糸引く記憶と雷槍の先   作:ボルメテウスさん

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始まる虐殺

ドォォォォォン……!

 

大地が鳴動し、空が裂けるような轟音が世界を包み込んでいた。

遠くで見上げた城壁の巨人たちが一斉に歩き出し、その足音が雷のように鳴り響いている。

俺は膝をついたまま、呆然とその光景を見上げていた。

始まってしまったのだ。

世界の終わりが。

 

そして、その絶望的な風景の中で、さらに俺の心を凍らせる声が響いた。

エレンの声だ。

始祖の力を通じて、パラディ島の全てのエルディア人に直接語りかけられているのだ。

 

『俺は壁の外にあるすべての生命を、この島から消し去る。壁の外の者たちが、俺たちを否定し、憎しみ、その生命を抹殺しようとしたからだ』

 

その言葉は、あまりにも冷徹で、あまりにも決定的だった。

虐殺。

彼はそれを選んだのだ。

俺たちが必死に探していた「戦わない道」など、最初からなかったかのように。

 

「エレン……お前、本当に……」

 

俺の口から乾いた呟きが漏れる。

怒りなのか、悲しみなのか、それとも徒労感なのか。

自分自身も分からないまま、俺はただ震えていた。

ピークの言葉が蘇る。

『地鳴らしが起これば、この島の状況はより悪化する』

彼女は正しかった。

どの道を選んでも地獄だ。

だが、これはあまりにも残酷すぎる地獄だ。

 

その時だった。

 

「キャアアアッ!」

 

女性の悲鳴が、俺の耳を劈いた。

遠くの空で進む壁の巨人たちだけが、今の脅威ではない。

近くから聞こえる、生々しい肉の潰れる音と、人々の絶叫。

俺はハッとして顔を上げた。

 

目の前の通りでは、かつての仲間だった巨人たちが、無垢の巨人となって人々に襲いかかっていたのだ。

ジークの脊髄液を飲まされ、エレンとジークの接触によって巨人化してしまった同僚たち。

彼らはもう、人の理性を持っていない。

ただの捕食者として、目の前の生きた人間を貪ろうとしている。

 

「助けて! 誰か!」

 

子供の声が聞こえる。

巨人の巨大な手が、その小さな体を掴もうと伸びていた。

 

「……くそっ!」

 

俺は叫び、地面を蹴った。

エレンを止めることは、今の俺にはできない。

遠くで進む壁の巨人を止めることもできない。

だが、目の前の命なら。

今、目の前で死のうとしている人間を守ることなら、俺にもできるはずだ。

 

俺は雷槍を構え、狙いを定めた。

かつての仲間のうなじ。

そこを撃ち抜かなければ、あの子は死ぬ。

 

「悪いな……!」

 

引き金を引く。

銃声が響き、弾丸は正確に巨人のうなじを砕いた。

巨体が崩れ落ち、子供が震えながら解放される。

俺はすぐさま次の標的へと視線を移す。

 

「まだだ、まだ終わってねぇ!」

 

体中の血が沸き立つような感覚。

恐怖も絶望も、今は押し殺せ。

俺は「生き残ったからこそ出来ることがある」と信じて戦ってきた。

ならば、今こそがその時だ。

この地獄のど真ん中で、守れるものを守るために。

ピーク、君が言った通りだ。

私たちが止めなければ、誰も止められない。

俺は走り出した。

かつての仲間である巨人たちを迎撃するために。

そして、いつか彼女と共に、この狂った世界を正すために。

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