夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
「ここが【混沌の領域】……まるで宇宙空間だな。性質にさえ目を瞑れば」
プラナのサポートにより【混沌の領域】へと侵入した恭介は、周囲を見渡してそう呟く。景色としては感慨深く感じる場所であるが、内包している性質によって印象はマイナス方向へと振り切れている。
『肯定。ここはあらゆる可能性が入り雑じり、現実と非現実の境界が取り払われている場所です。【ナラム・シンの玉座】と違って空間そのものは動きませんが……干渉力は【ナラム・シンの玉座】よりも遥かに上です』
「この声は……」
『プラナです。この空間の性質から、本来は先生しか認識できない私もこうして貴方と話すことが出来ています』
【混沌の領域】の性質から、かつての【ナラム・シンの玉座】と同じくシャーレの先生以外にも認識されているプラナが恭介に対してそう告げる。その言葉に、姿は見えずとも恭介は納得して深々と頷く。
「そうか……私を基点にしてモニタリングしているんだな」
『肯定。先生達は現在、ホシノさんを含めた皆さんと一緒に《生徒会の谷》へと向かっています。アロナ先輩も目を覚ましましたので、こちら側の指揮にも影響はありません』
「なら、私が為すべき事を為すとしよう」
恭介はどこか底冷えする声色で告げると、【混沌の領域】内を歩いていく。少しして、如何にも怪しい人物が虚空に向かって何かを呟いていた。
「第六の古則、『非有の真実は真実であるか』……この古則の答えに辿り着いた時、小生は“気付き”に至る。ホルスが苦しみによって反転すれば、死は苦しみと同等であると証明される……」
その人物の呟きによって、この浮浪者のような見た目の人物が今回の黒幕だと恭介は確信する。そして、そのホルスがホシノだと察して狙いも黒服と似たようなものだとも気付く。
「これこそが、古則の答え――」
「ならば、自分自身で確かめるがいい」
黒幕――地下生活者の宣言を遮るように、目と鼻の先まで距離を詰めた恭介は容赦なく顔面を殴り飛ばす。悦に入って接近に微塵も気付いていなかった地下生活者はモロにその拳を喰らい、吹き飛ばされて転がっていく。地下生活者は殴られた頬を押さえて顔を上げると、幾つも時計のような眼を見開いて驚愕する。
「だ、誰だ貴様はッ!?ここは小生の領域ッ!部外者が勝手に入ってくるんじゃねぇ!!!」
地下生活者は激昂して恭介を【混沌の領域】から叩き出そうとするが、意識だけを飛ばした訳ではなく直接乗り込んできている。その為、接続の強制切断という的外れな対処は完全に空振りに終わってしまう。
「な……ッ!?接続ではなく、直接乗り込んで来たのかッ!?こんなの……こんなのはチートだぁああああああああああッッッ!!!」
恭介の排除に失敗した地下生活者は、意図も簡単に乗り込んできた事をチート扱いして絶叫する。その苛立った感情のまま、地下生活者は吼え続ける。
「ルールは!?コデックスは!?ゲームでソレはズルだろう!?小生のキャンペーンを、薄汚い真似でめちゃくちゃにしやがってぇえええええッッッ!!ゲームで直接乗り込んで来るのは、明らかに無しだろうッ!?」
「……ゲーム、だと?」
地下生活者の叫びに対して恭介が問い掛けると、地下生活者の機嫌が少しだけ良くなる。そのまま畳み掛けるように、自身の持論を口にしていく。
「ええ!そうです!!これは小生と、シャーレの先生の対戦ゲームッ!!部外者のお前が、小生のゲームに介入するなど――」
「なら、そのゲームは最初からお前の
地下生活者の宣言に対し、恭介は最初から負けていると断言する。いきなり敗北者の烙印を叩き付けられて言葉の詰まった地下生活者に、複眼を若干光らせた恭介は丁寧にその理屈を説明していく。
「お前はシャーレの先生との対戦ゲームだと口にした。対戦ゲームであれば、相手側が承認しないと成立しない。にも関わらず勝手にゲームと呼称して始めていき、対戦相手側の盤面を勝手に操作した。その上、プレイヤー指定しておきながら、キャラクターとして排除しようとした……それも、悪質なチートを何度も使ってな」
対戦ゲームの大前提は、互いに承認することだ。互いに面と向かい、合図と共にゲームは開始となる。だが、地下生活者は一方的にシャーレの先生を対戦相手とし、本人の了承も認識もないままに勝手に始めていった。
更には【混沌の領域】による強制介入の力を際限なく使い、ゲームで言うところのデータ改竄を何度も行っていた。自ら望むイベントを勝手に挿し込み、強引にフラグを回収して盤面を自身の望む方向へと無理矢理進めていた。
そんな恭介の反論に対し、地下生活者は理解できないと言いたげに吼える。
「しょ、小生のコレはチートではない!コレは【混沌の領域】の性質!元からあるものを、小生は利用していただけだッ!!」
「その理屈が通るなら、私達のもチートではないな。持っているものを使っているだけだからな」
苦し紛れの地下生活者の反論でさえ切り捨てた恭介は、これ以上の問答は無用と言わんばかりに地下生活者へと近寄り首根っこを掴む。
「せっかくだ。私もお前の理屈に沿ってゲームを始めるとしよう。内容は……対戦格闘ゲームだ」
恭介はそう告げると同時に、地下生活者の顔面を再び殴り飛ばす。顔面を再び殴られて転がる地下生活者は、両手で顔を押さえながら逆上したように叫ぶ。
「ふ、ふ、ふ、ふざけるなぁッッッ!!!こんなのは、ゲームじゃねぇだろうがッ!!!こんなふざけた理屈が――」
「お前の理屈に沿っただけだ。対戦相手を指定し、勝負を仕掛ける……これがお前の口にした“ゲーム”の概要だ」
もう口論する価値もないと言わんばかりに、恭介は地下生活者を容赦なく攻撃を仕掛けていく。ロクに戦闘経験も技術もなく、ゼッツのカタストロム並みの暴力フォームの攻撃を何度も喰らう羽目になった地下生活者は、徐々に心が折れ始めていく。
「痛い……いだいぃぃ……こんなの、ゲームじゃ……」
「どうした?反撃しないのか?対戦格闘ゲームだから、お前も殴り返していいんだぞ?」
「こんなの、理不尽だぁ……」
「その理不尽を、お前はしてきただろう。安全圏から一方的に嬲り、過去を踏みにじり続けておきながら、一方的な被害者面をするな」
地下生活者の嘆きさえ、恭介の正論によって容赦なく粉砕される。ユメが残した贈り物を悪用し、祈りを呪いに変えようとした。憶測ではあるが、死ぬ間際の最後までホシノのこれからを案じていたであろう彼女の想いを、地下生活者は悪意を以て足蹴にした。それも、後輩であるノノミ達まで苦しめる形で。
その結果がシロコ*テラーとプラナ、今は亡きプレナパテスなのだろう。もしかしたら、バニタスが経験した悲劇にも関与していたのかもしれない。ある意味全ての元凶とも呼べる地下生活者に、《審判者》の影響が強く出ている恭介は徹底的に潰すと決める。
『ええ。思いっきりやって下さい。コイツのせいで先生は徹夜続きが確定しているんですから。むしろ生ぬるいくらいです』
『プラナちゃん、目が据わっててすっごく怖いです……』
ちなみに、この状況をモニタリングしているプラナは殺意全開。アロナはそんなプラナに軽く引いている。【シッテムの箱】で覗いている一同もドン引きか、もっとやれの二つに分かれている。一番の被害者はもっとやれ派だ。
そうして追い詰められていく地下生活者は、這いずりながらも足掻こうとする。ルールを無視した方法で。
「こ、こうなったら五つ目の攻略法……『チートにはチートで対抗する』を使うしか……ホルスと敵対する、【セトの憤怒】を……」
「最初から最後まで、チートしか使っていないだろう。それにこのゲームは一対一の殴り合いだ」
地下生活者が懲りずに強制介入の力を使おうとするより早く、恭介はマウントを取って容赦なく拳を叩き込んでいく。一発一発、丁寧に恐怖と苦しみを刻み込むように、重い拳を何発も地下生活者へと与え続けていく。
何度も何度も殴られ続けた地下生活者は、ついに心がへし折れる。
「ィィ……いだい……ぐる、じい……もう、小生のまげでいいがら……二度ど、かがわらないがら……」
「信用ならん。お前はコデックスとやらが更新されれば、性懲りもなく新たなキャンペーンを始めるのだろう?フランシス……匿名の行人がお前を釈放した時のように」
地下生活者の懇願を、【混沌の領域】と《審判者》の力で過去を覗き見た恭介はバッサリと切り捨てる。そして、【ルーラーメアカプセム】のボタンスイッチをカウントダウンのように押し込んでいく。
「だから、お前を此処で確実に排除する」
一回。
「二度と此度のような出来事が起きぬように……悲劇を起こさせぬように」
二回。
「これが私からお前に送る……とっておきの贈り物だ。お前が自身が望んだ、“死”と“苦しみ”のな」
三回。
ボタンスイッチを三回押した恭介の右拳に、背筋が凍る圧を発する黒い靄が焔のように溢れていく。強烈な“死”の予感――それを前ににした地下生活者はイヤだイヤだと言わんばかりに首を振っていく。
「や、やめ――」
『インフィニティ、リベイク!』
地下生活者の懇願も虚しく、恭介の振り上げた右拳が地下生活者の顔面に向かって振り下ろされる。
地下生活者の認識では、振り下ろされた拳は地下生活者の顔面を捉え――押し潰されたように粉砕された感覚が襲い掛かる。その圧倒的な“死”を感じたまま、意識が闇の中へと消えるように沈んでいった。
――実際は寸止めで終わっていたが。最も、地下生活者が目覚める事は二度とない。覚めぬことなき永遠の悪夢――多種多様の様々な死を経験し、死ぬ度に夢の中で目が覚める……地獄の無限ループに囚われたのだから。
『……お疲れ様でした、恭介さん。これで終わり――』
「いいや。まだ終わりじゃない。もう一人、落とし前を付けるべき存在がいる」
プラナの労いに対して恭介はまだだと告げ、《審判者》として【混沌の領域】と《明晰夢》の力を掛け合わせて、目の前に白い扉を作り出す。
原作のゼッツに登場した、夢主の深層心理に入り込む扉……厳密には別物だが、対象に干渉できるという点では同じと言えるだろう。
恭介はその扉を開き、その先にいたムンクの叫びのような絵画――フランシスと相対する。
「貴様は……!」
「始めましてだな、フランシス。随分とふざけた真似をしてくれたな」
フランシスは突然甦った意識にも驚いていたが、目の前の人物――剣呑な雰囲気を放っている恭介を見て、直ぐに状況を理解する。
――けしかけた旧友の地下生活者は失敗したのだと。フランシスが描いた“変化”はもたらされず、破滅で終わったのだと。
自身の目論見が完全に失敗したと悟ったフランシスに構わず、恭介は再び【ルーラーメアカプセム】のボタンスイッチを三回押す。
「お前も永遠の悪夢に閉じ込める。二度と表舞台に上がらせはしない」
『インフィニティ、リベイク!』
恭介の死刑宣告のような言葉に、フランシスはこれから自分に何が起きるのかを察し、全身に恐怖を覚えていく。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
これから訪れるのは、二度と覚めない永遠の悪夢。デカルコマニーの人格に未来永劫選ばれない、ある意味では明確な“死”。フランシスは逃れようと足掻くも、
始めて感じた恐怖からフランシスが悲鳴を上げる中、恭介の拳から放たれた黒い靄がフランシスへと直撃する。自らの視界が真っ黒に塗り潰されていき、フランシスの心は絶望へと染まっていく。
「何故だ……何故こうなった……!?私は、捻じ曲げられたジャンルと物語を是正しようと――」
「それ自体が、大間違いなんだよ。三流」
突然の第三者の声に、フランシスは意味が分からずに困惑する。そんなフランシスに構わず、その声は言葉を続けていく。
「物語とジャンルを捻じ曲げた?いいや、現実は物語でもなければジャンルも決まっていない。単に自分が好むジャンルを都合よく当てはめただけだろう。仮に物語とジャンルを決めるとしても、過去を振り返った時だ。現在と未来……それぞれの物語が切磋琢磨でぶつかり合うものを、お前は無視して断罪しようとした」
その声はフランシスの価値観と認識を真っ向から否定し、粉砕していく。
「そもそもの話、お前が青春の物語は終わったと断言した時でさえ、重要な伏線を見逃していた。シロコ*テラーの葛藤、プレナパテスの揺るがぬ信念……私の本当の願いをな」
その言葉と同時にフランシスの前に声の主――バニタスが姿を現す。もう存在しない筈の人物の登場にフランシスは言葉を失っていると、その内面を見透かしたようにバニタスは語りかける。
「ああ。今の私は本人ではなく空想上の人物だ。ただのイメージでしかないが……あの青二才と同列のお前には十分だろ?」
「な、な、な……」
「それじゃあ、じっくり聞かせてあげようか。お前の三流ぶり……黒服ちゃんどころか、ゴルコンダちゃん以下のお前に、自身の駄目さ加減を親切丁寧に教えてやるからさ。感謝してくれよ?舞台装置にもなれなかった、置物ちゃん♪」
「ぁああああああああああああああ――ッ!!!」
自身の尊厳がこれから容赦なく踏みにじられ続ける事実に、フランシスは発狂する。幾ら発狂しても、この悪夢は終わらないし、変えられない。変わるとしたら、踏みにじる人物が変わるだけだ。
そんな尊厳破壊の悪夢をプレゼントした本人である恭介は、終わったと言いたげにフランシスの意識へと繋がる扉を消し去る。
「……終わったな」
『肯定。此方もホシノさんが単独で朝霧スオウさんを制圧し、ゴールドカードも取り返しました。彼女も干渉の影響が完全に消えたことで、意気消沈しています』
プラナから現実側でも決着がついたと語られ、地下生活者による暗躍は幕が引かれ――
――ォォォォォォッ……
そんな終わりを拒むかのように、遠吠えか雄叫びのような音が【混沌の領域】に響き渡った。
地下生活者の見る悪夢
焼死、溺死、出血死、圧死、窒息死等、様々な死と苦しみを経験し、死ぬ度に目が覚めたように元に戻る無限仕様。中には一度上げてから奈落に叩き落とすパターンもあり、地下生活者の精神を容赦なく削っている。
「夢なら……夢なら覚めてくれぇええええええええええッ!!!」
フランシスの見る悪夢
常に誰かから認識と理屈を論破された上で否定され続けてる。ある意味では見下していた地下生活者と同列扱いされた上に、ベアトリーチェ以下だと断言されて精神はズタボロ。加えて二度と表に出てこれない事もあり、後悔と絶望の渦に沈んでいる。
ちなみにデカルコマニーにも多少なりとも影響があり、フランシスに近い人格は二度と表に出てこなく、生まれる事もなくなった。
「あ……あ、あ……あ……」