■ICPO緊急会議■
「脱糞事件ばかり続いては警察の威厳が……」
「威厳の問題ではありません。」
「しかし、一週間で毎日脱糞事件とは……」
「前例がありません。」
会議室が静まり返る。
そして誰かが口を開いた。
「こうなると……」
少し間があった。
「またLに頼るしかありませんな。」
その瞬間だった。
会議室前方のスクリーンが点灯する。
ざわ……
ざわ……
黒いシルクハット。
黒いコート。
顔は闇に包まれている。
「ワタリ!!」
老人は静かに一礼した。
「Lは、すでに本件の調査を開始しております。」
世界中の警察幹部がどよめいた。
「なんだと!」
「もう動いているのか!」
■Lの部屋■
その様子を見ながら、
リュークが言った。
「おい。」
「あれ、ワタリって……」
「トイレットペーパー買ってきてくれるじじいじゃないか。」
Lはゆっくりとリュークを見た。
「そうですね。」
「今回はダブルをお願いしました。」
リュークは吹き出す。
「そこ重要なのかよ。」
Lは机いっぱいに広げられた地図を見つめていた。
赤いピンが、ある一点へ集中している。
池袋。
さらに拡大。
イタバシカメラ周辺。
Lが呟く。
「やはり……。」
「事件の八割以上が、この半径三百メートルに集中しています。」
リュークが地図を覗き込む。
「偶然じゃね?」
Lは首を横に振った。
「偶然ではありません。」
「一週間連続。」
「同じエリア。」
「同じ時間帯。」
リュークが腹を抱えて笑う。
「どんな事件だよ!!」
Lは真顔だった。
「計画性があります。」
「私はこれを……」
一拍置く。
「連続脱糞事件と呼んでいます。」
ワタリの声がパソコンから響く。
「L。」
「追加情報です。」
Lは画面を見る。
「国内で著名な排泄・人体研究の専門家 Sけん氏も、この件に注目しているようです。」
リュークが笑う。
「専門家まで出てきたぞ。」
Lは静かに頷く。
「専門家の知見は重要です。」
「排泄の時間。」
「姿勢。」
「行動パターン。」
「犯人像を推測する材料になります。」
さらにワタリが続けた。
「もう一点。」
「SNS解析班からです。」
「以前は毎日のように『うんこ』と投稿していた有名アカウントが……」
「事件発生以降、一切『うんこ』と発言しなくなりました。」
リュークが目を丸くする。
「それ関係あるのか?」
Lは腕を組む。
「分かりません。」
「しかし。」
「人は話題になった言葉ほど、急に口にしなくなることがあります。」
「心理学では珍しい現象ではありません。」
リュークが苦笑する。
「いや。」
「心理学で説明すんな。」
Lはマイクを装着する。
ボタンを押した。
「ICPOの皆様。」
「Lです。」
機械音が会議室へ響く。
「本事件は。」
「世界でも類を見ない。」
「組織的かつ計画的な――」
Lは深呼吸した。
「連続脱糞事件です。」
会議室が静まり返る。
誰一人笑わない。
Lだけが続ける。
「現在判明している事実は三つ。」
「第一。」
「被害は池袋駅西口周辺に集中している。」
「第二。」
「特にイタバシカメラ付近で発生頻度が極めて高い。」
「第三。」
「これは偶発的な生理現象ではありません。」
「私は犯人の意思による犯行だと考えています。」
リュークは椅子から転げ落ちそうになる。
「真面目に言うなよ!!」
Lは表情を変えない。
「この事件解決のため。」
「全世界ICPOの全面協力を求めます。」
スイッチを切る。
部屋が静かになる。
リュークが涙を流しながら笑う。
「人間って……面白っ!!!!」
Lは地図を見つめたまま、小さく呟いた。
「くだらない事件ほど。」
「犯人は、自分の痕跡を残します。」
■月の家■
夜神月は机に向かっていた。
部屋は整然としている。
本棚は寸分の狂いもなく並び、教科書や参考書は几帳面に整列していた。
その中央に、まるで儀式の道具のように置かれている一冊の黒いノート。
クソノート。
月はペンを指の間で静かに回しながら、
ここ一週間の出来事を頭の中で整理していた。
世界中で脱糞事件が起こっている。
新聞もテレビも、その話題で持ちきりだった。
人々は恐怖し、
同時にどこかで喝采や笑いを送っている。
監視カメラが大量にあるこの時代に犯人らしき人物が検討がつかない。
ワープ説や念能力説など様々な説が浮上している。
それはまるで、
神の裁きのようだった。
――だが。
月は目を細める。
神などという曖昧な存在ではない。
そこには必ず法則がある。
すべては論理で説明できるはずだった。
その時だった。
ガーッ……
突然、テレビの画面が切り替わった。
月は顔を上げる。
「ん?」
画面にはニュースキャスターが映っていた。
「番組の途中ですが、ICPOからの全世界同時特別生中継を行います」
「日本語同時通訳はヨシオ・アンダーソン」
その声には、
普段のニュースにはない緊張が含まれていた。
画面が切り替わる。
そこには一人の男が座っていた。
ミディアムの髪型。
整ったスーツ姿。
どこにでもいそうな男。
しかしその男は、
とんでもないことを口にした。
「私は全世界の警察を動かせる唯一の人間」
少し間を置く。
「リンド・L・テイラー」
「通称――Lです」
その瞬間。
月の背筋に冷たいものが走った。
「な……」
月は思わず立ち上がる。
「なんだこいつ!?」
そしてすぐに理解する。
「これはまずいぞ……」
この男は。
■凶悪犯連続殺人特別捜査部■
日本の警察庁でも、
同じ放送が流れていた。
捜査員たちは全員テレビに釘付けになっている。
「ついに始まったな」
「ほう……これがLか」
誰かが言った。
「しかし今まで顔出しなんてしなかったんだろ?」
「なぜ今になって……」
別の男が低く呟いた。
「これはLも本気ということか」
部屋の奥で。
夜神総一郎は腕を組んでいた。
部下たちの雑談は耳に入っている。
だが総一郎の意識は、
別のところにあった。
――さあL。
総一郎は心の中で言う。
――こちらは言われた通りにした。
――ICPO会議で言ったことを証明してもらおう。
総一郎の脳裏に、
数日前の光景が蘇る。
●総一郎の回想●
巨大な会議室。
世界各国の警察幹部が集まっている。
その壇上に、
黒い服の老人が立っていた。
ワタリ。
彼は静かに言った。
「L……」
「ICPOの皆さんが全面協力することを可決しました」
スクリーンから機械音が流れる。
『わかりました』
『特に日本の警察の協力を強く要請します』
会議室がざわめいた。
「えっ」
「なぜ日本だ!?」
総一郎も思わず声を上げた。
「なぜ日本なんだ!?」
スクリーンの向こうの声が答える。
『犯人は単独か複数かは分かりません』
『しかし』
『日本人である可能性が極めて高い』
会議室の空気が凍る。
『仮に日本人でなくても』
『日本に潜伏している』
総一郎の額に汗がにじむ。
「そ……そんな」
「何を根拠に?」
スクリーンの声が言う。
『なぜ日本なのか……』
スクリーンの声は続く。
『近いうちに犯人との直接対決で証明します』
『とにかく捜査本部は日本に置いてください』
回想は終わる。
総一郎が現実に戻ると、
捜査室ではざわめきが広がっていた。
「つまり……」
「今言ってた直接対決ってやつか」
捜査員たちはテレビを凝視している。
だが。
テレビを凝視しているのは、
Lも同じだった。
スクリーンの男が言う。
『私はこの犯罪の首謀者』
『俗に言うUを必ず捕まえます』
リュークが笑う。
Lは平然としていた。
「まあ」
「見ていてください」
テレビの男が言う。
『U』
『お前の考えはだいたい想像がつく』
そして。
声を強めた。
『だがお前のしているものは――』
一拍。
『糞だ!!!!』
■その頃 夜神家では■
月は歯を食いしばっていた。
「まずい……」
彼の頭は猛烈な速さで回転している。
「こんな挑発をしたら」
月はテレビを見つめた。
そして思う。
――もしUがこの番組を見ていたら。
「……何……また池袋のイタバシカメラで……もしやと思って試してみたが……」
「まさか本当に……」
月の瞳が見開かれる。
「U……」
「お前はビデオカメラの監視を逃れて脱糞できるのか」
「何っ」
月は立ち上がった。
声が続く。
「よく聞け」
「U」
「いいヒントをもらった」
Lは続けた。
「お返しといっては何だが」
「一つ教えてやろう」
部屋の空気が、わずかに張りつめた。
モニターの向こうで、
無数の人間がこの言葉を聞いている。
「この中継は全世界同時中継と銘打った」
「だが」
Lはほんの一瞬、言葉を止める。
「実際には日本の豊島区にしか放送していない」
テレビの前で誰もが息を呑んだ。
「時間差で各地区に流す予定だった」
「しかし」
「もう必要ない」
Lは静かに言う。
「お前は今」
「日本の豊島区にいる」
リュークが面白そうに笑った。
「くくっ」
「そんなベラベラ喋る必要あるのか?」
Lはモニターを見つめたまま、小さく答える。
――そのうち狙いが分かります。
そしてマイクへ向かって話す。
「警察は小さな事件として見逃していた」
「だが」
「この一連の事件の最初の犠牲者は」
「豊島区の焼肉店だ」
Lの頭の中には、すでに事件の地図ができていた。
新聞記事。
報道の順番。
死亡時刻。
犯人の顔写真。
それらはバラバラの断片だったが、
Lの頭の中ではすでに一つの図形へ変わっている。
「他のうんこは皆、大規模な施設だった」
「だが」
「この焼肉店だけは違う」
「店内が狭い」
「そして」
「この事件はちょうど4年前の7月上旬、ある地方議員が秘密裏に接待を受けた後、現場に脱糞した形跡が残されていたという情報があった。
この情報は、とあるアルバイトの青年から寄せられたものだった。
しかし、この件がニュースとして大きく報じられることはなく、やがて人々の記憶から忘れ去られていった。」
Lは結論を告げる。
「これだけで十分だ」
「推理には」
そして言った。
「U」
「お前は日本にいる」
モニターの光がLの瞳に映る。
「そして」
「最初の犠牲者(焼肉店)は」
「お前の漏らしの実験台だった」
リュークが肩を揺らして笑った。
Lは続ける。
「人口の集中する豊島区に最初に中継した」
「そこにお前がいた」
「これは幸運だった」
「ここまで思惑通りにいくとは……」
珍しく、Lは少しだけ正直だった。
「正直思っていなかった」
そして静かに言う。
「キラ」
「お前を社会的な死刑台に送る日」
「そう遠くないかもしれない」
Lはマイクから口を離した。
部屋に沈黙が戻る。
モニターの光だけが、ゆらゆらと揺れている。
このゲームは、まだ始まったばかりなのだから。
■警視庁■
捜査本部では、誰もがテレビに見入っていた。
書類をめくる音も、電話の音も止まっている。
松田刑事が呟いた。
「やっぱり……」
「すごいですね」
「Lって……」
隣の刑事が頷く。
「うむ」
「Uの存在を証明した」
「そして日本の豊島区にいることまで……」
テレビの中でLの声が響く。
「U」
「お前がどんな手段でうんこを行っているのか」
「非常に興味がある」
一拍。
「しかし」
「そんなことは」
「お前を捕まえて見れば分かる」
その声は静かだった。
だが、どこか冷たい確信があった。
ほんとにすみません。クソシナリオで。
どうかみなさんこのことは「水に流して下さい!!!!」