史上最悪の『念能力者』だって、ヒーローになりたい! 作:焼き豚さんいらっしゃい
『万力』って、ほぼ発音アウトじゃないですか?
個性把握テストの半分ほどの種目を終えた俺は――グラウンド近くのベンチに腰掛けながらクラスメイトの一人一人を注意深く観察していく。
(ヒーロー科だけあって“個性”のバリエーションは豊かだな。とはいえ……中学の同級生と比較すりゃ圧倒的だが、今のところ『想像以上の脅威』ってレベルはいねぇな)
目の前では
(アイツは確か……俺が首席合格だって聞いて突っかかってきたヤツだな。へぇ、良い個性持ってんじゃんか)
別の場所では八百万が万力を創造して握力テストで異常な記録を打ち出したり、丸顔の少女がソフトボール投げで記録『∞m』を叩き出している。そういった様子からは、やはり雄英高校が持つ優等生の“層の厚さ”が明確に読み取れた。
(クラス全体の平均レベルが高いな。中でも『八百万』『爆発野郎』『丸顔無重力』……それとさっき見た『氷結能力の半分野郎』は相当だ。この4人は内容によっては、かなり
津穢理は大雑把にクラスメイトを一瞥し、特に気になった4人の生徒を『
まだ次の競技までは時間があるため――のんびりと観察に戻ろうとしたところ、隣に来た1人の男子生徒に声を掛けられる。
「やっと話しかけられるぜ……!おう、津穢理!実技試験ぶりだなッ……!お前なら必ず合格してくると思ったが、まさか“首席合格“だったとはなぁ……こうして同じクラスになれたのも何かの縁だ!改めてよろしくな!」
「あ゙?誰だてめぇ?殺すぞ?」
妙に馴れ馴れしい態度の“赤髪の少年”に、津穢理は口から湧き出た苛立ちをぶつける。少年は泣いていた。
「
「思い出してくれて良かったぜ…………ぶっちゃけ、入学早々で心折れそうになった。ていうか、お前『あの時』と随分キャラ違くねぇか?なんつーか、あの時はどっかの国の王子様みたいな……そんな感じの紳士って感じだったぜ?」
「まぁ、あん時はな。救助ポイントっていう、
「お前……あの時から救助ポイントの存在に気付けてたのかよ…………流石は首席合格者だな」
感嘆のため息を溢した切島が、ゆっくりと津穢理の隣に腰掛ける。
お互いに特に何かを話すでもなく――――ただぼんやりと、目の前で競技に励むクラスメイトの姿を眺めていた。
「津穢理は……あとどのくらい種目残ってる?」
「あ〜?半分ちょっとだな。5分くらい休んだら、また呼ばれると思うわ」
「俺もそんくらい!にしても……せっかく雄英に入れたっつーのに、この中の誰かが除籍になるとか……!みんなと仲良くしたかったってのによ〜」
悪態をつきながら、ブツクサと文句を口に出す切島。恐らくは素で“人が良い”のだろう。
「俺はなんとか最下位は回避出来そうだし……首席の津穢理も多分、大丈夫だろ?だからこうして、話しておきたくてさ」
「せっかく話しかけて仲良くなった相手が……まぁ午後から居なくなってたら、笑えるもんな」
「いや、笑えねぇよ!でもまぁ……そういうことだ。お前となら安心して話せる」
そんな殊勝な態度の切島に――普段なら絶対にありえなかっただろうが――なぜか心の中でジワジワと不快感を感じた津穢理は、軽く助言だけ残して離席する。
「この試験……除籍になるのは1人とは限らねぇぞ」
「え?……ハッ!?」
「
露骨に動揺し始めた切島を横目に、津穢理は次の競技の場所に向けて、ゆっくりと歩を進める。
その道中で――相澤とのすれ違いざまに、彼に向けて“敵意を孕んだ”鋭いオーラを薄く飛ばす。オーラをはっきりと知覚することは出来ないだろうが……実力派のプロヒーローを挑発する分には十分なハズだ。
瞬間、バッと弾かれるようにその場を飛び退いた相澤に対して――俺はいやらしくニタニタとした笑みを向けてやる。
こちらの意図に気付いた相澤は、軽く舌打ちを飛ばしたものの……挑発に乗る気はないようで、津穢理を無視して自分の作業へと戻っていく。
(こっちは訳もわからず、テメェに警戒されて……クラス全体で、こんなテストにまで付き合ってやったんだ。これくらいの
ほぼ全ての種目を終えた津穢理が、八百万と雑談に興じていると――相澤と“1人の生徒”が何やら騒ぎを起こしているのが目に入った。
「なんでしょう?何か問題でも起きたのでしょうか??」
「さぁな……八百万はアイツのこと、何か知ってるか?」
気弱そうな癖毛で緑髪の少年が、何やら相澤先生に詰められている。
恐らくは何か違反を犯そうとしたのか、何か彼の気に障るようなことをしでかしたのだろう。
「いいえ……存じ上げませんわ。心配ですわね」
「ふ〜ん、八百万も知らないか……」
何やらブツブツと独り言を呟きながら……2投目のソフトボールを拾い上げた
瞬間――――俺は正真正銘、心の奥底からの驚愕とともに今日一番の大声で絶叫する。
「は……はぁぁぁーー!!??う、嘘だろ!?アイツ、マジかよッ!!」
いきなり豹変した俺の様子に、隣に立っていた八百万はもちろん、切島やその他のクラスメイト――当の生徒を近くで見守っていたはずの相澤さえ面食らっている。
記録『705.3m』
増強型でもそれなりの結果は……明らかに何かの“個性”が作用していたことを示していた。
「び、びっくりしましたわ……ツェリさんが声を上げるだなんて。でも確かに……一見“無個性”に見えていた彼があれほどの結果を残すとは。ですが、記録自体はツェリさんの方が上ですし、どうやら『かなり大きな反動』があるようですわ」
八百万の言う通り、彼の人差し指はすっかり赤黒く変色しており、かなりのダメージを負っていることが見て取れる。
しかしながら、当の本人は晴れやかな笑みを浮かべており――それを見ていた相澤も目を見開きながら感心したように口角を上げていた。その他のクラスメイトも派手な個性に歓声を上げたり、集まって何やら分析を始めている。一拍遅れて……激昂した『例の爆発野郎』が突っかかっていき、相澤先生の捕縛布によって拘束されていた。
しかしながら、そんなクラスの和気藹々とした茶番劇を見ても――津穢理の驚愕は覚めやらない。
今もなお現実感のない……浮遊したような錯覚を覚える。
(見つけた……!オレの人生で初めて……!!アイツこそが、あの男こそが『俺の想像を上回る、想定外の
津穢理似人は念能力者である。
となれば当然、
例えば、『相手の次の動作を予測する』こと。微量とはいえ、この世界の人間はオーラを垂れ流しているので、その些細な変化から“相手の精神状態”や“次に何をするか”を何となく読み取ることが出来る。
そして次に、『大体の相手の力量を目算できる』こと。繰り返しになってしまうが、この世界に念能力者は存在しないので――オーラ量を増やす訓練を(たとえ偶然でも)している人間は皆無に近い。しかしながら…………実力者というのは、オーラ量も比例して多い場合がほとんどである。
実際、担任の相澤先生は現役のプロヒーローと比較しても――かなり『オーラ量』が多い。日頃から鍛錬を怠らず、今も第一線で活躍し続けていることの証左だろう。
結論から言うと――――津穢理似人には
(あの男……!個性を使用した瞬間、オーラ量がとんでもないレベルで膨れ上がった……!!)
少年――緑谷出久のオーラ量は
しかしながら、彼が『
(どういう理屈だ……!?個性の中に生命エネルギーを封じ込めてる!?あの量を!?)
(奴のオーラは能力発動時に“オールマイト同等”に膨れ上がる……だが、俺の直感はそれだけじゃねぇと告げている。もっと何か…………発動中は『
(なんにせよ確証は持てないが…………
津穢理の口角が大きく上がる。自分の人生で、ここまで「他人の個性に見当が付かなかった」のは初めての経験だ。
そして改めて、このクラスに集められた規格外の逸材たちに――思わず津穢理の目が眩む。
(とんでもねぇな……相澤に、八百万に、爆発野郎、丸顔無重力、半分野郎……そして『限定的オールマイト』!選り取り見取りじゃねぇか……!!)
自身に、ここまで“苦戦”を予期させる存在が――それも同じクラス内で複数人も見つかるとは。しかも、最後の少年に至っては『完全に未知なる領域』。俺は額に汗を浮かべながら、挑戦的な笑みを浮かべる。
(何なんだよ“ヒーロー”の世界……!!楽し過ぎんだろ!オイ!!)
そして――――津穢理の胸中に、生まれて初めて感じる『新たな感情』が芽生える。
ドス黒く澱んでいて……それでいて何よりも抗いがたい強い衝動。一度でもこの
(日本最高峰の才能の原石……前途ある“未来のヒーローたち”が
津穢理の中に潜む悪魔が……誰にも知られることなく、ついに産声上げる。
「んじゃ……パパっと結果発表な。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは無駄なので、一括でここに開示する」
相澤がそう口にすると同時に、空中にホログラムのようなモノが浮かび上がった。
「あ、ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す“合理的虚偽”」
サラッと雑談でもするかのように告げられた重大発表に、クラス全体から不満の声が湧き上がった。隣に立つ八百万も「そんなの分かっていましたわ。少し考えれば分かるでしょう?」と言いながらも、チラチラと俺の様子を窺っている。これは……マジで何のアピールだ?
クラス全体の緊張の糸が切れた現在、真顔の状態を維持していたのは――事前に覚悟を決めていた切島と俺、そして『半分野郎』くらいだった。
そんなホログラムに表示された成績を見て――俺は思わず驚きの声を上げる。
『1位 津穢理似人』
『1位 八百万百』
(同率一位か……!やるなぁ、八百万!試験内容はシンプルな体力測定だったから……一応は『増強型』に分類される俺の
純粋に尊敬の念を抱いた津穢理は、八百万の方へと視線を向ける。
なぜか八百万は――相澤が最下位は除籍と告げた時以上に――緊張した面持ちであり、自分(と津穢理)の名前を見つけた瞬間に露骨に安堵のため息を吐いていた。
そんな八百万に対して、津穢理は心の底から称賛を送る。願わくば、これからも
「八百万おめでとう。つーか、マジですげぇわ……このテストで俺に並んでくるヤツいねぇと思ってたから……お前、マジで
本心からの賛辞。しかし、津穢理からすれば軽く放ったはずの
「津穢理さん……ありがとうございます。私……私、その言葉をいただけるように、今までずっと……!」
またしても感極まった様子の八百万に「コイツ、すぐ泣きそうになるな。情緒壊れてんのか?」という感想が湧くが――――今日は、そんな些事が気にならなくなるほど、収穫の多い1日だった。
(あの『推定オールマイト級』個性の少年……名前は緑谷か。アイツと初日に出会えたのはマジで幸運だったな……)
津穢理は自身こそが“真の天才”であり――やがて世界の頂点に立つことを疑っていないが、それはそれとして『
(
(ヤツの個性が限りなく“オールマイトの能力”に近い性質を持つと仮定して……その才能が
互いの目的が交差し――物語は進み始める。
近所に深夜までやってるラーメン屋が出来ました。生活習慣病RTA始めます。
次回は幕間になる予定!