夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
ネフティスと私募ファンドがショックで茫然とする中、プレジデントは不快感を露にして口を開く。
「……戯れ言はそこまでにしてもらおうか。総会自体が開けないと嘘を言っておきながら、よくも本当の事ように語れるな。アビドスの債権……その大本の借金があるのだからな」
プレジデントの言葉に、項垂れていたネフティスと私募ファンドが息を吹き返したかのように顔を上げる。総会の参加条件である債権……アビドスの借金は億単位だ。多少なりとも元金は減りはしたが、膨大な借金の額であることには代わりはない。
そんなプレジデントの指摘に対し、ホシノは何て事のないように口を開く。
「いやいや。おじさんは何一つ、嘘は言ってないよ。シェマタが使えない可能性が高いのも事実だし、総会が開けないのも本当だよ。だって――此処に入る前に全額返済したからね」
「……何だと?」
借金は返済したと告げたホシノに、プレジデントは理解が及ばなかったかのように言葉を洩らす。だが、すぐに嘲笑するように反論する。
「あの額の借金を全額返済しただと?冗談にしては、あまりにもつまらないと思うがね?」
「そう思うなら確認すれば?」
あまりも堂々と告げるホシノの姿に、プレジデントは徐々に嫌な予感を覚えていく。その予感は、端末を確認していた私募ファンドの一人によって証明される。
「債権が、消えている……」
「!?」
「わ、私が買った債権も……?」
「私のも……!?」
次から次へと上がる、債権の消失。見ればネフティスの幹部でさえ、確認の為に取り出した端末を床に落としてしまう程だ。ホシノが告げた借金の全額返済が冗談でも嘘でもなく、孫請ことなき事実だと証明された形となる。
「小鳥遊ホシノ、貴様……ッ!一体どんな手を使った!?あれほどの額を、すぐに返済できるなど――」
「実は結構前に、宝くじが当たった感じで億単位の大金が手に入ってね。それを使って借金を全部返したんだよ。お釣も大量に余っているから、滞納した金額もすぐに払えるよ?」
ホシノのふざけた返答にプレジデントは激昂しそうになるも、プレジデントはすぐに次の手を打とうとする。
「――スオウッ!」
プレジデントはスオウの名を呼び、ノノミを人質にして契約の失効を強要させようとする。スオウもプレジデントの呼び掛けに答えるように、ホシノを睨み付けながらノノミにショットガンを突き付けようとする。
しかし、それは実現せずに失敗に終わる。何故なら……スオウの腹部に強い衝撃が走り、強引に後ろに下がらされたからだ。
「グッ……!?」
ホシノでもヒナでもない、正体不明の攻撃にスオウは腹部を押さえながらも周囲を警戒するように睨み付ける。
『ブースター!』
『ブレイカムバースト!』
突然機械音声が響き、ノノミの近くにいたカイザーの兵士達が強い衝撃を受けたように次々と床へと沈んでいく。スオウも突然の事に警戒心を跳ね上げるも、背中から強い衝撃を叩き込まれてカイザーの兵士同様に床へと沈められる。
ノノミを人質として囲っていた者達が全員床に沈むと、空間から滲み出るように紫のラインが入った肩当てを装備した全身タイツ……《ナイトアリウス・クリア》に変身していた恭介が姿を現した。
「き、貴様はアリウスの……!どうして貴様が此処に……!?」
「ホシノさん達の護衛として一緒にいた。ノノミさん救出の為に透明となってはいたがな」
プレジデントの疑問に、恭介はブレイカムバスターの切っ先を地面に突き立てながら答える。変身した姿で発動する【クリアカプセム】の力は気配さえも完全に消すことができ、潜伏からの不意討ちにはうってつけだったからだ。当然、相応のリスクも存在するが。
「さて、ノノミちゃんも無事に助け出せたことだし……ネフティス以外は部屋から出ていってもらおうか。ちなみに契約は当然継続するし、シェマタもゲヘナと協力して処分するから」
ホシノは念のためにショットガンを構えてノノミの傍へと歩み寄り、ネフティス以外の退席を促す。砂漠横断鉄道の契約も継続する方針と告げ、一連の事態に一先ずの終止符を打とうとする。
「いいや……まだだッ!」
しかし、そんな終わりは認めないと言いたげにプレジデントは叫ぶ。普段のプレジデントならリスクを考慮して此処で引き下がるのだが、真の黒幕によって思考が歪んでいるプレジデントは尚も足掻こうとする。シャーレが打とうとした手を悪用して。
「《アビドス生徒会》は今、新たな生徒会長の就任手続きが進んでいる!契約の代理人として立てるのは、生徒会役員のみ!副生徒会長の貴様が代理人として立てるのは、他に役員がいなかったからだ!新たな役員……それも生徒会長なら、当然権利は生徒会長の方が優先される!その生徒会長がこの場にいない以上、契約を更新することは出来ん!」
屁理屈に近い暴論をプレジデントは並び立てるが、言い分自体には一定の筋が通っている。少なくとも、アビドスの持つ権利の失効まで持たせられれば十分であり、一時的な中断でも失効時間となれば権利は私募ファンドへと渡るのだから。
それも、ホシノの一言によって粉砕されたが。
「あ、それおじさんだから」
「……は?貴様は何を言って……」
「その新たな生徒会長が、おじさんなんだよ。契約の更新に屁理屈を着けて時間を引き伸ばされても困るからさ、先生が目を覚ました場合の保険として、必要な書類におじさんのサインを書いて通すだけにしてたんだよ~。だから……問題なく権利を主張できるんだよ」
自身が新たな生徒会長だと告げたホシノに、プレジデントは落ちていた端末を拾ってすぐに情報を確認する。
アビドス生徒会
生徒会長:小鳥遊ホシノ
そこに表示されていたのは、紛れもなくホシノの発言を証明するもの。プレジデントの屁理屈を正面から粉砕する、致命的な一手。
そこでプレジデントはまんまと出し抜かれたと理解する。対策委員会側に注意を引き付ける為に、難癖や屁理屈による時間稼ぎを潰す為に、唯一の役員だったホシノを生徒会長へと引き上げたのだと。
ちなみにだが、対策委員会との合併も同時進行で進めている。借金も全額返済されたこともあり、対策委員会を縛る鎖は最早存在しなくなっている。
全容は把握出来ずとも、またしても計画を台無しにされたプレジデントは荒ぶる感情のままに動く。
「き、き、き……貴様ら……ッ!よくもここまで我々カイザーを虚仮にしてくれたな……!このままで終われると思うなよッ!!」
プレジデントはそう吐き捨てると、動ける部下達を連れて部屋から出ていく。その後ろ姿を、ホシノ達は呆れたように見送っていく。
「うへぇ、典型的な捨て台詞を残して去っていったね……」
「そうね。でも、これでシェマタを後顧の憂いなく破壊――」
ホシノの呆れにヒナは同意仕掛けるも、何かを思い出したように口を閉ざす。そんなヒナの反応を不審に思い、恭介が問い掛ける。
「ヒナさん、どうしたんです?何か、気になることでも?」
「……ええ。例の列車砲、シェマタを動かすには十六夜ノノミが持つ、ゴールドカードが必要だった筈よね?」
「?確かにネフティスの人の話だと……」
ヒナの問い掛けにホシノは昨日の説明を思い出しながら同意しようとした所で、ホシノも何かに気付いたような慌てた様子でノノミに顔を向ける。
「ノノミちゃん!ゴールドカードは今も持ってる!?」
「え?私のゴールドカードは此処に……」
ノノミは困惑しながらもゴールドカードを取り出そうとするも、直ぐに違和感に気付いたのか慌てた様子で探り始めていく。それだけでヒナとホシノ、状況を理解し始めた恭介の表情が強張っていく。
「ゴールドカードがない……!?そんな、どうして……!?」
「――やられたッ!」
「急いで追い掛けましょう!」
シェマタを動かす鍵でもあるゴールドカードがノノミの手元にない事実に、ホシノとヒナ、恭介は慌てた様子で先程出ていったカイザーを追う為に部屋を飛び出していく。そんな三人にノノミも急いで付いていき、四人で廊下を走っていく。
道中に立ち塞がったカイザーの兵士達を薙ぎ倒しながら、立ち塞がるルートを逆算する形で進んでいき、恭介達は屋上へと辿り着く。最初に目に写った光景は、ヘリが既に離陸して離れているところであった。
「もうヘリが飛んでいってる!」
「直ぐに追い掛けるぞ!」
恭介が【エアライダーカプセム】を取り出し、【エアライダー】を召喚して追い掛けようとする。
だが、そのヘリから誰かが突き落とされたかのように落ちていったことで動きが止まってしまった。
「……は?」
「今落ちたのって……プレジデント、だよね?」
「ええ。遠目だったけど、今ヘリから落ちたのは……」
「本当に何がどうなって……」
カイザー所有ヘリから総裁の筈のプレジデントが放り出された事実に一同は困惑していると、スマホの着信音が鳴り響く。突然の着信に再び戸惑いながらも、持ち主であるホシノはスマホを取り出すとスピーカーモードにしてから通話ボタンを押す。
『……小鳥遊ホシノ。《生徒会の谷》に来い。列車砲はそこにある。来なければ私が列車砲を動かし……アビドスへと撃ち込む』
電話の相手はそれだけ告げると一方的に通話を切る。アビドス高校を盾にした一方的な要求にノノミは困惑し、ホシノとヒナ、恭介の三人はピリついた空気を纏っていく。
「今の電話の相手って……」
「あの眼帯ちゃんだね。眼帯ちゃんがカイザーと一緒だったことには驚きだったけど……」
「完全になりふり構わなくなってきたわね。この分だと、シェマタの破壊すら危険ね」
「そうだな。今のでヘリを完全に見失ってしまった……先ずはシャーレの先生達と合流しましょう」
変身を一旦解除した恭介の提案にホシノ達は反対することなく頷き、建物の一階へと降りて外へと出る。その間でノノミに今回の黒幕について簡単な説明を終えたタイミングで、シャーレの先生達が駆け寄って来る。
「みんな!契約の方は……!?」
「契約の方は問題ないよ。ただ……ゴールドカードが眼帯ちゃんに奪われて、列車砲のある場所に向かわれた」
ホシノの現状報告に、一瞬だけ気が緩みかけていた一同の気が引き締まる。シェマタを動かす為の鍵と、シェマタがある場所に眼帯ちゃん……スオウが向かっているのだから。
「彼女は小鳥遊ホシノを指名して、来なかったら列車砲でアビドスを破壊すると脅してきた。黒幕が彼女の中の何を使って動かしているかは分からないけど、このままだとシェマタは彼女によって動かされる可能性が高い」
「彼女は《生徒会の谷》という場所に列車砲があると口にしていました。ホシノさん、その場所はご存知なのですか?」
「うん。彼処は記録ではアビドスの資料館だった筈だよ。古い記録だったし、展示品も借金返済の足にされて放棄されたとばかり思っていたけど……」
「そこを、列車砲の格納と整備の施設として再利用されてたんだね?一から作るより、既にある建物を利用する方が安く済ませられるだろうし」
「……たぶん、ね」
アツコの見解に、ホシノは複雑な気持ちで答える。昔、調べるだけ無駄だと切り捨てた場所に最悪の兵器が眠っていたのだから、ホシノの心中は穏やかではいられない。
「もし、あの時に見つけていれば……切り捨てずに調べていれば、今の状況には……」
「それは違うよ。ホシノ」
拳を強く握り締め自己嫌悪に陥りかけたホシノに、シャーレの先生は優しげな言葉で否定する。
「もし、ホシノが言うあの時に列車砲を見つけていたとしても、きっと直ぐにどうこうはできなかったと思うよ。最悪、カイザーの手に早々に渡っていたかもしれないしね」
「それは……あり得るかも。借金の肩代わりとして回収されたかもしれないし……」
「その意味では、このタイミングで見つかったのは幸運かもしれないですね」
「そうですよ!むしろ、私が勝手に動いたせいでもあるんですから!」
「ん。それに、結局悪いのは裏でこそこそしている黒幕」
「ん。だからホシノ先輩は自分を責めなくていい」
「……ありがとね、みんな」
後輩達からも励ましを受け、ホシノは少しだけ肩の力を抜いたように返す。そんなホシノの態度に一先ずは安心したシャーレの先生は、恭介へと話し掛ける。
「恭介さん。プラナからの報告だけど……黒幕が潜んでいる場所の特定が出来たみたいなんだ」
「本当ですか?それなら……」
「ただ……普通では意識を飛ばすのが限界みたいで、乗り込んでも直ぐに弾かれてしまう可能性が高いみたいなんだ。……恭介さん以外だと」
シャーレの先生のその言葉に、恭介はその意図を正確に察する。
「私なら、肉体ごと【混沌の領域】に行けるんですね?」
「うん。変身状態であれば、プラナのサポートがあれば乗り込めるよ」
「なら、そちらはお任せします――ルーラーメアカプセム!」
恭介は手を空に向かって掲げ、【ルーラーメアカプセム】を呼ぶ。呼び掛けに応えた【ルーラーメアカプセム】は恭介の手に収まり、そのままバックルへとセットされる。
――インフィニティ!
「それでは、お願いします!」
「プラナ、お願い!」
シャーレの先生がプラナに指示を出すと同時に、恭介はボタンスイッチを押し込み変身シーケンスへと移る。直後、浮遊感を覚えると同時に、何かに引っ張られるような感覚が恭介へと降りかかる。
『転送、開始します!』
――エクスキューショナー、ナイトシステム!――ライダー、アリウス!インフィニティ!
飛んでいるのか、それとも落下しているのか。不思議な感覚の体験と共に恭介は《ナイトアリウス・インフィニティ》に変身しながら、少女の声を背に【混沌の領域】へと向かうのであった。
「な、何とか首の皮一枚が繋がりました……!これぞまさに紙一重……!小生の勝利への逆転の一手……!」
地下生活者は額から汗を流しながら、何とか盤面が繋がったことに安堵する。あのままでは本当に地下生活者の敗北で終わるところであった。接続が断たれている間に、ここまで不都合な方向にゲームが進んでいたのは本当に予想外だった。せっかくの仕込みが悉く粉砕され、あわやゲームオーバー直前であった。
だが、最後に笑うのは地下生活者自身。【混沌の領域】からの干渉は防げないし、止められもしない。シェマタを動かす鍵たるゴールドカードを、強制介入によって十六夜ノノミから朝霧スオウへと移動させた。かなり強引ではあったが、介入の影響が強い朝霧スオウであれば何とか成立した。
後は朝霧スオウを暴走させてシェマタを使わせ、アビドスを滅茶苦茶にするだけ。それで小鳥遊ホシノの精神を再び揺さぶり、絶望へと叩き落とす。本来想定していたイベントから大分離れてしまったが、仕方ない。悪いのは、チートを使ってゲームを乱した先生達だ。
「第六の古則、『非有の真実は真実であるか』……この古則の答えに辿り着いた時、小生は“気付き”に至る。ホルスが苦しみによって反転すれば、死は苦しみと同等であると証明される……これこそが、古則の答え――」
「ならば、自分自身で確かめるがいい」
「は――」
突然の声に地下生活者は間の抜けた声が洩れると同時に、顔面に強い衝撃が走り、その場から吹き飛ばされる。顔の痛みから殴り飛ばされたと理解した地下生活者は、痛みを覚えながらも顔を上げる。
そこに立っていたのは……地下生活者のキャンペーンを邪魔した人物がマッシブになったような、背筋が凍るような迫力を感じさせる人物であった。
プラナによる捕捉
地下生活者が【混沌の領域】による強制介入でゴールドカードの所持をノノミからスオウへと移す。偶然落としたゴールドカードを運よく目を覚ましたスオウが拾い、プレジデントもそれに気付いた上で共に部屋を後にした。更にホシノへの精神干渉も再開した事で、警戒していたプラナによって完全に捕捉される最悪の結果を招いた。