※下品な表現が含まれます。ご注意ください。
pipipipiと軽い電子音に規則的な振動を伴って、スマホが着信を伝える。
2コール以内に応答すると、どうやらビデオ通話だったらしく、はだけた制服の少女と画角の都合で見えにくいが半裸の青年が画面に映る。
最近のスマホの手振れ補正でも補正しきれないほどの揺れと、少し遠くにリズミカルな水音をさせながら少女は話し始める。
『あっ♡ ごめんねデリアくん♡ わたしっ♡ この人のモノになっちゃった♡』
『よぅデリア! 見えてるよなデリアぁ……
嬌声を隠さず少女はよがり。男は愉悦を隠すつもりもない浮ついた声で、ぼく―――
……はて、どことなく見覚えのある二人だが、
「……………………………………………………ああ!
『……は?』
そうそう、
というか、
ああ、でも音虎先輩は先ほど『この人のモノになった』と言っていたな。
つまりこれはアレか。
「お二人はご交際されることになったんですね。おめでとうございます!
こんなにご丁寧に交際連絡をしていただけるとは……お二人とは特別親しくさせていただいていた認識は特になかったのですが、マメなんですね。頭が下がります」
うん。体勢はともかく、特に関わりの無いぼくにまで律義に交際報告をしてくるだなんて、なんてマメな二人なんだろうか。きっとお似合いのカップルになれるだろう。
『え、あっ、は??? ちょ、ちょっと待てよ!?』
どこか焦った様子の子取君がこちらに手を伸ばす姿がスマホに映る。どうやら音虎先輩に持たせているスマホに手を伸ばしているようだ。
が、手とスマホがぶつかる音、それから少しして固いもの―――壁か床だろうか?にぶつかる音がする。どうやらスマホを取り落としてしまった様だ。その際に誤って通話終了ボタンでも押したのか、僕のスマホはもう通話画面から待機画面へ切り替わっていた。
少し待ってみたが、再度かかってくる様子もなかったのでぼくはスマホを脇に置いて、読みかけだった本に手を伸ばす。
ううん。それにしても、
「最近の交際報告は独特だな……」
今月これで10件目だぞ。流行ってるのかな……。
◆
ごりごりの女性名だが、男子生徒だ。
今時そういう偏見に対して世間は厳しいから気を付けた方がいい。
名前についてはさておき、彼には困った趣味と性質がある。
趣味は人助け、それ単体で見ればシンプルに善行だ。しかし、彼の性質と合わせると、困った事になる。
―――そう、ノンデリなのである。
ノンデリなので、彼は自分がしたいと思ったことには止まらない、止める気が無い。
ノンデリなので、相手の事情を気にせず、困っていそうであれば勝手に助けて、助けた後は興味を失う。(”困ってる人を助ける”までが彼の趣味であり、困りごとを解決ないし解消してしまえば、その人物は彼にとってもう価値の無い存在へと変わるからだ)*1
幸いにして、彼の趣味は人助けのため集団生活で排斥されるようなことは無い。大多数の存在からはちょっと困ったときに助けてくれる親切な人レベルで済む。しかし、この”困りごと”が一定のレベルを超えると、この性質が非常に悪い形でかみ合ってしまう。
不良集団に妹が誘拐されたと嘆く同級生が居た。
―――わかりました。何とかします。……? ええ、もちろんぼく一人で向かうつもりですが。
はぁ、まあ、どうにでもなるでしょう?
父親が残した借金が原因で脅迫されている先輩が居た。
―――相手はヤクザ? ああ、そうですか。でも困ってるんですよね? ならそんなの関係なくないですか?
バス事故からたった一人生き残り、それによって人殺しと呼ばれイジメられる後輩がいた。
―――ああ、丁度良かった。お困りのようですね。ではぼくにお任せください。
事故に巻き込まれて、事件に巻き込まれて、工事現場で、海で、山で、災害で、経営難で、過労で、人災で、家庭事情で、宗教上の問題で、思想の問題で……
ありとあらゆる”困っている人”を相手の事情を気にせず、どれほどの労力が掛かるかは関係なく、助けた結果どう相手に思われるのか、どう受け取られるのかも考えず、勝手に助けて、勝手に興味を失う。
そして、更に話をややこしくする要因がある。
―――デリアは顔面の作りが大変整っているのだ。
両親ともに日本人のはずなのだが、先祖返りなのかアジア系とギリシャ系の顔立ちの良いとこどりな日本人離れした美しさを持っていた。
その結果がどうなったか?
簡単だ。ノンデリ男に助けてもらった過去を持つ女の子たちは、”彼は私を自分の身を顧みずに助けてくれた。これは彼なりの好意なのだ。”と錯覚し、錯乱し、思い違い。
自身がノンデリ男と付き合っている。あるいは想いあっているとか、親しい仲であると勘違いしてしまった。
そんなのが複数いる。もう終わりだよこの町。
実際はノンデリ男にとっては助けた後の人間なんて路傍の石ころ以下の存在であり、だからこそ勘違いした女の子たちは急にそっけなくなってしまった王子様に動揺し、その隙をノンデリ男に対して劣等感を抱いていたチャラ男たちにNTRれる。という流れが近ごろ頻発していた。
チャラ男たちも、あのいけ好かないイケメンが最近彼女と上手くいっていないらしいという噂を聞きつけ、彼女(偽)*2に手を出し、あっさりと手中に収まったソレに、”アイツを選んだ女が自分の方が優れていると認めた”という征服欲と優越感に酔ってこぞってNTR報告通話とかビデオメッセージを送らせるが……。
ノンデリ男の”辛うじて顔と名前が一致するかどうか”レベルの知人から交際報告を受けたかの様な反応を見た瞬間にあふれ出す、自分が今突っ込んでいるこの女は何なのか? あとあの反応だと俺の事も認識できてたか怪しくね? 俺クラスメイト/先輩/後輩の中では結構話してた仲だよな??? と恐怖とかショックとか諸々で脳に深刻なダメージが発生し、一周回ってNTR(?)した女の子を大事にするようになる。
結果として、紆余曲折ありながらも呑原デリアの住む町は彼のおかげで不幸の少ない町になっているのである。認めたくないが。
呑原デリア → 『のん』ばら『でり』あ → ノンデリ
名執高校 → なとり高校 → 『N』a『T』o『R』i 高校 → NTR