夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
日が沈み、夜空が煌めくキヴォトスの空を一つの飛翔体が駆け抜けている。その飛翔体には翼もなければプロペラもない。にも関わらず、空を切るかのように上空を突き進んでいる。
【エアライダー】。【エアライダーカプセム】で召喚した、タイヤのない空飛ぶバイク。ハンドルの中央にある窪みにカプセムをセットすることができ、そこには【ストリームカプセム】がセットされている。【ストリームカプセム】の能力により【エアライダー】周辺には常に気流が発生しており、落下防止のクッションとして機能している。
その理由は至極単純。【エアライダー】に乗っているのは恭介だけではないからだ。
「これ、落ちたら一貫の終わりですよね?パラシュートなしのスカイダイビングにならないですよね!?」
「ちゃんとしがみついていたら大丈夫だよ」
恭介の後ろでそんなやり取りをしているのは、ヒヨリとアツコだ。アビドスともそれなりに縁があり、事態の深刻さからアツコが理詰めで恭介を丸め込み、一番縁のあるヒヨリと一緒にアビドス高校への同行を勝ち取ったのだ。
恭介は時間が惜しかったこともあり、【エアライダー】に乗れる人数だけという条件で了承した。急いで合流しなければ、事態が悪い方向へと進み続ける可能性が高いのだから。
アビドス高校の校門前に【エアライダー】を着陸させた恭介は、既に装着していた【ナイトインヴォーカーバックル】に【プロジェクションカプセム】をセットする。
――プロジェクション!
――エンフォース!ナイトシステム!――――プロジェクション!
恭介は素早く《ナイトアリウス・プロジェクション》へと変身し終えると、アツコ達と灯りが点いている教室へと向かう。もし、今も【混沌の領域】からの干渉が続いているのなら、その痕跡か類する何かがある筈だと恭介は考えたからだ。原作でのゼッツも【プロジェクションカプセム】を使った派生フォームで、ナイトメアの本体である巨大な脳髄を捉えたのだから。
アツコ達と共に廊下を駆け足で進み、恭介は目的の部屋である対策委員会の部室の扉を開ける。突然扉が開いたことに室内にいた全員の視線が恭介へと向く。
「白服さんっ!?」
ホシノが驚いたように声を上げ、シロコにセリカ、アヤネも驚いた表情で恭介へと顔を向ける。そんなホシノ達に構うことなく、恭介は複眼を光らせて室内を見据えていく。
まるでスポットライトのように複眼から放たれた青い光が室内を照らし、その光に当てられたように古時計のような瞳が滲み出てくるかのように露となっていく。その不気味な瞳を捉えた恭介は、既に握っていた【ブレイカムバスター】に【イレイサーカプセム】をセットするとほぼ同時に回転させる。
『イレイサー!』
『ブレイカムバースト!』
恭介は躊躇もなくその瞳――【混沌の領域】から覗き見る為の“眼”に近づき、必殺技を叩き込む。消去する力のある一撃を受けた眼は、一瞬でその場から消し去られる。
念のために周囲を見渡して安全確認をする恭介に、一足先に我へと返ったホシノが話し掛ける。
「白服さん、何でここにッ!?それに、さっきの“眼”は一体……!?」
「それも含めて、今から説明します。ちょうど、彼女も来ましたからね」
安全を確認できた恭介は変身を解除して扉の方へと振り返ると、黒いドレスに身を纏った女性――シロコ*テラーが部室へと入って来る。またしても予想外の来訪者に、ホシノ達は再び驚愕する。
「も、もう一人のシロコ先輩!?本当に何がどうなっているのよ!?」
セリカが混乱を露に声を荒げるのを余所に、シロコ*テラーは部屋を見渡していく。その場にいる人物達を確認するように。
ホシノ。シロコ。セリカ。アヤネ。
今この場にいる《対策委員会》は四人。後一人……ノノミの姿だけがない。それだけで、シロコ*テラーは現状を正確に読み取った。
「……ノノミは、人質としてネフティスに拐われたんだね?」
「……!……はい。翌日の総会……ホシノ先輩に《アビドス生徒会》は非認可の組織だったと公言させて、砂漠横断鉄道の契約を破棄させる為に……」
シロコ*テラーの問い掛けに、アヤネが肯定と共に今の状況を説明する。かつて梔子ユメが交わした契約……その契約自体を無効とさせる目的で拐われたのだと。
「それで、私が一人で突破して総会に出席してノノミちゃんを助け出すとみんなに告げた所で、白服さん達が来たんだよ。悪いけど、止めないでくれるかな?これは……」
「ノノミさんの救出そのものは止めませんよ。ですが、今のままでは全部が悪い方向へと
「……どういう事?」
恭介の断言に、一人で何とかしようと考えていたホシノはその言葉に反応する。その言葉に反応したのはホシノだけではない。
「全部が悪い方向へと絶対に進む……?何でそんな事が分かるのよ?」
「皆さんも概要だけは知っている筈です。行動と選択が裏目に出て、最悪の事態へと発展した出来事を」
「……あっ!?」
セリカの訝しげな質問に恭介がそう返した直後、アヤネは今まで感じていた違和感のピースがカチリッとはまったかのように声を上げる。その声に釣られてか、シロコも思い至ったように口を開く。
「もしかして……エデン何とかの時?」
「《エデン条約》だよ。厳密には一連の不穏な流れなんだけど」
シロコの言葉をアツコが軽く訂正しつつも同意したことで、ホシノ達は今回の件が単なる偶然の積み重ねではないのだと理解する。そんなホシノ達に、恭介はその前提となる要の情報を口にする。
「実は……同じ手口を使いかねない人物の存在が皆さんに共有していた時からあったのです。その人物は隔離された状態で幽閉されていたそうで、その時は余計な不安を与えないよう、シャーレの先生以外には隠していましたが……」
「その人物が解放されている可能性がある……そういう事だね?」
「ええ」
若干目が鋭くなったホシノの問い掛けに恭介は頷く。最初は列車砲を巡って《セイント・ネフティス》と《私募ファンド》が争っている状況に巻き込まれた形だと考えられていたが、実際は裏に潜んでいる存在がそうなるように誘導していたと判明したのだ。
それを裏付けるように、シロコ*テラーが自身が知りうる限りの情報を口にしていく。
「詳しい経緯は分からないけど……その契約書を巡ってカイザーも介入してきた。そうしてホシノ先輩は、ノノミの救出と列車砲を破壊する為に一人で突き進んで……反転してしまった」
反転。その言葉を聞いた恭介達は言葉を失ってしまう。シロコ*テラーの世界のホシノも、彼女と同じく“恐怖”へと反転したのだと知ったのだから。シロコ*テラーが反転直後は本質に突き動かされたように、反転したホシノもまた……
「……その後は?」
「突然空を割るように異形の存在が顕れて……ソイツと反転したホシノ先輩が戦って、先輩のヘイローは壊れた。その戦闘で、追い掛けたアヤネとセリカも……」
「もういいよ。ゴメンね、大きいシロコちゃん。辛い事を話させちゃって」
涙声で末路を語るシロコ*テラーに、続きを促したホシノが申し訳なさそうに話を打ち切らせる。自分の取りかけていた行動が、シロコ*テラーが経験した悲劇の焼き直しとなる直前だったことに、ホシノは本当に申し訳なくなっていた。
だからこそ、ホシノは自分達の後輩へと深く頭を下げた。
「みんなも、ゴメン。ユメ先輩の時と同じになる不安からとはいえ、同じ失敗をもう一度するところだった。だから……本当にゴメン」
「ん。大丈夫。今回はちゃんと止まってくれたから」
「まぁ、仕方ないんじゃないの?むしろ、ホシノ先輩の辛い記憶をほじくり返した奴が一番悪いでしょ」
「ええ。それも名誉会長の想いを踏みにじる形ですから……絶対に許せません!!」
「皆さん、怒っていますねぇ。人生を玩具のように扱われたんですから、当然の反応ですよね」
ホシノの謝罪を素直に受け止め、むしろ黒幕に対して怒りを露にするシロコ達の姿を見てヒヨリは渇いた笑みで頷く。大切な人との思い出を土足で踏み荒らしたのだから、シロコ達の怒りのボルテージは常に上昇し続けるのは必然だ。実際、ヒヨリも私物のスナイパーライフルを抱えて静かな怒りを滾らせている。そして、シロコ達はもう一つの事実に気が付く。
「もしかして、今朝の爆発事故も……」
「その可能性は高いでしょう。実際、私にも今回の件で連絡していましたから。あまりに悪い意味でタイミングが良すぎます」
「あの“眼”を通して、おじさん達を監視して干渉していたんだね?その黒幕にとって、都合よく物事を進めるために」
一連の話から恭介が消し去った“眼”の正体にも行き着き、ホシノは拳を固く握り締める。黒幕の目的は不明だが、その目的の為にシャーレの先生を襲い、後輩達を苦しめようとした。それも、ユメが残した贈り物を悪用する形で。
「それで?その【混沌の領域】にはどうやっていけるの?ソコに潜んでいる黒幕をどうにかしないと、何も解決しないんでしょ?」
「……悔しい事に、現時点ではソコへ行く手段がありません。今出来ることは、可能性を徹底的に潰す形でしか対処出来ません。あの“眼”を潰しても一時凌ぎでしかないでしょうから、時間が経てば再び干渉が始まります」
「……本当に厄介だね。話を聞いた時は面倒だと感じていたけど、実際に直面するとこうも違うんだね」
普段のおどけた雰囲気が完全に消え去り、抜き身のナイフのような鋭い雰囲気をホシノは放っていく。もし、黒幕がこの場にいたらフルボッコとなっているだろう。要はぶちギレ寸前である。
「でも、実際にどうするの?仮に総会に出席しても、カイザーまで割り込んで来るなら……そもそも、何がどうなったらカイザーが今回の件に介入できるのよ?参加条件の債権は手放しているんだし……」
「ん。仮にカイザーが債権を買い戻すとしても、どっちも債権を手放すなんて考え辛い。そっちの私は、どうなの?」
「……正直、分からない。詳しく知る余裕もなかったし、借金も一人で返していたから……」
シロコの質問に対し、シロコ*テラーは申し訳なさそうに頭を振る。シロコ*テラーが陥った状況を考えれば、孤立無援の状態で残されたアビドスの借金を一人で返済していたのだから、子細を確かめる余裕はなかったのは容易に想像がつく。
「少なくとも、カイザーが何かしらの方法で債権を回収したのは確かだと思う。債権があるからこそ、契約に対して口出しできるんだし」
「そうですね……今回の始まりも、その債権からでしたし。債権の元である借金さえなくなれば、ネフティスとアビドスの問題へと狭められるのに……」
言っても栓なきことだと自覚しながらも、借金が無くなれば大部分が解消されるとアヤネは呟く。その呟きを耳にした恭介は、思い至ったような表情をホシノへと向ける。
「……ホシノさん。まだ話してなかったんですか?」
「へ……?あ、あぁ~~!そう言えば、今回のゴタゴタのせいですっかり忘れてた!!」
恭介の問い掛けでホシノは思い出したのか、自身の鞄を慌てた様子で探っていく。その鞄から例の通帳とカードを取り出した。
「ホシノ先輩、それは……?」
「うへぇ~。これはあの時の……借金問題の後に白服さんから渡された、おじさんを騙そうとした相手から搾り取ったお金が入った通帳とカードだよ。ソイツは白服さん達……アリウスにも手を出そうとしていたから、ボコボコにされた上で見逃す対価として払わされたんだけど……」
ホシノはシロコに説明しながら、その通帳を開く。残高を示す欄には15億の金額が表示されており、それを目にしたシロコ達は驚愕に目を見開く。
「じゅ、15億!?こんな大金があるなら、借金なんて直ぐに返せたじゃない!?」
「そうなんだけどさぁ~……相手はあのカイザーだったからね。向こうの目的も不透明なまま借金を全部返したら、今度はどんな手に出るか分からなかったからさ~」
「……それは、確かに」
「あのカイザーですからね。ホシノ先輩の危惧も理解は出来ます。隠していたことには、不満はありますが」
ホシノが直ぐに返済に充てなかった理由にも納得がいく為、シロコ達は多少の不満はあれどすんなりと引き下がる。重要なのは、債権の元である借金を直ぐにでも返済できる事だ。
「あれ?それならソイツに黒幕の事を聞けば――」
「タダでアレが教えると思いますか?絶対に“対価”を要求してきますよ」
「ああ、確かに……」
そこでホシノは搾り取られた人物――黒服に聞けばいいのではないかと気付いたが、恭介が秒で否定したことで逆に納得してしまう。
加えて、《ゲマトリア》は仲間を売らないという不文律がある。契約と決まり事に沿って合法的に相手を嵌める黒服のスタンスからして、元とはいえ仲間の情報を話すことはないだろう。かつて恭介にボコボコにされた時も、ベアトリーチェの情報は一切話さなかったのだから。
最終的には【混沌の領域】への行き方を尋ねる為にコンタクトを取るしかないとしても、あくまで最終手段としておくべきだ。確実に、大きな“対価”を求められるだろうから。
「借金の返済は、総会が開かれる時刻の少し前に行いましょう。直ぐに返済したら、ネフティスがどう動くか分かりませんから」
「そうだね。ノノミちゃんを人質にして選択を迫ってきた以上、それが現時点では一番安全だね」
アヤネの提案にホシノは頷き、返済のタイミングは任せるという意味を込めて件の通帳とカードを手渡す。
「次は列車砲についてだけど……みんなは列車砲をどうするつもり?」
「へ?もちろん破壊一択だけど……何でそんな事を聞くの?」
「ただの確認だよ。破壊なら、問題なく進められるから」
「?」
アツコの確認の意図を図り切れずにホシノ達が首を傾げる中、ヒヨリがその理由を明かしていく。
「実はですねぇ……此処に来る前に、ゲヘナに寄っていたんですよ」
「……ゲヘナに?何で?」
「その理由は、マコト殿も交えて説明します。此処から先の話は郊外無用ですので、くれぐれも気を付けて下さい」
恭介はそう前置きしてから持参していたノートパソコンを取り出し、ゲヘナへと通信を繋げる。
『――遅いぞッ!このマコト様を待たせるとは、実に不敬極まりないぞッ!!!そのせいで紅茶が冷めてしまったではないかッ!!マコト様の偉大な態度の演出を潰した責任を、どう取ってくれるッ!?』
繋げて早々、マコトは待たされた事に対して怒鳴り声を上げるのであった。
アビドスの悲劇
シロコ*テラーの世界でも、解放された地下生活者が暗躍していた。解放したのはフランシスではなく、《ゲマトリア》の真の敵。彼等が地下生活者が幽閉された空間に干渉できたのは、彼を隔離する為に使った技術がその者達が生み出した技術であったから。
地下生活者が【混沌の領域】から暗躍した結果、シャーレの先生は爆発事故で植物状態に陥り破滅が確定した。ノノミの自主退学を阻止できず、その事実からホシノは列車砲の破壊に躍起となってしまう。それもカイザーの介入とスオウの暴走によって失敗に終わり、その結果にホシノは絶望してしまう。最後に地下生活者の精神干渉により、存在が反転してホルスへと変質してしまう。
その後、ホルスと化したホシノは本質に呑み込まれたまま、上空に顕れた《セトの憤怒》と交戦。列車砲をも破壊する形で周囲に甚大な被害をもたらして死亡した。その戦闘で追い掛けて来たシロコ達も巻き込まれ、シロコは奇跡的に無事で済んだがセリカは行方不明となり、アヤネは生命維持装置なしでは生きられない身体となってしまった。
退学したことでアビドス高校にも戻れず、自身の行動が最悪の結果を招いたノノミは罪悪感に苛まれ、塞ぎ込んでしまう。その後、アヤネの訃報を聞いてついに心が決壊。全ての元凶となったゴールドカードだけを手に砂漠へと赴き、意図的に遭難してかつての生徒会長と同じ末路を辿った。
尚、地下生活者はホシノが死亡と同時に反転前の姿に戻ったことから、自身の答えが明確に否定された結果となった事に意気消沈する。世界の方が間違っていると恨み言を吐いて、自身を封じ込めた場所で再び引き籠った。
真の黒幕はホルスとセトによる世界の終焉が失敗に終わったことに落胆したが、あっさりと割り切って“次”に向けての暗躍を進めていった。
その後、シロコ*テラーとプレナパテスによって世界は終焉を迎え、地下生活者も自身が駒として利用されていた事に気付かないまま、【色彩】によって誰にも認知されないまま終わりを迎えた。