自分を普通だと思っている主人公がミステリアス系美少女を振り回してめちゃくちゃにするお話(なおミステリアス成分は主人公によって金メッキのごとくはがされる模様)


人気が出たら連載化するかもしれません

なろう、カクヨムにも掲載しています

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新庄さんは残念美少女

 僕のクラスには、不思議な女の子がいる。

 新庄綾子さんという女の子だ。

 いつも話しかけづらい雰囲気をかもしだしていて、実際に話しかけると無視はしてこないけれど、理解するのに時間がかかりそうなことばかり言う。

 だから、話しかける人は中々いない。

 良く言えば高嶺の花。悪く言えばひとりぼっち。

 だけど本人は、人からの評価を全く気にした様子がなくて。

 一人でいることに対して嫌な感情を抱くどころか、むしろ誇らしささえあるようだった。

 曰く、『群れないと生きられない人にはなりたくないから』だそうだ。

 本人に聞いたから間違いない。

 でも、『君が飲んでいるその缶コーヒー、会社という群れに属している人たちが作った物だけどね』と言ったら、飲みかけのコーヒーをこちらによこして来たりもしたけれど。

 さすがに女の子の飲みかけを貰うのは申し訳なさがあったので、そのまま地面においたら、苦い顔をして飲み干していた。そんなに苦かったなら、砂糖入りにすればよかったのに。

 そして次に会った時には、新庄さんは缶コーヒーを買うのをやめて、水筒を持って来るようになっていた。

『でもその水と水筒——』と言おうと思ったけれど、この猛暑だ。万が一なにも持ってこなくなったら人殺しになってしまうので、やめておいた。

 これは、そんな不思議で愉快な新庄さんとのやりとりを綴る、日記である。

 決して、夏休み最終日に日記が手付かずだったから慌てて記憶をさぐり、そういえば印象的な女の子と仲良くなったことを思い出してネタにしたとかでは、断じてありません。

 きちんと夏休み初日から毎日書いております。

 聡明な先生におかれましては、その辺りを誤解なきようお願いいたします。

 

 7月21日

 夏休み初日。学業は休みになったけれど、それをいいことに、部活動が幅をきかせてきた。夏休みくらいちゃんと休ませてほしい。

 

 7月22日

 あまりに外が暑いので、部活の休憩中、図書室に行った。もしかしたら空調が効いてるかもと思って行ってみたけれど、予想は的中。少し生ぬるさはあるものの涼しい空間で、外のうだるような暑さと比較すれば、天国のようだった。利用している生徒は全くいなかったけれど、女の子が一人、カウンターに座っていた。こちらに見向きもせず本を読んでいたのは、同じクラスの女の子である新庄綾子さんだった。僕が息切れしながら涼んでいると、白い目を向けてきたので、そそくさと退散することにした。

 天使のような美貌なのに、やることは天国の独り占めという悪魔的所業。まぁ、こんな日でも登校させられているなら、そんな反応も仕方ないか。

 この日は太陽が沈むまで部活をさせられて、家に帰ってぐっすり寝た。明日も部活で登校させられると思うと、なんのための夏休みかわからなくなる。

 

 追記

『もしかして図書委員は、部活でもないのに夏休みも登校させられるのかな。可哀想に』なんてこの日は思っていたのだけれど、実は彼女は図書委員でもなんでもない、部活動委員会未所属生徒だったことが後日判明した。

 僕のなけなしの同情心を返してほしい。

 詳細は当日分に書いてあるのでそちらで。

 

 7月23日

 今日も朝から部活動だった。

 こんなクソ暑い日に外で運動させるなんて、新手の拷問に違いない。誰だ、陸上部なんて走るだけだからそんなにきつくなさそうって言った馬鹿は。

 そいつは一緒に入部して一週間でやめて行ったけれど、僕も早く逃げればよかった。足は遅いのに逃げ足は早いやつめ。今度何か奢らせないと気が済まない。

 ちなみに今日も図書室に行ったら、また新庄さんしかいなかった。誰も当番を変わってあげないなんて可哀想に。いじめられてるのかな?

 

 7月24日

 朝、新庄さんが道端で座りながら缶コーヒーを飲んでいるのを見かけた。

 座り込んでいるとかじゃなくて、なんかこう、カメラの三脚みたいなのが、ハーネスみたいに腰についてるというか。まぁ、ありていにいえば、ツノみたいな金属がお尻から生えていて、立ちながら座れる代物らしかった。

 本人に『なにそれ』って聞いたら、いつでも座れる椅子って教えてもらった。

『でもそこにベンチあるよ』って言ったら、『人の用意した椅子に座る人生なんて、癪じゃない』と返ってきた。

 外して座るのが面倒くさいなら素直にそう言えば良いのに。

 部活に遅れそうだったので、ひとことふたことやり取りしてから、学校に向かった。

 休憩中、いつものように図書室へ涼みに行くと、新庄さんにすごい形相で睨まれた。僕何かしたっけ?

 

 追記

 していた。

 去り際に、『そのツノ、ゴキブリの触覚みたいだね』って言ったら、次の日にはベンチに座って休んでいたから。

 人の用意した椅子には座らないんじゃなかったのかと指摘すると、今度は『人に使われない道具は存在意義がなくなってしまうから。例えポリシーに反していても、モノに意味を与えてあげるのが人間の役割なのよ』と、よくわからないことを言っていた。

 どうして『疲れたから休んでる』ってことをここまで迂遠に言えるんだろう。やっぱり新庄さんは不思議な女の子だ。

 

 7月25日

 この日は朝から、ベンチで缶コーヒーを飲みながら休んでいる新庄さんを見かけたので、昨日と言ってることが違うと思い、ツッコミに行った。

 不思議な返し方をされたので、こんなだからいつも一人なんじゃないかと思い、『いつも一人で寂しくないの?』と聞くと、『群れないと生きられない人にはなりたくないから』と、ない胸を張りながら誇られた。

 あまりにも自信満々に言われたから意地悪したくなって、『君が飲んでいるその缶コーヒー、会社という群れに属している人たちが作った物だけどね』と言ったら、こっちに缶を寄越してきた。

 だけど、あんまり親しくない異性と間接キスになるのはさすがに新庄さんも嫌だろうと思ったので、そのまま地面に置いた。

 砂糖入りだったらアリの巣に流し込んで餌にしてあげるところだったけど、無糖だったからやめておいた。

 そしたら、捨てるのは忍びなかったのか、新庄さんは缶コーヒーを拾い上げて、無理矢理飲み干していた。

 そんなに苦い顔をしながら飲むなら、砂糖入りにすればよかったのに。

 あまりにもしかめ面をするので、『コーヒー苦手なら、別の飲み物にすればよかったんじゃない?』と伝えると、『苦汁を味わった方が人生に深みが出るのよ』なんて返された。

 相変わらず、不思議なことを言う女の子だ。

 でも、苦労を率先して買うというのは、少し見習うべきかもしれない。言っている意味はよくわからないけれど、意図だけは賛同できた。

『だから夏休みでも毎日図書委員の仕事をやってるんだね』と、納得の呟きをこぼしたところ、『私、委員会も部活動も入ってないわよ。群れるのは嫌いって言ったでしょ?』なんて言うもんだから、思わず、『なんで毎日図書室にいるの?』とストレートに聞いてしまった。

 もしかしたら深い事情があるかもしれなくて、無遠慮に聞いたことを少し後悔したけれど、『人のしないことをやるのが人生の意義だと思っているから。それに、人生に休んでる暇なんてないもの。少しでも多くの知識を得ないと、世に溢れる事柄を全て知ることなんてできないわ。私、未知を未知のままにしておくのが嫌いなのよ』なんて、至極真面目な顔で言うもんだから、『今そこに座って休んでるのはなんなのさ』って反射的に言ってしまった。

 すると、『あなた、陸上部だったわね。早く走るためには、溜めを作らないといけないでしょ。これは効率的な助走行為よ』と屁理屈のようなことを言われたので、新庄さんが見たことないだろう長編アニメの名前を告げて、『未知を未知のままにしておくのが嫌いなんだったよね。千と十数話、もちろん見るよね?』と捨て台詞を残し、学校に向かった。

 当然部活には遅れて、怒られた。理不尽だ。僕は悪くないのに。悪いのは、気になる行動を取っていた新庄さんなのに。

 それを先生に伝えたら、人のせいにするなと、もっと怒られらた。解せぬ。

 

 7月26日

 図書室が開いてなかった。

 もしかしたら、本当にアニメを見ているのかもしれない。涼む場所がなくなって、辛い思いをした。

 人に嫌がらせをすると、バチがあたるらしい。

 今度新庄さんに会ったら、もう少し優しく接しようと思った。

 

 

「——なんだこれは」

 ノートをめくっていた手を止めて、担任の先生が問うてきた。

 この人は、何を当たり前のことを聞いてくるのだろう。

「なんだって、日記ですよ」

「本人に許可は取っているのか?」

「取るわけないじゃないですか。絶対拒否されますよ」

 そう伝えると、先生は呆れたようにため息をついた。

「あのなあ。これ、文化祭で展示するんだぞ。その辺わかってて書いたのか?」

「新庄さんの新たな魅力が伝わって、親しみやすくなると思いますけど」

 先生は困った顔をして眉間を揉むと、天井を見ながら、呟くようにこぼした。

「……先生には、お前の方がよっぽど不思議ちゃんに見えるよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「褒めてねぇよ」

「わかってますよ。僕は不思議な人と敬遠されて友達を遠ざけるようなミスはおかしたくないので。普通の人のままでありたいと思っています」

 新庄さんは見てる分には面白いけど、なりたい類の人ではないからなあ。そんなことを思っていると、先生は今気がついたかのように指摘して来た。

「そうだ。ミスといえばお前、これタイトルもどうにかしろよ。なんだよ『僕だけが知っているミステリアス美少女のポンコツな部分』って。新庄が嫌いなのか?」

「好きな方ですよ。面白くて。あ、この場合の好きは興味深いの方の好きなのでお間違いなきよう」

「じゃあなんでこんなタイトルなんだ?」

「ミステリアスな人が実はポンコツだったら愛嬌があるでしょう?」

「やっぱりお前、新庄のこと嫌いだろ?」

「好きですよ?」

 失敬な。僕はわりと彼女の芯の強さを尊敬しているんだぞ。僕があれこれ言ってもへこたれないで『不思議な雰囲気の自分像』を貫き通そうとする部分とか。

 

 なお、このやりとりの本当に最後だけ聞いていた新庄さんによって、全く興味のなかった恋愛模様に巻き込まれることになるとは、この時の僕には知るよしもなかった。

 あと、文化祭でこの日記が公開されたら、一週間くらい新庄さんが学校に来なくなって、僕が責任を持ってお見舞いに行かされることも、全く予期していなかった。

 やっぱり、人をからかうことなんてするもんじゃないと思った。


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