ソアラの出産に備えて奔走している最中に、アバンが無事に破邪の洞窟から帰還し、破邪の秘法と言うべきものを得て戻ってきたが、私が貸し出していたチーズ袋は破邪の洞窟探索に、とても役立ったらしい。
無限に各種チーズを出せるチーズ袋は食料としてだけではなく、回復効果もある回復アイテムとしても役立ったそうで、特に「いやしのチーズ」や「ベホマラチーズ」などに助けられたと言ったアバン。
飲料などはヒャド系呪文を用いて作り出した氷をメラ系呪文で解かして水にして飲んでいたらしいが、チーズ袋のお蔭で食料と回復アイテムが実質無限だったのは、アバンにとって大助かりだったようだ。
「ちゃんとチーズ袋をお返ししに戻ってきましたよオージンさん」
そう言うとアバンは笑顔で、此方にチーズ袋を差し出してくる。
「確かにチーズ袋は返してもらった。よく無事に帰ってきたなアバン」
外見は手のひらに収まる程度の道具袋であるチーズ袋をアバンから受け取ってそれだけ言っておく私に、アバンは「オージンさんからチーズ袋をお借りしたお蔭で、食料と回復アイテムが尽きることはありませんでした。喉に詰まらせそうになる時はありましたけどね」と、おどけた様子を見せていた。
「まあ、即座に回復が必要な時に、一気にチーズを食べたら喉に詰まらせそうになってもおかしくはないな」
「いやあ、そこだけは大変でした」
ははは、と笑ってそんなことを言っていたアバンが、破邪の洞窟内で何度もチーズにお世話になっていたのは間違いない。
破邪の洞窟でアバンが得た成果の数々を聞いたりしながら、ソアラが妊娠中であることもアバンに伝えておくと「それはとてもおめでたいことですね」と喜んでいたアバン。
様々な知識を持つアバンもソアラの出産に備えていた私達に協力してくれるようで、必要になりそうな物品等を集めたり、邪悪な存在がソアラに近寄れないように、破邪の秘法を使って邪を退ける「マホカトール」の呪文の破邪力を強化し、強力な結界を作り出していたアバンに、バランやロン・ベルクも驚いていたな。
もとより破邪系の呪文を得意としていたアバンは、破邪の力を破邪の洞窟で鍛えたことで、より一層強力な破邪呪文が使えるようになっていた。
円を描いてから五芒星を描くように「輝石」を嵌め込んだ「ゴールドフェザー」というアバン自作の道具を配置して、アバンが発動した「マホカトール」は、凄まじく強力な破邪結界であり、バランやロン・ベルクでもお目にかかったことがない位に強力だった破邪結界は、魔王でも逃げ帰るしかない程に強力であるそうだ。
アバンの破邪結界を見て「大魔王バーンが直々に害しに来なければ安全だ」と太鼓判を押してくれたロン・ベルクは、かつて大魔王バーンの下で働いていた時期があり、その時が1番裕福ではあったそうだが、1番自分が腐っていった時間でもあったと語るロン・ベルク。
鍜冶師としても剣士としても充実した時間を送れている今は、中々悪くないとも言っていたロン・ベルクは「大魔王バーンの下で生きるよりもずっと、輝かしい時間を過ごせているのは、お前達のお蔭だ」と私達に感謝してきた。
そんな出来事があったりもしながら、更に数ヵ月が経過するとソアラが出産するであろう日が近付き、テランのベテラン産婆さんも泊まり込みで、ソアラの様子を確認する毎日だったが、ついにソアラが産気付いて行われた出産。
ベテラン産婆さんが助産を手伝ってくれたことで、スムーズにソアラの出産は終わり、バランとソアラは赤子と対面することになったが、愛する我が子の顔を見たバランが泣き出してしまっていたな。
とりあえず無事にソアラの出産が終わったことで私達全員が安心し、出産祝いということで、ちょっとしたお祝いをした私達。
アバンに貸し出していたチーズ袋も戻ってきたので、酒を飲んでも問題ない面々には酒と、つまみとなるチーズを用意して渡しておいた。
祝い酒ということで、喜び過ぎて飲み過ぎたのか酔い潰れて眠っていたバランをベッドまで運んで、そのまま寝かせてやり、アバンやロン・ベルクと酒を酌み交わしていた私は、ロン・ベルクに頼まれて追加のチーズを提供したが、辛口な「辛口チーズ」を好んでいたロン・ベルク。
「あかいカビ」と「ふつうのチーズ」を組み合わせて作り出す「辛口チーズ」は辛口ではあるが、それが好みの人には美味しいチーズであるのかもしれない。
ちょっとしたお祝い事も終わり、翌日からバランとソアラの子であるディーノの子育てが始まることになる。
アバンは世界各国に「マホカトール」で結界を作成しておくつもりのようで、世界を巡る旅をするみたいだが、弟子としてヒュンケルもアバンに着いていくと決めていたようだ。
「オージン達には世話になった。おれが強くなれたのはアバンとオージン達のお蔭だ」
そう言いながら私達にも感謝してくれたヒュンケルは「アバンの旅が終わったら、また顔を出す」とも言っていたな。
旅立つアバンにはチーズ袋から取り出したチーズを幾つか渡してみたが、喜んでいたアバン。
「「ベホマラチーズ」のベホマラー風味は優しい味わいですから、たまに食べたくなるんですよね」
そんなことを言ったアバンは、私から受け取った大量の「ベホマラチーズ」を笑顔でしまっていった。
ロン・ベルク作の「アバンの剣」もアバンに渡しておき、アバンの武器も新装備にしておくと「これは素晴らしい名剣ですね」と嬉しそうにしていたアバンの攻撃力は、新装備で間違いなく上がっていただろう。
「それではまたお会いしましょう。お元気でオージンさん」
「ああ、アバンも元気でな」
そんな会話を最後に、テランから旅立っていったアバンとヒュンケルの2人。
しばしの別れは多少寂しい気持ちになったが、いずれまた会えると考えれば、寂しさも和らいだ。
その後、バランとソアラの子育てを私とラーハルトが主導で協力し、時々ロン・ベルクも手伝ってくれたりしながら、ディーノを育てていった私達。
ディーノを寝かしつけるのが下手なバランよりも、私とラーハルトの方が、ディーノを寝かしつけることが得意になったりもした子育ての日々。
バランとソアラに愛されてディーノは育ち、元気一杯に生きていたのは間違いなかった。
やはりバランとソアラの子であるディーノは、元気な子であったが、それは素晴らしいことでもあるな。
バランが1番ディーノを寝かしつけることが下手で、意外とロン・ベルクはディーノを寝かしつけることが得意だったりしたようですね