善は急げとはよく言ったもので、高坂家の両親から付き合う許可を貰ったハーレム少年岡崎拓哉は、そのまま穂乃果達による半強制連行という形で次の場所へと移動していた。
~南家の場合~
「おい、まさか次って……」
青ざめた顔で拓哉が見ている先には学校があった。
というかここに来るまでの道のり的にもう既に分かってはいたが認めたくなかったのだろう。ちなみに何故かことりは満面の笑みである。
そう、もう約一年はこの道のりを朝と夕方に往復していたであろう場所。
まだ子供と大人の中間にいる未成熟な学生に教養を身に付けさせるための領域。天下の学び舎。音ノ木坂学院である。
「ちょ、やばくねこれ。
「いっそここでメンタル壊しておけば次から楽になるでしょ」
にこの言葉に何がどう楽になるのかと問い詰めたいところではあるが、そこを聞いてしまえばおそらく立ち直れないことを察する拓哉。
きっと人としての尊厳を無くしただただ言葉を連ねるだけの機械人形になる未来が見える。想いのない言葉に意味は持たないのだ。
季節は卒業も終わり珍しく学校も大人しくなるような春。
しかし教職員、ましてや理事長という学校の中で最上の位置にいる南陽菜は、今日も音ノ木坂学院で次年度に来る生徒達への歓迎文や資料を見ているだろう。
ことりによると、本来なら廃校になっていたはずでこんなにも生徒が入学してくると思っていなかったからウキウキで仕事しているらしい。
理事長にもなると社畜の域を超して愛着が湧くようだ。
と、そんなことは割とどうでもいい拓哉だが気付けば学校の中に連れられ今は校舎内である。
「というか普通に校内まで来たけど仕事中の陽菜さんにいきなり会いに行っても大丈夫なのか大丈夫じゃないでしょうアポは大事だぞということで陽菜さんへの挨拶は次の機会にしようそうしよう」
「それなら大丈夫だよたっくん。お母さんにはたっくんが大事なお話があるからそっち行くねって伝えてあるの♪」
「それもうほとんど分かってるやつ! あの人ならそれで大体察してしまうやつじゃん! どうしよう希、俺今から赤っ恥と同時に覚悟決めなきゃならないのハードル高すぎない!?」
「ぶちかませばええねん」
「何でこういう時だけ普通に関西弁なんだお前!」
そんなこんなでもう理事長室の近くまでやってきていた。
一回目が上手くいったからといって二回目も上手くいく保証なんてどこにもない。ましてや相手は学校の理事長だ。
拓哉がどれだけ理論武装したところで衝突した途端に負けるのはこちら側だろう。
忘れてはならない。
理事長室の前。
まるでダンジョンのラスボス手前までやってきた気分だった。
元μ'sの9人もさすがにここまで来ると大人しくしている。
ゴクリと拓哉が唾を飲み込む音が目立つ。二度目の意は決した。
「(たっくん、お母さんは確かに理事長だけど、それよりも私の幸せをいつも一番に思ってくれるからきっと大丈夫だよ)」
「(……だといいんだけどな)」
自重気味に笑う。
このドアを開ければそこはもう拓哉にとって処刑台のようなものだ。
そんな死地へ自分から向かっていくことの無謀さは既に穂乃果の両親の時に味わった。
慣れない緊張感を胸に、拓哉はノックという名のカウントダウンを鳴らした。
「はい、どうぞ」
ドアの奥から陽菜の声が聞こえる。
掴みかけたドアノブに一瞬の躊躇いが表れるが、それよりも将来への思いを優先した岡崎拓哉はドアを開ける。
「……失礼します」
「あら、ことりから聞いてたとおりやっぱり拓哉君だったのね」
理事長室に入ったのは拓哉ただ一人。
μ'sの面々はドアの前で
「で、さっそくだけど大事な話があるってどうしたの? 一応は仕事中だから悪いんだけど、出来れば手短にお願いできるかしら?」
「そ、そうですよねっ。すいませんわざわざ忙しいときに! 俺も手短というか出来れば穏便に済ませたいところなので……単刀直入に言わせていただきます」
「ええ、期待してるわ」
何故だろうか。陽菜の言葉一つ一つに何とも言えない違和感を感じる。いいや、言葉だけではない。
拓哉を見る目や態度にすら違和感のような何かがある気がしてならない。いつも接している時よりも微かに棘というか、見定められているかのような感覚。
片手間に資料を見ることすらしない。目線は真っ直ぐこちらに向けられている。南陽菜の全てが、岡崎拓哉を試しているようだった。
それに応えられるかは少年次第。圧倒的に教職という立場の頂点にいる存在へ堂々と間違った倫理観を言えるかどうか。
その時は来た。
「俺はことりと付き合っています。ただ、他にもあと8人……信じられないかもしれませんが他の元μ'sメンバーとも恋人関係にあります」
「……」
陽菜の目が細くなった気がした。子供を持つ親の反応としてはむしろそれが正しいだろう。
「っ」
分かってはいた反応だが、ここで言い淀んでしまえばその圧に負けてしまう。
「すぐに認めてくださいとは言いません。けど……ことり達も、もちろん俺だって本気で考えて出した結論だという事だけは知っておいてほしい……と思ってます」
穂乃果の母親に言ったときと似たような言葉を言うも、それが通じる相手かは分からない。
こういう時の南陽菜は理事長として正しい判断を下す。生徒を正しく導くための教えを説く。それが彼女の仕事なのだから。
頭を下げた拓哉を沈黙だけが襲う。ある種の延命か、あるいは生殺し状態か。答えがどっちにしろ心臓に悪いのは確かだ。
およそ数十秒の沈黙を破ったのは、陽菜だった。
「……まあ、最近のことりの雰囲気とか会話からある程度は想定していたけれど、さすがに9人はぶっ飛んでるわねえ」
「……ええ、まあ、はい……自分でもそう思います」
それを言われては拓哉としてはもう何も言えない。
これでも理事長としてまだソフトに包んで言ってくれたほうだと思う。普通の親なら一言目に罵声を浴びせてきても何らおかしくないのだ。
幼馴染の友達だからという優しさか、だからこその呆れの表れだろうか。
「その様子だと、もう他の誰かには報告したあとかしら?」
「……え?」
「拓哉君にしては顔色、悪いほうよ?
そんなに優れない表情をしていただろうかと分かりもしないのに指で自分の頬に触れる。
陽菜の言葉の含みには気付かなかった。
「桐穂さんと大輔さんには一応、報告はしました」
「……そう、あの二人には言ったのね。それで、認めてもらえたの?」
「はい」
拓哉は穂乃果達とは子供の頃からの幼馴染だ。
それはつまり、その親も含め家族ぐるみで仲が良いわけだったりする。ラブライブ決勝の時、拓哉の両親と一緒に穂乃果達の両親も合流して応援していたくらいだ。
南陽菜は高坂桐穂のことをよく知っている。
だからその娘の穂乃果の性格のこともよく知っており、廃校の危機に陥っていた際には穂乃果達の可能性を信じて応援していた。
そして岡崎春奈のことも当然知っているとすれば、岡崎拓哉がどういう人物なのかも分かっているのだ。
大切な友人が娘達の交際を認めた。10人という異常な交際をだ。
拓哉の顔を見る。そこには不安がありながらも確かな覚悟を持っている瞳をしていた。ことりからの大事な話があるという連絡の趣旨はこれだった。
ということはことりもそれ相応の覚悟と決意をもっているのだろう。
理事長の娘というある種のハードルを理解していてだ。それでも娘は理事長の自分へ正直に連絡してきた。
こういう時の少年は絶対に嘘をつかないと陽菜は知っている。少年少女のちっぽけな勇気を垣間見た。話の全容を知った。
ならばもう。
自分のかける言葉は決まっている。
「じゃあ、私から言えるのは特にないわ。拓哉君、他の子もそうだけど、ことりを幸せにしてあげてね」
「……い、いいんですか?」
「理事長としての立場で言うなら、本当は止めなくちゃいけないんだとは思うんだけどね。今の私はあの子の親としての立場だから、あの子が心からそう思えた結果なら、それを尊重したいのよ」
本音を言うなら心配だってある。それが親というものだ。
しかし、世間の言う正論だけが正しいとは限らないことも陽菜は知っている。
「ことりの人生だもの。なら可能な限りあの子が望む道に進んでいってほしいというのが、私の気持ちよ。例えそれが他の人とは違う道だとしても」
陽菜の目を見れば嘘を言っているようには見えない。
おそらく本心で言ってくれているのだろう。他人とは違う道。一言でそうは言っても中々割り切れる生き方ではないのは確かだ。
なのに認めてくれた。
ならばその意味を、その重さを、その責任を、その覚悟を、その誠意を、岡崎拓哉はこれからの人生で応えねばならない。
「だから私がよく知っていて最も信頼している拓哉君になら、あの子を任せて良いと思ってる。今のことりは本当に幸せそうにあなたの話をするんだもの。あの笑顔に偽りはないと断言できるわ。だから拓哉君、さっきああ言っておいて意地悪だけど最後に言わせて」
理事長でもなく、一人の娘の親として、南陽菜は岡崎拓哉を見つめてこう言った。
「あなた達のこれから進む道はきっと簡単なものじゃない。いくつかの障害があっても不思議じゃない。それこそこれまで以上の試練や壁が立ち塞がることだってある。……それでもあなたは、あの子達を幸せにできる?」
「はい。俺一人だけじゃない、ことり達と一緒にその試練や壁を乗り越えていきます」
見事なまでの即答であった。
ここで少しでも言い淀むことがあれば陽菜も迷っていたかもしれない。しかし、少年は言ってみせた。
一人ではなく、
少年はもう見据えているのだ。彼女達との未来を。その意志は瞳に映っているようにさえ見えた。
であれば、何も言うことはない。
「うん、よし。じゃああの子達のことをこれからよろしくね。ただし、ちゃんと高校や大学生活を終わらせてみんな自立できるようになるまでは、出来るだけ健全なお付き合いをするように、ね?」
「……は、はい! 絶対みんな幸せにします!!」
まだ高校二年生の少年にそんなことを言わせてしまう事に違和感を覚えるが、元はと言えばあちらから最初に言ってきたのだし気にしないようにした陽菜。
これで娘からの惚気話が増えることは確定だろう。
「はい、話が済んだならもう行っていいわよ。あとの話は今晩ことりに聞かされるでしょうしね」
「じゃ、じゃあ失礼しました……!」
言われるや否や嬉しそうに理事長室を出ていく拓哉。
正直色んな緊張で心拍数が半端なかったりした。この一日で5年くらいは老けそうである。
「凄いよたっくん! お母さんが認めてくれたよ!」
もちろん理事長室を出れば盗み聞きしていた元μ'sのメンバーがいるわけで、全員が全員安堵した顔になっていた。
「……いや、マジで心臓止まるかと思った……俺の社会的人生の詰みじゃねえかって思った……」
反面、自業自得気苦労少年は既にグロッキー状態だった。
これがあと数人分残っていると思うとやるせない気持ちだ。出来れば数時間ほど休憩したい気分である。
「よし、じゃあたくちゃん次いってみよう!」
「バカなのお前!? 俺の精神的体力が今どれだけ削られてるかお分かり!? こちとらそこらの不良共と喧嘩するより体力持ってかれてんだけど!?」
「まあほら、だからこそパッパッて終わらせようってことで、さ?」
「何のフォローにも気遣いにもなってないぞバカ。何なら追い打ちかけてるだけだぞボケ」
「オーケー、次は海未ちゃんとこね」
「あらちょっとやだこの子。俺の話何も聞いてないんだけど。海未の親ってお前、俺が昔海未の父親に稽古つけてもらってフルボッコにされてたの知らないの? もしかして知ってて言ってる? なら謝るから。俺が全面的に謝るから物理的に殺されるのはせめて最後にさせてもらえないでしょうか!?」
「行きますよ拓哉君」
心も体もボロボロの拓哉。為されるがまま海未に襟首を掴まれ引きずられていく。
さながら出荷されていく豚のようであった。
「死ぬ……絶対殺されるッ!!!!」
「大丈夫ですよ。お父さんは確かに厳しい方ですが、私が選んだ人ならどんなヤツでもいいと仰ってくれました」
「……9股でも?」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………多分」
「殺されるうッッッ!!」
~園田家の場合~
園田家とは日本舞踊や弓道に剣道などの武道を教えられているとされ、地元でも有名なほどに知られている。
当然、そんな日本の奥ゆかしい歴史と和を重んじる家柄でもあり、礼儀作法にも厳しい教育を施されていた。
そして、岡崎拓哉が小さい頃にあるきっかけで武道を学ぶこととなったある意味思い出の場所でもあるのだ。主に辛い経験として。
そんな園田家の一角にある道場にて、園田家の現当主であり最も厳しい人物、園田
「ふむ、まあ性格も根性も凡人とかけ離れているお前なら全員を幸せにすることも容易いか。いいだろう、お前と海未、その他の交際を認めよう」
「……あえ? え、なっ、まじでか、まじでいいのか!?」
「何を戸惑っている。認めてほしいと言ったのはお前だろう。それとも認めたのが気に食わないか?」
海未に思い切り背中を叩かれ気合いを入れてもらったと思ったらこれだ。誰だって疑ってしまうのも無理はないだろう。
まさかの第一声から合格通知を貰えるなんて思いもしなかったのだから。
「いや、認めてもらえるのは嬉しいんだけど……アンタのことだし絶対に反対されると思って……」
「ふん、私もお前以外の男がそんなことを言って来たら殴り飛ばすとこだったんだがな。残念ながら海未も私も全面的に信頼しているお前になら、任せてもいいと思ったまでだ。千尋も異論はないだろう」
「はい。拓哉さんなら大丈夫でしょうし、海未さん達がそれで良いと判断したのなら一番の最適解でしょう」
「大和さん、千尋さんまで……ありがとうございます」
稽古をつけてもらっていた頃から世話になっていた身としては、大和も千尋も拓哉の第二の親みたいなものだ。
そんな人から認めてもらえるのは本当にありがたいという思いしかない。
深く下げた頭を上げる。
まだ終わりじゃない。本当に安心できるのは最後までやり遂げてからだ。
「じゃあ、俺はこれで失礼し──」
「時に拓哉」
「はい?」
道場から出ようとしたら大和から声をかけられる。
その雰囲気を簡潔に言うと、何だか殺る気満々であった。
「久々に軽く組手でもやろうじゃないか。腕は落ちてないだろうな」
「え、や、俺まだ他にも挨拶しなきゃだし……」
「何、数分だけだ。少しくらいいいだろう。お前をいたぶ……ボコボ……うむ、まあいい。やるか」
「やっぱちょっとキレてるよこの人! 二回言い直した挙句諦めてるんだもん! ただただ俺をボコボコにしたいだけだもん!!」
~絢瀬家の場合~
「と言っても両親はロシアにいるし、挨拶のしようがないわよね」
「あれ、もしかしてここに来て詰んだ? あの親バカにフルボッコにされてまで続けてきたのにここで中断されんの?」
まぶたやら頬がしっかりと腫れている岡崎少年。しっかりとあの数分で園田大和にボコボコにされていた。
こんな顔で挨拶しようものならそれこそ反対されそうだが、そこは誠意を見せていきたい所存の拓哉である。
「というわけで一緒に住んでるおばあさまにお願いしようと思ってたんだけど、さすがに拓哉から言ってもらうとビックリさせちゃうからもう私が先に言っておいたわ」
「え、まじ? そんなのあり?」
「ちなみにおばあさまは廃校の危機で焦っていた私を救ってくれた人ならと喜んでくれたわ。もちろん亜里沙もね」
「亜里沙にも言ったのか!? というか喜んでたってどいうことだ……」
「唯ちゃんと実質姉妹みたいなものだしこれからも一緒にいられる~って言ってたわよ。ほら、あの子ちょっと思考がズレてるとこあるから……」
「……いや、まあ、うん。そっちで勝手に終わらせてくれてたんなら、こちらとしては全然ありがたいんですけどね」
緊張の糸がまた一つ解けたと思えば上々か。
まずはこの怪我だらけの顔面をどうにかしなければならない。あの親バカ、執拗に顔ばかり狙って来ていたのは完全に殺意から来るものだろう。
「ええい、次だ次!!」
「じゃあ私のとこね」
「……え」
~西木野家の場合~
『こちらとしては真姫と結婚してくれるなら何でも歓迎さ』
「言っておいて何ですけど正気かアンタ」
西木野総合病院の社長ともなれば必然的に毎日忙しい身となる。
短い休憩時間での電話挨拶という形になった。
『僕は元々真姫と君が一緒になってくれるならそれでいいと思っていたからね。それは妻も一緒だ。だから僕は歓迎させてもらうよ。それに手早く認めた方が君としてはありがたいんじゃないのかい?』
「……ごもっともです」
さすが社長というべきか。頭がキレるというか瞬時にこちらの状況を把握して結論を急いてくれたようだ。
『で、式はいつにするんだい? 良ければ僕が会場を押さえてもいいけど』
「まだ高校生だから気が早いですって!」
『ああ、そういやそうだったね。僕もまさか真姫が高校生の内に彼氏から挨拶されるとは思っていなかったしつい忘れていたよ』
「それはまあ、そうですけど……」
何も言い返せない平凡少年だった。
しかしこれでとりあえずは半数の挨拶を終えたことになる。何だかんだで今のところは反対もされず事なきを得ているだろう。
だが油断してはならない。
こんな異常な段取りで最後まで上手くいくというビジョンがまったく見えないのだ。
『おっとすまない。もう休憩時間が終わりそうだ。また今度真姫も交えて改めてゆっくり話そう。多少は早くても祝福くらいはさせてほしい』
「真姫から許可が出ればですけどね。では、失礼します」
通話を切る。
この先だ。この先からさらに気を付けていかないと、どこかしらで必ず試練が来るはずなのだ。
幸や不幸の均等化を測るための帳尻が発生するに違いない。これまでの経験則で分かる。
良いことが続けば絶対と言っていいほどに悪いことも起こる。そんな予感が脳をよぎった時だった。
「なあ拓哉君。ウチのとこの件なんやけどね」
(来たッ! これは確実に何かある! 希は一人暮らしだし絵里と同じように事前に家族に連絡してたとかで反対されたに違いない! ここからが正念場だぞ岡崎拓哉。限界まで足を踏ん張れ!!)
~東條家の場合~
「ウチ一人暮らしやしとりあえずお母さん達に言うたら普通に了承してくれたんよ」
「俺の気合いどうすりゃいいんだよ!?」
踏ん張りどころとかそんなレベルではなかった。
何かもう出る幕すら奪い取られちゃっていた。
「俺の出番は!? 全員分用意していた俺の覚悟迷子になってんだけど何これ!?」
「転校続きでウチには迷惑ばっかかけてたからって、さらっと受け入れてくれたん」
「その優しさに涙出てきそうだよちくしょう!」
そんな中、気まずそうに手を挙げたのが二人いた。
「あ、あの~、拓哉くん……」
「凛達からも言いたいことがあるんだけど……」
花陽と凛だ。
さすがにここまで来れば拓哉でも流れは分かる。分かってしまう。何なら凛が“も”って言っちゃった時点で察してしまった。
「や、やめろ……これ以上俺の覚悟を消さないでくれ……! 花陽、凛、お前達なら俺の気持ちを分かっ──」
~小泉家と星空家の場合~
「わ、私達もお母さん達に言ったんだけど、割とすぐに認めてもらえたよっ」
「凛も言ったらまた凛を女の子らしくさせてくれた男の子ならって言ってくれたにゃー!」
「省略されすぎか!!」
自分よりも彼女達の両親の思考回路を心配してしまうほど略されていた。
というよりもだ。少年的には真っ先に出てくる疑問があった。
「てか俺にご両親へ挨拶しろって言ってきたのお前らなのに何で気が付けば勝手に言って了承貰っちゃってんだよお!? いやちょっとホッとしてるのも事実だけど! 今の俺にはまだ重責すぎたけども!」
「いやあ、よくよく考えてみれば拓哉君一人に全部背負わせるのも気が引けてなあ。一緒に歩んでいくのはウチらも同じやし、それならウチら自身で出来ることなら自分でもやろうって話になったんよ」
「……」
言い返そうにも善意でやってくれたっぽくて強く言い返せない純情少年。
そもそも無茶振りしてきたのは彼女達なのだから、それはそれでこういう処置をとってくれるのは割と当然という正論なのだが、拓哉は頭から抜けていた。
「ま、まさかにこまで……?」
「はあ……ほら」
手間を省けたという意味ではありがたいが、それはそれとしてとんとん拍子に進まれるとかえって煮え切らない気持ちになるのがこの少年だ。
その誠意を無駄にしてはいけないということを、彼女になったにこはちゃんと理解している。
そう、通話画面ににこの母親の名前が表示されているスマホを片手に、にこはそれを拓哉に渡す。
~矢澤家の場合~
恐る恐る手に取ったスマホを耳に当てる。
すると、先ほどから会話が聞こえていたのか、にこの声を合図としてその母親の声がした。
『もしもし、岡崎君かしら?』
「……は、はい、どうも、岡崎拓哉です。卒業式以来……ですよね?」
『ええ、じゃあその時した会話の内容は覚えてる?』
「え? えっと、確か……」
言われて思い出してみる。
母親とは思えないほど見た目が若かったから印象的な意味でも覚えていた。
あの時、確かこんなことを言われていた。
『いつも娘がお世話になっています』
『忙しくて遊び相手にもなってあげられてないからとても助かっています』
『
『
そう、言われていた。
「……」
『思い出しましたか?』
「……はい」
『じゃあ、私からはもう何も言うことはないと分かってますね?』
「……はい」
あの時からもう認められているようであった。
恋の自覚もないときに、あの母親はもう見越していたのかとすら思えてしまう。
『ふふっ。では、にこの事、これからもよろしくお願いしますねっ』
「……必ず幸せにします」
『はい。では』
通話を切る。
何かを言う前にあちらから全てを言われたような感覚に陥る。
とにかくだ。
これで一応は全員分の了承は貰えたと言っていいところだろうか。どっちみち将来また会いに行かなければならないだろうが、その時には拓哉もまた成長している。
今とはまた違った覚悟を持って、彼女達との将来を誓う日がやってくるのだ。
「戻ろっか、たくちゃん。私の家に」
穂乃果の声がかかる。
緊張の糸は切れた。とりあえずはまた平穏で平凡な日常が戻ってくるのだろう。
「ああ」
9人の彼女達との何気ない幸せな日々が。
と。
緊張が解けたことで冷静になった岡崎拓哉。
9人の中心を歩く中、ふとこんなことを呟いた。
「あれ、結局俺って最後一方的に言われて何も挨拶できてなくね?」
「気のせいよ気のせい」
さて、いかがでしたでしょうか?
久しぶりすぎる更新。もはや覚えている方はいないと予想しておきましょうか。
いや、本当に申し訳ございません。今思えば普通に難しいテーマで書くのに時間がかかってしまいました。
親への挨拶、ということでしたが、岡崎が会った事ある人達を重点的に、会った事のない、もしくはアニメで台詞すらない両親はダイジェストというか簡潔にさせていただきました。
まあせっかく結ばれたのですから無駄なシリアスはいらないかなと。ならもういっそのことコメディーでいこうぜって感じで書きました。
さて、一応この作品を好いてくださっている皆様には大変申し訳ないのですが、『奇跡と軌跡の物語』の続きは一旦これにて一区切りとさせていただきます。
他に書きたい作品(虹ヶ咲)が出来てしまって、そちらのモチベに力を入れたいなと。どうかご理解のほどお願い申し上げます。
では、新たに高評価を入れてくださった
陽炎@暇人さん
名無しの冒険者さん
煉獄騎士さんさん
計3名の方からいただきました。本当にありがとうございました!!
これからも高評価お待ちしております!
では、また次回作で皆様に出会えることを祈りつつ、今回はここで筆を置かせていただきます。
虹ヶ咲アニメ最高すぎません? 侑ちゃんに会えないの辛い。
ラブライブ熱が再燃してきましたんで、虹ヶ咲の小説書こうかと思います。