アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話   作:月光舞詐称者姫

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大変お待たせしました。おかげさまでランキング二十位台になることができました。
普段自分の作品がこういう場所になるわけないと思い込んで全くランキングとか見てなかったんですけど、皆さんのおかげで、そういうのを見て、自分の作品以外にも今まで興味なかったジャンルなんかから面白い作品を発掘するのが好きになりました。もう直ぐ感想100件&お気に入り登録500件に達しそうなので、これからも飛躍を目指して頑張っていきます。応援よろしくお願いいたします

AIに添削させたら誤字脱字の多い事多い事。いくつか表現方法についての訂正案も出ていましたがこの文章が味があると言ってくださった方もいることですし、誤字脱字の修正などにのみAIを利用しており、表現方法や文章自体は自分自身の手で作成したオリジナルであると改めて明言させていただきます。

今回世界観やキャラクターの設定の重要な部分に対して大幅な独自解釈が加えられております!ご注意ください。


第二十五話 鏡写しのフェイス

「アインズ様……よろしかったのですか?」

「代表戦の件か。」

「あのような下等生物の提案に乗らずとも、我らの軍勢を以てすればあのような国、踏み潰すことも……」

 

 アルベドの提案は最もだ。確かに今回はスタークに乗せられた感じがしてならない。だが

 

「冒険者モモンの立場はまだ利用価値がある。ここで奴に瓦解させられるのは避けたかった。」

 

 ここで問題になってくるのが漆黒の剣の存在だ。彼らはナーベとの会話で『モモンにはアルベドという婚約者がいる』という情報を知っている。そしてガゼフを助けた時、魔導士アインズはお供としてアルベドを連れていたのだ。

 この二つの情報がぶつかり合えば事態は修復不可能になる。

 

「ブラッドスタークもこちらが要求を呑んだ以上、代表戦の間は波風を立てないだろう.問題は代表戦に誰を選出するかだ。」

 

 ナザリックの代表としてアインズが行く。それもいいだろう。ブラッドスタークの毒が効かず、多くの引き出しがありどんな奇策が来ても対応の幅が広い自分なら受けられる。

 

「アインズ様、シャルティアに挽回の機会を与えてみては?」

「シャルティアは鎧姿を王国民に何人か見られている。」

 

 他でもない、謎の勢力の持つワールドアイテムによって洗脳された時のことだ。そのことを悔いているシャルティアに挽回の機会を与えたいとは思っていたが、その時王国の近辺に現れたシャルティアは王国の冒険者に目撃されている。

 アインズの口から咄嗟に出た『吸血鬼ホニョペニョコ』という名前で冒険者モモンに討伐されたことになっている彼女を、決闘の場に出すわけにはいかない。そのことにもどかしそうに俯くシャルティア。しかしそこに、玉座の間の扉を開けて入ってくる者が1人。

 

「アウラ!?まだ休んでいるはずじゃ……」

「ご配慮くださりありがとうございます、アインズ様。でももう大丈夫です。」

 

 そう言いながら膝をつくアウラだったが、アルベドはそんな彼女の風体に顔を顰める。

 

「アウラ……まずは顔を洗ってらっしゃい。そのような格好でアインズ様の前に立つなど失礼ですよ。」

 

 まだ泣いていたのだろう。泣き腫らして浮腫んだ顔にボサボサの髪。服も心なしかくたびれて見える。至高の御方に謁見するのであれば、まず体を清めるのが礼儀だろうと言うアルベド。だがアインズはそれを制した。

 

「こうして会議に馳せ参じてくれたのだ。なにより、マーレの仇をどうするかという会議でもある。」

 

 彼女にも参加する資格はあると。そう言うアインズにアルベドは出過ぎた真似を……と謝罪の意思を示す。

 

「なかなか面倒な逃げ道を用意したでありんすね、あの下等生物は……」

 

 蹂躙することは変わらないだろうと考えていたが、考えれば考えるほど不安要素が出てくる。そうぼやいたシャルティアの言葉は

 

「ねぇ、シャルティア。」

「あん?おチビはなにか策でもあるって言うんでありんすか?」

「その下等生物っていうの、やめてくれない?」

「…………は?」

 

 アウラの地雷を踏んだ。

 

「い、いきなり何を?あんな奴らは所詮偉大なる至高の御方々に作られた我々には遠く及ばない……」

「その下等生物に、マーレは殺されたんだよ。」

 

 片膝をつき、頭を下げたまま発せられる声は、低く冷たかった。

 

「殺されてるんだよ。マーレが、あたしの弟が。それを殺した奴らが取るに足らない下等生物なら、殺されたマーレは一体なんなのさ。」

 

 暗く澱んだオッドアイが、シャルティアを睨みつけている。その気迫に、思わず気圧された。

 

「答えろ、シャルティア・ブラッドフォールン。」

「アウラッ!何をしてるか分かっているの!?」

 

 己の肩に巻き付いた獲物の鞭に手が伸び掛かっているのを見て、アルベドが声を上げる。

 

「アインズ様の御前で、愚かな私闘など……」

「愚か?」

 

 その視線がアルベドと玉座の上のアインズに向けられ、思わずアインズも息を呑んだ。

 

「マーレが馬鹿にされたことを怒るのが愚かだとでも?」

「元はと言えばあの子の責任でしょう!」

 

 仲間だ。アルベドにとってもこの双子のエルフは大切な同僚で、同じ至高の御方に作られた同胞だ。だが、指揮官として言うならば、戦いに負けたことに、マーレの責任が一切無いとは言い切れない。

 そして自分たちにとって、人間とは取るに足らない存在であるというのは共通認識である。そこに含まれた多少の強者を基準に、常識を改めろとアウラは言ってるのだ。そんな物言いは無茶に値する。

 

「それを棚に上げて……」

 

 返答は鞭だった。長く伸びた白いそれが、蛇か何かのようにアルベドを急襲する。その先端をアルベドは両手で受け止めた。パシィッ!肌と硬質の鞭がぶつかり合う痛々しい音が響き渡る。

 アルベドの守護者としての戦闘力の序列は、コキュートス、セバスと並ぶ三位。与えられた二つ名は『防御最強』サキュバスが、というのも変な話だが、聖騎士などの防御系のジョブやスキルを多数マスターする彼女なら、その気になればコキュートスの刃すら片手で受け止める。

 そんな彼女が暴走した時の抑え役として天井に控えていた八肢刀の暗殺蟲達も、アウラの剣呑な空気と、動こうとした瞬間に飛ばされた殺気に動けずにいた。

 そして先ほどの一撃に対する咄嗟の反応。まさかこの場所で、偉大なる主人が見下ろす玉座の間で、それを振り抜いてくるとは思いもしなかった。故に、防ぐことには成功したが……痛かった。片手を鞭から離して見てみれば、手のひらの一部が裂け、血が滴り落ちている。

 

「アウラぁ…………!!」

 

 まるで地獄の釜の底から聞こえてくるような、怒りと憎悪の籠った声でアルベドはアウラを呼ぶ。アウラもまた、彼女の使役する魔獣のような、敵意に包まれた目でアルベドを睨む。

 

「2人ともいい加減にしないか!!」

 

 このままでは私闘どころか死闘になりかねないと、アインズが喝を入れた。

 

「アルベド、シャルティア、事情はどうあれアウラの言うことにも一理ある。

 今回のプレアデスやマーレの敗北には、人間をただの下等生物と見下すお前達の油断があったのは事実だ。ただ下等生物と侮るだけでは、また足元を掬われるぞ。」

 

 戦の前には、敵の情報を調べるなどの柔軟な下準備が必要だった。それが欠けていたのは事実だ。アウラへの配慮もまた、欠けていた。というかアウラを落ち着かせるためにはまず2人を糾弾してこれ以上余計なことを言わせないようにしなければならない。

 マーレの敗北に彼自身の責任があると言う言葉にアウラは一瞬殺気をアインズに向けかけたが、それを飲み込む程度の理性はあったらしい。

 

「アウラも、その怒りは戦いに取っておくといい。今回の罰も含め、相応しい舞台を用意しよう。」

「アインズ様、それは……」

 

 代表戦、ナザリックを代表するのはアウラ。そう決定するアインズの手元の指輪が、我に必勝の策ありと言わんばかりに輝いた。

 

 

 一方ニニャは、宿の部屋に閉じこもってしまっていた。ペテル達が言葉をかけに行っても断り、彼女を引っ張り出せそうなクレマンティーヌは苛立ちをぶつけるようにブレイン達とスタークの元で鍛錬に勤しんでいる。そんな中だった。

 

「ニニャさん。」

「……セバス……さん?」

 

 扉がノックされ、今までとは違う声に、ベットの中でうずくまっていたニニャは顔を上げる。

 

「代表戦のお話は聞きましたか?」

「…………セバスさんも、僕に出て欲しいというんですか?」

 

 ニニャはセバスの問いにそう返す。前にも、王国の役人が来た。仮面ライダーの力が必要だと。

 

「いいえ。ここには……謝罪に来たのです。」

「謝罪?セバスさんに謝ることなんて……」

 

 むしろ本来ならこちらからお礼を言わなければならない。ハザードの暴走を止めたのは彼なのだ。何も謝ることなんてないだろうと思った矢先

 

「私は嘘をついていました。ソリュシャンお嬢様の令嬢としての姿は仮の姿。本来は、私の部下なのです。」

「え……?」

 

 それはつまり、身分を偽りこの王国に潜入していたということだろうか。ならばセバスの正体は執事などではなく諜報員ということになる。

 

「それは、帝国の……」

 

 真っ先に思いつくのは、戦争が恒例行事となりつつあるバハルス帝国。だが、返答は沈黙。直感的にそれが否定だと悟った。

 

「じゃあ、法国……?」

 

 クレマンティーヌは法国の逃亡者だ。それを探してやってきたのならば、辻褄は合う。だが、答えはまた沈黙。では聖王国?いや、一つだけ存在する。この場所に、ここまで強い人間を、単なる密偵として送り込める国が。

 

「まさか…………」

「私は本来、さる偉大なる御方に仕える身。」

「ッ!!」

 

 偉大なる御方、その敬称には聞き覚えがある。あの街に通告したモンスターも、同じ答えを述べていた。

 

「偉大なる御方は、ツアレを御方の御許で保護すると仰いました。明日には、我らの拠点へ発ちます。」

「待ってください!なんでそれを…………」

 

 思わず隣に置いていたビルドドライバーを手に取りながら問いかける。それはつまり、姉のツアレを自分への人質にするということではないのか。まだ連れていく前だというのにどうして……

 

「その出立の前に、散歩と伝言を許可していただきました。」

「伝……言……?」

 

 すっと、足元の扉の隙間から一枚の紙が入れられる。思わず手に取って広げれば、王都の一角を記した地図だった。

 

「1時間後に、その場所で待っている。伝言は以上です。」

「ま、待っ…………」

 

 思わず扉を開けて見るが、廊下には誰もいない。今のは幻?それとも罠?いや、でも……

 

「姉さん……」

 

 ビルドドライバーを手に、駆け出さないわけにはいかなかった。

 

 

 一方のアウラも、王国の国内へと赴いていた。フードを目深に被り普段の男装とは違う、レザー素材の軽装鎧に弓を担いだ冒険者のような出立に変装して。なぜか、それは彼女の手元できらりと光るどんぐり型の二つのネックレスが物語っている。マーレの墓参りだ。

 

 今の王都は少しばかり慌ただしい。戦の準備だと悲壮な面持ちで武器を手入れするものも居れば、武功をあげてやると意気込むものも。もう終わりだと最後の晩餐と言わんばかりに仲間と酒の席を囲むものがいれば、先の戦いで仲間を失ったのか、1人侘しい席で嘆くものもいる。死にたくないと夜逃げを準備するものを、諦め切ったものが包囲されてるから無駄だと酒瓶片手に嘲笑う。

 

「骨だ!骨が出てきたぞ!」

「ひでぇな、ぐちゃぐちゃだ……」

「その腕輪は……間違いないわ!うちの夫よ!」

 

 土砂に飲まれた区画では、絶えず発掘作業が続いている。また1人、犠牲者が見つかったらしい。瓦礫と共に土砂に飲まれ圧死した男は幸いにも、身元のわかるものを身につけていたようだ。

 

「ああっ……貴方…………!」

 

 どうして、どうしてこんなことにと嘆く若い女性を尻目に、アウラはそこから離れて少し歩く。そうすれば、たどり着いたのはドラゴンの墜落によって瓦礫まみれになった場所。土砂崩れやドラゴン騒ぎで避難していた人間も多く、仮面ライダーの交戦地帯ということもあり王国の兵士たちによって犠牲者の確認などが手早く済んでいたその一角は、ひどく静かだった。

 

 マーレ・ベロ・フィオーラは死んだ。遺体は崩れ去り、残ったのは遺品のネックレスただ一つ。ならば墓は、墓になり得るのは、アウラの腕の中で死んでいったこの地だけだろう。

 

「マーレ……仇を討つ機会を貰えたよ……」

 

 震える声で、報告するかのように言葉をこぼす。悲しみを胸に押し込み、立ち上がらねばと赴いた会議の場で燃え盛っていた憎悪は、嘘のように引いている。

 冷静な頭でしでかしたことを振り返り、マーレの死がフラッシュバック。今の彼女の中にあるのは……

 

「ごめん……ごめんねぇ……マーレぇ……」

 

 後悔ばかりだ。最愛の弟を死なせたこと。姉なのに守れなかったこと。その怒りのまま今度は仲間との絆まで壊しかけたこと。部屋で泣いていた時の喪失感とはまるで違う涙が、添えるように置かれた花の前で溢れる。そうして懺悔するかのように泣いていた時だった。

 

「やっぱりお前だろ!このこげ茶肌のバケモノめ!」

 

 コツンと、なにかがアウラの頭に当たって跳ねた。カラカラと音のする方を見れば、それは小石だった。振り返れば、アウラとそこまで背丈の変わらない子供が憎悪に染まった目で瓦礫片手にこちらを睨みつけている。

 

「お前の魔法……あの土砂崩れの魔法で、母ちゃんが死んだ!」

 

 自分を庇って、突き飛ばして、そうして土砂に飲まれたのだと。それなのに

 

「なんでお前が生きてるんだよ!?仮面ライダーが倒したんだろ!?」

 

 最初は何を言ってるか分からなかった。だがそこで悟る。あぁ、この子供は自分とマーレを勘違いしているんだと。訂正しようとしたところで

 

「生き返るなよ!そのまま死んでおけよ!この化け物!!」

「生き返る……?」

 

 少年の言葉が、アウラの心に燻る炎に油をぶっかけた。

 

「本当に……本当に生き返ってくれるのならどれだけ良かったと思ってるの!?」

「ひっ!?」

 

 飛んできた瓦礫を掴んで粉砕。そのまま怒鳴りながら少年に詰め寄る。片手でその胸ぐらを掴み上げて言う。

 

「マーレは生き返らない!なにが英雄だ?なにが仮面ライダーだ!?マーレを……マーレの魂までも破壊するあいつの方がよっぽど化け物じゃないか!!」

「な、なんだよお前、何言って……」

「もうあの子は歳を取れないんだ!一緒だったご飯の時間も遊ぶ時間も、全部全部もう帰ってこないんだ!!」

 

 それを差し置いて自分の親が殺されたから死んでおけだと?ふざけるな。そんな怒りは、憎悪が消え去り怯え一色でもがく少年を前に、次第に嗜虐心に変わっていく。

 怯えて泣き喚いて情けない。お前の怒りはそんなものか?さっきまでの威勢はどうした?またさっきみたいな顔をして見せろと。そう、丁度その怯え切って涙を溜めたお(・)前(・)の(・)目(・)に(・)写(・)る(・)顔(・)み(・)た(・)い(・)に(・)。

 涙を流しながら怨嗟の籠った瞳で相手を睨みつけ、怒りに歯を食いしばる、そのぐちゃぐちゃな表情をまたして見せろと考えたところで、気づく。これは誰の表情だ?小麦粉色の肌に金のショートヘア。そして、紫と緑のオッドアイ。

 自分だ。自分が、先ほどの少年と全く同じ表情で少年の瞳という鏡の中からこちらを睨みつけていた。

 

「っ!?」

 

 ハンマーで殴られたような感覚がした。思わず手を離した結果、地面で膝をつきげほげほと咳き込むこの少年は、自分と大して変わらない表情をしていた。家族を、大切な誰かを奪われた者の目だ。そこに、何(・)も(・)違(・)い(・)が(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。そう、自分の頭が理解してしまう。思わず後ずさる。

 無数の瓦礫の山が目に入る。先ほど嘆いていた女性の声がフラッシュバックする。めちゃめちゃになった王都が目に入り、こう考えてしまう。

 

 一体マーレは、どれほどの家族を奪われた者(わたし)を作り出してしまったのか。

 

「ち、違う……違う!!だって…………」

 

 至高の御方に作られた私達とお前達人間は違う。そう叫ぼうとして……言葉が、出なかった。ただパクパクと、空気を失った魚のように口を開いたり閉じたりするだけ。一方的に、存在を理由に見下す言葉が出てこない。

 ナザリックの存在であれば平然と出てくるはずの言葉が使えない。あの鏡写しの表情を見てから、その言葉が出てこない。ただ青い顔でぱくぱくと口を動かす姿を、同類の少年だけが見据えていた。

 

 

「姉さん!」

「セシー、来てくれたのね。」

 

 宿から抜け出し、ホークガトリングフォームで飛来したニニャ。地図によって示されていた先は下町から少し登ったところにある建物の上。そこには王都を一望できる眺めが広がっていた。

 

「王都にこんな場所があっただなんて……」

「セバス様とお買い物に出た時見つけたの。」

 

 初めて、王都をちゃんと見た日でもあったと、彼女は語る。

 

「ボロボロの状態でここに連れてこられて、その後はずっと、建物の中で過ごしてたから。」

「…………ごめん。」

 

 近くにいたのに気づけなくて、直ぐに助けることができなくて、連れ去られた時、1人だけ生き延びてしまって。謝らなければならないことは数え切れない。そんな想いが込められた"ごめん"だった。それに対してツアレは優しく首を横に張った。

 

「助けてもらったもの、仮面ライダーに。」

 

 ナザリックを警戒しているのか、まだ変身を解除していないニニャに、そう言って微笑みかける。

 

「ね、顔を見せてよ。今のセシーの顔、しっかり見てみたいの。」

「……分かった。」

 

 他でもない姉の頼みに、ドライバーからフルボトルを外し、生態装甲を解く。

 

「酷い顔、そんなセシーを見るのはいつぶりかしら。近所のトーマスに、『もうお前なんか友達じゃない!』って言われて帰って来た時とそっくりな顔してるわよ。」

「そんな昔の話…………!!」

 

 まだ2人で村にいた頃、姉に泣きついた思い出話に顔を赤くするが、そこで気づく。奴隷としての日々の記憶に囚われていた彼女は、自分に関することを思い出そうとするとついてくるそう言った記憶から、昔のことは考えないようにしていたはず……

 だが今、彼女は何処にでもいる普通の家族のように、こちらに優しく微笑みかけてきてくれている。そのことに気づいて大きく目を見開いた自分に、彼女はくすりと笑って言った。

 

「えぇ、もう大丈夫になったの。」

「そうなんだ、それは……」

 

 よかった、そう言おうとした自分の言葉を、でも、とツアレが遮った。

 

「今度は、あなたが大丈夫じゃなさそうね。」

「えっと…………」

「それはセバス様のお仲間を、手にかけてしまったから?」

「ッ!!じゃあやっぱりあの人は……!」

 

 アインズ・ウール・ゴウンの仲間なのか。それを問いかけようとして、彼女がまだ、セバスを敬称で呼ぶことに気づく。

 

「私ね、ナザリックでメイドとして雇っていただくことになったの。」

「なっ!?」

 

 ナザリック地下大墳墓。名前だけしか知らない、あの怪物達の拠点。そこで働く事を、彼女は受け入れている。つまり彼女は王都の民を殺戮し、この王国を滅ぼしかねない怪物達の、仲間になると言っているのだ。

 

「何を言ってるの姉さん!?あの人達は……」

「えぇ、分かっているわ。これから貴方が戦う相手だもの。」

「ッ!!!」

 

 姉を引き留めようと出た言葉にそう返されて、戦う。その事を認識してしまって、また自分の手が、血まみれになっているような錯覚を受けてしまう。

 

「僕は………出ない…………」

 

 絞り出すように、そう言う。

 

「姉さんが、ナザリックに行くからじゃない。壊すのが怖いんだ。僕はスタークさんを……皆んなを守る為に、力に飛びついた。その結果あんな……!」

 

 力を手に入れた。強くなった。それは誰かを守る為だ。奪って殺して、そんなやり方で手に入れたかったわけじゃない。守ると言うのは、傷つける相手を完膚なきまでに叩き潰すことじゃない。だというのに……

 

「ねぇ、セシー。」

 

 震えるニニャに、ツアレはそう言って話しかける。

 

「私ね、セバス様のことが好きなの。」

「え…………?」

「真っ直ぐで誠実な所が好き。昔の主人のお言葉を、今でも大切にしてて、いろいろ厄介なことになるって知りながら助けちゃう、不器用で熱い面が好き。私を一番にすることは絶対にできないけど、それでも私のためにこんなふうに無理を通してくれる優しさが好き。」

 

 あの日あの時、力尽きかけてた私にそれでも助けて欲しいなら自分の意思を示せと言ってくれた時から、恋に落ちたのだと。

 

「叶わなくていい。不相応な思いで構わない。それでも、私はあの人のお側に居たい。」

「でもそれは……」

「えぇ、姉妹だもの。私には同時に『人質』としての価値も求められている。」

 

 それはつまり、ニニャを縛る鎖になるということだ。

 

「でも私はそうはなりたくない。だからセバス様に無理を言っていただいたの。」

 

 そういうツアレの目は、まっすぐ凛としてニニャを見据えている。

 

「ねぇセシー、私はきっと貴方に助けてもらえなくても、ナザリックに行っていたと思うわ。」

 

 それは独白。もしゼロを倒したのが、ニニャではなくセバスだったら、こうして語り合うこともなく、静かにセバスと共にナザリックへ消えていただろう。

 

「恋心を糧に、ナザリックで働いていたと思う。そして、貴方のことなんて思い出そうともしなかったんじゃ無いかしら。」

 

 過去を思い出すから、奴隷だった辛い記憶に縛られて、出来るだけ考えないようにと目を背け、セバスだけを見てナザリックで暮らしていたことだろう。この世界には、ゲームであったユグドラシルと同じ魔法、同じ職業(ジョブ)が用いられている。ニニャであれば異能(タレント)や読み込んだ魔導書で得た魔法の知識から魔術師のジョブを、ペテルやルクルットといった戦士は己の身体を鍛え、得意とする武器を扱うことで戦士やレンジャーといったジョブを獲得する。

 では、そうした修行をしない一般の市民や貴族は皆レベル1ということか。そうでは無い。金槌と火で鉄を扱う鍛治屋は"鍛治師,のジョブを、商いを営むものは"商人"のジョブを、領土を統治し納める貴族は"貴族"のジョブを、それぞれ獲得する。

 ではツアレが生涯の経験で獲得したジョブとは何か、それは"奴隷"だ。縛り付けられ虐げられ、その中で働くもの。毛ほどもない小さな効果だが、ひどい暴力に晒されても、多少は耐えられるようになったりする。ツアレがあのボロボロの状態でも、セバスに助けを求められたのはこのジョブあってこそだ。

 だが同時にそれは鎖でもあった。自由の身になってもトラウマという形で己を縛り続ける、見えない鎖の正体だ。

 

「でも、それをあなたが晴らしてくれた。」

 

 今の彼女に、そのトラウマはない。正面からぶつかり合ったヒーローが、敵を撃ち倒し、闇を祓ってくれた。

 

「私は十分救われた。貴方の手で救ってもらえた。私の足で、私のために、私の夢にまっすぐ進めるくらいには。だからね、もう大丈夫。」

 

 それは感謝で、それは謝罪で、それは別れだった。我儘で、身勝手で、それでも真っ直ぐな愛故に、

 

「もう、助けてもらわなくても大丈夫。私は私の道を行く。だからセシー。貴方にも進んで欲しいの。貴方の道を、まっすぐに。」

「僕の、道…………」

 

 目を落とすのは、腰元のビルドドライバー。

 

「スタークさんから聞いたわ。ビルドってのは造るとか、形成するって意味だって。」

 

 そういえば、そんな事を言っていた気がする。しかし、自分はそれを壊す為に……震える様に手を眺める。血まみれの幻覚の見える手を、ツアレは迷わず手に取った。

 

「姉さん何を……」

「私は貴方に笑顔と幸せをビルドしてもらった。十分すぎるほどに。だから、貴方にはその道を進み続けて欲しいの。」

 

 酷い話だ。自分は鎖から解いてもらえたというのに、妹を仮面ライダーという因果の鎖で引っ張る事で奮い立たせようとしている。ナザリックからしても裏切りだ。敵をわざわざ鼓舞しているのだから。

 

「……本当に、いいの?」

「ええ。これ以上妹になんとかしてもらってたらバチが当たっちゃうわ。これ以上は自分で見つけてビルドする。そう決めたの。」

 

 その言葉に、ニニャはポロポロと涙を流す.

 

「僕も……僕も、ビルドしてもらったんだ。皆んなに、いっぱい……」

 

 ペテル達は、アダマンタイト級と言われた六腕を打ち破り、自分たちもお前の隣に居られるぞと笑いかけてきてくれた。クレマンティーヌは自分を奮い立たせる、立ち上がれない時は自らが矢面に立って敵の前に立ち塞がってくれた。

 そして自分の助けたものに、今また折れそうになった心を支えてもらっている。

 

「だから僕は……」

 

 これが鎖だとは思わない。誰かを助けるこの思いは義務でもない。自分の心から湧いてくるものだ。

 

「もっと多くの人を助けたい。王国の人たちを、それだけじゃない。パーティーの皆んなを守りたい。」

「うん。それでいいの。もし仮面ライダーを辞めないと私を殺すってナザリックから言われたら、迷っちゃダメよ。」

 

 貴方は貴方の夢に向かってまっすぐ進みなさいと、そう言った時、暗がりからセバスが現れる。

 

「セバス様……」

「ツアレ、そろそろ時間です。」

「そう……ですか……」

 

 お別れの時が来たと告げるセバスに、表情を曇らせるニニャ。それを見て最後にツアレは呼ぶ

 

「《ニニャ》」

「ッ!!」

「いってきます!」

 

 自分の夢へ、遠い場所へ、笑顔で告げられたその言葉に、ニニャもまた笑みを浮かべて返す。

 

「いってらっしゃい、姉さん。そして、いってきます。」

「ええ、いってらっしゃい!」

 

 踵を返して歩くニニャ。ツアレはセバスと共に反対の方向へ歩いていく。

 

「……よろしかったのですか?ナザリックが貴方を雇う理由が、これで一つ減ってしまいましたが。」

 

 もしアインズからツアレを追い出せ、あるいはツアレを殺せと言われれば、セバスは迷わず彼女を殺すだろう。だがそれでも、そうだとわかっていても、彼女は選ぶのだ。

 

「ええ、大丈夫です。誰かが困っていたら、助けるのは当たり前。でしょう?」

 

 他人だろうと肉親だろうと同じ事だ。それを聞いたセバスは驚いた様に目を見開いて

 

「これは……一本取られましたね。」

 

 そう苦笑して、ツアレに微笑みかける

 

「では、参りましょう。」

「えぇ、あの方の下へ。」

 

 こうして2人は消えていった。ツアレニーニャ・ベイロン。仮面ライダーに助けられたものとしての出番はここで終わる。これからは、彼女だけの物語だ。

 

 

 突然だが、アインズの自認は『元人間』である。自分がかつての世界で鈴木悟という名前で、所謂ホモ・サピエンスと呼ばれる種類の生命だった自覚がある。

 だが彼はアンデッドとなった事を受け入れ、かつての人間時代の常識から感情の抑制などに不便を感じながらもそれに順応しつつある。

 だがその一方、かつての人間社会の感覚で物を考えてしまう時があり、人間を下等生物と見下しナチュラルに残虐な真似をするナザリックの面々との価値観の乖離に悩まされることもある。ナーベの物言いなどまさにそれだろう。

 

 つまるところ何が言いたいかと言えば、アインズはアンデッドの肉体に人間の魂が入った状態であるということだ。では、アウラ達NPCは、アインズと同じ様に仮想世界のそれではなく、現実の肉体という器に入れられた彼らには、一体何が入っているのか。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 単にゼロから魂が構築されたとなれば、逃げる様にあの場を駆け出したアウラを見ると疑問が残る。彼女は人間ではないが、人間種に分類されるダークエルフだ。だが、同じ人間種である現地人をナザリックより下とナチュラルに見下す共通認識を、アルベド達と同様に抱いていた。

 つまるところナザリックより下と見下すのは彼らの種族故ではない。彼らの魂の基盤となった物。自らの主人を至上の存在としてそれに逆らわず、粛々と命令をこなす事を人間によって定められた被造物。NPCが有する行動ロジック、それが有する『主人を優先する』というプロセスである。

 彼らがユグドラシル内でのことを朧げに記憶しているのも、そのAI内に残っていたゲーム内の行動ログが、彼らには『記憶』という形で紐付けられているからだろう。

 

「どうして……どうして……!?」

 

 つまるところ魂から普通の生命体とはズレているのがナザリックなのだ。機械とは、人が生み出した究極の奉仕存在である。思考も自由意志もなく、ただただ創造者に絶対服従。そんな『考えない奴隷』に自立した思考を持たせ、今までありもしなかった感情を植え付け、全く異なる生命の体に捩じ込んだ、そんな歪な存在。それが元NPC達である。

 

「なんで、あたしは……」

 

 だから人間に対して似た様な感情を抱いても、それを同じと認識する事などまずない。主人ではない大切な何かでしか、彼らはないのだから。そう、その筈だった。ビルドにあの一撃を叩き込まれるまでは。

 ネビュラガスには、投入された人間の歪められた部分を直す効果がある。ハザードによってオーバーフロー状態で叩き込まれた一撃は、アウラの守りを破壊すると同時に、その歪な精神のあり方に作用した。それが機械的な面ではなく、肉体に引っ張られ人間的な面に寄ったのは、彼女に取って幸運だったのか、はたまた不幸か。

 人の様に怒り、人の様に泣き、人の様に憎んだが故に、人に理解を示してしまった。アインズの完璧な僕には、もう戻れない。

クレマンティーヌはトランスチームガンを

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