夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
――《生徒会の谷》にて。
「……何故だ。何故、勝てない……まだ、力が足りなかったのか……アビドスを、否定する力が……あれほど、砂漠を彷徨ったのに……」
もはや満身創痍となったスオウは、殆ど無傷に等しい人物――ホシノを睨み付けながら恨めしそうに呟く。
ホシノが一人でなく、シャーレの先生や対策委員会の者達と一緒に来たのは予想外であった。だが、ホシノが自らタイマン勝負を持ち掛けた事でスオウの当初の目論見通りに行き――圧倒的な“差”を叩き付けられた。
そんなスオウに対し、八つ当たりも兼ねて全力で相手したホシノは率直な疑問をスオウにぶつける。
「……眼帯ちゃんは何がしたかったの?私募ファンドやネフティス、カイザーまで裏切って……ユメ先輩の手帳の事まで持ち出してさ」
裏切りに関しては、裏事情を考慮すれば分からなくもない。真の黒幕――地下生活者によってそうなるように誘導されたのだから。地下生活者の目的――ホシノを【色彩】を介さずにシロコ*テラー同様に反転させる為に、ホシノを苦しめて精神的に追い詰める為にアビドスとノノミ達を危険に晒したのであれば、まだ理解はできる。当然、ぶちギレたが。
それでも、スオウを此処まで都合よく動かすには、彼女自身がアビドスに対してそこまでしかねない何かがないと実現しない。【混沌の領域】は可能性が微塵も無ければ、望んだ“結果”を叩き出せないのだから。ましてや、干渉が途中から止まっていれば尚更だ。特に手帳に関しては、スオウ自身が深く調べないと知りようがない。
そんなホシノの問い掛けに対し、何も知らないスオウは何処か嘲るように言葉を返す。
「……いつまでも過去に囚われているとは、愚かだな。部室にあった写真といい、未練がましいにも程がある。二年経った今でも見つかって――」
「手帳の事を言っているなら、とっくに見つけたよ。中身にも目を通して……中の写真だけ残して、供養の為に燃やした」
ホシノが明かした事情に、スオウは虚を突かれたように言葉を失う。その表情には、あり得ないと言わんばかりに目が見開かれている。
「見つけた……?それに、燃やしただと……?あり得ない……過去に囚われている筈の貴様が、何故――」
「おじさんから見たら、過去に囚われているのは眼帯ちゃんの方に見えるんだけど?だから、もう一度聞くよ?――本当に何がしたかったの?」
ホシノの再度の問い掛けに、スオウは答えない。答えられない。
ホシノと戦う為だったと戦う前に告げたが、それでさえ無理矢理の後付けだ。スオウは《生徒会の谷》に到着してホシノを待つ間に、自分が何をしたかったのか、何を証明したかったのかが分からなくなっていた。否、最初から分かっていなかった。ずっと、何かに駆られるように動いていただけなのだから。
何も答えない……答えられないスオウに、大して答えを期待していなかったホシノは近づくと、スオウの懐へと手を伸ばす。スオウの懐を探っていき、そこから目的の物――ゴールドカードが取り出される。
「これは返してもらうよ。本当に破壊するのに必要かどうかは別としても、列車砲を動かさせるわけにはいかないからね」
「…………」
事実、列車砲は外からの供給に一切頼らない、自前の太陽光発電で十全に動く兵器だったのだ。それも撃ち出されるのは砲弾ではなくプラズマ。出力重視で安定性は度外視しているから起動したら最後、いつ大規模な爆発が起きてもおかしくないという事がシャーレの先生の持つ【シッテムの箱】による解析で判明したのだ。自家発電で全ての動力が賄え、外部からの補給無しで自走できるのは本来であれば偉業の発明なのだが、それが大量破壊兵器技術として使われているから本当に台無しだ。
ゴールドカードも取り返され、打つ手が無くなったスオウ。どこか迷い子のようにも見えるスオウに、シャーレの先生は“先生”として話し掛ける。
「……スオウはどうして、アビドスを否定したかったの?アビドスに何か恨みでもあったの?」
「……恨みという程ではない。苛立ちがあっただけだ」
シャーレの先生の問い掛けに、スオウは素っ気なく返す。
「砂漠化が進み、過疎化も止まらない。事業の衰退、企業の撤退、学校の閉鎖……どう足掻いても終わりしかない場所に、しがみつく意味も理由もない。土地を奪ったカイザーでさえ、目的の“宝”がなくなってすぐに撤退の準備を始めた。そんな無価値で力も失ったこの場所で、諦め悪く復興しようとしている事が腹立たしかっただけだ。お前達の学校でさえ、来年以降に生徒が入ってこなければ自然と廃校となる手前なのにな」
スオウの正論に、対策委員会だけでなくアツコ達も言い返せない。それは紛れもない事実であり、否定できない現状だからだ。
そんなスオウの言い分を聞き……シャーレの先生はそれを認めた上で言葉を続けていく。
「そうだね。確かにアビドスの現状は厳しく、復興も簡単にはいかないだろうね。だけど……それは問題と向き合っている彼女達が決める事だよ。夢を追うのも、諦めるのも、最後に決めるのは本人だからね」
スオウの言い分は確かに正論であるが、それはあくまでスオウが出した結論だ。自分がこうだから、周りもそうすべきと強要するのは間違いだし、安易にすべきことではない。他者の身を案じて強要しているならまた別かもしれないが、少なくともスオウの言葉は自分の為のように感じられる。まるで、自分に言い聞かせているかのように。
「夢、か……叶わない夢など、持つだけ無駄だ。どうせ叶わず無くなるのなら……最初から抱かない方が利口だ」
「スオウにも、“夢”があったんだね?」
シャーレの先生の質問に、反論したスオウは再び口を閉ざす。そんな二人のやり取りを見守っている中、地下生活者の介入とは別でスオウに違和感を感じていたヒナが気付いたように口を開く。
「……そういえば貴女、アビドスの事情にとても精通しているわね。シェマタの件もそうだけど、カイザーが探していた“宝”についても把握していた。どうしてそこまで知っているの?」
ヒナは当初こそスオウは《雷帝》の関係者なのではないかと疑ったが、そのスオウ自身が《雷帝》に対して無関心に近い反応だった。にも関わらず、ヒナとマコトでさえ辿り着けなかった列車砲に……ネフティスでさえ曖昧だった過去のゲヘナとアビドスの繋がりに辿り着いていた。
スオウに対して疑問をぶつけたヒナの言葉に、ホシノも同意するように頷く。
「それはおじさんも感じていた事だよ。手帳の事は白服さんへのお見舞いと、例の契約書の時しか明かさなかった。なのに、眼帯ちゃんは当然のように知っていた……普通でも、そこまで知りようがない筈だよ」
「……調べただけだ。それ以上でも以下でもない」
スオウの答えに、きっと嘘はないのだろう。アビドスの事を調べたのなら、分からなくもない。個人的なものまで調べた事には疑問しか浮かばないが。
そもそもスオウがハイランダーに入学したのも、ネフティスからの依頼だ。令嬢のノノミ……その本人がアビドス高校に入学しなければ、スオウは護衛としてノノミの傍にいただろう。その前はカイザーにも籍を置いていたとも聞いており、積極的にアビドスへと関わろうとしているように見える。
そこまで考えてふと、シャーレの先生はスオウを動かした大元である何かに対して一つの予想が浮かぶ。その予想を確かめるために、スオウに言葉を投げ掛ける。
「スオウ。もしかしてだけど……本当はアビドスが消えて無くなるのが嫌だったんじゃないかな?」
「……!?何を急におかしな事を……!?」
何処か冷めたような態度から一転し、明らかに動揺を見せるスオウ。そのスオウの反応から、シャーレの先生は予想が間違っていないと感じながら言葉を続けていく。
「あくまで私の予想でしかないけど……アビドスを何とかしたいと思って、彷徨っていたんじゃなかな?それで厳しい現実に何度も直面して、アビドスが消えて無くなるのは仕方のないことだと……受け入れるべき現実だと、自分に言い聞かせるように納得しようとしたんじゃない?」
「…………」
シャーレの先生の言葉をスオウは否定せず、沈黙する。それが無言の肯定に近いと察し、セリカが真っ先に疑問を口にする。
「何でそうなるのよ?先生の言葉が本当なら、普通は復興に手を貸すんじゃないの?でも、実際にやっている事はその真逆じゃない」
セリカの疑問は真っ当なもの。アビドスが無くなるのが嫌なのであれば、どうして真逆である抹消に動いたのか。その疑問にも、シャーレの先生が答えていく。
「セリカ。人は自分が諦めたものを他者が実現しようとする姿を見ると、複雑な感情を抱いてしまうんだよ。例えば、そうだね……仮に使い道がないと自分で捨てた物が、別の人の手で多くの人から称賛される使い道を提示されたらどう思う?」
「それは……納得もいかないし、悔しいと思う。凄く未練が残るだろうし……」
例え話でありながらも真剣に考えて答えを出したセリカに、シャーレの先生は頷く。その言葉で、ホシノ達はスオウの抱えていたものの正体を朧気ながらも察していく。
――コンプレックス。
おそらく、スオウはホシノに対して無意識にコンプレックスを抱いていたのだろう。仕方のないものと受け入れようと自身に言い聞かせる中で、アビドスを立て直そうと留まり続けていたホシノは真逆の立ち位置のように見える。ましてや、大切な人との死別まで経験したにも関わらずだ。
「……仮にそうだとしても、先生達には関係ないことだ。それとも、間違いだったとでも言うのか?」
シャーレの先生の予想を否定せず、あくまで仮定の話としてスオウは間違いだったのかと問い掛ける。それに対し、シャーレの先生は首を横に振って否定する。
「スオウの考えも、明確な間違いとは言えないよ。その上で私から伝える事があるとしたら……自分の嘘に呑まれてしまった事かな?」
「嘘に呑まれた……?」
「うん。人は嘘をついてしまう事が多いからね。よく嘘が悪い事だって教えられるけど、嘘も方便という言葉があるように、嘘をつく必要が出てくる時があるんだよ。自分を鼓舞したり、誰かを想っての嘘であれば特にね」
シャーレの先生の言葉に、過去に身売りで後輩達を守ろうとして、悟られないよう周りに嘘をついたホシノが気まずそうに若干顔を逸らす。少々微妙な空気が流れているが、シャーレの先生は構わずにスオウに向かって話し続けていく。
「もちろん、スオウが本当は何を考えているかは私には分からない。大人でも、先生であっても完全に理解することは出来ないからね。だけど、私は“先生”でスオウも私の“生徒”の一人だ。だから、生徒が迷い、悩んでいたら手を差し伸べて一緒に考えるよ。それが、私の考える“先生”だからね」
「……だとしても、もう遅い。ここまでの事をしたんだ。何の咎めもなく、放免されるわけがないだろう」
少なくとも、監督官としての立場は剥奪されるだろう。最悪、ハイランダーから退学させられるかもしれない。少なくとも、それほどの事をしたのだとスオウは暗に告げる。その言葉に対し、見守っていたアツコが率直な意見を口にする。
「そうだね。貴女の上から酷く絞られるだろうけど、その程度で済むと思うよ?」
「は……?いや、その程度で済むわけが――」
「《雷帝の遺産》が表に出る事は避けないといけないし、利用するのも論外だからね。例の契約も所有権はアビドス生徒会……合併した対策委員会のものだから、見方によってはカイザーの暴挙を阻止したようにも見えるよ?」
あまりの暴論に、スオウは開いた口が塞がらない。何より質が悪いのは、それが実現可能であることだ。
「えっと……本当にそれが通せるんですか?」
「普通なら通せないけど、彼女はあちこちにパイプがあったからね。そのパイプが実はもう一つあったとしても、何も不思議ではないからね。口裏を合わせる事が前提になるけどね」
「そうね。私募ファンドもネフティスも、シェマタの危険性を楯にすれば追求はしないでしょう。カイザーは奪取に動いたから、下手につつけないでしょうし」
ヒヨリの問い掛けにアツコは理由を説明し、ヒナも実現可能だと理解を示す。ヒナとしても《雷帝の遺産》である列車砲がこれ以上周りに広まるのは避けたい案件だ。ただでさえ他自治区に《雷帝の遺産》が存在していた事実に頭を痛めていたのに、スオウを処罰すれば自然と経緯まで広まってしまう。それで《雷帝の遺産》探しなど起こされては、堪ったものではない。
「ん。たぶんそれが一番いい。借りがあれば、強請やすい」
「いやいや!強請ったら駄目でしょ!?」
「アハハ……彼女もある意味被害者でもありますから、程々に……」
「アビドスで顔が利きそうですし、調整役としてはこの上ない適任ですからね」
「おじさんもそれでいいかな。正直、張り切りすぎて疲れちゃったし」
一番被害を被った対策委員会も、諸事情や今後の復興のしやすさ等からスオウを排除するより走り回らせた方が都合が良さそうだとお咎め無しの方向で纏めようとしている。被害は未然に防げたし、黒幕の地下生活者がボコボコにされているのも大きいだろう。
「これ、後から大変じゃない?」
「仕事がいっぱい増えるー」
成り行きを黙って見守っていたハイランダーのCCCである橘姉妹も、面倒事に巻き込まれたと思いながらも仕方ないと言いたげな雰囲気を放っている。
「……本当に馬鹿ばかりだな」
「眼帯ちゃんも人の事は言えないでしょ?」
自身に決定権がないと悟っているスオウは悪態を吐くが、ホシノにあっさりと切り返されてそっぽを向く。少なくとも、これ以上の暴挙に動くことはないだろう。
「……ん。良かった、本当に」
その光景をシロコ*テラーは眩しいものを見るかのように羨みながらも、安堵したように言葉を洩らす。
かつての悲劇は潰され、裏に潜んでいた元凶は排除された。仮面ライダーナイトアリウス……自分達の世界にはいなかった、特異な力を持つ大人のおかげで。
シャーレの先生も今回の件が無事に終わりそうでホッと息を吐こうと――
『――先生ッ!緊急事態です!!』
そんな弛緩した空気を破るように、慌てたようにアロナが声を上げると同時に遠くから雷鳴が鳴り響くのであった。
ホシノとスオウのタイマン
原作と違い、大勢で《生徒会の谷》に到着したが、ホシノ自らタイマン勝負を持ち掛ける。理由は黒幕をボコれない事に対する八つ当たり。ちなみにホシノの真の実力を目の当たりにし、その凄まじさに目を奪われる事となった。
シェマタの自家発電機能
シャーレの先生からシェマタの性能を聞き、アツコとヒヨリは使い方が残念すぎると洩らした際に周りから理由を聞かれて返した理由。
事実、発電機構だけ見ればとても便利。プラズマを撃てるという事実さえなければ、本当に世紀の大発明だった。現物には太陽光パネルも見当たらないのも、凄さに拍車を掛けている。