夢の力で青春を手助け 作:ライダー志望
⊥月∞日 晴れ
一週間の入院生活から無事に?脱却した。再び書類レースに突入する羽目になるけど。
やはり【ミラクルドリームライズカプセム】は本当に奥の手でしか使えませんね。一週間の入院生活の間、《明晰夢》の力も使えない感じでしたから。寝ている間の記憶がすっぽり抜け落ちていますし、偶然と片付ける訳にはいきません。少なくとも、これが“代償”の一つなのでしょう。一時的なものなのか、最後には力を喪うのかは、判断できませんが。
どちらにせよ、【ミラクルドリームライズカプセム】の多用はこれからも厳禁ですね。今回の【セトの憤怒】のような、本当に危機的状況へとならない限りは。
そろそろ、今回の事件について書くとしましょう。書けない部類もある為、細かな部分は書けませんが。
今回の黒幕……元《ゲマトリア》の地下生活者がフランシスの手によって解放され、明確な悪意を持ってアビドスとシャーレの先生に手を伸ばしていた。その方法も、かつてベアトリーチェが利用した空間【混沌の領域】を使って。
ベアトリーチェは小さな事象や性質を逆手に取った方法で使っていたが、地下生活者はかつてゴルコンダが語ったように直接的な方法で干渉していた。シャーレのビルのガス爆発もその一つだ。
その地下生活者の目的はホシノさんを精神的に追い詰め、死を望む程の苦しみで“恐怖”へと反転させること。【色彩】によって反転したもう一人のシロコさんとは違い、【色彩】を介さずに反転させようとしていた。それも、シャーレの先生への対戦ゲームという形で。
最も、ゲームの体裁すら保てていない、悪質な一人遊びでしかなかったが。《審判者》の力も利用して地下生活者の記憶を軽く覗いたが、その言動に一貫性が全くなかったのだ。過程が重要だと口にしながら、求めているのは結果ばかり。シャーレの先生をプレイヤー指定しておきながら、事故という形で物理的な排除を決行。それも自身への攻撃はルール違反と叫ぶ始末。失敗から学ぶどころか失敗そのものを無かった事にしようとしていたし、行動と言動への責任もなかった。おそらくゲームという認識も、都合の悪い部分を無視する為の方便だったのだろう。その自覚があったかは不明だが。
まさか黒服やベアトリーチェの方がマトモに見える日が来るとは思いもしなかった。黒服は手口こそ悪辣だがルールは厳守しているし、素直に負けを認めている。ベアトリーチェも最悪の部類ではあるが、自ら戦うという気概はあった。単にプライドが高いだけかもしれないが。
そんな自分自身に負け続けた、生粋の負け犬とも呼べる地下生活者には《インフィニティ》でお似合いの悪夢をプレゼントした。死と苦しみ……自身が求めていたものを自身で体験し続ける、永遠の悪夢を。私とシャーレの先生を邪魔者と認識し、排除目的で地下生活者を解放したフランシスにも、近い悪夢を与えてやった。時間が経てば、人格交代の際に復活する可能性があるみたいだったし。
黒幕二名はもう二度と暗躍できないから、暫くの間は平穏となるだろう。黒服とマエストロという名の人物は未だ健在ではあるが、一応は弁えている方なので余程でない限りは大人しくしているでしょう。
後、私が入院している間、アビドスとゲヘナはてんてこ舞いに近かったそうだ。それとハイランダーも。
今回の騒動の一番の原因でもある【列車砲シェマタ】は、無事に解体処分されたそうだ。事情が事情なので、解体に立ち会ったのはゲヘナとアビドス、シャーレの先生だけだ。さすがに事の顛末だけは共有してもらったが。
シェマタの関連施設として改造されていた《生徒会の谷》も発破解体で完全に消し去り、シェマタに関しては完全に抹消される事となった。同時にゲヘナとアビドスの間で、特定の物に関しては協力し合う協定が結ばれた。他にも似た物がアビドスで眠っている可能性が捨てきれないからだと、シャーレの先生は口にしていた。
地下生活者に最も都合よく利用されていたスオウさんは、関係者が口裏を合わせたりした事でお叱りはあれど、監督官の立場を失うことなく契約の責任者の一人として奔走し続ける事になったそうだ。本人は余計な軋轢を避ける意味でも辞退しようとしていたそうですが、立場上は上の対策委員会……生徒会長になったホシノさんのご指名もあって渋々受け入れたそうです。まだ心の整理がついていないのか、必要最低限の関わりに留めているみたいですが。
もう一人のシロコさんは今回の件で心の整理が着いたようで、本格的にアビドスに腰を下ろしたそうです。覆面を被って治安維持活動をしているそうで、地元では『覆面ライダー』と呼ばれているそうです。もう一人のシロコさん自身も『覆面ライダーアヌビス』とノリで返していたと聞きましたし。ちなみに【デンバード】を返そうとしていましたが、ペット代わりで持ち続けていいと返して固辞しました。
今回の騒動でアビドスの借金は無くなり、梔子ユメさんがかつて結んだ砂漠横断鉄道の契約書もあり、アビドス自治区の復興に本腰が入ることになったそうだ。土地の名義は依然としてカイザーのままな為、引き続き警戒する必要があるそうだが。
その砂漠横断鉄道の契約先の一つである《セイント・ネフティス》からは、例の幹部が現場責任者として動いているそうだ。本来は懲戒解雇ものだったそうだが、ノノミさんの口添えがあって首の皮一枚が繋がったそうだ。当然、幹部としての地位と権限は剥奪されたとの事。
それもある意味残当としか言えないが。切っ掛けとなった最新シミュレートの結果も、現在なら再現可能と出た結果が同条件にも関わらず今度は真逆の再現不可。それも何度打ち直しても結果は変わらずだ。どうも最初のシミュレートの方にデータの打ち間違いがあったそうで、シェマタの再利用に舞い上がってその後の確認を怠っていたそうだ。
此処でさえ、地下生活者による介入が働いていたと証明される結果となり、裏事情を知る私達は呆れるしかなかった。会社を倒産の危機へと誘いかけた事に加え、令嬢のノノミさんに暴挙を働いたことも合わさり、その人は上層部から相当絞られたそうだ。
カイザーに買収された私募ファンドに関しては、正直に言えば打つ手はない。買収自体に違法性はないし、アビドスの土地問題同様に解決しませんので。
どちらにせよ、アビドスの復興が軌道に乗るかは彼女達次第です。アリウスとしても私個人としても、上手くいく事を願っています。
⊥月♯日 晴れ
サオリが海のバイトに応募していた。それも細かい部分の確認を怠って。
バイト自体には何一つ違法性はないし、むしろ普通に入る部類です。ヘルメット団主催の祭りである点を除けば。開催場所も《アウトロービーチ》と呼ばれる、三つの自治区の境で管轄が曖昧な場所のようですし。ヘルメット団が犯罪を犯すからではなく、スケバン等の不良生徒達との抗争に巻き込まれるという意味で。
それでも外のお祭りと海にアリウスの誰もが興味深々の上、客として参加するのも問題なかった為、全員を連れて行けない事に心苦しく思いながらも抽選(くじ引き)で参加者を決めさせてもらいました。抽選の結果は……アツコとヒヨリが落ちたとだけ書かせてもらいます。それでも団体なので、引率はシャーレの先生にも頼みました。初めての海でもありますから、はしゃぎ過ぎてトラブルが起きないとも限らないですし。
《電気工学部》では水素エンジンの再現が形となったそうで、本格的に戦車作りに取り組み始めました。過去に《明晰夢》で持ち込んだ、ボロボロの戦車を解体してある程度の構造は理解もしていますしね。完成したら、ゲヘナが主催する戦車のレース《ゲヘナカップ》に出るのも悪くないとも語っていました。当然、外で筆記試験を受けないと運転すら認められませんが。
ただ……【パワードスーツカー】も参考にすると口にしていたのが、少し気になりますが。流石に戦車がロボットに変形する事はない筈……ですよね?面白そうだと和気藹々と語っていましたが、そこまではしないですよね?外にも似たような兵器はありましたけど、変形機構はなかったですし自制しますよね?仮に実現しても仕方ないと受け入れますけど。
ちなみにFOX小隊のニコさん、クルミさん、オトギさんはすっかりアリウス自治区での生活に順応していました。摩訶不思議な存在との戦闘もあってか、結構エンジョイしている感じでした。
ただ、ユキノさんだけは時折物思いに更けていましたが。ケジメに動いたとはいえ、今までの行動がなかったことにはなりませんし、悩み自体も消化しきれたわけでもないですからね。
事実、絶対的な正しさは存在しないも同然ですからね。当時では最善だった選択も、後々になると間違っていたと判断される事もありますからね。その逆も然りですし。
私のその言葉に対し、ユキノさんは揺るぎない“正義”は存在しないのかと問い掛けてきました。私は難しい問い掛けだと前置きしつつ、模範や指針という意味では“揺るぎない正義”は示せると答えました。
正義や悪は見方や状況によって、揺らぐ事が多いのも確かです。だからこそ、ぶれずに正義を貫こうとする姿は誰かの憧憬となり、安心も与えられると。人を守る“正義”であれば尚更だと。
この言葉がユキノさんの悩みを晴らせるかどうかは分かりません。ですが、少しでも助けになれれば幸いです。
⊥月∃日 晴れ
アツコとヒヨリは自治区でお留守番する事なく、サオリと同じバイトとして来ていました。その裏技に思わずその場でずっこけてしまった程です。くじ引きに当たったスバルとミサキも、天を仰いだくらいですし。
ヘルメット団主催のお祭りですから、出店している店で何も知らない人にボッタクリを仕掛けていましたが、そこはサオリ達が対処して問題にはなりませんでした。
そんな珍事や予想通りのスケバン達の襲撃がありつつも、海とお祭りを楽しんでいたのですが……夜のメインである音楽ステージ直前で騒動が起きました。
ワカモさんと同じ《七囚人》の一人であり、《伝説のスケバン》の異名を持つ栗原アケミさんが、矯正局送りとなった原因であるヘルメット団への復讐の為に襲撃してきたからです。例のスケバン達も、アケミさんの無念を晴らす為に今回の襲撃を計画していたそうですし。
それも私達で阻止させてもらいましたが。せっかく楽しんでいるお祭りを、苦い思い出で終わらせたくなかったですし。何やかんやで【ビートカプセム】で召喚できた太鼓でリズム勝負へと持っていきましたが。
ヘルメット団にスケバン、アリウスも参加した三つ巴の戦いはスケバン――アケミさんの勝利で決着がつきました。敗北したヘルメット団がドンパチで白黒つけようと奮起しようとしていましたが、太鼓を叩き続けたことで半数以上がヘロヘロだった為実行には移せませんでした。
アケミさんを含めたスケバンの皆さんも、次は腕っぷしで白黒をつけると言って上機嫌で去っていきました。アケミさん本人も、しばらくは鈍った身体を鍛え直すと告げていましたし。あれでベストコンディションではないとは、本当に規格外の人は規格外なのだと改めて実感しました。
ちなみにメインのステージは大盛り上がりでした。
――ドン!ドン!ドドン!
――ドン!カッ!ドン!カッ!ドン!カッ!カッ!
――ドドドドドドドドドン!
夜の砂浜で、幾つもの太鼓の音が響いている。
「リーダー!負けないで下さい!!」
「姐様!最高に輝いてます!!」
「先輩、頑張って下さい!」
外野からの応援を正面から受け止め、横一列に並んだ太鼓を選手達?はリズム良く、力強く叩いていく。
「こ、これ以上は……うわぁああああああっ!?」
「ああっ!?リズムが乱れて、また脱落者が出たぞ!」
「姐様、すみませんが後は……」
「フフッ、もちろんでしてよ。私の華麗なる太鼓さばきで、全員返り討ちにして差し上げますわ!!」
音量やリズムが基準値を下回ると、爆発して海へとダイブする謎現象が続出する中、太鼓を叩く者達は決してリズムを乱さず、力強く叩き続けていく。
『そろそろ判定基準が引き上げられます。これを累計五秒以上下回れば失格となりますのでご注意を』
マイクを片手に《ナイトアリウス・ビート》姿の恭介がそう伝えると、選手達の太鼓を叩く音とリズムが一段階上がる。判定基準が引き上げられて数秒、基準を満たせなかった選手が足下からの爆発によって吹き飛び、海へと落ちていく。
「太鼓の音が凄いね。夏らしくて、見ているだけでも楽しいよ」
そんな光景をシャーレの先生は苦笑しながらも楽しそうに見守っている。最初に起こされようとしていた乱闘と比べたら平和的で、楽しそうであるから別にいいだろう。
ちなみにスケバン達の復讐計画の立案者は物凄く反応に困っている。計画が予想外の形で頓挫し、切り札までミイラとなってしまったのだから。高度な頭脳戦を疑っているが、完全な偶然によるものだから考えるだけ無意味である。
「絶対に勝つぞ!」
「ああ!連中に負けるわけには行かないからな!!」
スケバンに負けた状態で集会を終えるのは御免だと、ヘルメット団達は太鼓を叩き続ける。
「全員、私の太鼓で吹き飛ばして差し上げますわ!!」
「あたしらも最後まで着いていきます!」
爆発からの海ポチャという現象から、アケミを初めとしたスケバン達も太鼓を叩き続ける。選手以外のヘルメット団の団員も巻き込まれて海ポチャで延びているのも、太鼓勝負に乗った理由の一つである。
「私達も負けて……うわぁああああああっ!?」
「クッ……!後は私とスバルだけか……!」
純粋なお祭りとして楽しんでいるアリウス組も、生き残りはサオリとスバルだけとなるも諦めずに太鼓を叩き続ける。
ヘルメット団主催のお祭りは、予想外の形で盛り上がりを見せるのであった。
サオリのビーチでのバイト
高額報酬とバイト先に目が眩み、細かな確認を怠って応募した結果。後にアツコとヒヨリもバイトとして《アウトロービーチ》に来た。主犯はアツコ。
太鼓勝負
恭介が【ビートカプセム】の能力で召喚した太鼓とバチから思い付いた折衷案。祭りと言えば太鼓という謎理屈で能力発動させたら、本当に召喚された太鼓とバチ。
見た目は本当に太鼓であるが、武器として普通に使える。それを【プロジェクションカプセム】と併用して大量に複製し、大掛かりな勝負の場を用意した。勿論安全には配慮されている。
《伝説のスケバン》が太鼓を叩く姿は個人的にはベストマッチ。筋骨隆々とサラシなので。