夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
遠くから聞こえてくる、低く唸るかのような雷鳴。
突然の気候の変化にシャーレの先生は多少驚きながらも、緊急事態だと慌てた様子のアロナの方を優先して意識を【シッテムの箱】へと向ける。
「アロナ。緊急事態って、一体何があったの?」
「【混沌の領域】に新たな存在が現れました!その存在がアビドスに干渉して異常気象を引き起こし、徐々に範囲を拡大させて此方へと向かって来ています!」
アロナの早口で告げた現状に、シャーレの先生は驚愕から目を見開く。先程聞こえてきた雷鳴……あれが自然発生したものではなく、【混沌の領域】からの干渉で引き起こされたものだと告げられたのだから。
「肯定。今は恭介さんが妨害していますが、このままではじり貧となります。相手は【セトの憤怒】……【万星の星座】とも呼ばれる、超常的存在が相手ですから」
「……【セトの憤怒】?具体的にはどんな存在なの?」
「分かりやすく説明しますと、かつて先生達が【箱舟】で相対した【嵐の星座】のオリジナルです」
プラナが【セトの憤怒】が何者なのかをこの上なく正確に語ったことで、シャーレの先生は事態の深刻さを概ねとはいえ理解する。
【嵐の星座】……【箱舟】で対策委員会が相手にした存在だ。生み出したバニタス本人もオリジナルには及ばないと口にしていたにも関わらず、ホシノ達を終始圧していた。劣化レプリカでさえホシノ達を上回っていたのに、そのオリジナルが顕れたのだ。
同時にある疑問も浮かぶ。その【セトの憤怒】は何故、【混沌の領域】に顕れたのか。その理由もプラナからもたらされる。
「地下生活者です。アイツが恭介さんに対抗する為に【セトの憤怒】を呼び出そうと干渉した結果、それを窓口にして【混沌の領域】に顕れたんです。本当にふざけた置き土産を残されて、迷惑この上ないです」
そう語るプラナの表情は忌々しさが滲み出ている。地下生活者が指そうとした一手は恭介のリンチに近い殴打で打てずじまいに終わったと思っていたら、実際には呼び出しに成功していたのだから。
ちなみにその地下生活者は、【セトの憤怒】の落雷に何度も打たれている。全身黒焦げとなりながらも、夢から覚める気配は微塵もないが。
「プラナちゃんの話では、【セトの憤怒】は反転したホシノさんの神格を察知しないと本来は顕れないみたいです。それが様々な可能性が入り雑じった【混沌の領域】内だったとしてもです」
「だけど、実際に【セトの憤怒】は【混沌の領域】に顕れている。プラナ、何か心当たりはない?」
「……仮説であれば、説明できます。アレはこの世界の存在ではありません」
シャーレの先生の質問にプラナは少しの沈黙の後、確証はないと告げてから自身の仮説を口にする。
この世界の存在ではない。普通であれば疑問符が浮かぶ説明ではあるが、シャーレの先生はその意味をすぐに理解する。
「今暴れている【セトの憤怒】も、プラナ達のように世界を渡って来たの?」
「肯定。【混沌の領域】はあらゆる次元に干渉できます。近い性質を持つ【ナラム・シンの玉座】を介して私達がこの世界に来たように、【セトの憤怒】も地下生活者の干渉を利用してこの世界の【混沌の領域】へと侵入したと思われます」
事実、プラナもシロコ*テラーもこの世界の存在ではないのだ。【ナラム・シンの玉座】で【箱舟】ごと世界を渡ったように、【セトの憤怒】も【混沌の領域】を利用して世界を渡れても不思議ではない。
「それなら、あの【セトの憤怒】はどこの世界なんでしょうか?」
「それについても説明できます。――私達の世界です」
今顕れた【セトの憤怒】の出所が、かつて自分達が滅ぼした世界だとプラナは告げる。その理由と共に。
「私達の世界では、ホシノさんの反転に呼応するように【セトの憤怒】は顕れました。ホシノさんのヘイローが破壊されてすぐ、【セトの憤怒】は消えたそうですが……当初は世界を滅ぼす為に顕現したかと考えていましたが、実際は逆だったのかもしれません」
「逆?」
「肯定。かつての【セトの憤怒】は世界の破滅を阻止するべく、姿を顕したのかもしれません。記録でしか知りませんが、【セトの憤怒】が顕現しなければ反転したホシノさんによって、世界は破壊し尽くされていたでしょうから」
状況証拠だけとはいえ、プラナの仮説には一定の説得力があるとシャーレの先生もアロナも感じる。
プラナ達の世界ではホシノは反転し、それに反応するように【セトの憤怒】が顕れた。世界を終焉に招く存在が二つ同時に顕れたにも関わらず、実際に終焉へと導いたのはシロコ*テラーだ。
もし、その仮説が正しければ……
「じゃあ、【セトの憤怒】の目的は……」
「私達の世界の砂狼シロコさんかもしれません。少なくとも、一度でも顕現していた存在の方が顕れ易いでしょうし」
【セトの憤怒】の狙いが世界を滅ぼしたシロコ*テラーの可能性があると聞かされ、シャーレの先生は意識を現実へと戻す。雷鳴は徐々にとはいえ大きくなっており、光ってから音が届く間隔も短くなってきている。明らかに此方へと近づいてきている証拠だ。
シャーレの先生は再び意識を【シッテムの箱】へと戻し、現状を打破するべく考えを巡らせていく。
切り札である【大人のカード】を使っても、それだけでは【セトの憤怒】は倒せない。かつての【ヒエロニムス】でさえ、みんなと協力して倒したのだから。
六人では【セトの憤怒】を押し切れない。劣化レプリカの【嵐の星座】にさえ、押されていたのだから。それに【セトの憤怒】の本体は【混沌の領域】だ。恭介以外では意識を飛ばすのが限界の今では、乗り込んで戦う事も出来ない。
「何か方法はないんでしょうか!?このままでは恭介さんはもちろん、世界も……!」
「……方法ならあります」
そんな詰みに近い状況に対し、プラナが手はあると告げる。確かな根拠を持って。
「【セトの憤怒】を意図的に【混沌の領域】から現実へと引き摺り込みます。【ナラム・シンの玉座】を疑似再現し、【混沌の領域】と共鳴させる事で【セトの憤怒】を此方側へと引き寄せます。テクスチャの関係で現実に顕れれば、幾ばくか力が削られます。時間が経てば取り戻すでしょうが、【混沌の領域】に乗り込んで戦うより勝算は高いと判断します」
実際、【セトの憤怒】が顕現したプロセスはかなり強引なものだ。本来の条件を無視し、世界線を越えてまで顕れた。【混沌の領域】の特性と【セトの憤怒】自身の力で天候を操作しているとはいえ、現実へと姿を顕していないのは力が削られてしまうからだ。
「確かに理論上は可能ですが、どうやって【ナラム・シンの玉座】を疑似再現するんですか!?【シッテムの箱】のスペックでは……」
「そちらも問題ありません、アロナ先輩。以前、バニタスに操られていた際、演算装置としても機能していた【ナラム・シンの玉座】のサポート付きで【シッテムの箱】の性能を私が把握している以上に引き出していました。数で表現するなら二倍です」
プラナはアロナにそう告げると、時間の合間を縫って探していたコンテンツを二人に掲示する。
「それを可能としたのが【ペレツ・ウザ】……【シッテムの箱】のこれまでの制限を解除し、演算能力を含めた全ての性能を引き上げます。一人では到底扱えませんが……アロナ先輩と私、二人でなら限定的ではありますが扱うことができます」
「これを使えば、強制弱体化で引き摺り出せるんですね!?さすがプラナちゃんです!」
アロナの称賛にシャーレの先生も素直に頷き、隠されたコンテンツを受け取るべく手を差し出すのだった。
――蒼い雷が雨の如く降り注ごうとする。何もしなければ広範囲に落ちていくのは明白だ。
「ッ!」
『リジェネイション!』
《ナイトアリウス・リジェネイション》へと既に変身している恭介は、能力を発動させてから足下を叩いて自身の周囲に鋭角な錘――避雷針を幾つも作り上げ、【セトの憤怒】が放つ落雷を遠くへ放たせずに近くへと留めようとする。
恭介が作り上げた避雷針は【セトの憤怒】の雷撃を次々と引き寄せるも、間髪入れずに弾けるように粉砕されていく。
避雷針が粉砕され、【セトの憤怒】は落雷だけでなく雷で構成された極太レーザーも放つ。その猛攻は、まさに嵐と雷そのものと言っても過言ではない。
恭介が何故《インフィニティ》から《リジェネイション》へと変身し直したのか。状況から察する通り、落雷が現実の気候へと干渉しているからだ。無造作に放たれている落雷は放置すれば、現実の落雷の範囲を大きく拡げてしまう。その落雷の威力も、砂に埋もれた列車を一発で黒焦げに変えてしまう程だ。
恭介は【セトの憤怒】が放つ雷撃を避けながら、ランチャーモードの【ブレイカムバスター】で牽制して注意を引いていく。奥の手の【ミラクルドリームライズカプセム】はまだ使えないし、今使っても焼け石に水だからだ。【セトの憤怒】の存在感は、今まで感じた中で比較対象がない程に大きいのだから。
『――お待たせしました、恭介さん。此方の準備は完了しました』
「やっとか……」
事前に作戦を伝えていたプラナから連絡が届き、恭介は仮面の下で笑みを浮かべながら【ルーラーメアカプセム】をバックルから取り外し、【ミラクルドリームライズカプセム】をセットする。同時に【ナイトインヴォーカーバックル】も専用の【アリウスドライバー】へと変化する。
――ホープライズ!
【アリウスドライバー】のピンスイッチを押し込み、変身待機音を待たずして恭介は【ミラクルドリームライズカプセム】のレバーを押し込んで変身シーケンスへと入る。
――オールナイトシステム!アーカイブライダー!アリウス!――ミラクルドリーム!
《ナイトアリウス・リジェネイション》から《ナイトアリウス・ミラクルドリーム》へと姿を変えた恭介は、間髪入れずに能力を発動させる。
『ホープライズ!』
『プロセス【ペレツ・ウザ】、限定駆動開始。【セトの憤怒】を【混沌の領域】から引き摺り出します』
『ここからはスーパーアロプラタイムです!!』
【ミラクルドリームライズカプセム】の能力と【シッテムの箱】。二つの能力が噛み合わさり、現実で疑似再現された【ナラム・シンの玉座】と【混沌の領域】が共鳴し――【セトの憤怒】が現実へと引き摺られていく。
『――――ッ!!』
【セトの憤怒】は状況を直ぐに理解したのか、【混沌の領域】に留まろうと巨大な両腕で虚空を掴み、抗おうとする。このまま現実に引き摺りこまれれば存在が不安定となり、維持するのにかなりの力を使う羽目になるからだ。
【セトの憤怒】は抵抗するも【混沌の領域】内に留まり切れず、恭介と共に最も影響力が強かった大オアシス跡地へと引き摺り降ろされる。現実に無理矢理連れて来られた【セトの憤怒】の巨体がノイズが走ったかのようにブレるも、存在感が弱まると同時にブレが収まっていく。
ブレが収まり、存在が安定した【セトの憤怒】は怒りの咆哮を上げるかのように、自身から放たれている雷光を一際強く光らせる。明確な敵意も発せられており、無骨な顔らしき部位もシロコ*テラーに向けられているようにも見える。
そんな【セトの憤怒】と相対するのは……対策委員会の全メンバーとシロコ*テラー、ヒヨリにアツコ、ヒナとスオウと恭介を含めた11人。【ペレツ・ウザ】によって一度に指揮できる人数が12人となったことで、取れる戦術と戦略の幅も広がっている。
『ホープライズ!』
更に恭介が【ミラクルドリームライズカプセム】の能力で、シャーレの先生の指揮下にある全員の力をカプセムの力で底上げする。蓄積していた疲労と傷も回復させて、万全の態勢を整える。
そうして、一同は【セトの憤怒】を撃破すべく行動を開始していく。
【セトの憤怒】は幾条もの落雷を放ち、近づく敵を、憎きシロコ*テラーを撃ち抜こうとする。その落雷をある者は避け、ある者は防ぎ、落雷は意図も容易く対処されていく。
落雷の雨を掻い潜り、シロコとシロコ*テラーは挟撃して【セトの憤怒】に銃弾を撃ち込んでいく。シロコは愛銃のアサルトライフル一丁だけだが、シロコ*テラーは自身の愛銃だけでなく、遺品でもあるセリカのアサルトライフルも構えた二丁で撃ち込んでいる。
【セトの憤怒】はシロコ*テラーに身体を向け、その巨腕を叩き込もうと振りかぶるも、背後から現れた二人によって妨害されてしまう。
「隙だらけだな」
「背後ががら空きだよ~」
スオウとホシノはそれぞれのショットガンを構え、その無防備な背中に何発も撃ち込む。銃弾の威力さえも底上げされており、【セトの憤怒】は仰け反るように動きを止めてしまう。
「こちらも負けてられないね」
「あたしだってやれるわよ!」
アツコもサブマシンガンから弾丸を次々と放ち、後に続くようにセリカもアサルトライフルを構えて連射していく。ノノミとヒナも圧倒的な弾幕を張り、容赦なく【セトの憤怒】の身体を穿っていく。
【セトの憤怒】は雷を前方に溜めてビームを放とうとするも、【シッテムの箱】で呼び寄せた雨雲号からのミサイルと、対物狙撃銃による狙撃を叩き込まれて阻止されてしまう。
『ホープライズ!』
恭介は【アリウスドライバー】から【ミラクルドリームライズカプセム】を外してレバーを押し込んでから、ランチャーモードの【ブレイカムバスター】にセットして再びレバーを押し込む。
『ホープライズ!』
『ブレイカムキャノン!』
【ブレイカバスター】の銃口から、七色に輝く光線が放たれる。放たれた光線は【セトの憤怒】の身体を撃ち、大きく仰け反らせる。
【セトの憤怒】が怯んだ隙に恭介は【タツマキマグナム】と、【プラズマカプセム】を入手したことで呼び出せるようになった武器――【イナズマブラスター】を手元に召喚する。【タツマキマグナム】には【イレイサーカプセム】、【イナズマブラスター】には【PZブースターカプセム】が既にセットされており、どちらも必殺待機状態だ。
その二つの武器を、恭介は一切の躊躇なく空へと放り投げる。放り投げられた二つの武器は、シャーレの先生の指揮で既に動いていたホシノとスオウによって掴まれ――【セトの憤怒】へと向けられる。
『ブースター!サンダー!』
『イレイサー!ストーム!』
スオウが構えた【イナズマブラスター】から光速を越えた雷の矢が、ホシノが構えた【タツマキマグナム】からは消し飛ばす嵐の弾丸が放たれる。認識さえ許されない雷の矢に穿たれ、掻き消す嵐の弾丸を叩き込まれた【セトの憤怒】は前のめりに倒れていく。
それでも背後に携えた雷だけは強く輝くも……容赦なくトドメが刺される。
『ファイナル!マックス!クラッシャー!』
いつの間にか【セトの憤怒】の真下にいたシロコ*テラーが、【ルーラーメアカプセム】がセットされた【トリプルランチャー】を上空に向けるように構え、膨大なエネルギーによるビームを躊躇なく放つ。
膨大なエネルギーの砲撃に晒された【セトの憤怒】は激流に呑まれるかのように押されていき、遥か上空で盛大な爆発に呑み込まれる。
爆発から破片が幾つも降り注ぐも、破片はノイズが走るかのようにブレると同時に消えていく。
地下生活者の置き土産ともいえる【セトの憤怒】は……シャーレの先生達の活躍によって撃退されて終わるのであった。
【セトの憤怒】
かつてシロコ*テラーの世界に現れた、超常的存在。本来はホルスに反転したホシノの神格によって顕現するのだが、世界を滅ぼした
【混沌の領域】の特性と自身の権能を掛け合わせることで、異常気象として現実に干渉する。【混沌の領域】内で顕現した為、ゲームで言うところの最大強化状態を最初から維持できている。
自身を都合よく利用された事と世界が滅んだ事により、文字通り憤怒に染まっている。地下生活者に対しての執拗な落雷もそれが理由である。
本来であれば《ナイトアリウス・ミラクルドリーム》でも厳しい相手であったが、強制弱体化と自陣の強化の重ね掛けによって撃退に成功した。
大オアシス跡地での戦闘
セトとホルスの因果が最も深い場所。かつて黒服がこの地を実験場としたのも、“実験”の成功率を上げつつ失敗に終わった際の対処のしやすさから。今回の異常気象も大オアシス跡地から発生している。
【セトの憤怒】を現実に引き込む際も、異常気象の中心地が大オアシス跡地であった事もあり、その場にいた全員で急行した。橘姉妹は運転に全力を出した為、決戦には不参加。
地下生活者のその後
完全放置された地下生活者は、後に事態を把握した黒服によって隔離空間へと戻される。その後、シャーレの先生宛に今回の件に対しての詫びの手紙を出す。
黒服にとっても今回の地下生活者のアプローチは最悪の類であり、“キヴォトス最高の神秘”が無駄な形で損なわれずに済んだと安心している。何せ、“死”は“苦しみ”で代用できる証明はホシノである必要性が全くない。実際、過去に苦しむ生徒であれば幾らでも“実験”できてしまうのだから。特に百鬼夜行の自治区にいる生徒二名。
当然、地下生活者は今も悪夢に苛まれている。幽閉されていても普通に生きていた事から、唯の放置で死ぬことはない。そんな地下生活者の末路に黒服は多少同情しながらも、ある意味研究に没頭できて満足でしょうと皮肉を呟いた。