森の静寂が破られたのはほんの些細な物音であった。
カサリ。
枯れ葉を踏む音か、あるいは枝が擦れ合う音か。
だがその音はこの不気味な森の奥深くで、あまりにも不自然に響いたのだ。
俺は瞬時にピークに目配せをした。
彼女もまた既にその音に気づいている。
車力の巨人のうなじから顔を出したまま、鋭い観察眼で音の発生源を探っている。
俺は銃を構え、引き金に指をかけた。
ここはパラディ島の内部であり、我々が敵対するマーレの戦士が傍にいる状況である。
来る者が味方か敵か、それすらも分からないのだ。
「右だね」
ピークの小さな声がした。
俺は無言でうなずき、銃口を右の茂みへと向けた。
風が止む。
鳥のさえずりも消えた。
ただ圧迫感だけがその場を支配する。
そして現れたのは。
茂みを掻き分け、一人の人物がよろめくように姿を現したのだ。
眼鏡の奥に狂気と知性を宿したその人物。
我々の分隊長、ハンジ・ゾエであった。
「ハンジ分隊長!」
俺は思わず声を上げ、銃を下ろした。
驚きと安堵が同時に押し寄せてくる。
まさかこのような場所で、生きて再会できるとは。
ハンジは荒い息を吐きながら、俺の顔を呆然と見つめていた。
そしてその視線がゆっくりと、俺の隣にいるピークへと移る。
一瞬、空気が凍りついた。
「ジョー……それに、車力の巨人の継承者、ピーク・フィンガーか」
ハンジの声はひどく低く、感情の読めない tone であった。
その眼鏡の奥の瞳が、光を放って俺たちを射抜いている。
「生きてたんだね、二人とも」
ハンジはふらつく足で一歩近づき、木の幹に手をついた。
「どういうことだ? なぜマーレの戦士が、調査兵団の兵士と肩を並べている?」
その問いはもっともであった。
我々はかつて殺し合った敵同士。
今この瞬間も世界は崩壊の淵にあるというのに。
俺は一歩前に出て、ハンジの目を真っ直ぐに見つめ返した。
「共闘しています、分隊長」
「共闘?」
ハンジは眉をひそめた。
「エレンを止めるために、地鳴らしを止めるために、俺たちは手を組んだんです」
俺の言葉にハンジは一瞬目を見開き、それからゆっくりとピークへと視線を戻した。
ピークは穏やかな表情でハンジを見つめていた。
「私はマーレの戦士だけど、地鳴らしは止めたいの。このままじゃ世界も、この島も終わってしまう」
彼女の声には揺るぎない意志が宿っていた。
ハンジはしばらくの間、二人の顔を交互に見つめていた。
やがて深く長い息を吐き、自嘲気味に笑った。
「だけど、現状はかなり厳しい。こちら側の戦力もね」