城壁の上に立つ俺は、眼下に広がる死せる街と、その向こうに横たわる鬱蒼たる森林を、ただ無言で見下ろしていた。作戦は順調に進んでいる……などと、浅はかな希望を口にする者たちもいたが、俺にはその静寂がむしろ冒涜的なものに思えてならなかったのである。夜明け前の薄暗い森から吹き抜ける風は、まるで何千何万という亡者の嘆きを含んでいるかのように冷たく、俺の外套の裾を執拗に煽った。
ふと、俺は双眼鏡のレンズを森の端へと向けた。そこにあるのは、木々の揺らぎだけではない。あえて言うならば、それは「不在」の異常さであった。森の奥深くで囀るはずの鳥たちが、ある一点を避けるかのように黙り込み、不自然な空白を作り出しているのだ。そして、その空白の境界にある枝が、風もないのに微かに震えた。巨人だというわけではない。あの冒涜的で醜悪なる肉塊どもが引き起こす、無秩序で野蛮な破壊の気配ではない。もっと慎重で、理知的で、そして人間的な――否、人間であってほしくない――意図的な動き。
俺は息を呑んだ。街に足を踏み入れた際に感じたあの名状しがたい視線が、ふたたび脳裏をよぎったのである。あれは幻覚などではなかったのだ。我々は最初から奴らの掌の上で踊らされていたのだ。この作戦順調なる風景こそが、最も忌まわしき罠だったのである。
俺は震える手で望遠鏡を下ろした。背後には、リヴァイ兵長の気配がある。
「兵長」
俺は努めて声を震わせぬよう、しかしその中に潜む戦慄を隠しきれぬまま、短く告げた。
「森に何かいます」
その言葉は、俺自身の死刑宣告のように響いた。
報告した直後であった。天と地とが逆転したかのような、あの冒涜的な瞬間が訪れたのは。
城壁の外側、朝焼けに赤く染まった地平線の彼方より、土煙と共に立ち上がる無数の巨躯。そして、街の内側から響き渡る、鎧の巨人の咆哮。それはまさしく、人類に対する神々の怒り如き戦慄すべき音律であった。退路は塞がれた。我々は、内なる地獄と外なる深淵とに挟撃されたのである。兵団はたちまち二つの戦場へと分断され、俺は予備の雷槍を背負うがゆえに、獣の巨人が跋扈する壁外への対応を命じられた。
ピークの忠告が、腐った毒蛇のごとく脳裏をよぎる。『あそこは、危ないんじゃないの』。そうだ、これは罠だ。名状しがたい悪意によって巧妙に張り巡らされた蜘蛛の巣なのだ。だが、今はその忌まわしい予言に戦慄している暇はない。俺はただ、目の前で断末魔を上げようとしている仲間たちを生かすことだけを考えねばならぬ。それだけが、この冒涜的な世界における唯一の救済なのだから。
朝焼けの光は残酷であり、獣の巨人の異形をくっきりと浮かび上がらせていた。その長い四肢が指揮棒のごとく振るわれるたび、地面からは次々と新たな巨人が這い出し、馬たちが絶望的な嘶きを上げる。俺は震える指で雷槍を装着し直した。金属の冷たさが、唯一の現実として俺に触れている。
「ここまで、既に来ているなんて」
俺は誰にともなく、否、己自身に言い聞かせるようにそう告げた。そして俺は、あの忌まわしき獣が潜む壁外へと、身を躍らせたのである。生存あるいは破滅。その測り知れない深淵へ向けて。