船倉の奥冷たい板張りの床に二人の子供は座らされていた。
手足を縛られ反抗的な目でこちらを睨みつける少女とその影に隠れるように座る少年。
俺は彼らの前に腰を下ろし壁に背をもたれかけたまま二人の顔を眺める。
まるで檻に入れられた小鳥だ。いや小鳥にしてはその目付きは猛禽類に近い。
特に少女の方は殺意という名の鋭い爪を剥き出しにしている。
「さてと」
俺は穏やかな声で切り出した。
怒鳴ったり脅したりするつもりはない。
ただ話がしたかっただけだ。
「名前を聞かせてくれないか。俺はジョー。調査兵団の兵士だ」
少女はプイと顔を背け鼻を鳴らした。
「悪魔に名前を教える義理なんてない!」
予想通りの反応である。
彼女にとって俺たちは見も知らぬ悪魔なのだから。
だが隣にいた少年がおずおずと口を開いた。
「……ファルコです。ファルコ・グライス」
声は震えていたが目は真っ直ぐだった。
俺は小さく頷き少女へと視線を戻す。
「君は?」
「……ガビ。ガビ・ブラウンよ!」
彼女は叫ぶように名乗った。
まるで名前すらも武器であるかのように。
「ガビにファルコか。悪い名前じゃない」
俺がそう言うとガビはギロリと俺を睨みつけた。
「悪い名前じゃないって何よ! 私たちはマーレの戦士候補生よ! 悪魔如きに名前を褒められたくなんてないわ!」
戦士候補生。
その単語に俺は少しだけ目を見開いた。
ああなるほどあの車力の巨人と共に戦場を駆け抜けていた子供たちか。
だからあんなにも迷いなく銃を撃てたのだ。
マーレのためにエルディア人のためにと教え込まれた子供たち。
俺は彼らを見つめながらふとピークのことを思い出していた。
彼女もまたそうやって育ったのか。
戦士として認められるために敵を殺すことを当然と受け入れてきたのか。
「戦士候補生か。大変だろうな」
俺の言葉にガビは一瞬だけ虚を突かれたような顔をした。
だがすぐにまた敵意を目に宿し歯を剥き出しにする。
「大変なわけないでしょ! 名誉ある任務よ! あんたたちみたいな悪魔を駆逐するための崇高な使命なのよ!」
ファルコが心配そうにガビを見つめそれから俺の方へ向き直った。
「あの僕たちが乗っていた飛行船では他にも仲間が……」
「ファルコ! 余計なことを言わないで!」
ガビが鋭く遮った。
ファルコはシュンと口をつぐむ。
彼は優しい子だ。
敵である俺たちにさえ気遣いを見せるほどに。
だからこそ彼はこの残酷な戦争の中では生きづらいのかもしれない。
俺はため息を一つだけ吐いた。
彼らを責めるつもりはない。
彼らもまたこの歪んだ世界の被害者なのだから。
ただ彼らの瞳に映る憎悪があまりにも純粋でそれがどこか痛々しかったのである。