一撃の浪漫 作:コンテンダーは良いぞおじさん
感想、評価共にありがとうございます。
ただの妄想を垂れ流してる拙作を楽しんで頂けているならこれに勝る事はございません…!
目の前に広がる一面の砂。
所々砂に飲み込まれつつある住居。
日常生活ではお目にかかれない砂の量と非日常な風景を前に少しテンションが上がる。
まぁ、暫くはこの景色が続くと考えると少し辟易してしまうがそこは御愛嬌だろう。
警戒線を突破するために馬鹿ほど遠回りしたせいで既に夕方…時間的には夜である。
時間が掛かったか、なんにせよ今はトリニティ領を抜けられた出来たことを喜ぶべきで、次の目的地に向かう前にやらねば行けない事を済ませるべきだ。
早速携帯端末を取り出してアンテナを確認…よし、ギリギリ電波が入る!
此処から先はアビドスの学区…半ば放棄された自治区だ。
電波局なんてモノはないし、端末を逆探知される心配もない。
と、言う事で最後に…
「えー拝啓、姉様へ…」
『いかがお過ごしでしょうか。勝手ながら一身上の都合によりトリニティを辞させて頂くこと誠に申し訳なく思います。』
「後は…」
『…既に羽川副委員長からお聞き及びの事と思いますが、トリニティの学籍は削除しておいて下さいますようお願い申し上げます。新たな門出の邪魔に成りますので何卒、何卒お願い致します』
「最後に…」
『私の事はもう居ないものと思って頂いて結構です。姉妹としての縁も切って頂いて構いません』
「敬具、と。こんな感じで合ってるかな?」
端末上に打ち込んだ文面に変な所が無いかを確認しながら推敲を繰り返すが次第に面倒になってきた。
もう、これで良いか。
変な所が有ったとしても、もう顔を合わせて話すことも無く。
文面を見て爆笑されてもこれで最後と思えばそんなに恥ずかしくもない。
「はい送信」
機内モードを解いて送信を押す。
…と同時にヤバい量の着信メッセージが入ってきた。
うわぁ端末がラグってる…こんなの初めて!なんて巫山戯てみるもメッセージの着信音が止まらない。
こんな僻地だと時間掛かるわぁ…
「うへぁ…ヤバ過ぎぃ」
ほぼ全てが姉様からで、時々クラスメートから。
まぁ、内容は殆ど同じだから割愛するとして…
『何処に居るのですか?』
『先ずはお話を…』
『今なら何も無かった事に出来ます』
エトセトラエトセトラ。
いやまぁ、ちょっと不味いかも?とは思ってたけど姉様ガチギレじゃん…こりゃ顔を合わせるのはゴメンだわ。
最初の数件だけちゃんと目を通して、コレなら残りは見る必要無いなと判断。
地面に放り投げた端末を相棒で撃ち抜く。
さらばトリニティでの日々(三ヶ月間)、バイトして初めて買った端末君…ま、来月新型出るって話だし買い替えどきではあったけど。
見事に木っ端微塵、最早端末からゴミにクラスチェンジしたモノをその辺のクズカゴに投げ入れる。
「ナイッシュー…と、ダメか。此処、放棄エリアだもんな」
業者が回収に来ないゴミ箱にゴミを捨てちゃいかん。と端末(元)を取り出すとズタボロの上着の胸ポケットへ突っ込む。
…画面の欠片がチクチクしてウザったいなコレ。
電波が復帰してGPSで追跡されるとこんな砂漠くんだりまで来た意味が無いから速攻でぶっ壊したけどもっと後でやれば良かったかもしれない。
反省反省…と考えながら歩き続けていると日が沈んでから一気に気温が下がった。
「ゔぁー…砂漠の夜は寒いって本当だったんだなぁ」
昼は猛暑、夜は極寒。
本で読んだことは有ったが実際に体験すると少し感動する。
こんな場所でも人が住んでいた形跡があるのを見るとなんとも逞しいモノだと苦笑が漏れる。
(後はブラックマーケットまで迂回すれば良い、んだけど…)
事前に調べた限り、廃線になった線路を辿ればインフラが生きてた時代に栄えてた都市までは辿り着ける。
ブラックマーケットもその一部だ。
ブラックマーケット…元々は経済破綻して連邦生徒会から見捨てられた学区の成れの果てだと言われている。
秩序が崩壊した所に後ろ暗い企業が違法な事を内緒でやる為に乗り込み、金と需要を生み出し続けた結果生まれた違法自治区。
連邦生徒会が気づいた時には既に一大勢力と化していて安易に手出しが出来ない無法者達の楽園…ゴミ溜めとも称される悪行の街。
ブラックマーケットへ向かうならアビドス砂漠を抜けちまえば良いやと判断しての強行軍だったけど。
吹き付ける夜に吹く砂漠の風は情容赦なく体温を奪って行く。
最早ボロ布の塊と言って差し支えない上着を肩を寄せるようにしてかき集めて暖を取ろうとするがあまり意味はなかった…先程発砲した相棒の余熱が温かい。
うん、ダメだな。取り敢えず夜の砂漠を素人の私が歩いて渡るのは危険すぎる。
適当な空き家に転がり込んで夜を明かさせて貰おう。
窓ガラスが割れて砂が入り込んでいる民家に潜り込む。
「おじゃまします」
元はリビングだったであろう所で一礼。
砂に飲まれる前に避難した際に持ち出したのか、家具の類は一切ない。
2階へ上がると窓だったであろう部分から風が舞い込んでいた。
…まぁ、廊下で寝れなくもないし。
ジャリジャリする床を軽く手で払ってから座り込む。
「こんな経験も初めてだわぁ…」
風が直接当たらないだけでも大分違う。
やはり衣食住は人間の基本というだけある…3つの中だと優先度低いよな〜とか思っててごめんよ住…今は君がTier1だ。
そんな戯言を考えながら襲い来る睡魔に身を任せる。
明日は早く起きて過ごしやすい所まで行こ……
日が落ちても捕まらない妹を案じている所に、件の相手から一通のメッセージが届いた。
ようやく返事をしてくれた、と安堵と不安に押しつぶされそうになりながらメッセージを読み進めていくナギサ。
「………」
ギリィッ!と音を立てて端末を握りつぶさんとする指。
その行動とは裏腹に膝から崩れ落ちる様に椅子に腰掛けたのを見て恐る恐る話しかける一人の少女。
「…あー、ナギちゃん?」
そんなに握りしめたら壊れちゃうよ?
そう続けて指先が白くなるまで握りしめている手を優しく解いて行く。
「ほら、深呼吸してー」
吸って、吐いて。
幼子のように指示に従った桐藤ナギサはようやく冷静さを取り戻した様に少女…聖園ミカへと向き直る。
「ありがとうございます、ミカさん」
危うく叩き壊してしまう所でした。と頭を下げて。
「いいよ別にー…所で、何をそんなに悩んでるの?」
極普通に、なんとなく聞いてみたという感じの質問に
「えぇ…その、なんと言いますか…」
歯切れ悪く言葉を選ぶ幼馴染の姿を見て思い至る。
「ハルちゃんから?」
いつでも優雅であれと自身を律しているこの友人が取り乱す時は大抵妹絡みの時である。
今回はちょっとトラブルの規模が大きいが。
暴力で薙ぎ払って説明も弁明もなく逃走…丁寧に退学届を提出して。
それを知った友人の心痛は想像に難くない。
「…えぇ、そうです」
少し肩を落とし、力なくテーブルの上に乗せた端末の画面がこちらに向けられる。
「えーと…?」
『拝啓、姉様へ。いかがお過ごしでしょうか…』
無理して固い言葉を使った子供が書いたような文章に少し笑ってしまいそうになりながら最後まで読む。
初めに抱いた感想は
…あー。そうなっちゃったか。である。
ナギちゃん…桐藤ナギサと違って直情的で素直な気質…悪く言うなら脳筋のきらいがある彼女にはトリニティ式の腹の探りあいや喧嘩の作法は向いていないと思ってはいた。
「あちゃー…これはまた痛烈だねぇ」
学籍を抜くだけでなく姉妹の縁も切って良し、寧ろ切ってくれと言わんばかりの文章に思わず眉を顰める。
「…私は、何を間違えたんでしょう」
独白する幼馴染に掛けるべき言葉が見つからない。
原因を考えるならそりゃまぁもっと話す機会を設けるべきだったんだろうし、最低でも権力闘争にかまけてないでメッセージのやり取り位は継続するべきだったんじゃないかな?
…まぁ、今となっては後の祭りだけど。
ストレートにぶつけたらどう見ても限界が近い相手にとどめを刺しかねないと必死に言葉を選ぶ。
「…ま、まぁほら、此処って向いてない子にはトコトン向いてないからさ!」
トリニティ総合学園はその生い立ちから派閥闘争と切っても切れない関係にある。
総合の名の通り、かつて存在した数多の学区を束ね上げ一つに纏め上げた大学園である。
互いにいがみ合っていた時もあった。
しかしトリニティとして纏った以上、これより先は仲間であり姉妹である。
故に不満や不平は拳ではなく議論にて決するべし。
我らには言葉があるのだから。
そんな題目を掲げて纏った…様に見せかけているハリボテの城。
確かに学区ごとの違いは無くなった…代わりに派閥政治が始まったが。
表面上は同学、仲間と言えど派閥が違うのなら潜在的な敵と変わらないというのが共通のスタンスだ。
信頼するフェーズを挟まずに急速に固まった寄り合いだから血で血を洗う闘争から、笑顔の裏で相手を貶める冷戦へシフトして行ったのは当然の帰結と言える。
そんな派閥闘争真っ只中のトリニティに現れた現トップの妹。
トリニティ式のやり方に慣れていない、カモの様に見える桐藤ナギサのアキレス腱になり得る存在。
そりゃ狙われるよねぇ…と呆れ半分に溜息を吐く。
「あー…」
うーん…何と言えば良いものか。
「あの子、ハルちゃんに護衛とか付けてなかったの?」
目撃者が居れば逆に相手を嵌めて…と続けるも
「ハルが拒否しまして…護衛はおろかその時は監視すら振り切られていました」
おおぅ…と額を抑える。
本人に内緒で監視してた事をサラッと言ったことはともかく、相手だけ証人が居て此方に不利な証言しかしないと言うのは最早出来レースだろう。
「これ、負け戦じゃない…?」
どう足掻いてもハルに勝ち目がない。
正当性を証明できる証人も、証拠もない。
「…そもそも本人が戦おうとしてません」
"もういいや"
そう言って諦めたそうです。と正実の副長、羽川ハスミから聞いた言葉を繰り返すと
「…もう、無理じゃないかな」
見限られてるよ、トリニティ…と呟くミカ。
「………」
無言で端末を見つめるナギサ。
重い沈黙がティーパーティーのテラスを包み込んだ。
一晩明けて、朝である。
一眠りして完全回復…と言えたなら良かったんだけど、なぁ…
「ようやくお目覚めか?」
下卑た笑い声と共に軽く蹴られた。
うん、まぁ知らない所で見張りもなく眠りこけたらこうなるのも致し方なしだよね。
久しぶりの野宿で油断してたぁ…と後悔するも直ぐに頭を切り替える。
取り敢えずうつ伏せにされてる状態のまま腕を動かそうとすると誰かが乗っているのか軽い抵抗が有った。
「大人しくしてろ…そうすりゃ痛い目を見ずにすむぜ?」
背中から掛けられた声に軽く頷く。
取り敢えず言われた通り大人しくしておこう。
「…うん、おはよう?」
不自然ではない程度に視線を振ると視界に入った人数が3人、私の上に乗ってる奴を含めれば4人。
チームとしてあり得なくもない数字だが増援が無いとも限らない。
…一人一発で四発。五秒もあれば片がつく。
「此処が君達の家だったなら謝るよ」
ごめんなさい、と頭を下げる。
さりげなく体勢を変えてホルスターを探る…やっぱ盗られてるか。
「勝手に上がり込んで一晩休ませて貰っちゃって」
顔を上げながら見える範囲で相棒を探すが…
「あぁん?…なぁに、良いってことよ」
私を蹴ってくれやがったヘルメット団が笑いを抑えながら続ける。
見つけた。コイツが持ってる。
「でもま、一般常識として?宿泊費は必要だよなぁ?」
なぁ!と周囲に同意を求めるヘルメット団…Aで良いか。
それに呼応するB、C、D。
「っても私たちも鬼じゃねぇからよ」
ちょいと人質になってもらうだけで良いぜ?と続けるA。
「人質?私にそんな価値は無いですよ?」
耳を澄ます…他に人は居ない。
この場の4人を制圧、少なくとも今日は動けないレベルまで叩きのめせば何の支障もなく逃げられる。
「惚けてくれちゃって!その制服、トリニティだろ?」
その校章、見覚えがあるぜ?と指さす先にはズタボロになった袖の部分に引っかかってるトリニティの紋章。
おぅ…こんな事ならブラックマーケットで二束三文で売ろうとか考えずに適当に捨ててくりゃ良かった…!
「お前が払えなくても金持ちな学校が払ってくれるさ!」
お前の懐は痛まねぇし、俺らの懐は暖まる。
「正にWin-Winな関係だろ?」
な?と顔を近づけて笑う…と言ってもフルフェイスだから表情なんて分からないんだけども。
「こんな所に人は来ねぇし、助けを求めても無駄だぜ?」
ケラケラと笑う4人組。
…状況は分かったし、そろそろ御暇させてもらおう。
「うーん…あまり魅力を感じない提案だなぁ」
まぁ前提条件からして間違ってるんだが。
「先ず一つ。私はトリニティの生徒じゃあない」
既に退学届を提出済みである。
謂わば君たちと同じ立場にある。
「二つ。トリニティは営利誘拐相手には容赦しない」
一度は金を払うだろう。
これは姉様の友人から聞いた話だが…その後あらゆる手を使って追跡、確保して相応の報いを受けさせるまでがテンプレらしい。
「三つ。…この程度じゃ私を止められないから交渉は無駄だよ」
うつ伏せで背中に馬乗りされてる状態で言ったからか、徐々に笑い声が大きくなっていく。
「は…ハハハッ!お前、そんな状況で良く吠えられるな!」
コイツはイカれてるぜ!と頭の横で指をクルクル回すA。
「どうりでこんな産廃使ってる訳だ」
私の相棒を片手に侮蔑の目を向けてきた。
「丁重に扱ってよ…以外とデリケートなんだ」
その辺の自動拳銃に比べればタフだけども。
なにせ部品点数が格段に少ない超シンプルな構造だし。
「こりゃ銃ってよりも鈍器として使った方が役に立つだろうよ」
こんな風によォ!と銃身を握って私へ振り落として来たタイミングで立ち上がる。
「…は?」
間抜けな声を上げた一人を背中に乗せたままAの振り下ろした相棒の銃把をとってトリガーガードを操作、銃弾が装填済みなのを見て顔を顰める。
「バカなのかお前」
装填されてる銃で殴りかかるとか小等部でもやらねぇわ。
解放した銃身をロック、撃鉄を上げて引鉄を引く。
私の相棒は頑丈さを求めて部品点数を極限まで絞ってるからセーフティとか無いんだよねぇ。
反動と共に放たれた弾丸が殴りかかってきた間抜けの胸元に着弾、握っていた銃身ごと飛んでいこうとしたので無理矢理振り払う。
コキャッと小気味のいい音を立てて銃身から指が剥がれる…既にヘイローが消灯してるから痛みを感じなかっただろうしラッキーだったね?
何本かちょっと変な方に曲がってるけど誤差だよ誤差。…ヘイロー持ちは頑丈だから数日もすればフォーク位なら使えるようになるし!
「返してくれてありがとう」
吹き飛んだリーダーと思しき相手に礼を述べてトリガーガードを弾いて排莢、装填。
呆然としているBの顔面に向けて発砲。
轟音と共にフルフェイスのシールドが粉々に砕ける。
「…え、防弾じゃないの?」
割れた欠片がヘルメットの中でシェイクされたと考えると流石にやり過ぎたかも…
ごめんね?と謝罪の言葉を述べながら再装填。
そこでようやく再起動したDが銃口を向けてくるが…
「遅いよ」
それよりも早く私の弾丸が意識を奪った。
「…さて、と」
空いてる左手を首の後ろに回して私を必死に押さえようとしていた最後の一人を掴む。
「ひ、や、止めて」
ズタボロの制服を強く掴んだソイツを上着を引きちぎりながら持ち上げる。
「何を?」
命乞いをするCを投げ捨てる…やべ、表まで飛んでった。
窓だったであろう部分から落ちていった最後の一人を追って飛び降りる。
空中で排莢、装填。もう慣れたもので例えどんな体勢だろうと行えるのは私の小さな自慢だ。
飛び降りた先で腰が抜けたのかへたり込むソイツの眼前に銃口を突きつける。
「た、頼む!いやお願いします!法的措置を…!」
「"こんな所に人が来るわけない"」
私の相棒を棍棒みたいに扱った奴の発言を繰り返す。
放棄された自治区に風紀委員やそれに類する武装委員会が来る確率なんて毛ほどもない。
「その意見だけは私も同意する」
じゃそういう事だから、と引鉄を引く寸前で
"そこの人、待ったぁぁぁ!"
砂漠には不釣り合いなスーツを来たヒト…大人が割って入ろうとして。
「はい、ドカンと」
そんなの関係ないね、と間抜けの頭を弾いた。
ハイパー見切り発車スタイル