自体を【箱舟】と【本船】に匹敵する演算装置としても使えるようにしたと明かし、プレナパテス自身も負荷を幾ばくか無視できるとも明かすバニタス。その事実に、シャーレの先生は薄々予想していたことが当たっていたと確信を得る。
「彼……プレナパテスは、やっぱり……」
「ああ。彼こそが、テラシロコちゃんの世界軸の“シャーレの先生”……【色彩】に触れて嚮導者と成った、もう一人の先生だ」
『カオス』
シャーレの先生の確信を保証したバニタスは【カオスカプセム】を押し込み、二体の複製体を【玉座】に顕現させる。
空間が割れ、隔離されたように引き剥がされた三つの足場の内の二つに、最強の複製体が姿を現す。
シロコを除いた《対策委員会》とヒヨリの前には、蒼い雷を纏い迸らせた、宙に浮かぶ黒き巨人が。《ゲーム開発部》の前には黒い花弁のような頭部を有した異形の巨人が。そのどちらも、《守護者》以上の存在感を放っている。
「【嵐の星座】に【頂の聖女】……破滅の原因とは成らずとも、純粋な力であれば誰も太刀打ちできない存在。複製ゆえにオリジナルよりかなり弱体化しているが……それでもお前達が勝てる相手じゃあない」
【嵐の星座】は防衛機構から、【頂の聖女】は自己崩壊から終焉に至らしめる存在にはなり得なかった。だからと言って弱いかと問われれば否であるが。
「これだけでも十分絶望だろうが、更にダメ押しと行こうか」
バニタスは再度プレナパテスに視線を向け、次の一手を打つ。
『!《虚妄のサンクトゥム》が再び出現!?場所は……アビドス砂漠に軍需工場、サンクトゥムタワー跡地!?』
まさかの《虚妄のサンクトゥム》の再出現に、シャーレの先生達がもう何度目か分からない驚愕に包まれる中、バニタスは丁寧にその現場を映像として見せる。
ビナーにペロロジラ……ケセドとホドが合体したような巨大機体が映像に映っている。その何れもが、巨大な存在だと察せられる。
「さて、これからどうする?あの巨体じゃ、残存戦力じゃ相手にすらならない。此方の二体は私を倒せば消えるが、私とプレナパテス、テラシロコちゃんを相手に対抗できるかな?」
バニタスは勝敗は決したと言いたげに告げる。この広場に残されているのはシャーレの先生とシロコ、恭介の三人のみ。対するバニタス達はそんな三人の上位互換とも呼べる存在。普通に考えれば勝ち目はない。
『……いいえ。まだよ』
そんな絶望的な状況を、ミレニアムからサポートしていたリオが否定する。
『こちらの新たな《守護者》については、既に対抗策は用意しているわ』
『……そうですね。まさか、本当に役に立つとは思いませんでした』
リオの宣言に対し、ヒマリは何処か呆れたような感じで肯定している。そんなリオとヒマリの反応にバニタスが訝しんでいると、リオは昨日の内に用意していた切り札を切った。
『……グレートアバンギャルド君、出撃!』
『さあ、行きたまえ!メカワニ君G!』
リオだけでなく、通信に割り込んだウタハまで宣言した途端、デカグラマトンの複製体が何かから攻撃を受ける。ケセドとホドの合体機には四脚で腕も二つだけの巨大なアバンギャルド君が、ビナーには巨大な機械のワニが果敢に攻撃を仕掛けている。ペロロジラの方も、他の二機とは別の巨大ロボから攻撃を受けている。
「な……!?巨大兵器だと!?あれを事前に製造できるわけが……いや、まさか!?」
『ええ、そうよ。【色彩】からのエネルギーを逆利用して、巨大化させてもらったわ。残りの一機は完全に別枠だけどね』
リオが【本船】の解析作業と平行して用意していた対抗策……【色彩】のエネルギーを逆利用した“巨大兵器”で防衛線が薄い場所にぶつけるという奇策だ。
グレートアバンギャルド君とメカワニ君Gはともかく、最後の巨大ロボは《カイテンジャーロボ》だ。利用するのは少々抵抗を覚えたが、必要経費として目を瞑ることにした。実際、リオが用意できたのはアバンギャルド君と《エンジニア部》のメカワニ君だけだったのだから。
バニタスがダメ押しと打った一手……それはリオ達によって見事に対処される形で終わるのだった。
「はっちゃー!何で私が動かさなきゃいけないんですか!?」
(ととと、とにかく動かせば何とかなるわよね!?適当に動かしても、問題ないわよね!?)
【嵐の星座】と【頂の聖女】
バニタスが生み出した、強力無比の存在。本来は複製できない存在だが、存在の格を大幅に落とすことで複製を実現させた。
その正体はセトの憤怒と、儀式で“崇高”へと至ったベアトリーチェ
ケセドとホドの合体
《虚妄のサンクトゥム》の生成を半分に減らして集約したことで、二体の複製体が一体として顕現した存在。二体分の性能と出力が単純に合わさっているだけで、本物の合体機には到底及ばない。
グレートアバンギャルド君とメカワニ君G
リオがヒマリに相談し、万が一《虚妄のサンクトゥム》が出現した際に用意した対抗策。【色彩】のエネルギーで巨大化できる事に着目し、防衛目的のアバンギャルド君と《エンジニア部》の作品のメカワニ君を改造して投入された。
どちらも遠隔による操作が前提となり、グレートアバンギャルド君はコユキに、メカワニ君Gはアル社長に押し付けられた。