夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
≒月〒日 晴れ
キヴォトス滅亡の危機は無事に乗り越える事ができた。爪痕は未だに残り、復興作業も終わっていないけど。先ずは【箱舟】での決着後について書いていく事にしよう。
【箱舟】でのバニタス……違う未来を歩いたもう一人の私との決着がついた後、私は空色のカラーリングのカプセム――【ミラクルドリームライズカプセム】の能力を使用した反動からその場でダウンしてしまった。夢オチ改竄ではなく、あらゆるカプセムの能力の複合同時発動……要は全部乗せフォームみたいな能力です。その反動が一気に来るせいか身体の節々が痛かった上に、頭も金槌で何度も叩かれているかのように痛かったですし。【エクスドリームライズカプセム】とよく似ているカプセムですから、使うのは本当に必要な時だけに留めるべきですね。何となくですが、シャーレの先生の切り札である【大人のカード】に近い代償を払っているような気がしますし。
バニタスが消え去った後、プレナパテス……別世界のシャーレの先生も後を追うかのように全身を塵芥と化して消えていってしまった。残ったのはマネキンの顔のような仮面と外套、壊れた【シッテムの箱】に黒焦げた【大人のカード】、小さな折り鶴を残して。後でシャーレの先生から聞いたけど、プレナパテスからもう一人のシロコさんの事を託されたそうだ。
私が把握している限りでは、バニタスが用意していた例の空間へと予想外に招かれていたのはシャーレの先生と【シッテムの箱】のサポートAIのアロナさんと、プラナと改名したあの黒服の少女、そしてホシノさんの四人だ。ホシノさんの場合は彼等の会話を見守っていたわけではなく、私とバニタスに近い状態だったそうですが。
私がホシノさんも招かれた事を知っているのは、ホシノさんが私に聞いてきたからだ。私はあの空間について正直に話すと、ホシノさんは納得した上でポツリと理由を語りました。
ホシノさんはあの空間で故人……ユメさんと再会したそうで、色々と想いを吐き出したそうです。本人ではないかもしれないとホシノさんは口にしていましたけど、シャーレの先生の話ではもう一人のシロコさんの方でも彼女の世界の皆さんと会えたそうですから、それを交えた上で本人かもしれないと返しました。その空間もシャーレの先生経由のプラナさん曰く、【ナラム・シンの玉座】の性質を利用して作られていたそうですし。
それを聞いたホシノさんは、何故か納得したように頷きました。お別れみたいな書き置きに対してそういう意味で書いた訳じゃないと慌てふためいたり、勝手に百万もの大金を使ったから補填の為に長期の出稼ぎに行くだけだったり、暫く学校に帰れないから落ち込んでいるホシノさんに日頃の感謝と慰める意味であのメモを残しただけだったりと、妙に弁明が具体的だったと呟いていました。ちなみに百万の出所は、希少な鉱石を使った花火を売って作ったとのことでした。
後、“探し物”も見つかったとも口にしていました。先輩が置きそうな場所じゃなく、自分が置きそうな場所なら幾ら探しても見つからなかった筈だと自身に呆れたように零していました。その時のホシノさんの表情は、色々と吹っ切れたかのような表情でした。
例の空間に関しては此処までにして、【箱舟】と【本船】について書いていきましょう。
バニタスが消えたことで【箱舟】は機能不全に陥り、《自爆シーケンス》を発動させた後は【本船】で脱出。それが当初の予定でしたが、それは頓挫してしまいました。
何故なら【本船】が物理的な意味で【箱舟】と接続してしまっていたからです。外壁が【本船】の装甲と完全に一体化してしまい、【本船】での脱出は不可能となってしまいました。おそらく、バニタスが【本船】を乗っ取り利用した弊害なのだろう。《多次元解釈システム》も私達では十全に扱えないので、【箱舟】と【本船】を切り離すことも出来ないですし。
けれど、もう一人のシロコさんの転移を知ってリオさんが保険として組み上げた《脱出シーケンス》を使うことで、【箱舟】からの脱出そのものは問題なく行われました。【箱舟】の一時的な制御もシャーレの先生が二つの【シッテムの箱】で何とか高度を維持し、《自爆シーケンス》を作動させて【箱舟】と【本船】は仲良く木っ端微塵となりました。
ある意味、結果オーライではあります。【本船】も終わったら爆破して使えなくする予定でしたし。アレはあくまでカイザーの所有物ですし、回収も実質不可能なら事故ややむを得ない事情で爆発したとして処分した方が安全安心ですから。
後、もう一人のシロコさんも一緒に脱出し、シロコさんと幾ばくか話してから立ち去って行きました。“シロコ”は一人しか存在し得ないから、いずれ自分が原因で歪みが生じると憂いていましたが、少なくとも現時点では問題ないと思います。その理由が理由なので、素直には喜べませんが。
もう一人のシロコさんは“恐怖”へと反転した状態……簡潔に言えば此方の世界のシロコさんとは大きく異なる存在です。“神秘”と“恐怖”は同時には存在し得ないそうですから、此方の世界のシロコさんが反転しない限りは彼女が懸念する不具合は起きない筈です。逆に言えば、反転前に戻せないとも言えますが。
それにシャーレの先生の話を聞いた限りではありますが、プレナパテスがもう一人のシロコさんの責任……アヌビスとしての本質も一緒に持って旅立ったのではないかとも思っています。もう一人のシロコさんが“本質”とやらに動かされている気配がないですし、滅ぼそうとしたのも義務と責務に近かったそうですし。
だから、無理に反転前に戻すのではなく“心”に寄り添うべきだと思います。これに関してはシャーレの先生に任せるしかない上、もう一人のシロコさんにも時間が必要ですから簡単には行かないでしょうが……彼女が再び、前を向いて歩ける日が来ることを願っています。
後、例の無謀な殴り込みはアリウスの子全員から怒られました。これに関しては全面的に私が悪いので、甘んじて受け止めました。
≒月§日 晴れ
病院から退院して帰宅したアリウス自治区も、戦闘の影響であちこちの建物が損壊していました。重要な場所は【リカバリーカプセム】で直し、他は自力での修繕に努めています。
他自治区では業者が入っていますが、アリウスでは業者による修繕は不可能に近いですからね。機材も材料も運び込めませんから。
本来は重労働で作業が滞るのですが、仮面ライダーフォーゼに出てきた変形する車両が数台ありますのでそこは大丈夫です。正式名称を忘れてしまったので、【パワードスーツカー】と命名しています。元々は作業用として開発された設定なので、瓦礫の撤去作業や資材の運搬作業も軽々こなせます。ただ、結構体力を使いますが。
これは余談ではあるが、その内の一台は分解され調査と解析がされています。アリウス自治区内で使用する為の水素エンジン実用化の目的で。ガソリンと石油は自治区内で発掘されてないですし、冬は基本的に薪ストーブで室内を暖めていますしね。電気ヒーターは発電量の問題がありますし、石油ストーブは完全に論外です。薪ストーブは健康面での心配もありますし、エネルギー問題は今後の課題の一つでもありますからね。
いずれ自治区内で戦車を走らせたいと、みんなも和気藹々と語ってもいましたし。キヴォトスにおける戦車の操縦は自動車の運転と同意義ですから、運転できて当たり前の側面もあるみたいですからね。
復興で思い出しましたが、破壊されたサンクトゥムタワーの修復はカイザーが主体として行っているそうです。またやらかさないか一抹の不安はありますが、一応の釘差しはしているので暫くの間は大人しくしているでしょう。マコト殿が握っていた癒着の証拠をトリニティとミレニアムにコピーを渡した上で、それぞれが防衛室長宛に郵送したそうですし。ちなみにその証拠はアリウスも保険として握っています。アビドスは機密性の問題から持てませんでしたが。
それと数日入院していたせいで、私が処理すべき書類が山のように溜まっていました。《アリウスルーム》に籠って片付けましたが。
【箱舟】へと突入した日から十数日が経過した日。
恭介は仕事の関係でシャーレのオフィスへと訪れていた。
「此方がシャーレに提出する資料と、差し入れの缶コーヒーです」
「どちらも慎ましく受け取るけど……そのついでに“部屋”を作ってくれたら嬉しいんだけど」
「そちらは何度もお断りさせてもらっています。仮に作ったら、色々な意味で大変になりますよ」
「ですよねー」
恭介の相変わらずのお断りの返事に、少しだけ期待するようにお願いしたシャーレの先生は残念そうに返す。《アリウスルーム》のような時間が引き伸ばされる部屋があれば、今ある大量の書類を実質短時間で片付ける事が出来るのだが……今回も色好い返事は貰えなかった。
ただ、《アリウスルーム》と同じ性質の部屋が出来たら別の問題が発生するのだが。主にシャーレの先生への愛情的な関係で。
それはそれとして、恭介はシャーレの先生にシロコ*テラーについての話を振る。
「あれから、もう一人のシロコさんとはどうなっていますか?」
「……残念な事に音沙汰なしだよ。連絡先も渡して、何か困ったことがあれば何時でもシャーレに来ていいよとは伝えたけど……」
シャーレの先生は若干顔を曇らせて、シロコ*テラーからの連絡はないと告げる。便りがないのは無事の証という言葉もあるが、本当に大丈夫なのかと不安が過る。
「……今の彼女には時間が必要なんでしょう。プレナパテス達が背中を押したとはいえ、彼女の心の傷は完全に癒えたわけではありませんから。未遂とはいえ、この世界を滅ぼそうとした負い目もあるでしょうし」
「そうだね……もう一人の私から頼まれもしたし、出来ることはやっていくつもりだよ。ホシノ達も気にしているみたいだし……そう言えば、ニヤから預かった手紙があるんだ」
シャーレの先生はそう前置きして、一枚の手紙を取り出す。差出人の名前は『クズノハ』だ。
「クズノハ……セイアさんが偶然出会い、忍術研究部の皆さんに捜索してもらっていた人物の名前ですね」
「うん。実際に会えたのは百花繚乱の副委員長さんだけだったそうだけど……手紙にはこう書かれていたんだ」
シャーレの先生は件の手紙を広げると、恭介へと差し出す。恭介もすんなりとその手紙を受け取り、手紙の内容を確認していく。
『ふむ、シャーレの先生が妾を探していると小耳に挟んでな。……いや、探す
其れは――死者が生き返らないのと同様に。この世界の絶対的なルールである。例え【外の理】の力を使おうとも同じこと。直ぐであれば一抹の可能性はあるやもしれぬが、縋るべきではない。
だがそれでも……助けたい者が居ると申すのなら、妾を訪ねてくりゃれ』
「……これが彼女からの手紙、ですか」
「うん。これを読んでみて……恭介さんはどう思った?」
シャーレの先生の真剣な表情での問い掛けに、恭介は真っ直ぐにシャーレの先生と向き合い……率直に感じた事を伝える。
「これは実際に会ったら、お小言を貰う羽目になりますね。助けたい者と向き合わずして、助けるも何もないといった具合の」
「あー、やっぱり?」
恭介の率直な感想に、シャーレの先生も張り詰めた表情から一転して気が抜けた表情へと変わる。無理に表情を作っているわけでもなく、答え合わせに納得したかのような雰囲気だ。
一番の見識者が不可能だと断言している以上、その言葉に嘘は一つもないのだろう。実際、セイアの時も【ルーラーメアカプセム】の治療無しでは手遅れだと断言していたのだから。
「それでも彼女から助言を求めるとしたら……反転した者の“心”を取り戻す方法ですかね?仮に反転しても“心”が残っているなら、何とかなるかもしれないですし。貴方から聞いた、もう一人のシロコさんがプレナパテスを殺さなかったように」
これは憶測でしかないが、反転によって変質したのは能力であって人格面には変化はないのだろう。“本質”に呑まれるかはおそらく本人次第。その“本質”もシロコ*テラーを見た限りではあるが乗り越えられると信じている。
「それでも、反転なんてさせませんけど。セイアさんの話や《虚妄のサンクトゥム》の光を鑑みますと……大抵は精神崩壊を起こして死亡する可能性がありますからね」
「断言は出来ないけど、その可能性はあるかもしれないね。彼もずっと“先生”だったから、シロコ以外に手を差し伸べない理由もないからね」
シャーレの先生は確信を持ってそう告げる。あの空間で見た彼とシロコ*テラー達のやり取り――何処までも“先生”であり続けたその姿を、最後まで見届けたのだから。
そうして感慨に耽っていると、唐突にシャーレの先生のスマホから着信音が鳴り響く。非通知の画面で。
シャーレの先生は黒服かと警戒して通話ボタンをタップすると……スマホから聞こえてきたの予想外の人物の声だった。
『……先生?』
「シロコ!?もしかして、もう一人の方のシロコなの!?」
『ん。この世界の砂狼シロコじゃない方のシロコだよ』
まさかのシロコ*テラーからの電話に、シャーレの先生は思わず腰を上げてしまう。突然の電話ながらも連絡してきた事に、シャーレの先生は嬉しく思いながら言葉を続けていく。
「シロコの方は大丈夫?あれから、何か困ったことはない?」
『ん、生活については問題ない。今日電話したのも、変な電話を拾ったから』
「……電話?」
シロコ*テラーが連絡してきた理由に、シャーレの先生は首を傾げる。変な電話とはどういう意味なのかと頭を捻っていると、シロコ*テラーは淡々とその電話について説明していく。
『今使っている電話……鳥の姿をしていたんだけど、私の前に来たら変形して電話になった。使い方の紙も張られていたから、その通りに使って先生に電話してみたら……本当に繋がった』
「そ、そうなんだ……ちなみにスマホは……」
『持っているけど、契約してないから只の荷物だよ』
スマホは現時点で使えないと知ったシャーレの先生は苦笑いするしかない。同時にその謎の電話機を誰が寄越したのかも。
そんなシャーレの先生に、ダメ元で【コンドルデンワー】を飛ばしていた恭介は無言でサムズアップをするのであった。
「自らを『主人公ではない』と告げ、私の予測を裏切り――ジャンルまでも戻した」
「そういうこったぁ!!」
「最後に見せかけて、物語を、観客を――私の目を欺いたのだな……そんな俯瞰的な介入が、いつまでも続くと思うなよ」
もし、この言葉を知る者が聞いていれば『重要な伏線を貴方が見逃してしまっただけ』と返されていただろうが、この場にいるのは二人で一人の人物だけだ。
「物語は続くべきである」
「そういうこったぁ!!」
「これは、新しい局面を迎えるための幕間――幕を引かれた物語は、新たな舞台へと続いていく。嗚呼、そのために――ゲマトリアに変化をもたらさなくては」
その人物は変化の為の一手を打つ。決して打ってはいけない、最悪の一手を。あまりに浅ましく、愚かしいとしか言い様がない選択を、取ってしまう。直接手を出さなければ問題ないと、完全に相手を舐め切った考えで。
「
彼――フランシスはその場から姿を消す。かつて追放し、幽閉した彼の者を釈放する為に。黒服によって解散させられた《ゲマトリア》を復活させる為に。
「お前も永遠の悪夢に閉じ込める。二度と表舞台に上がらせはしない」
『インフィニティ、リベイク!』
「止めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
その暗躍が最悪の末路へと至る結果で終わる事など、フランシスは想像すらしていなかった。
【パワードスーツカー】
正式名称は仮面ライダーフォーゼに登場する【パワーダイザー】。持ち込んだ本人が名前を覚えていなかった為、適当な名称で呼ばれる羽目となった。
【コンドルデンワー】
シロコ*テラーとの連絡用に飛ばした、仮面ライダーゴーストに登場する黒電話型のガジェット。シロコ*テラー側からでしか電話できないが、通話料金はタダ。
こちらも名称を忘れている為【デンバード】と勝手に命名している。
《バニタスが用意した空間》
バニタスがプレナパテスとシロコ*テラーの為に用意した真っ白な空間。本来はプレナパテスがシロコ*テラーに想いを伝えられるように作った夢の空間なのだが、作製に【ナラム・シンの玉座】を利用したことで想定を越える現象を引き起こした。
その空間でシロコ*テラーはプレナパテスとの会話だけでなく、かつての仲間達とも再会。幸福な未来へと進むように背中を押され、プレナパテスも巻き込まれたもう一人の自分へと託しつつエールを送った。
同じくシロコ*テラーの近くにいた為かホシノも巻き込まれ、そこで彼女と奇跡の再会を果たす。彼女の本心に触れ、“探し物”も見つかった事で改めて未来へと進む決意を固めた。これにより不穏なフラグが粉砕され、新たにぶちギレフラグが立つこととなる。
尚、探し物は供養の為に焼却し、手元に残したのはテープで張り付けられていた一枚の写真だけである。