此方が大魔王バーンの存在に気付いていることを、大魔王バーンに悟られることがないように、アバンが信頼できる少数の相手にだけ伝えられた大魔王バーンの情報。
大魔王バーンがどれだけの強さを持っているのか、竜の騎士であるバランすらも知らなかったが、魔王ハドラーよりも強いのは間違いない。
かつて大魔王バーンと魔界を二分した実力者であった冥竜王ヴェルザーを倒した竜の騎士バランの強さを目安とする為に、バランと戦ってみたアバンだったが、アバンの攻撃ではバランの竜闘気を破ることが出来ず、敗北することになるアバン。
アバンの必殺技であるアバンストラッシュという技は、無駄なく力を集約して岩すら断つ技である大地斬、形なきものすら斬り裂く最速の技の海波斬、闘気を用いる技の空裂斬という3つの技を会得してから使えるようになる技であったが、竜神の装備で防御力が高くなっていたバランには通用しなかったようである。
私がバランに用意した竜神の装備一式は竜闘気との相性が非常に良かったようで、オリハルコンよりも竜闘気を纏わせ易いだけではなく、竜闘気を幾ら込めても壊れない強度まであったそうだ。
竜闘気を纏わせた「竜神の手甲」で、アバンが放つアバンストラッシュを容易く弾き、竜の騎士の武器である「真魔剛竜剣」を抜くまでもなく、赤い「竜神の手甲」に覆われた拳から放たれた殴打の一撃で、アバンは倒された。
実際にバランと立ち合ったことで、その強さを知ったアバンは、鍛え直したとしても正面からバランと戦って勝つことは不可能だと判断し、自身の得意分野を伸ばすことに決め、破邪の力を強めることにしたらしい。
破邪の秘法を得る為に破邪の洞窟と呼ばれる場所に向かおうと考えているというアバンは、ヒュンケルを私達に任せるつもりであるようで「破邪の洞窟で秘法を得るには最低でも数ヵ月はかかるでしょうし、その間はヒュンケルを貴方達が鍛えてくれませんか?」と頼んできたアバン。
特に予定が有るわけではない私なら、ヒュンケルを鍛える為に時間を使っても問題ないが、バランとラーハルトがどうなのかは、ちゃんと聞いておくとしよう。
「私は構わないが、バランとラーハルトはどうする」
私からの問いかけに、迷うことなく答えたのはバランからだった。
「ヒュンケルの剣才を鈍らせるのは惜しい、ワタシで良ければ協力しようオージン」
ヒュンケルの優れた剣の才能が鈍ることを惜しんで、協力してくれることになったバランは、ヒュンケルのことを気に入っていたのかもしれない。
「バラン様がオージンに協力するのであれば、オレも手伝わせてください」
バランが協力するなら自分も、と言い出したラーハルトは、バランのことを最優先に考えているようだ。
ヒュンケル本人は、実力者相手に剣を磨けることに喜んではいたが、師であるアバンとしばらく会えなくなることには悲しんでいたな。
とりあえずアバンが無事に帰ってこれるように「竜神の長剣」と「竜神のローブ」をアバンに提供しておき、ついでに無限にチーズが出せるチーズ袋も貸し出しておくことにした。
「長剣とローブはアバンのものにして構わないが、チーズ袋は貸し出しているだけだ。ちゃんと帰ってきて返してくれると信じているぞ」
「伝説の武器と防具としか言えないものをポンと渡されて驚いてますが、お返しするのはチーズ袋だけで本当に構わないのですかオージンさん?」
「長剣とローブは、また幾らでも作れるが、無限にチーズを出せるチーズ袋はそうもいかん。返してほしいのはチーズ袋だけになるな」
「わかりました。必ずチーズ袋をお返ししに戻りますね」
それから破邪の洞窟へと向かうアバンを送り出し、ヒュンケルを鍛える日々を過ごした私達。
アバン流刀殺法、大地斬と海波斬を習得しているヒュンケルに空裂斬を身に付けさせる為に、目隠しをしたヒュンケルに加減した攻撃を放っていくと、最初は避けることも受け止めることも出来ていなかった私達の攻撃を、目隠しをしたまま対処できるようになってきたヒュンケル。
目で見なくとも相手の動きを闘気で感じ取れるようになっていたヒュンケルは、アバン流刀殺法最後の技、空裂斬を掴みかけているところだった。
その後、数日もしない内にアバン流刀殺法空裂斬を身に付けたヒュンケルは、アバンストラッシュを放てるようになったが、それ以外の必殺技も身に付けていたヒュンケルは、ブラッディスクライドという突き技を披露してくれる。
威力はアバンストラッシュに劣らないヒュンケルのブラッディスクライドは、強力な突き技であるのは確かだ。
2つの必殺技を使えるヒュンケルが持っていた剣が、ヒュンケルが繰り出す必殺技の威力に耐えきれずに折れたりしたので、簡単に折れない剣として「竜神の両刃剣」を渡す。
ついでに鎧も提供しておくことにしたが、これから身体が成長するであろうヒュンケルには、あまり重い鎧を身に付けさせない方が良さそうだと考えて、渡す鎧は「竜神の軽鎧」という軽い鎧にしておいた。
装備が一新されたヒュンケルは、業物と言える「竜神の両刃剣」を宝物のように思っていたみたいで、武器として使う時以外は大切に扱っていたらしい。
ある日、竜神の装備を身に付けたラーハルトとヒュンケルが剣と槍を交えている姿をバランと私が眺めていると、顔に斜め十字の傷がある魔族が血相を変えて近付いてきて「お前らその装備を何処で手に入れた!」とラーハルトとヒュンケルに話しかけていたが、竜神の装備を用意したのが私だと知った魔族は、今度は私に詰め寄ってくる。
悪意を感じない相手ではあるが竜神装備の素材が、並みのものではないと見抜く眼力がある魔族は、只者ではなさそうだ。
鍜冶師のロン・ベルクと名乗った魔族の男性に、有り余る程にある竜神王素材を見せると「鍜冶師にとっては宝の山だな」と、竜神王素材に目が釘付けになっていたロン・ベルク。
竜神王素材を物凄く欲しそうな目で見ていたロン・ベルクが、今は何処にも所属していない魔族であると知り、しばらく会話を交わしたことで、ロン・ベルクが大魔王バーンの仲間になることもない存在であると確信できた。
敵になることがない相手であるなら、竜神王素材を提供しても問題ないかと考えて、鍜冶師のロン・ベルクに渡した竜神王素材の数々。
「恩に着る」と私に感謝していたロン・ベルクは、竜神王素材を用いて2振りの剣を作り始めていたが、自身の剣技に耐えられる剣を作る為に鍜冶師となったロン・ベルクは、竜神王素材を用いて剣を作成したことで、ついに念願の星皇剣とやらを完成させることができたらしい。
完成した星皇剣を振るうに値する相手として「真魔剛竜剣」を持つ竜の騎士バランに目を付けたロン・ベルクと、そんなロン・ベルクの星皇剣に興味があったバラン。
互いに同意した上で戦うと決めたバランとロン・ベルクだったが、並みの実力者ではない両者が全力でぶつかり合うと、単なる怪我では済みそうにないが、バランとロン・ベルクは完全にやる気になっており、戦いは止められそうになかった。
間違いなく負傷者は出るので、怪我の治療をする準備だけはしておくとしよう。
竜神王素材で完成した星皇剣は、ロン・ベルクが本気を出しても壊れない強度を持つ頑丈な剣となりました