夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
(……本当に私達は、いや……私は何をしているんだろうな)
一時的に返して貰った自身の装備の状態を確認しながら、ユキノは自問自答を繰り返している。近くでは、ニコ達も自身の装備の状態を確認している。爆薬はこの場に同席しているシャーレの先生からの支給によって、十全に用意されている。グラウンドにも瓦礫が遮蔽物のように積まれており、ある程度は実戦に近い状態だ。
だが、今から行われるのは明確な勝ち負けもの判定のない、文字通りの喧嘩。最終的には泥仕合となるのが目に見えている模擬戦だ。武器も例の“備品”……弾切れを起こさない原理不明の銃火器まで貸し出されて。
後輩達……RABBIT小隊の喧嘩で吐き出させるという謎理論で押し通され、後輩達の我儘に付き合うという考えで頷く形となった。結果は、火を見るより明らかだろうが。
理由は単純、RABBIT小隊とFOX小隊とでは実力も練度も違うからだ。一年生と三年生とでは当然のことであり、現場での経験にだって差もある。――理想と現実の違いにも。
「――ッ」
かつての記憶が意図せず掘り起こされ、ユキノは一瞬だけ顔を顰める。だが、直ぐに表情を元に戻して装備の確認を続けていく。
「……こんな形状なのに、普通に弾が出るわね」
「スコープのある銃はこれだけかぁ……スコープなしの銃でも、同じような感覚で使えるのが本当に不思議だね」
「そもそも、何でこんなに自己主張が激しいの?これなんて、法螺貝のような音色が流れるし」
「クルミはポイントマンだから別にいいんじゃない?」
“備品”の使い心地を確認しながら、どれを使うかを選定していくクルミ達。“備品”の概要は情報として知ってはいたが、実物を触ると印象が変わってくる。良くも悪くも。
無駄な装飾。余計な音声。理解に苦しむ外見。種類の偏り。基本的には代用品。例えるなら……実用と浪漫がごちゃ混ぜ状態だ。特に弓の形状をしている武器が近接武器になるのは普通におかしい。
ちなみにユキノは愛銃を使う事を優先し、一応の保険代わりとして紫色のラインが走っているアタッシュケースを拝借している。使うことはないだろうし、仮に使ってもニコが選んだショットガンのように使うだろうと、ロクに確認せずに。
簡単な取り決めもしながら準備を終え、同席していたシャーレの先生とアリウスの校長の下で仕合の合図が下される。
「それじゃあ……始めっ!」
シャーレの先生の号令を皮切りに、ユキノ達は染み付いた動きで物陰に身を隠す。偵察用のドローンも飛ばし、RABBIT小隊の出方を伺おうとする。
そのRABBIT小隊はというと……ミヤコとサキがSRTの教えを無視するかのように正面突破へと踏み切っていた。
(……正気か?)
あまりにも愚かしい二人の行動に、ユキノは失望したかのように溜め息を洩らす。ユキノは貸された“備品”を肩掛けに下げたまま使おうとせず、愛銃で撃ち抜こうと構えようとして――
――盛大な、爆発音と衝撃波が襲い掛かった。
「……は?」
直撃せず、距離も合ってそこまで影響はないとはいえ、明らかに過剰な火薬量による爆発にユキノは思わず声を出して呆けてしまう。ニコ達も開幕早々の爆撃に困惑と驚愕が入り交じった表情で目を見開いている。
「ちょっとモエちゃん!?こんなに爆薬を使うなんて正気なんですか!?」
「今回は訓練でも模擬戦でもなく、喧嘩だからね。それに自由に爆破できる希少な機会を、逃す真似なんてするわけないじゃん。グヒヒ……!」
ニコが堪らず抗議しているが、モエは危ない笑みを浮かべてどこ吹く風。それによくよく見れば、黄色にカラーリングされたドローンが爆弾が詰められているであろう箱をモエへと運んでいる。モエの後ろにある爆弾も大量に積まれており、下手に撃てば大爆発で一同が吹き飛ぶのも火を見るより明らかだ。
「ちょっと先生!?これは流石になしじゃないの!?」
「みんなも必要なら要求していいよ。そちら側の輸送ドローンの色は赤だから、間違える心配もないから」
「心配する要素しかないんだけど!?」
今度はクルミがシャーレの先生へと抗議するも、爆弾の支給は両方ともに行うと返されてしまい頭を抱えてしまっている。そうしている間にサキの接近を許してしまい、クルミは慌ててシールドで銃撃を受け止める。
「ちょっと!こんなやり方、SRTで教えてもなければやらせた事もないわよ!というか、セオリーと教本通りの動きはどうしたのよ!?」
「今回は訓練でも模擬戦でもない、喧嘩だ。単にぶつかり合うだけなら無理にセオリー通りで動く必要性はない。……っと先生達は言っていた」
「あの大人二人!サキに何吹き込んでいるのよ!?」
クルミは余計な事を吹き込んだ見届け役二名に憤慨しながらも、【カイザブレイガン】を連射しながら【火縄大橙DJ銃】のマシンガンの銃撃を捌いていく。ポイントマンとしての動きは変わらないが、サキの予想外な近接戦闘能力の高さに手こずっていく。
「こんなに爆破が続いたら、狙撃に適したポイントが減って……」
オトギは狙撃主として最善のポジションを探しており、モエの無差別に近い爆撃に嘆息しながらも位置取りをしていた。だが、同じく位置取りをしていたミユと見事に鉢合わせしてしまう。
「「…………」」
互いに顔を合わせてしまい、微妙な空気が流れ始めたがミユが【ガンガンハンド】のポンプレバーを操作して人差し指状態だったハンド部分を開き状態――ロッドモードにしてオトギへと殴り掛かった。
「うぇ!?それで殴るの!?普通は撃つんじゃないの!?」
「え、あ……はい。これ、近接武器としても使えるみたいですし……それに、こんなに近いなら撃つより殴った方が早くて……」
ミユはオトギの疑問に返しながらも、ロッドモードの【ガンガンハンド】を振り回し続けている。その振り回し方に妙な既知感……見事にしてやられた時の動きに似ていると感じたオトギは、率直にミユへと問い掛ける。
「……アリウスのCQCに似てない?」
「あ、その、実は……数日前から今日まで教えてもらって……」
オトギの質問にミユは特に隠すことなくあっさりと肯定する。数日で学んだ故に付け焼き刃程度のものでしかないと明かしつつ。
一方、今回の喧嘩の本命……ミヤコとユキノの“喧嘩”は泥仕合に突入していた。
ミヤコは拝借したガンモードの【マグナムシューター40X】と【イクサカリバー】で泥臭いCQCを行い、ユキノは愛銃をリロードする間がなかった事から【アタッシュアロー】を展開して捌いている。使い方を確認しなかったせいで、攻撃する手立てが実質ないも同然であるが。
そんな泥仕合の中、ミヤコはユキノに言葉をぶつけていく。
「先輩は何で今回のような事をしたんですか!?それが先輩の今の“正義”だと言うんですか!?」
「何度も言わせるな。私達は武器であり道具だ。武器に判断の――」
「そう言って逃げるんですか!?“正義”を相手に委ねることが、先輩の“正義”なんですか!」
「……ッ」
ミヤコのその言葉に、ユキノは表情を歪めて【アタッシュアロー】をミヤコの身体に叩きつける。まるで、苛立ちをぶつけるかのように。身体に鈍痛を覚えながらもミヤコは怯むことなく、果敢に攻め続けていく。
そんなミヤコ姿にかつてのユキノ自身の姿が重なり……ユキノは不快感を圧し殺して問い掛ける。
「……だったら、月雪小隊長の考える“正義”は何だ?そこまで大口を叩くのなら、さぞ立派な名分なんだろうな?」
「いいえ。そこまで立派なものではありません。“正義”を謳いながら、方々に迷惑を掛けた身でもありますから」
「なら、何故私達の行動を非難する?」
ミヤコの自嘲のような返しに、ユキノは銃撃を捌きながら意味が分からないと言いたげに言葉を返す。その返しに、ミヤコは二丁の銃によるCQCを続けながら口を開く。
「……先生達の言葉で!原点を思い出したから!です!」
「原点、だと?」
その言葉を聞いたユキノは動きを止め、続きを促す。ミヤコは荒い息を整えてから、自身の原点を……始まりを口にしていく。
「……はい。私がSRTの正義に憧れたのは先輩達、FOX小隊の活躍に憧れたからです。市民の平和を守り、SRTの正義を語るその姿を見て、自分もああなりたいと……心から思ったからです」
「……だったら、その幻想は今すぐ捨てるべきだ。月雪小隊長。その甘い理想は、いずれ貴君の首を締める」
過去の憧憬からだと知り、ユキノは一段と冷めきった眼で捨てろと告げる。それに対し、ミヤコは首を振って否定する。
「いいえ、捨てません。これは大事な道標ですから」
「……道標、だと?」
「先生達は言っていました。例え“正義”であっても非難される時はあると。規則と法則に則って動いたとしても、“正しい”行いをしたとしても……厳しい言葉をぶつけられる時はあるのだと」
「…………」
ミヤコのその言葉に、ユキノは完全に言葉を失ってしまう。その言葉はかつてユキノが経験し、通った道そのものであったのだから。
だからこそ、自然とこの言葉が出てしまった。
「……それは自身の力も、責任も全て背負える
「それは……」
ユキノのその言葉にミヤコは何も返せずに口を閉ざしてしまう。ユキノのその言葉には経験した者の重みが宿っており、口だけで納得しない圧が感じ取れた故に。
ユキノの視線がミヤコから見届け役の大人二人に向く。その視線を受け、恭介が最初に口を開いた。
「……大人でも、
「そうだね。本当は子供が責任を負うべきじゃないんだけど……その全てを背負えるかどうかは別問題なんだろうね。幾ら責任を背負ったとしても、感じた責任は生まれ続けるだろうから」
「生まれ続ける……?」
「ええ。仮に君達の行動を誰かが肩代わりしてお咎め無しとなったとしても……それで君達は納得しますか?」
「…………」
恭介の問い掛けに、ユキノは答えずに視線を逸らす。手を止めているクルミ達も、思慮するかのように黙り込んでいる。
「それに……責任は背負えばそれで終わりじゃないんです。背負い、果たすまでがワンセットなんです」
「責任は背負っただけじゃ、何も変えられないからね。背負った責任をどう果たすのか……最低でも自分が納得いく形で果たさないと、何時までも残り続けると思うよ。失敗して放置したら、何も解決しないのと同じように……責任を負えば解決するんじゃなく、解決する為に責任を負うんだからね」
「解決する為に、責任を負う……」
シャーレの先生の言葉を、ユキノは反芻するように呟く。そもそも責任を負うのは
責任を負えれば全てが解決する……その思考に囚われていたユキノにとって、頭を金槌で殴られた程の衝撃をもたらす言葉であった。
「後、大人でも立場に振り回されててんてこ舞いになる時はありますよ。書類の処理が本当に……」
「うん……当番の子達の協力がなかったら、一週間の殆どが書類との闘いで潰えてたよ。依頼で数日空けた時は、溜まった書類の山に何度打ちのめされた事か……」
恭介の遠い目での呟きにシャーレの先生も過去の書類の山を思い出して遠い目となっていたが、何かを思い出した表情となって恭介へと顔を向ける。
「……って、恭介さんはそこまでてんてこ舞いにならないでしょ!一秒が一時間に引き伸ばされる部屋で書類と向き合えるんだから!」
「幾ら時間が引き伸ばされても、滅入るものは滅入るんですよ!入院中に溜まりに溜まった書類を前に、頭を抱える羽目になったんですよ!?」
「それを二日で終わらせている時点で、説得力がないよ!」
大の大人二人のあまりに情けない口喧嘩を前に、RABBIT小隊だけでなくFOX小隊も情けないものを見るような目で二人を見つめてしまう。その前の言葉が心響いていたからこそ、余計に残念さが極まってしまう。
「ハァ……大人って本当に――」
クルミが呆れたように空を見上げながら言葉を零していたが、見上げた瞬間に瞬きし、言葉を失ってしまう。
何故なら……上空に爆弾を積んだドローンが大量に飛んでいたからだ。それも、何時でも空爆できる態勢で。クルミのその反応に約一名以外は空を見上げ……大量のドローンの空爆態勢に唖然としてしまう。
「モエ!お前、この一帯を全部吹き飛ばすつもりなのか!?」
「え?何当たり前な事を聞いてるの?今は喧嘩中だから、幾ら爆破しても問題なしだから大丈夫でしょ。それに、気兼ねなく爆破できる機会を逃す方が……グヒヒッ」
我に返ったサキがさすがにこれはやりすぎだと制止の言葉を投げ掛けるが、この爆撃態勢を作り上げたモエはどこ吹く風。むしろ、危ない表情で笑う始末だ。
「ま――」
誰が制止の言葉をモエに放とうとしたかは不明だが、其れよりも早くモエがドローンを操作し、一斉に爆弾を地上に向けて落としてしまう。
直後、盛大な爆炎と衝撃がグラウンド内で噴き荒れた。
「アハハ……量を間違えちゃったかな?でも、これ程の爆発を感じられたなら問題なし!」
「何が問題なしだ!グラウンドが大変な事になっているだろうが!」
「これは元に戻すのに苦労しますね……」
「爆発の衝撃であちこちが凹んで……平らに戻すのに何れだけ時間が掛かるかな……?」
「これ、私達もやらないと駄目……?」
「うーん。これはやらないと後味が悪いやつだね」
「ですね。後輩達だけにやらせるのも、後ろめたいですし」
「……これが連帯責任というものか」
奇跡的に軽傷で済んだ二つの小隊は、後始末の為に仲良くグラウンドの整備をする羽目になるのであった。
数日後、FOX小隊は自らの後始末とケジメの為に矯正局へと自首した。恐怖政治を敷こうとした新代行を巻き込む形で。
新代行の動向
原作通りクーデターを成功させるも、音信不通となったFOX小隊のこともあって原作以上にてんてこ舞いとなる。その打開策も原作通りだが、実行役は協定相手。
その後、FOX小隊の帰還と任務失敗に苛立ちながらも次の指示を出すも、FOX小隊は反対の意を示す。それに対して学園復活を盾に押し通そうとするも、元から腹を決めていたFOX小隊が事前に手引きしていたことでRABBIT小隊とヴァルキューレによって逮捕される羽目となった。
実行役は責任者が不在の間に取り押さえられた為、何時も尻尾切りで追及から逃げ切った。