夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
ノートパソコンで通話回線を開いて早々のマコトの怒声に、室内にいた全員が何とも言えない微妙な表情となる。怒っている理由が自身のカッコいい演出が潰れたからなのだから、この反応も当然と言える。
『まぁまぁ、マコトちゃん。今回はそんなに怒らないで上げて。事情が事情だから……ね?』
『……そうだな。今回は事が事だ。このマコト様を待たせた事は、特別に水に流してやろう』
同席していたらしい同じ万魔殿所属の京極サツキが諭すように宥め、マコトもサツキの言葉に素直に頷く。ほとんど自己完結で済ませた事に苦笑しつつも、ホシノが疑問を露に口を開く。
「何でゲヘナの議長さんが出てくるの?白服さん達も、ゲヘナに寄った理由も不明だし……今回の件とゲヘナは関係ないように思えるんだけど……」
『まだ話してなかったの?』
「ええ。この話はゲヘナにとってはトップシークレットですから。処分の方も、説得せずとも考えが一致していましたので」
サツキの問い掛けに恭介がそう答える。二人のやり取りからして、例の列車砲は破壊する方針で纏まっていたのだろう。どうして無関係な筈のアリウスとゲヘナが兵器の処分を決めたのかにホシノが疑問に思っていると、マコトが真剣な顔つきでその理由を語る。
『無関係ではないからだ。その兵器……列車砲の開発には《雷帝》が関わっていた可能性が極めて高いからな』
「《雷帝》?それに列車砲に関わっていたって……」
まさかの繋がりにホシノは内心で驚きつつも、《雷帝》と呼ばれた人物には心当たりがないために本気で首を傾げている。シロコ*テラーでさえ、頭に疑問符を浮かべている表情だ。
そんなアビドス組の反応に、マコトは当然の反応だと言いたげに息を吐いた。
『お前達が知らなくて当然だ。ヤツは自身の情報を徹底的に統制し、隠蔽していたからな。報道等では知りようがないし、仮に知れても人伝の噂程度だ。当時の実態をおおよそでも把握していたのは、失踪中の連邦生徒会会長くらいだろう』
「……どうしてそこまで情報操作の徹底を?」
『それは本題ではない。そもそも、ヤツの事を口にすること自体があり得ない事だ。今回も、ヤツが関与していた可能性が高いから話しているんだ。そうでなかったら喋っていない』
アヤネの質問に対し、マコトは明確な拒絶の意思を示す。ゲヘナにとって、《雷帝》は禁忌の存在なのだ。彼女が残したものも含めて。
そんなピリついた空気を破るように、恭介が間を取り持つように今回の事情を説明していく。
「私がゲヘナともコンタクトを取ったのは、シャーレの先生がもたらした情報からでした。私に連絡した時点で、シャーレの先生は兵器の存在に辿り着いていました。ゲヘナとの共同で開発していたことにも」
「例の爆発事故の件もあって、校長は直接ゲヘナに赴いてマコト議長と会って今回の事を伝えたってわけ。ゲヘナの事情を多少なりとも知っていたし、一歩間違えれば同じようになっていた身としてもね」
既にシャーレの先生も兵器の存在に行き着いていた事にホシノ達は驚きつつも、同時に納得もする。もしあの爆発事故がなくシャーレの先生と合流できていれば、すぐにゲヘナの手も借りられただろう。少なくとも、ノノミが単独でネフティスに会うという行動には移らなかった筈だ。同時にアツコの説明で、《雷帝》が何れ程危険な人物なのかも予想が付いた。
かつてアリウスは、力と恐怖による手段でベアトリーチェに支配されようとしていた。それは恭介によって未遂に終わったが、それに近しいことがゲヘナでは実行されていたのだと暗に伝えられたのだ。そんな人物が関与した兵器など、ゲヘナはもちろんアリウスも無視する訳にはいかないのだろう。
話が本筋に戻ったことで、マコトも雰囲気を多少和らげて話を続けていく。真剣な顔つきで。
『アリウスからの情報の後で調べ直したが、列車砲に関する資料はゲヘナでは見つからなかった。だが、ヤツが関与していたのは間違いないと見ていい。列車砲の開発にゲヘナが関わっていたのなら、尚更な』
「そこまで断言する程なの?」
『ああ。ヤツの持っていた技術力は異様なまでに高かった。――ミレニアムの技術を凌駕する程にな』
マコトのその言葉にアリウス組も含めて、誰もが驚いたように息を呑む。一人でミレニアムを越える技術力を持っている……その事実に呑まれる中で、マコトは表情を緩めることなく言葉を続けていく。
『ヤツの発明品の数々……私達が《雷帝の遺産》と呼ぶそれらは、何れか一つだけでもキヴォトス全体を危機に晒す程の危険性を秘めている。使われたら最後、何れ程の被害となるか未だに予想も出来ん。処分するのに苦労した遺産もあったしな』
『今でも私とマコトちゃんを含めた、一部の三年生は《雷帝》の痕跡の抹消に動いているわ。その介もあって、今の一年生と二年生は《雷帝》については殆ど知らない状態よ。……アビドスにもあったのは、本当に予想外だったけど』
そう語るサツキの表情も苦々しいものだ。本当に面倒な置き土産ばかりを残している相手に対して、呪詛の念を飛ばしていそうな程だ。
「……そっちの事情は分かったよ。確かに無関係とは言えないね」
ゲヘナ側の事情を聞き終えたホシノは、確かに無関係ではいられないと納得の意思を示す。一つだけでもキヴォトス全体に危機をもたらす発明品が、可能性とはいえ見つかってしまったのだ。ましてや今回の《雷帝の遺産》は要塞級の兵器。最悪の火種となるのは火を見るより明らかだ。
「本当に何で、昔の生徒会はそんな兵器の開発に着手したのよ……あの監査官は、借金返済が目的だろうって口にしていたけど……」
『大方、ヤツに言いくるめられたのだろう。ヤツは統治者としての能力も高かったしな』
記録にも一切残っていない以上、憶測になるがな。っと、マコトは付け加えながらそう告げる。資料も記録も一切残っていなかったから、かつてのアビドスとゲヘナとの関係に気づけなかったし、列車砲にも辿り着けなかった。今でも過去の亡霊に振り回されている事実に、マコトもサツキも内心では穏やかではいられない。
当然、それを現在進行形で利用している正体不明の黒幕に対しても。
『加えて、今回の騒動は《エデン条約》でこのマコト様を都合よく利用した輩が使った、同様の手口が使われていると聞いている。前と同じ手口で嵌めようなどと、随分と舐められたものだ』
『私達とアリウスで意見を交わした見解では、直接の干渉はアビドスとその周囲だけに留まっていると見ているわ。もしゲヘナとアリウスにも干渉していたら、今の会合も妨害されたでしょうから』
事実、列車砲を巡る争いという点に限れば、この上なく適した存在をマコトとサツキは知っている。使わないのは明らかに不自然だし、“結果”だけを求めるなら一番使いやすい存在でもある。少なくとも、事態がより混迷するのは確実だ。
にも関わらず、動きがない……それが意味することは、アビドスだけに干渉している反証となる。同時にアビドスしか見ていない事にも。
「うへぇ……本当に厄介極まりないね。判断と思考が黒幕に誘導されていても、自分達じゃ判断できないからさ」
「ん。本当に厄介。先生を爆殺しようとした事も含めて」
違和感を違和感として当人が気付けないのが、何よりも厄介だとホシノとシロコは痛感する。そこでアヤネが、ある可能性に行き着く。
「もしかして、ネフティスの人が口にしたシュミレートの結果にも干渉を……?」
『その可能性もあるだろう。そもそもヤツの技術には、不透明な箇所が幾つもあったんだ。そのシュミレートの結果とやらも信用に値せん』
切っ掛けであった最新シュミレートによる結果でさえ、黒幕の手によって都合の良い結果が出されただけの可能性も浮上したことで、一同は本当に頭が痛くなる思いだった。シャーレの爆発事故の件もあり、本当に何でもありの無法すぎる能力だと、改めて痛感してしまう。
「念のために聞くけど、ユメ先輩が列車砲を知っていた可能性は……」
『それはない。梔子ユメが列車砲の存在を知っていた可能性はゼロと言っていいだろう』
ホシノは確認の為にマコトに問い掛けると、マコトはキッパリと断言する。その理由についても。
『自治区の生徒会長が突然失踪したんだ。ヤツが残した物の洗い出しに最も力を入れていた時期もあって、その辺りは念入りに調べ上げた。その当時ですら私達は列車砲に辿り着けなかったのに、移転の繰り返しで引き継ぎもロクに行われずに生徒会長となった梔子ユメでは知りようがない』
「よくそこまで知ってるね……廃校寸前の状態だったのに」
『ヤツが政権を握っていた時期から、ヤツの指示で貴様の動向には目を光らせていたからな。その周辺にも探りを入れていたし、ヤツが指示を出してまで警戒していたこともあって隅々まで調べ上げていた。その時にヤツとアビドスの繋がりに辿り着けなかったのが、実に悔やまれる』
マコトが経緯も語った上でユメと列車砲には何一つ繋がりがないと断言したことで、ホシノの中にあった一抹の不安は完全に払拭される。供養で焼却した手帳にも列車砲と思しき記載はなかったし、奇跡の再会を果たした本人もほとんど直感で了承した形だったとはいえ、それでも不安があったのだ。それが完全に嫌な偶然だったと判明し、気持ちにも幾ばくか余裕が生まれたのは良いことではあるが。
「まぁ、どちらにせよ列車砲は破壊した方が安全だね。ゲヘナらしく、爆破で吹き飛ばした方がいいかな?」
『そうしたいのは山々だが、物が物だ。一度調べた上で判断する必要があるだろう。中には一歩間違えれば、都市が丸々吹き飛んでしまう遺産もあったからな』
「……本当に面倒な兵器だね」
破壊でさえ一苦労しそうな処ではない兵器に、ホシノだけでなくシロコ達も疲れたような表情となる。力づくの破壊でさえ安易に取れないのだから、当然の反応とも言える。
『そもそもだ!どうして先生は我々万魔殿ではなく、空崎ヒナに連絡を入れたんだ!この場合は風紀委員会より、万魔殿を頼るところだろう!?』
「ええ……」
突然の前触れもない、シャーレの先生に対する文句に対策委員会とシロコ*テラー、ヒヨリは何とも言えない表情となり、アツコは呆れたように半目となる。恭介でさえ、苦笑いしてしまう程だ。
それも、サツキによって宥められたが。
『仕方ないわよマコトちゃん。先生は《雷帝》について知らないし、私達じゃ直ぐには動けないと考えたでしょうから。それに、アリウスは私達の方を頼ってもくれたしね』
『……そうだな。アリウスが我々に頼ったのは、実に見事だった。会談のカモフラージュも含めてな』
今回のアリウスとゲヘナの接触は《エデン条約》関連だと周りには誤魔化してある。《ティーパーティー》にも口裏を合わせる手回しは済ませており、《雷帝》絡みであることは表に出ることはないだろう。
……そのせいで、アコが暴走して余計に時間が掛かってしまったが。静止目的でイオリとチナツまで乱入し、本当に貴重な時間が無駄に消費されてしまった。代わりにアコを強引に黙らせ、同席したヒナもシャーレの先生から個人的に今回の件が伝えられていたと知れたのだが。
『とにかく、今回の件はゲヘナとしても到底見過ごすことは出来ん。砂漠横断鉄道の利用契約……その協議にはゲヘナも参加させてもらう。アビドスからの、重要参考人という形としてな』
「……それなら、確かに参加できるね。でも、誰が参加するの?話の流れ的に、議長さんが出るのかな?」
『そうしたいのは山々だが、表向きは鉄道事業の契約だ。さすがに私が出るのは不自然だし、万魔殿としての仕事もある。非常に遺憾ではあるが、空崎ヒナに任せるしかないだろう』
「本当に相変わらずね、マコト」
マコトが苦渋に満ちた表情で告げた直後、またしても新たな来訪者――話に出てきたヒナ本人が部屋へと入ってくるのだった。
シャーレの先生は目を覚まして早々、急いでアビドスに向かっていた。
あの爆発から一日が経過し、状況がどうなっているかは分からない。早くしなければ、取り返しの付かない事態になってしまうのかもしれない。
そんな不安と焦燥に駆られたまま、シャーレの先生はアビドス高校へと到着する。逸る気持ちのまま対策委員会の部室の扉を開けると……そこにいたのはアヤネとセリカ、シロコにシロコ*テラー、アリウスのヒヨリとアツコの六人だった。
「シロコ!?どうして君が……それにヒヨリとアツコもどうして此処に……?」
「ん。先生、元気そうで良かった」
驚くシャーレの先生に対し、シロコ*テラーが本当に安堵したように呟く。最初こそ困惑していたシャーレの先生であったが、徐々に状況を理解し始めていく。
「そうか。恭介さんが……」
「ええ。白服さん達から色々とお聞きしました。裏で手を引いている黒幕についても」
アヤネがそう告げると、現在の状況をシャーレの先生へと伝えていく。《セイント・ネフティス》がノノミを人質として連れ去り、契約の破棄を迫っていること。シロコ*テラーからの情報で、列車砲を巡ってカイザーまで介入してくる可能性が高いこと。それら全てが、【混沌の領域】に潜む黒幕からの干渉によるものであること。ゲヘナと協力して列車砲を処分する方針であることも。
「それで、ホシノと恭介さんは……」
「お二人はゲヘナの風紀委員長さんと一緒に、総会が開かれる会場へと向かいました。空を飛ぶバイクとやらで」
肝心のホシノと恭介は、ヒナと一緒に一足先に総会の場へと向かったとアヤネは告げる。会場への移動手段――【エアライダー】は最大で三人しか乗れないし、総会までの道のりは私募ファンドが集めた傭兵と私兵によって監視網が敷かれている。それを潜り抜ける為に、飛行で移動できる【エアライダー】で向かう事が決まった。【クリアカプセム】を使えば見つかることもないし、侵入も【マジックカプセム】を使えば簡単に出来る。
「借金の方も、この通帳にあるお金を使えば直ぐに返済できますが……」
「黒幕がどう介入してくるか……だね」
シャーレの先生はそこで言葉を区切ると、意識を【シッテムの箱】へと向けて中にいるプラナへと話し掛ける。
「プラナ。黒幕からの干渉はどうなってるか、分かる?」
「今は誰かに見られているかのような気味の悪さを感じません。アヤネさんが説明した時に口にした、“眼”を潰した影響からだと判断します。同時にその場しのぎでしかない事にも」
「そっか……」
「ですが、これはある意味好機でもあります。再び干渉が始まれば、そこから逆算して座標を特定することが出来ます。アロナ先輩からも託されましたし、必ず特定してみせます」
かつての経験――【ナラム・シンの玉座】を利用し、バニタスに操られていた間の感覚も鮮明に記憶しているプラナは、黒幕が潜む【混沌の領域】の場所を必ず見つけ出して見せると決意を露にする。同時に介入する方法にも。
「肝心の行き方については……速水恭介さんに頼るしかないでしょう。彼の力……【外の理】とも言うべき力を持つ彼なら、私のサポートとこのSP枠を使えば送り込む事が可能な筈です」
プラナの経験と、アロナが用意した特別枠。単純な妨害よりも有効で、逆転の一手を示したプラナに、シャーレの先生は同意するように深く頷く。
こうしてシャーレの先生も、悲劇を未然に阻止すべく彼女達と共に総会の場へと向かうのであった。