街から遠く離れた森の中は、不気味なほど静まり返っていた。
遠くで鳴り響く地鳴らしの轟音だけが、この世界がまだ終わっていないことを告げている。
俺とピークは、倒れかけた大木の幹に並んで腰を下ろしていた。
かつての敵であり、今は共闘者。
その距離は、肩が触れそうなほど近く、しかし心はまだ遠いように感じられたのである。
ピークは足元の落ち葉を弄びながら、ぼそりと言った。
「ねえジョー。あの時、シガンシナ区で私を撃てなかった本当の理由って何?」
その問いは、俺の胸に深く突き刺さる矢のようだった。
俺は一瞬言葉に詰まり、それからゆっくりと口を開いた。
「…言ったろ。君が、俺にとって大切な思い出をくれた相手だったからだ」
「それだけ?」
ピークは顔を上げ、あの気だるげな瞳で俺を見据えた。
「それだけだ。敵だと分かっていても、あの食堂での時間は嘘じゃなかった。君が俺の好物を笑わずに食べてくれたこと、それが俺には大きすぎたんだよ」
ピークは自嘲気味に笑った。
「私は利用したよ。君のその優しさに付け込んで、逃げたんだ。戦士として、最低なやり方だったね」
「ああ、最低だ」
俺も正直に認めた。
「でも、今なら分かる。君も生き残るために必死だったんだって。この狂った世界で、大切なものを守るために、時には泥を被らなきゃいけない時がある」
「…君は優しいね。本当に」
ピークの声が少し震えた気がした。
沈黙が流れる。
風が木々を揺らし、枯れ葉が舞い落ちる音だけが響く。
やがてピークは表情を引き締め、俺の方へ向き直った。
「エレンを止める。それが私たちの共同戦線ね」
「ああ。地鳴らしを止めないと、この島も外の世界も終わる」
「でも、道は簡単じゃないよ。エレンは始祖の力を持ってる。近づくことすら難しいかもしれない」
「それでもやるしかないだろ」
俺は立ち上がり、空を見上げた。
木漏れ日が差し込んでいるが、その先にあるのは絶望的な未来だ。
「俺は、生き残ったからこそ出来ることがあるって信じてる。君と出会って、君を撃てなかったからこそ、今ここに立ってる。だから今回こそは、君と一緒に道を切り開きたいんだ」
ピークもまた立ち上がった。
彼女の細い体躯からは、想像を絶するほどの強い意志が滲み出ている。
「いいよジョー。私の機動力と君の射撃。合わせれば、どんな障害も越えられるかもしれない」
「ああ。今度こそ、背中を預け合おう」
俺は手を差し出した。
ピークは一瞬ためらい、それからその手を強く握り返してきた。
温かい。そして小さな震え。
これは信頼なのか、それとも恐怖なのか。
おそらくその両方だろう。