「皆んな、すまん!!」
文化祭ライブの後、穂乃果以外の全員が集合した部室で俺は頭を下げた。
「なんであんたが謝るのよ」
「穂乃果のこと、気をつけて見ているつもりだった。だけど止める事が出来なかった」
「それを言うなら、私たち全員の責任よ」
「絵里・・・」
「私たちもラブライブ出場が目の前にあって視野が狭くなっていたわ」
「本当なら穂乃果ちゃんの事、ウチらがなんとかするべきやった」
「でも・・・」
「滉季、一人で抱え込まないでください」
「皆んな・・・」
皆んなは気にするなと言ってくれるが、心は晴れない。
「それで、今回のことを受けてだけど」
ライブが中止になった事により、順位の維持は難しい。
ラブライブ出場はかなり厳しくなったと言えるだろう。
「エントリーを辞退しようと思うの」
「・・・」
「理事長に言われたわ、何のために頑張るのかもう一度よく考えてみなさいって」
「・・・」
「私たちの目標は学校を存続させること、ラブライブに出場することではないわ」
「・・・」
「異論ある人はいるかしら?」
絵里が全員を見渡す。
意見がある人はいないようだった。
「皆んな、ありがとう・・・」
絵里だってこの決断を下すのに悩んだはずだ。
「・・・後、ちょっとだったのにな」
誰かが呟いた。
「・・・」
実際あとちょっとの所まで来ていたのだ。
ここで辞退することがどれほど悔しいことか。
皆んなの表情がそれを物語っている。
(あの時俺が穂乃果を止めていれば・・・)
穂乃果を受け入れていれば、優しい言葉をかけていれば・・・
今この状況を生み出さなかったのに・・・
(俺は・・・)
あの日から悩んだままだった。
「この後だけど、穂乃果のお見舞いにいきましょう」
「穂乃果ちゃんも暇してるやろうしビックリさせよ!」
一通り話が終わったので、穂乃果のお見舞いに行くこととなった。
正直今は穂乃果と顔を合わせ辛い所もあるが、下手に断るのも変だし一緒には行くか。
「穂乃果、体調はどう?」
「皆んな!来てくれたんだ!」
「もう動けるのね」
「うん!明日には学校復帰するつもりだよ!」
「そう、よかったわ」
穂乃果の部屋につくと、俺は入口の所で目立たないようにしていた。
穂乃果の体調は良くなっているようでとりあえず一安心だ。
「ライブでは本当にごめんさい!!」
「・・・穂乃果」
「だからね!まだ時間あるしもう一回ライブしようよ!」
「・・・」
「ラブライブ出場なんとか目指さなきゃ!!」
「・・・」
「あれ?皆んな?」
「・・・穂乃果、ラブライブには出ないわ」
「・・・え?」
「出場を辞退したの」
「嘘、だよね?」
「本当よ・・・」
「それって、私が倒れたからだよね・・・」
「穂乃果だけのせいじゃないわ、皆んなの責任よ」
「・・・っ!!」
「あまり気にしすぎないで」
「・・・」
「長居するのも悪いし、私たちは帰るわね。また学校で」
「・・・うん」
辞退を知った穂乃果は明らかに落ち込んだ様子だった。
だが、いずれ知ることなら早めに知った方が良いだろう。
俺も今は気まずいし、言葉を交わすことなくこの場を去ろうとした。
「・・・きくん」
「穂乃果?」
「・・・滉季君」
「・・・俺か?」
部屋から出ようとした際に、穂乃果から名指しで呼ばれた。
「少し話せないかな」
「・・・それは」
いきなりのことで動揺した。
咄嗟に絵里の方を見てしまった。
「・・・私たちは行くわね」
「穂乃果のこと頼みましたよ」
他の皆んなはそのまま部屋から退出。
俺だけその場に残る形となった。
「・・・」
「・・・」
「こっち来てよ」
「あぁ」
部屋の入口近くに立っていた俺を近くに呼ぶ穂乃果。
「・・・」
「ははっ、遠いね」
俺は無意識のうちに普段の距離から人一人分遠くに座った。
「・・・それで、話って何だ」
「ずっと、謝りたくて」
「・・・」
「あの日、滉季君が止めてくれたのに無視したこと」
「・・・」
「それに、キスしたこと」
「・・・」
「謝りたくて・・・」
「・・・」
どう返事して良いかが分からなかった。
「そのせいでラブライブ出場がダメになった、私のせいだ」
「・・・」
「私のせいで!!!」
穂乃果を見ると大粒の涙を零しながら声を荒げていた。
「私はラブライブに出たかった!滉季君に見て欲しかった!!」
「・・・」
「その為に頑張ろうって思ったのに」
「・・・」
「全部全部うまくいかなかった!!」
「・・・」
「ラブライブも出られなくて、滉季君にも嫌われて!!」
「・・・」
「私・・・なにやってるんだろう」
穂乃果はため込んだ物を吐き出すかのように気持ちをぶちまけた。
「穂乃果・・・」
「ごめんさない、私のことは嫌いになってもいいけどμ'sのことはこれからも支えてくれると嬉しいです」
「っ!!」
今まで見たことも無いような悲しげな表情で穂乃果は言った。
「・・・俺は穂乃果の事、嫌いにはならない」
「・・・本当?」
「あぁ、まだ自分でも混乱しているところがあるから、今すぐ元通りってわけにはいかないだろうが」
「・・・よかった」
正直、今の俺にはこう答えるのが精一杯だった。
「・・・早くよくなれよ」
「うん・・・」
「またな、穂乃果」
「またね」
そうして穂乃果の部屋から出る。
一応、これで気まずさも多少は改善されただろうか。
改めて穂乃果と話して、俺自身がこの問題にちゃんと向き合うときが必要だと分かった。
「おはよー!」
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよ」
穂乃果の体調が回復し、日常が戻ってきた。
「それで昨日雪穂がさー」
「穂乃果?」
話の途中で穂乃果の足が止まる。
視線の先にはラブライブ出場を決めたA-RISEのポスターが。
「穂乃果、まだ気にしているのですか」
「そういうわけじゃ無いけど・・・」
「まぁまぁ海未、あんま言うなって」
「そうですね・・・」
穂乃果の中でまだ割り切ったようには思えない。
「穂乃果、話の続き聞かせてくれよ」
「・・・うん!」
俺と穂乃果も多少ギクシャクしながらもいつも通りに過ごせていると思う。
「・・・」
「ことり?」
「うぅん」
屋上で練習をしていると、大ニュースが飛び込んできた。
「学校存続!?」
どうやら、入学希望者が想定より多かったらしく来年度の学校存続が正式に決まったようだ。
「後輩ができるにゃー!」
「よかったね、凛ちゃん!」
「ま、当然の結果ね」
ここまで紆余曲折ありながら、目標であった学校存続が決まったのだ。
皆んなして声をあげて喜ぶ。
その日は練習よりも皆んなで喜びを分かち合った。
【伝えたいことがあります、ことりの家に来てくれませんか?】
夜、自室で休んでいるとことりから連絡が来た。
内容は間違いなくアレだろう。
一つ深呼吸をしてから、ことりの家に向かった。
「おまたせ、ことり」
「わざわざ来てもらってごめんね」
ことりの家に着き、部屋へと案内される。
「それで伝えたい事ってなんだ」
「・・・」
「・・・ことり?」
「・・・実は、ことり留学するんだ」
やはり内容は留学することだった。
「そう・・・なのか・・・」
「あんまり驚かないんだね」
「いや、驚いているよ。ただ」
「ただ?」
「文化祭の前辺りから何か悩んでいる様な気はしていたから、まさかそれが留学とは思わなかったが」
「気づいてたんだ」
「一応な・・・」
ことりの異変にも気づいてはいたが、今回の内容はことりの人生を変えるものだ。
ことりが頼ってきたら相談には乗るつもりではいたが、自分から先に口出しはしない様にしていた。
その結果ことりが自分で決断を下すことになった。
「本当はね、こうきくんにはもっと早く相談しようと思っていたんだよ」
「・・・」
「でもね、言わなかった」
「どうしてだ」
「こうきくんに頼ったら、こうきくんの言う通りにしちゃいそうだったから」
「・・・」
「ことりも自分で決められるようになりたい、成長したって所をこうきくんに見せたかったんだ」
「ことり・・・」
「それにね」
「?」
「こうきくん、穂乃果ちゃんばっかり見てたから」
「っ!!」
「文化祭の時から、ずっと穂乃果ちゃんのことばっかり気にしてたよね」
「それは・・・」
「いいの、でも少し寂しかったな」
「・・・」
「だから、ことりは今伝えることにしたんだ」
部屋を見渡すとスーツケースが用意されており、出発の準備が進んでいることが分かる。
壁には懐かしのファーストライブの衣装が掛かっていた。
「あれ、懐かしいよね」
「ああ」
「最初は三人だったもんね」
「そうだな」
「今は九人、増えたよね」
「・・・」
「学校の存続も決まったし、ことりが抜けても大丈夫だよね」
「・・・」
ことりは自分で留学を決めたのだ。
その意思を尊重するのがいいはずだ。
だけど、俺は・・・
「ことり」
「なにかな?」
「本当に行っちゃうんだな」
「・・・うん」
「・・・」
「・・・」
「ことりっ!」
「っ!!」
「・・・・・・あっ、いや、何でもない・・・」
「うん・・・」
・・・俺は何を言おうとしたんだ。
ことりが自分で決めたことなのだ。
俺が邪魔をしてどうなるって言うんだ。
「・・・すまん」
「・・・いいよ」
「穂乃果と海未は知っているのか」
「海未ちゃんは知っている、穂乃果ちゃんにはまだ・・・」
「そうか・・・」
「うん・・・」
気まずい沈黙が流れる。
「ねぇこうきくん」
「なんだ」
「穂乃果ちゃんと何かあった?」
「っ!!」
「やっぱり」
「どうして」
「二人を見てると分かっちゃうよ」
「穂乃果とは別に・・・」
「隠さなくていいよ、穂乃果ちゃんの気持ちも分かるから」
「・・・」
「きっと穂乃果ちゃん色々喋っちゃったんじゃないかな」
「それは・・・」
「こうきくん」
「・・・なんだ」
「大好きでした」
「ことり・・・??」
「優しいこうきくんが、いつも助けてくれるこうきくんが、衣装を褒めてくれるこうきくんが」
「・・・」
「大好きでした」
「・・・」
「ことりとこうきくんはここでお別れ。だから、大好きでした」
あまりにも悲しい告白を受けた。
「・・・あぁ、ありがとう。ことりのこと決して忘れない」
「うん・・・!」
穂乃果の時と同じだ、俺はまた何も出来ない。
「今日話せてよかった、最後まで普通でいてくれると嬉しいな」
「分かったよ」
「じゃあまたね!」
「あぁ、また」
話もついたので、部屋から出る。
最後までことりの顔は笑っていた。