ライブ当日、決行は新入生歓迎会が終わった後だ。
朝から穂乃果たちはどこかソワソワとしている。
「昨日はよく眠れたか?」
「私はぐっすりだったよ!」
「ことりも!」
「私は、中々寝つけませんでした…」
「体調の方は大丈夫か?」
「ええ、問題ありません」
「なら良かった」
この様子だったら問題は無さそうだな。
「俺ちょっとやる事あるから」
時間は昼休み、ご飯を食べながら話をしていたが抜け出す事にした。
「どうしたの?」
「ちょっとな」
言葉を濁し席を立ち教室から出る。
「こうきくん、なんだろう?」
「分かりません」
「でも滉季くんなら何か考えがあるんだと思う!」
「そうですね」
やって来たのは一年生の教室。
「失礼します」
男の俺がいきなり入って来たものだから、教室は騒然とした。
「ご存じかもしれないですが、本日新入生歓迎会の後に、二年生のとある三人組がスクールアイドルとしてライブをします。お時間ある様でしたら皆さんには是非来て欲しいです!」
教室をぐるりと見渡す。
そうすると真姫と目が合った。
が、すぐに逸らされてしまった。
花陽はっと、手元に丁度チラシを持っていた様だ。
凛はぽかーっした表情をしている。
用件は済ませたので教室から出る。
二年生のもう一クラスでも同じ事をし、最後に着いたのは三年生の教室。
「お願いします!」
ここでも同じ事をする。
絵里と希は生徒会室かな、いなかった。
にこは何とも言えない表情をしていた。
ここまでの一カ月、穂乃果たちは本当によく頑張っていたと思う。
間近で見ていた俺は、一人でも多くの人に穂乃果たちの姿を見てもらいと思った。
物語の展開を変えてしまうかもしれない。
果たしてこの行動にどれだけの意味があるかは分からない、だけど何かせずにはいられなかった。
新入生歓迎会は何事もなく終わった。
この後は一年生たちが体験入部を行うことになっている。
俺たちは他の部活に負けじと最後の告知を行っていた。
「ライブやりまーす!」
「お願いしまーす!」
「来てくださいー!」
だがしかし、人気の部活動に人を取られ中々宣伝の効果は薄そうであった。
「そろそろ時間か」
チラシ配りもそこそこに、ライブの時間が迫っていた。
「三人は準備してこい」
「分かった!」
やるだけの事はやったんだ。
後はどうなるか。
ヒフミ達と照明などの打ち合わせをした後、更衣室へと向かう。
「準備出来たか?」
扉をノックして尋ねる。
「入って来ていいよ!」
許可が出たので入室する。
「どうかな!?」
そこにはことりが作った衣装を着た三人がいた。
「おおー!」
「ことりちゃんの衣装、すっごく可愛いね!」
「うぅ、恥ずかしいです…」
「ほら海未ちゃん、見てもらお!」
ことりには前に見せてもらったことがあったが、三人が着て並んでいると圧巻であった。
「皆んなよく似合ってると思う、かわいいよ」
「やったー!」
穂乃果が嬉しそうに跳ねる。
「皆んな」
もう間も無くスタートと言うこともあり、俺は最後に言葉をかけた。
「ここまで本当によく頑張って来たと思う、それぞれの頑張りは俺がよく知っている。全て出し切ってこい!」
「うん!」
「はい!」
「がんばろうね!」
そして幕が開ける。
努力は必ずしも報われるとは限らない。
現実は非情であった。
「…!!」
幕が開けた穂乃果たちの前に観客は誰一人としていなかった。
更衣室を後にした俺も観客席の方に移ったが、ライブ開始時点で誰も来ずに動揺を隠しきれなかった。
(あんなに頑張ったのに…!!)
これが原作の収束力かと嘆く。
ステージを見ると今にも泣き出しそうな三人がいた。
(こんなのって!!)
頭では分かっているつもりだ、これは彼女たちの最初の試練になる事。
誰も来ずもしかしたらこのまま終了になってしまうかもしれない。
そんな中俺はこのまま見ているだけで良いのか、気がつくと足が前に進んでいた。
「穂乃果!海未!ことり!」
ステージの目の前まで行き声を荒げた。
「俺はここにいる!今ここに!だから歌ってくれ!俺に聴かせてくれ!!」
このまま終わりなんて絶対に嫌だ、俺のわがままだろうが終わらせたくなんてない。
「…海未ちゃん!ことりちゃん!」
「はい!」
「うん!」
「歌おう!!」
俺の想いが通じたのか三人は前を向いた。
そんな時、
「ライブってここですよね?」
息を切らせた花陽がやって来た。
「!!ここだよ!今から歌うよ!」
よかった!花陽は来てくれた!
本当に来るか不安だったが、ちゃんと来てくれたみたいだ。
さらに、俺の安堵も束の間、驚くべきことが起こった。
「ほらあの子たちだよね?」
「かわいいー!」
「頑張れー!」
花陽の後から、数人の生徒が来てくれたのであった。
リボンを見ると全学年がいる。
(やった!!)
何が要因かは分からない、だが原作と展開が変わった。
勿論原作の展開も後に繋がる為のものだとは理解できる、だが俺はこの展開を素直に喜んでしまった。
「穂乃果!」
「うん!」
改めて三人はスタート位置に立つ。
そして音楽が流れ始めμ’sのファーストライブが始まった。
「〜〜〜♪」
最初は素人だった三人が立派に歌って踊っている。
「〜〜〜♪」
俺は一瞬たりとも目を離すことが出来なかった。
前にいる為に分からないが、きっとここには後にμ’sのメンバーとなる皆んなも来ているはずだ。
「〜〜〜♪」
俺はこの時思ってしまった。
この世界に来た当初、原作の為に部外者でいる事を決めた。
だが、この世界で生きて彼女たちと触れ合う事でもう部外者とは思えなくなった。
勿論原作はあるしその収束もあるだろう、だがしかし俺の出来る範囲でこの先も彼女たちを支えていきたいと思った。
俺は俺のやり方でハッピーエンドを目指す。
俺の中で新たな誓いが出来たのであった。
「〜〜〜!」
「わあああああ!!!」
やがて曲は終わり、会場からは歓声が起きた。
「あなた達のライブ、見させてもらったわ」
後ろを振り向くと絵里がいた。
「確かに頑張ったとは思うわ、正直人を集められるなんて思ってもいなかった」
「生徒会長」
「このままスクールアイドルを続ける気?」
「はい!」
穂乃果が迷いなく言い切った。
「私、今すっごく楽しかったです!歌って踊って!学校を救いたいって言う気持ちはあります。でもそれ以上にスクールアイドルが楽しいって思ったんです!こんな気持ち初めてです!これから先苦しい事、大変な事たくさんあると思います、それでも今感じたこの気持ちを大切にしたい、そしてこの気持ちをみんなに伝えたいって思うんです!!」
穂乃果の力強い言葉に海未とことりも頷く。
「だからスクールアイドル続けます!」
「そう、ならあなた達の事これからも見定めさせてもらうわね」
「はい!見ていてください!そしていつかこの場所を満員にしてみせます!」
今回のライブ成功とは言い切れないだろう、だけどここにいる人たちには響くものがあったはずだ。
俺も今にも感情が溢れて来てしまいそうだ。
三人とも本当によく頑張ったな。
やがて空に羽ばたく小鳥たちは今この瞬間、殻を破り生まれたのであった。