白うさぎのフラットは、代々特別な存在として大切に育てられてきた。何不自由ない暮らし。優しい家族。守られた日々。誰もが羨むその生活の中で、彼だけが小さな違和感を抱いていた。
「もし、この幸せが明日なくなったら?」
ある夜、外の世界への憧れから家を抜け出したフラットは、一匹の狼・ギルと出会う。その出会いは、彼の運命を大きく変えてしまう。善意から起こした行動は、一夜にして故郷を壊し、フラットからすべてを奪った。
罪悪感と孤独を抱え、居場所を失った彼を救ったのは、どこか不思議な一人の少年だった。
薄暗い部屋。本だけが綺麗に並ぶ本棚。決して外へ連れ出そうとしない少年。そして、うさぎたちが怯える奇妙な街。
穏やかな日々の裏で、少年は何を隠しているのか。なぜこの街には「うさぎの解体方法」という本が並んでいるのか。そして、再び現れた狼・ギルがフラットに突きつける残酷な真実とは――。
逃げ続けた先に救いはあるのか。それとも、自分の痛みと向き合った時にしか、本当の幸福は見つからないのか。
これは、すべてを失った一匹の白うさぎが、自分の存在意義と「幸福」の答えを探し求める物語。
優しくて、残酷で、どこまでも哀しい。
あなたが最後のページを閉じたとき、「幸福とは何か」という問いだけが静かに残る。
初めに、これは僕のお話です。
僕は書くという行為そのものに違和感があり、心が向くままに文字を紡いでいます。しかし、言葉を残すことには大きな意味があると感じています。皆さんにとって、今見ているもの、感じていることは当たり前かもしれませんが、その一瞬一瞬の美しさに気づいてほしいと思います。
世界は時に辛く、僕たちが感じすぎるとあっという間に壊れてしまうように思える。どんなにもがいても、世界は動かず、僕の内面の波紋がそのまま現実に影響するような感覚すら覚えるのです。僕が抱く不安は、時に必要以上の承認欲求から生まれ、結果的に惨めな自尊感情に繋がってしまいます。つまり、いてもいなくても成り立ってしまうのです。だから、僕は幸せなはずなのに不安になる。必要とされることにフォーカスをおいてみたこともありますが、それはいっときの承認欲求にすぎなかったのです。時が経てばまた求め、何も掴めてはいなく、残ったのは、惨めな自尊感情のかけたさびしき僕といえるでしょう。それを手軽な言葉というものは埋めてくれます。残酷でもあり、発した瞬間消えるのです。この意味がわかるでしょうか。跡形もないのです。口ではなんとでも言えて、言葉に踊らされ、時に支配されるのですよ。それが自分に大きな影響がある人からならならなおさらです。
さて、僕がこれを書くのは薄暗い部屋だ。小さな窓がひとつだけあり、隅には埃まみれの教科書やカバンや制服が投げ捨てるように置いてあった。それを横目に僕は本棚に目をやる。そこらじゅう汚いし、掃除なんてしているとこは見たことがないのに、本の上だけは埃が積もっていなかった。そして、男児が寝られる程度の粗末なベッドがあるぐらいがこの部屋の外観的すべてと言えるだろう。
初めてここに来た時、僕の生活と彼の生活はあまりにも違いすぎて、戸惑いがなかったかと言われると、何も言えないでしょう。しかし、僕の心は裏腹に、幸せという追い風を受けてここを求めていたのは事実でした。
『ただいま』
その声を聞いて、僕はペンを落としてしまった。すぐにペンを拾い上げ、再び机に向かう。彼の存在を感じながら、紙に向けて思いを綴り始める。全くいつものことながら彼の無音さに驚いてしまった。不覚だ。
『あれ。おかえりのキスはないのかな。』
彼のくだらん問いに平然と答える。
『貴方はいつもそういう口振りだよね。』
『怖いよお。せっかくの可愛いお顔が台無しだよ。まあごめんさ。いつも君がそういうから気をつけたつもりなんだよ?』
何も答えなかった。呆れて話すにも値しなかった。ざわめいた気持ちを抑えるためにティーポットに手をやる。紅茶を入れてやると彼は満面の笑みでそれを口に運ぶ。
『今日はアールグレイか。すごく上手に入れるようになったよね。香りも色も楽しいよ。』
『ふっん。』
悪態をついてしまうが、本当は変わらぬ会話をできることに安心を感じていた。彼という生物は怒ることを知らないのか、純粋なのか、はたまたバカなのか、真相は定かではないが、彼の言動に悪意がない本心ということはわかっていましたし、彼だけは信用してしました。 彼の普段通りの返しに胸を撫で下ろしてリラックスしていると一つの物語を思い出しました。折角の機会ですし、その時あったことを彼の教えてくれた文字で残しておこうと思います。
ある小さな森に一匹のうさぎが群れで生活していました。黒、茶色、ピンク、いろんな色のクウォーター、そして白などの様々な色のうさぎがいる群れで生活をしていましたが、白うさぎというのは汚れを知らない純粋な白うさぎとして代々優遇されていました。そんな高貴で、お高く留まっている白ウサギの父と母から生まれた、由緒正しい白うさぎのフラットがこの物語の主と言えるでしょう。恵まれている。羨ましい。素敵です。なんて高貴なお方なんでしょう。何千と聞いたセリフです。そんな憧れの白うさぎの一日というと家の中で一生を過ごし、身の回りのことは他のうさぎたちにしてもらい、決まったスケジュールに沿って生きていくことが習わしでした。もちろんフラットも例外ではなく生まれた時から家の中での生活を余儀なくされていました。普通のことで、大して違和感などは感じません。
いつからだったでしょうか。一日一日を捨てているような、無価値だって感覚が芽生え始めたのは違和感とか違いとか、そう言ったものを考えるようになった。ここにいるだけで、僕は満たされるはずだった。温かい手の中で、優しく撫でられながら、微笑みを向けられながら。
それなのに、心のどこかで、不安がじわじわと広がっていく。
「もし、明日これがなくなったら?」
そう考えるたびに、幸福が少しずつ崩れていくような気がした。この時からだったんでしょうね。時は残酷で水のように流れ、何も知らないまま、疑わないままフラットの誕生日の季節を迎えました。
この日も大好きなはずなお歌やお絵かき、見慣れた人との何気ない会話をして過ごしていました。疑わなくたってみんな優しいし、幸福なんだよね。信じました。いつか添い遂げる人のためにフラットは今与えられたことをする。それ以外は他人に任せればいいと、フラットはそれが定めで、身を委ねておけばいいと思いました。
朝目覚めると、石に日付けを書きます。去年からちょうど一年ちょっとでした。誕生日だったことに今気づきました。
生まれた日だからと言いお祝いをするという習慣などありませんので、いつも通りにフラットは過ごします。ですが今日は、フラットの心がいつもとは違いました。朝ごはんの時間になると、外で子うさぎたちが遊び始めます。いつも通りのことで気にもとめなかった声ですが、声の主たちを知りたくなり窓に恐る恐る近づいて見てみると、フラットとさほど変わらない、同じぐらいのうさぎたちが、楽しそうに遊んでいました。フラットも白うさぎじゃなければああやって遊べていたかもとその光景を窓越しに夢見ていました。朝ごはんを終えるとすぐお勉強の時期です。ですがどんなことをしても、あの光景が忘れられなくてぼーっとしていると、
『フラットさん。いつもより5.#秒回答が遅いですの。ちゃんとしてください。』
『申し訳ございません。』
先生に怒られてしまいました。
それからは学びに集中しました。余計な事を考えるとスコアに傷が入るので、淡々と簡単な数式をときました。スコアは総合的に僕を判断する数字です。低ければ価値なしで、高ければ高いほど優れていると言う事です。勉強を終え、休憩を取りつつ、外にでたらと空想を膨らませてみます。
フラットが外に出ているところを他のうさぎに知られると信頼がガタ落ちること、きつい罰が下されること、いろんなリスクは伴いますが、バレればの話しですので夜に外に抜け出してみることにしました。フラットは幸せを何処かで求め、追いかけていたのかも知れません。ドアの鍵をゆっくり開け外に一歩踏み出すと何故か自分を感じれたようにも思えました。床の木目調ではない新しいふわふわな芝生の感触に動かされ走ってみたくなり、小さな前足で歩くとだんだん楽しくなり徐々に走り出します。気づくと今いる場所がどこなのかわからなくなってしまいました。その上、さっきまでフラットだけの夜だったのに、急によそよそしくなってしまいました。フラットは我に返り、周りを見渡しますが、なにもなく慎重に一歩を踏み出していると、一輪の月花美人を見つけ、道を尋ねてみました。
『ねえ、そこのお花さん。僕の行くべきところはどこですか。』
『あら、右にまっすぐ行くといいわ。』
『助かりました。ありがとう。』
『あなたバカね。かわいそう。』
『きみはかわいそうだね。こんなところに一輪だけで。』
『…』
答えは返ってきませんでした。フラットは右に曲がり真っ直ぐ進んでみることにしました。夜が深く、寒さが孤独を引き立てる今宵に煌めく星に照らされ花が魅力的に咲き誇っているのを見つけました。この煌めきの一部を群れのみんなに届けたいと考えました。お花を摘み始めます。花は何も言いません。その時でした。
『やあ、こんなところで何してるのかい。』
『ウグッ。びっくりした。
僕は仲間のためにお花を摘んでいるんだ。』
『へー。驚かせちゃったかな。
ところで俺が怖くないの?』
『どうして?うさぎのどこが怖いんだ。僕は、うさぎの中でも頂点に立っているし、君は少し変わっているけれど、僕も変わってるしさ。』
と、僕は軽口を叩きながらも、どこか優しさを感じさせる口調で返す。誰かは微笑しこう言いました。
『見ての通り、俺は他のうさぎと違う。だから群れから追い出されたんだ。
昔はな、群れの中にいるだけで幸せだと思ってたんだ。守られて、認められて、ただそこにいるだけでよかった。
でも、ある日気づいた。幸福ってのは、誰かに与えられるもんじゃない。与えられたもんは、いつか奪われる。』
フラットは黙って耳を傾ける。
『お前もいずれわかるさ。誰かがくれた幸福に頼ってるうちは、本当の意味で幸せにはなれないんだ。』
フラットはあまり意味がよく分かりませんでしたが、とりあえず群れに誘いました。。
『僕の群れにおいでよ。いろんなうさぎがいるらしいから、きみを咎めるうさぎはきっといないはずだよ。』
『ありがとう。そうするよ。』
と会話をし、二匹のうさぎはたくさんの花をむしり取り、死んでしまったお花を抱え、きた道を戻ります。ですが、いくら歩いても帰ることができないので足を止めて、フラットは考え込んでしまいました。
『どうしたの。』
『道がわからなくて』
『は?!もっと早く言えよ!!』
と言うと、フラットの匂いを嗅ぎ、背中にフラットを乗せ、走り出しました。風が僕たちを避けて吹いているようですし、フラットが一生懸命走るより何倍もの早さに胸が高鳴り、新しい色や匂いに釘付けでした。すぐに見覚えのある場所に変わりました。大きな滝が休むことなく水を流しています。
『ここで臭いが止まっている。』
『ありがとう。充分だよ。』
『僕たち友達になれそうだよね。』
『ああ』
目の前には立派な滝しかありませんでしたが、水が打ち付けられてる近くに行くと空洞が空いており、その穴の中を進んでいくとフラットの群れがある草原でした。
『地図を見たことがあったのを思い出してね。もしかしたらこっちかなって思って!!』
『匂いを水で消しているなんて、どうりで見つけられないわけだ。。。』
と呟く彼を置いて、フラットは元気よく案内しました。何故かフラットの家だけ明かりが灯してあり、中に入ると両親が走って来て熱い抱擁を受けました。ただ何も言わず、フラットを見つめている二人に許しを請いたくなり、言葉を発っそうとした瞬間、黒くてあいなるものがフラットの前に映りました。
『はー、うまかった。』
わからなかった。間を置かないで話します。
『俺は狼のギルだ。お前たちが大好物で、ずっと探してたんだが、あとちょっとで見失う。』
『今日も逃げられてむしゃくしゃして、練り歩いていたら、きみがいたんだよ。食べてやろうと考えたんだが、俺様は頭脳派だ。世間知らずちゃんは利用するのみと思ってな。さすが俺様。』
フラットは現状を飲み込むことができず、固まってしまいました。そんなフラットを置いてギルは出ていってしまいました。フラットが恐ろしさと葛藤していると、静寂を破り真夜中の規則から逃れ異常ではない音が聞こえて来て、自分を保つことでさえままなりませんでした。気づくと朝のまばゆい日差しがフラットを包み込み、ゆっくりと開眼して、家をゆっくりと出てみると、真紅の海となっており夢と思いたかったことはリアルとなり思いがあふれ涙という液体になり溢れ出しました。フラットの行動にもちろん悪意だとかそう言った虚しい感情のものはなく、善意しかありませんでした。こんな最低で悔いるべき時に、
高揚感がフラッシュバックして、抜けだせませんでした。
こんな境遇でも、なお承認を求め続ける自分自身に、少しだけ鬱陶しさと孤独を感じた。
もしかすると、僕は存在の意味すら見失っているのかもしれない。踏み潰された花々をそっと掬い上げて、酸鼻を極める残骸に添えることで報いれたことにしました。
深緑のうるうるとした木々のせせらぎのような音色の中を1人で歩きました。辛いものから切り離してくれるひとときがそこにはありました。数日寝れていませんでしたので、木に寄りかかるや否や眠りに落ちました。夢にすらギルは現れフラットの精神を蝕みました。怖い。誰か助けが欲しい。そんな一心の彼に音が聞こえてきました。
『おはよう』
はっと飛び起きると木の陰に分からない動物がいました。しばらく見つめ合い、彼が触れようとするので咄嗟に逃げようとしました。するときれいな音色に魅了され振り返ると彼は言の葉を紡いでいました。 温かな歌に両親の幻影を見て、困惑しました。固まっているフラットを抱きかかえ何も言わず、森から連れ出してくれました。きっとあなたには僕が辛そうに見えたのでしょうか。緑の世界に背を向けて、身を任せていると奇妙な世界に一変しました。文字には表せない、見た人にしかわからない。わからせないような芳醇町並みでした。細長い建物が規律通りに並び、家と家からかけられたアーチ状のそれは、僕の興奮を仰ぐようにも感ぜれた。周りには彼と似た変な歩き方の人がばさばさと並のように歩いてくるが、慣れた身のこなしで彼は避けていく。彼の揺れはへり、まばゆい光が感じにくくなると、ガチャと音がした。ぼくのいえとはちがうこうぞうだったが、そんな僕でもわかるような、入り組んだ道の端っこのドワを開けると上に続く階段がありました。咳き込んだ。そう、初文の部屋となる。
焦ったいことはせず、単刀直入に申しますと、これは僕フラットと彼の出会いのストーリーです。環境を変えたと言えども僕は満身創痍の身であり、立ち直ったわけではありませんでした。曖昧ですがこの部屋に連れてきてもらいすぐのことだったと思います。うつむく僕に、彼は数ある本の中から一冊の本を棚から手に取り、読み始めました。好奇心が湧いてきて、彼の腕の中に潜り込み続きを覆ぎます。彼がはにかみ再度話し始めます。
何故でしょう。今宵は雨音が私を連れ去ってくれるような気がしました。外出しようという人間は殊更いなく、連なる家々には暖色のこもれびが咲き誇っていました。まるで、私たちを煙たがり身を潜めてこちらから遠ざけているようで、あまりにも哀れで私たちだけの街と思うことで自分の中に落とし込み彼の手を引きながら、私は問います。
『なんだかロミオとジュリエットみたいよね。ここが2人の幸せなラストシーンって考えたら素敵。』
私はどんなに辛くても愛おしい貴方と共にいられて、幸せでした。しばらく歩くと街から離れていき、森の付近に差し掛かりました。霧も深く夜も更けて雑音と共存し続けました。くつはぐちゅぐちゅで2人の靴は泥に染まりきっていました。髪は水が滴り目に入って痛かった。そんな環境がプラスされ、私をだんだん億劫になりましたが不安そうな彼の手を引く以上、私の思いがこの手を通して伝達されるのが怖くて隠すように歩むスピードを上げました。時間が経過する毎に森に馴染んでいき心が落ち着き始めます。幾分か歩いた時に道が舗装されていきました。顔を上げると眼の前には施設が現れました。彼は、やっと言葉を発しました。
『今からでも遅くないよ。帰ろう。帰ろうよ。。。』
そんな彼の言葉を無視して手をひっぱりさ、重たい門をあけます。そこには大通りが広がっていて、少し歩いてからドワを見つけ、ノックすると埃一つ寄せ付けないような気の強そうな女が柄でもなさそうな口調で尋ねます。
『どうしたのかな。』
私は彼女の言葉を聞いた瞬間力が抜け、気を失います。目が覚めると見知らぬ部屋に1人で寝ていました。クラクラする頭の中に女の声が響きます。
『目が覚めたみたい。』
『熱があるみたいだから、今日は寝ててね。』
女が出ていくのを見送りながら、すこぶる体調がいいと感じた上に、髪からいい匂いがしている気がしました。体から感じる嫌悪感もなく、すっと目を閉じました。
私は何をしていたのでしょうか。制服を一枚一枚丁寧に着替え、髪を一つに縛り呼吸を整えて部屋を出ます。マンションの階段を一段一段ゆっくり降りて自動ドアをくぐると逃げ出したくなりました。みんなが私を見て笑っています。学校に向けて歩いていると、
『おはよう。』
少女Aが話しかけてきます。
『おはよう。』
と返し、そそくさと歩きます。
教室に足を踏み入れ、窓際に座ると同時に、クラスメイトたちの視線が一斉に集中した。誰かがくすりと笑い、私の存在を嘲笑うような空気が漂う。
周囲のざわめきと私の不安が混ざり合い、途方もない時間がただただ過ぎ去っていくように感じられた。チャイムと同時に帰りの準備をして帰ろうとすると、先生Bに止められます。
『◯×ちゃん。困っていることがあるなら話を聞くからね。』
そんなふうなことを言っていたかな。忘れました。先生を無視して帰路に着きます。帰り道はきらきらで足も軽かったです。鍵を開けようとしますが、心臓がどきどきしますが、グッと堪えドアを開きます。ゆっくりドアを閉めカーペットを歩いて行き突き当たりの襖をゆっくり開けます。母は寝ていました。肩を撫で下ろし、服をさっと着替えてくつろぎます。自分だけの空間を楽しんでいると、母が起きてきます。私は決死の覚悟で、期末テストの結果を見せます。母は見飽きた結果に続けていいます。
『ひどすぎ。クズやん。わかってんの。』彼女がどんどんヒートアップするのを感じ取り、殴られそうになります。彼女はハンガーを取り私を叩きます。怖い。ごめんなさい。私は入り口から逃げ出します。母は追いかけてきて私をつかみ引きずり連れ戻します。
『近所迷惑でしょ。考えなさいよ。くず。』
『大体モノも散らかりすぎなのよ。』
そう言ってベランダに投げ捨てて行きます。かと思えば彼女は急に静寂になりゲームをし始めます。と思えば学校辞めてよ。お母さんもう無理だよ。払えないもん。お願いだって。お願い。
そんなことを訴えかけられます。
真冬だったかな。聞きかねて家を出ます。ですが、母には夜になって外を歩いていると警察に捕まってあんたの人生終わりだから。と言われていたので、誰もいない、建物と建物の隙間に潜り込み寒さに耐えます。足はつま先からじんじん寒さが迫ってきます。空のお星様を数えて、ひたすら声を殺して泣きいつか報われる日を願って泣きました。体はどんどん冷えますし、お腹も空きました。ですが何時間待っても助けなんか来ません。我慢の限界を感じ、重たい腰を上げ、ゆっくり歩きます。家に帰って、玄関に座り込みます。リビングでは母がボイスチャットで猫撫で声で楽しそうにしており、私はホッとしました。
女に体を揺さぶられ、不本意ながら目を開ける。
『おはよう。この服に着替えて、待っていて。パンは何枚食べたい?』
『2枚お願いします。』
ただの夢か。促されるままに質素な服に着替えて、ぼーっとしていると。ご飯を女の人が持ってきてくれました。ゆっくり食べて、終わったら歯を磨きに行ってね。いつぶりだろう。こんなに豪華な朝ごはんは。程よい焼き目のトーストが2枚あり、マーガリンが溶け出しています。いちごジャムにチーズ。付け合わせにはレタスとハム、目玉焼きが輝き、飲み物には牛乳。ゆっくり口にすると涙が出てきます。こんなまともな食事は久々で嬉しくて嬉しくて、すぐに平らげてしまいました。
ドアから外を覗き、誰もいないことを確認して、歯磨きをして、急いで部屋に戻ります。それを確認した女の人がお盆を回収して行きました。私は畳に寝転び満腹感で眠っていました。余りにも気持ちが良くて畳に転がっていると怖くなり飛び起きると今いる場所を再確認し落ち着きました。初めは守られている感じがしていましたが、この環境にも慣れてしまいました。安全がつまんなく感じてしまいました。ルーティン通りにするのはつまんなくって、内緒で部屋を出ます。ふと他人の部屋が気になってしまい入ってみちゃうことにしました。部屋を開けると、夜がありました。キラキラした星とお月様。そして、男の子が1人、望遠鏡を見ていました。目がチカチカするほどの眩い輝きでした。
『星っていうのは動かないし、少ないんだね。手にも取れないし、誰かに取られるかもしれないから見ているんだ。名前をかけたらいいんだけどね。』
『星っていうのはあなたのものなの』
ハッとして1つ目の部屋に走っていくとボロボロで光は地に落ちていました。慌てて、2つ目の部屋に駆け込むとドワはツタが絡まり、力でこじ開けると雑草が根強く地を張っていました。最後の部屋に戻るとなぐり書きされた雨の絵が乱雑に張ってありました。雨が息をしていませんでした。その絵を剥ぎ取り窓を開け、私は走り出しました。
『うんざりだ。全部。全部。やめてしまいたいよ。助けて。』
そんなことを思いながら走っているとあたりは暗い森の中でした。枝をかき分けて奥に奥に進みますと広い草原がありました。そこには2つのアーチ状の入口がありました。帰り道がわからなくなっていて進んでみるしかありませんでした。入った途端一つのお店が私の目に映りました。その奇妙なお店にねずみが3匹入っていくのを見ていると、1匹が目配せをするのでついて行ってみました。お店の名前はnutsと書いていてありました。中はケーキが規則的においてありました。店では二足歩行になりケーキを一つずつ両手で持ち堂々と店を出ました。少女も真似して、ケーキが欲しかったのですが、種類が多すぎて悩んでいると、店主がイライラしていました。
『何にするんだい。どうせ、いっしょだろ。』
誰か男の声が彼女にささやきます。
『ねずみ味のケーキがいいよ。お嬢さん。』
私はびっくりして後ろを見ますが煙しか見えませんでした。
『ねずみ味のケーキはあるかしら。』
『つまんねえの』
何個も並ぶケーキを腕のスライドでどかし、奥からケーキとは言い難い灰色の塊が出てきました。これね。
『部屋の端にあるガラスの入れ物に入ったものが本物だよ。』
そんな助言を聞いて、部屋を見渡しました。
『いらないなら帰れ。』
と店主が扉まで追い立てます。するときらめくものを見つけ、
『あっ。あれ。あれください。』
と指を指します。店主はめんどくさそうにケーキを渋々持ってきて追い出されてしまいました。
もう一つのアーチ状の入口にネズミが入って行くので震える足を進めアーチ状の門をくぐると小さな家にふさわしくない大きなドワがついていました。ねずみのひとりがのっくすると大きなくまの頭部が三匹のねずみを隠しました。くまが顔を上げると何もなくなっていました。くまは少女を見つけ、近づいてきましたがケーキを見るなりぱたんとドワをしめました。私が唖然としつつとぼとぼ歩いていました。ふと、後ろを見ると僕には眩しすぎる街だった、壊れかけの廃ビルの片隅に身を寄せる。 夜の空気は凍りつくように冷たく、街灯の下で吐いた息が白く溶けていった。遠くで犬の鳴き声が響く。それ以外は、静寂だった。救いはどこにもなかった。真実から目を背けることは簡単で、現実と向き合い戦うことの残虐さを知りました。
『はい。おしまい。』
彼はパタンと本を閉じました
。僕は言葉が出ませんでした。
彼が真剣な表情で言います。
『フラット。なんで僕がこのお話を君に読んだかわかるかい。勘違いをしてほしくはないから話すけど、この世界は綺麗じゃないよ。忘れないでね。誰かを変えるんじゃなく君が変わらない限り地獄は終わらないんだよ。』
彼はそう言うとベランダに煙草を吸いに行きました。皮肉な程に雨でした。
僕は変わらず家の生活を続けていく中で彼が毎朝出ていくのについて行ってみたくなりました。僕は彼の首掛け鞄に潜り込みました。目覚めた彼が眠い目を擦りながら鞄を掛けて、階段を下りドアを開けたような音がしました。街の音が聞こえます。
『お兄さん、今日は上玉が入ってるよ。』
『新鮮な肉はいかがかね。さばきたてさ。』
なんだろう。怖いかもしれない。彼は僕が来てから一度も外には連れて行ってくれてはいませんでした。思い返すとあの日も僕の耳を塞いで走ってくれていたような気もします。この街は何かおかしいのかもと思っているとカチャンと何処かに入りました。
『やあ。今日もきたのかね。奥でお連れさんが待ってたよ。』
『ほんとですか。ありがとうございます。』
そう言ってそそくさと歩き出します。
『おっ。きたきた。遅いぞ。』
『ごめんごめん。』
『全くよお。俺だって暇じゃないんだからな。これ今までの学校のプリント。』
『ありがとうなあ。助かる。』
『いつでも頼れよな。俺行くけどさ、いつでも来ていいんだからな。』
『おう。じゃあな』
そう言うと椅子を引き、離席しました。少し間を空けてから彼が鞄を開けると驚いた表情で目が合います。
『なんで君がここにいるの』
『興味本位でつい来ちゃった。』
彼は呆れた顔で続けます。
『ここは図書館だから、沢山本があるから見ておいで。』
『図書館って言うんだ。わかった。ありがとう。』
僕は鞄からぴょんと出て歩きながら周りをくるくる見渡します。本達は五十音順にきちんと並んであり、ピカピカしています。うさぎと言う文字に惹かれ一冊手に取ってみると『うさぎの解体方法』と言う本でした。『うさぎの何方法だ。これ。』わからない字があり読めませんでした。中を開けてみて見ることにしました。
『えーと。まず初めにウサギを捕まえてきます。なにこれ。』
残酷なイラストと共に描かれている内容に驚きます。フラットは本棚の前で立ち尽くし、しばらくその本を眺めていた。ページをいくつかめくり、再び棚に収めると、深く息を吸い込んだ。心臓が早鐘のように鳴り、冷たい汗が滴る。彼が信じているのは、少年だけだった。
『戻ろう。』
自分に言い聞かせ、一度図書館全体を見渡す。彼の元に戻ろうとするが、足が動かない。何かが引っかかる。恐怖ではない、ただの直感。ここには何か、大きな違和感が渦巻いている。
その時、図書館の扉が開く音がした。誰かが入ってきたのだろうか。フラットは慌てて本棚の陰に隠れ、息を殺した。誰かが近づいてくる。見えない場所からその人物の声が聞こえてきた。
『もう少しだね。』
低く、耳に残るような声だ。それは、少年のものではなかった。フラットはこっそりその声の主が知りたくなり本の間から覗き込む。そこにいたのは、少年の友達だ。顔を見たのは初めてだったが声が似ていたのですぐわかった。
「本当に、これでいいのか?」何故さっき出て行った彼が戻ってきたのだろう。 彼の手には何かが握られていた。それは、見たことのある銀色の小道具のようなものだった。フラットの視界にその物体が映り込むと、目を見開く。
「これを渡し忘れていたから戻ってきた。だけだから。」
彼が何か隠している。大きなものを抱えている。
「苦しいのは嫌なんだ。俺が。君だってこの世界は残酷とわかっているはずだろ。」
フラットはその声が語る内容に震えながらも、心の中で強く答える。「僕はわからない。」
『わかったよ。もう止めないさ。』
彼の背中がぎこちなく動き、何かを置いて去って行った。フラットはその後ろ姿をじっと見つめたまま、決断しなければいけないのだと実感した。
「逃げないと。」
そっと足音を忍ばせながら、図書館の隅を通り抜け、ドアを少し開けると、夜の空気が冷たく頬を打った。まるで、この街自体が何かを隠し持っているようだった。
『 少年のもとに戻るべきか、それとも…』
そんなことを考えていると目の前に何かが現れた。
『逃げんのかよ。フラット』
ギルだ。彼の言葉は存在そのものに問いかける重い響きを帯びていた。
『あの日、俺はお前らを食った。だがそれはお前が無知だから利用されたに過ぎない。君は己の弱さのせいなのに俺のせいにしてないか。仲間たちの叫びを背に逃げた。だが、逃避は自己否定の連鎖に過ぎない。
お前に足りないのは、虚無に満ちたこの世界で、己の存在意義を問い続ける覚悟だろ。
存在とは、闇と光が交錯する中で、絶え間なく問いかけられる真実であり、逃げる先には決して答えはない。』
彼はゆっくりと歩み寄り、目を鋭く光らせた。後退りする僕に続けて話す。
『久しぶりだな。お前がこんなとこにいるなんて驚いた』
『どういうこと。』
『だってここはうさぎの殺傷率No. 1の街だぞ。俺も金に余裕がある時はここで調達するってもんさ。』
彼の内面には、過去の後悔や仲間たちの悲鳴が、まるで遠い星のように煌めいていた。フラットはその言葉に深く息を吸い込む。
ギルは無表情でフラットをじっと見つめ、そのまま一歩踏み出す。
ギルの声が、夜風に溶け込みながらも鋭くフラットの耳に届いた。
「お前はあの日、仲間たちの悲鳴を背にして逃げた。逃避は、己を否定するだけの行為だ。だが、逃げる先に真実は見えない。お前に欠けているのは、虚無に満ちたこの世界で己の存在を問い続ける覚悟だ。」
フラットは、闇夜に瞬く星々を見上げながら、心の奥底で過去の痛みと向き合った。胸の中で、失われた仲間たちの囁きが、夜の静寂に響く。
「存在するとは、己の弱さと痛みを受け入れた上で、闇と光の狭間で問い続けることだ。」
ギルは一歩近づき、冷たい眼差しをフラットに向けた。
「お前は、逃げることで己を救おうとしてはいないのか? そのままでは、いつか永遠に虚無の中に取り込まれるだけだ。幸福ってのはな、フラット。逃げるものじゃない。掴むもんだぞ。」
フラットは、凍えるような夜風に頬を撫でられながら、ゆっくりと背を向けた。
「もう、逃げはしない。僕はこの苦悩を、己の存在を問い直もすための燃料とする。」
その瞬間、彼の中にかすかな覚悟が灯り、心の奥にあった虚無が新たな意味を帯び始めた。
ギルは一瞬、表情に曖昧な笑みを浮かべた。
「その覚悟が、いつの日かお前自身を救うことを、僕は望む。」
フラットは、重い足取りでしかし確固たる意志を胸に、夜の街へと歩み出した。彼の歩みは、ただの逃避ではなく、己の存在の意味に対する抗いであり、苦悩と向き合う覚悟そのものだった。
遠く、夜空の星々が、彼の未来へのかすかな道標となって輝いていた。
幸福とは、なんだったのか。
誰かに与えられるもの? 誰かと分かち合うもの? それとも、ただ与えられたものを守り抜くこと?ひとつ言えるのは幸福というのは掴みとるものということ。あとは君だけにしか分からない。