狭間の旅館の暮らし方~消えた夕日を追って辿り着いた先は、バッドエンド住人たちの理想郷~ 作:日野球磨
――私のためにあなたが生きているのなら。
――あなたのために私は死にましょう。
◆
「屋台をしろ、だぁ?」
さて、いつものように雑用にせいを出していたところ、突如としてララより緊急任務が言い渡された。
「そう、下町が出してる屋台の一つが、店主のけがで出来なくなったのだけれど、そこで急にあんたたちに白羽の矢が立ったのよ」
「それまたいったいどうしてだよ」
「『二人羽織みたいなことしてる面白い奴に屋台させたら、客引きになるんじゃねぇ?』とのことよ」
「えぇ……?」
ひとまず理由は措いておくとして、何だ今の魔法。まるでそこに俺の知らない誰かがいるみたいに、ララが男の声で喋ってめちゃくちゃびっくりしたんだけど。あと――
「俺たち、好きで二人羽織してるんじゃないんだけど?」
「え、好きでやってるんじゃないの?」
「お前のせいだろうがララァァァ!!!」
相変わらず俺とミィは手錠で繋がれたままだ。もちろん、ミィの力のコントロールのために、協力するつもりではあるが、果たして手錠にどれだけの効果があるのか。とりあえず今のところ、作業中にミィが何かを壊したことはないけれど、正直このララの妄言に付き合っているのも疲れてきたところだ。
「仕方ないわねぇ。じゃあこの仕事を終わったら、解いてあげてもいいわ。もう一週間ぐらいだっけ? あんたも頑張るわねぇ、すっごい無様」
「褒められてるのか貶されてるのかわからねぇこと言うな」
とはいえ、ようやく手錠の魔法を解いてくれるという話に、両手を上げて喜ぶ俺。おまけでミィの体を持ち上げてくるくる回る。
「わーい」
ミィもうれしそうだ。表情はちっとも変わらない無表情を貫くけれども。
まあいい。もう一週間もこの状態なんだ。ようやく解放の時が来ると思えば、嬉しくないわけが――
「休みはっ!?」
「……あ」
こいつ、忘れてやがったな!?
「し、新人が仕事を覚えるのに休んでる暇があるわけないじゃない!」
「ほんとかぁ!? 後で龍さんに確認させてもらうからなぁ!」
「わ、わかったわよ! これが終わったらちょっと長めに休みとっていいから!」
一応、休みの言質は取ったけれど、正直疑わしい。やっぱり後でしっかりと龍さんとか、そこら辺のお偉いさんにしっかりと確認しておいた方がよさそうだな。
「んで、屋台って言っても何やるんだよ」
「それは今から説明するところ」
そう言って、ララはちょちょいと手でついてこいとジェスチャーをする。一体何が始まるのか。もちろん嫌な予感センサーはビンビンだけれども。
「とりあえず説明はしてあげるわ、豚」
「この流れで豚肉だけはやめろよ……」
「あら、豚汁の屋台がご希望かしら」
「望んでねぇ!!!」
ともかく、廊下を移動した俺たちは、旅館の厨房にやってきた。時間は昼下がり。朝に見た時には、料理人たちが忙しなく働いている厨房だけれど、昼食の終わったこの時間はがらんとした様子だ。別段、人が全くいないというわけではないけれど、ゆったりと仕事をしている。きっと皿洗いや夕食の下準備をしているのだろう。
「んで、なにするんだよ」
「貴方たちにはこれから、屋台で出される食べ物を作ってもらいます」
「ますとか、お前そう言うキャラじゃな――痛ってぇ!?」
ひとまず厨房の机に並べられていた材料に目を通してみる。薄力粉。バター。卵。砂糖。油に、あとは絞り袋? 焼き菓子でも作るのだろうけれど、この材料だけじゃ正直分からない。そんなわけだから、自慢げに胸を張ったララが意気揚々と教えてくれた。
「作ってもらうのはチュロスよ」
「世界観~!!!」
そこはもっとこうさ、和風なお菓子とか行かないの!? なんて叫びが俺の魂から飛び出て来た。いやいやだって、見てよ! この旅館! 厨房も土間にかまどまであって、老舗旅館っぽ感じだしさ、ここはもっとこう、饅頭とか団子とかそう言うのが来ると思うじゃん!!
あいやでもまて、目の前に居るのは妖精に半分吸血鬼のヨーロピアンファンタジーじゃねぇか、マジでどうなってんだよこの旅館は!?
「とはいえ、私の体じゃ教えるのも大変だし、代わりに教えてくれる人を用意したわ」
と、そこでララの声に合わせて初めて見る人が現れた。
「どうも~」
尼削ぎの髪が特徴的な女の人だ。かなりの美人さんで、接客用の着物にエプロンを付けての登場だ。年のころは14か13か。俺よりも少し下のように見えるけれど。
「座敷童のノウランと言います~」
「ベスト世界観!」
「え、え、なんですか~?」
「あ、すんません」
登場したノウランさんがあんまりにもしっかりとした日本妖怪だったものだから、思わずサムズアップしてしまった。まあ、座敷童がチュロスの作り方を教えてくれるとか、何の冗談かって話だけどもさ。
「と、とりあえず~、ミィさんとぶたさんでしたよね?」
「那、尾だぁ!! 俺は豚じゃなくて那尾! おいララ、いい加減俺の名前をしっかりとよべぇ!!」
マジでララのやつ、本気でどうしよう。そろそろやってもいいよな。復讐。
唐辛子どこから仕入れようかな。と、思っていたのだけれども。
「もう、ララさん。人の名前はしっかり覚えなくちゃいけませんよ」
「いいじゃない、別にそれぐらい」
「ダ、メ、で、す! いいですか、ララさん。いくら貴方が教育係としても、守るべきルールがあるのはお分かりですよね?」
「あ、う、うん」
「ちゃんとした仕事仲間である以上、そこにはしっかりとした信頼関係を置くべきでして……ちゃんと聞いてますか?」
「聞いてるわ。うん、聞いてるから」
すごい、あのララがたじたじだ。妖精と少女の会話は、それこそおとぎ話的な神秘性があるけれど、笑顔でララのことをお説教しているノウランさんは、どこかの叙事詩の英雄のように偉大に見えた。
「ノウラン。チュロス」
「――っとと、すいません」
と、お説教をするノウランさんの姿に敬意を覚えていると、暇になったミィが頬を膨らませてそう言った。そこで俺も、そうだそうだとチュロスのことを思い出した。
「それじゃあララさん。お説教はまた後で」
「まだあるの!?」
お説教の続きはまた後で。ははっ、いい気味だぜ。
これで俺の名前もしっかり呼んでくれるようになると助かるんだけど……いやー、腹いせに仕事量が増えそうだなぁ。
「というわけで、チュロスの作り方から。そこまで難しくはないので、肩の力を抜いてやりましょうね~」
と、そんなわけで始まったチュロスづくり。目標は、屋台が始まる夕方までに、お金を取れるレベルにまで仕上げることだ。
ちなみにララはどこかに行ってしまった。いつものことなので流したけれど、まるで逃げるような退散は、怖いものを前にした様子だ。
ともかく、今はチュロスづくり。
生地をまぜまぜ。
生地をこねこね。
もちろんいつものようにミィの動きに合わせて、俺が手を動かしているわけだけれど。こうしていると、手を動かすのに全く頭を使わないせいで、余計なことを考えてしまう。
――『あにぃ……』
例えば、そう。前に聞いた、ミィの寝言とか。
あにぃ。あに。兄? ミィって兄妹がいたのだろうか。
でも、寝言が気になって聞いたとか、少し気持ち悪いよなぁ。
「……」
ちらりと俺の胸元にあるミィの頭を見た。そこには鬼の証である角が、雄々しく聳え立っているけれども。そんなミィの姿を見てから、彼女の兄の姿を想像してみる。
うーん。怪力無双の子供が二人。とてもじゃないが俺の手には負えないな。よし、兄はいない方向で考えよう。
――『しんじゃだめ……』
でも、その言葉が誰かを示すことは明白で、その人物がミィにとって何よりも大切なのは、寝言と共に流れた彼女の涙を見ればすぐにわかることだ。
思えば、こんな子供が親元を離れて、旅館に居座る理由がない。
見たところ10歳か11歳か。感情が抜け落ちてしまったような無表情と、ありとあらゆる情報量がそぎ落とされた口調のせいで、更に幼く見えてしまう。
「ナオ」
「どうした?」
「そろそろ」
「生地ができたか。一応、お前も触って確かめてみろ」
「わかった」
俺の腕から手を離したミィが、自分の手で生地を持つ。生地は柔らかく、潰れようが千切れようが台無しにならないから、ミィに安心して触らせられる。こねこねこね。そうやって生地を触るついでに、自分の手でこねこねとしているミィの姿を見ると、意外にも生地の形を崩しておらず、こうしてみる分には力制限が出来ているように見えた。
これも俺との特訓の賜物か。とりあえず俺は、絞り袋を持った。
「いい感じですね~。それじゃあ、次は生地を絞り袋に入れて、熱した油の中に垂らしていきましょうか」
「成形とかしなくていいんですか?」
「出店なのでスピード重視です。絞り袋の口が星型になっているので、人差し指ぐらいの長さになる様に出すコツさえ覚えれば簡単だと思いますよ~」
「わかりました」
ノウランさんの指示に従い、温度計で170度まで熱された油の中に、そのまま注いだ。渡されたハサミで長さを調節して……と。
「ちょっと長いですね」
「難しいっすねこれ……」
どうにも不器用な俺は、ハサミで切ろうとすると力が入ってしまうようだ。一応、これもミィに操作されてやっているけど、どうにも手首や指先の操作はミィに任せることはできないので、ここら辺は俺の仕事になってしまう。
「ナオ、ナオ」
「どうした」
「私もやりたい」
あー、と言葉を伸ばしながら俺は考える。
ぽくぽくぽく。
「わかった、やってみろ」
「やった」
そうして俺は、ミィに絞り袋を渡した。もちろんハサミは俺が持つ。それでもミィは満足して、絞り袋を力いっぱいに絞ろうとして――弾けた。
「あ」
「ひぇ」
結論から言ってしまえば、絞る力が強すぎたのだろう。それこそ万力に締め上げられるようなパワーが、絞り袋に襲い掛かったに違いない。とにかく、そんな力で絞ろうと引っ張れば、絞り袋が破れて中身が飛び散ってしまうのは当然のことで、ミィを始めとして、俺やノウランさんの顔にチュロスの生地がかかった。
「だめだったか」
と、思いつつ。
絞り袋が破けた拍子に、手を油の入ったフライパンにたたきつけ、油が飛び散るような大惨事にならなくてよかったと心の底から安堵した。
ただ――
「……」
破れた絞り袋の片方を握って見下ろしたミィの背中に、俺はどう声をかけていいかわからなかった。
◆
「はむっ、いい感じですね」
「ちょっと砂糖が多い気がしますね」
「よき」
とりあえず生地から作り直して、完成品第一号を試食。ノウランさんもミィも悪くなさそうな雰囲気だ。
「では次は……そうですね。こちらの紙の箱に10本ほど入れましょうか」
「ちょっと多くないですか?」
「いいんですよ。特にナオさんたちの場合、大事なのは売り上げじゃなくて、どちらかと言えば祭りの賑やかしでしょう?」
「なるほど」
思えば、仕事は怪我してできない店主の代わりだけれど、代わりの選出はかなり適当だったな。どちらかと言えば、珍しい見世物を選ぶような話で、ノウランさんの言う通り、下町の大通りに屋台が並んでいるという見栄えの方が大事なのかもしれない。だとすれば、屋台で買ったもの中身が多い方がより楽しい。
「それじゃあ細かい調整をしていきましょう。揚げ加減も、回数をこなした方が覚えられるでしょうし」
「それじゃあ、試食お願いしますね」
「うっ……そ、そこはお腹とご相談ということで、ね?」
お腹をさするノウランさん。どうやらお肉が気になるお年頃のようだ。いや、お年頃と言っても、座敷童ってことはとんでもない年増の可能性もあるのか? というか座敷童って太るのか? まあ太るんだろうな。気にしてるし。
「ふ、太ってません~! ちょっと体重が増えてぽっちゃりしちゃうだけですから~!」
「……口に出てました?」
「顔に書いてありました~!」
うーん、どうやら俺は顔色がわかりやすすぎるようだ。これはミィを見習わなくてはな。
というわけでミィの方に視線を向けてみれば、もそもそと残りのチュロスを口いっぱいに放り込んでいた。
「なに?」
「いや、美味しそうだなと思って」
すごいハムスターみたいになってる。あと、ノウランさんがめちゃくちゃ羨ましそうにしているのだけれど、見なかったことにしておこう。
そうしている間にも、あっという間に夕方は近づいてきて――
「それじゃあ、屋台をよろしくなぁ」
と、本番が始まった。
「どうも。今回、屋台で働かせてもらいます。一宮那尾です」
「ミィ」
「丁寧にありがとうなぁ。俺はマサダ。まあ、なに。売り上げは気にしなくていいから、盛り上げてくれると助かるよ」
屋台が始まるその前に、本来の店主であるマサダさんが挨拶をしに来てくれた。ぎょろっとした眼に色白の顔。セミロングの髪と服の黒が、真っ白な地肌と見事なモノクロを描いている。彼の右腕は包帯でぐるぐる巻きになっていて、確かに屋台はできなさそうだ。
ちなみに、流石に人通りの多い大通りの仕事で手錠をしているのは危険ということで、先んじて手錠は外してもらっている。いやはや、ようやく解放されたわけだけれど、仕事もあってまだ解放された実感はない。結局、二人羽織みたいなミィとの共同作業も変わらないしな。
「よし、それじゃあやるか」
「ん、がんばる」
そう言って、ミィはふんすと両腕を握ってやる気のポーズだ。表情は相変わらず完全なる無だけれども、動作からは燃えるようなやる気に満ち溢れているのが感じ取れた。
既に生地は出来上がっている。
作りたてを提供したいところだが、客足のペースがわからないためにまだ上げていないのだけど――
「すいませーん。チュロスひとつ」
と、早速お客さんが来た。
「って、蓮歌じゃねぇか」
「えへへ、来ちゃった」
お客さんだと思えば、なんと蓮歌だった。接客用の着物を着た彼女は、少し照れくさそうにしながら立っている。
「仕事か?」
「うん。さっき、帰りのお客様のお見送りしてきたんだ」
「ああ、なるほど。船着き場まで行って来たのか」
注文に合わせて、生地を絞り袋に入れ、続けて熱した油の中に絞っていく。
「二人とも、接客は初めてだと思ったから、頑張ってねぇって言おうと思ったけど……いらない世話だったかな?」
「ふふん、俺とミィを舐めてもらっちゃ困るぜ、蓮歌」
「困るぜ」
油の中を泳ぐチュロスの生地が、ぱちぱちと音を立てながらいい感じの焼き色になり始めたところでさっと掬い、そこにシナモンシュガーを一振り。チュロスの完成だ。
「はいどうぞ」
「わぁ、ありがとう」
お題を頂いてチュロスを渡す。ついでに、蓮歌の後ろに並ぶお客さんが見えたから、多めに上げたチュロスも紙箱に詰めて、と。
「頑張ってね、二人とも」
「せいぜいおいしく味わうんだな!」
「味わうんだな!」
と、そんなところで蓮歌が去って、次にやってきた客にもチュロスを渡す。思ったよりも客足が多いけれど、大きなフライパンを使っていることもあって、一回で焼ける回数が多くて何とか回っている。
「そういえば、ミィ」
「なに?」
「さっきからなんか、俺の言葉繰り返してないか?」
「ん、真似」
「そうか……楽しいのか?」
「うん」
「そうなのか」
相変わらず、俺の腕を繰って仕事をしているミィだけれど、今度は逆に俺の言葉を真似し始めてしまった。俺がミィの動きを真似し、ミィは俺の口調を真似し……すごいな無限ループだ。ついに人類は無限にまでたどり着いてしまったのか――
「チュロス二つくださーい」
「はーい」
「はーい」
まあそんな無限も横に措いて、仕事仕事、だ。
「見てアレ、かわいー。兄妹かな?」
「でも、お兄ちゃんの方、角ついてないよ」
「でもあんなに懐いてるんだから、きっと兄妹だよ。仲いいね~」
仕事をしていると、お客さんの方からそんな声が聞こえて来た。思えば確かに、俺とミィは兄弟に見えないこともないか。髪の色から目の色、角の有無に至るまで、似ているところなど一ミリもないけれど。
「兄妹かぁ……そういや、ミィは兄弟はいるのか?」
と、それはふとした雑談だった。
まあ、口にした理由なんて決まっている。なんとなくだ。事実として、寝言の一件から、ミィの兄? に対して気になっていたのもあるけれど、それを追及する思惑なんて遥か彼方に忘れてしまっていて、だからきっと、これは本当に、ただの思い付きでしかなかった。
ただ。
「ひぅ」
ミィが、息を呑む声が聞こえた。
「……アチィ!?」
俺の手が油に浸されてしまったのも、だから結局は事故でしかない。
誰が悪いとか、そう言う話ではないのだ。
ただ結果として。
「っ!!」
「あっ……」
俺は右手を火傷した。170度に煮えたぎる油に手を半分まで付けてしまったのだ。反射的に引き抜いたとはいえ、大やけどは間違いない。
「あ、ご、ごめ……」
手を抑えてうずくまる俺を見ていたミィの顔が、僅かに歪んでいたのが見えた。無表情のミィにしては珍しく瞳を揺らし、動揺が顔に出ている。確かに、ミィが俺の腕を掴んでいたから起きたことかもしれない。けれど、これは――
――『あにぃ……』
――『しんじゃだめ……』
俺が余計なことを言ったからだ起きたんだ。
不意を打って、彼女の心の踏み込んではいけない場所を踏んでしまった。これはその代償が大きかっただけに過ぎない。だから……だから、そう。
「ミィ、お前のせいじゃない」
「でも、私、ナオの、腕……」
「違う。俺が変なことを言ったせいだ」
努めて平静を装うけれど、どんどんと強くなっていく痛みに、喉の奥から叫び声が込み上げてくる。それでも俺は大事にしないようにと、胸を叩いて込み上げてきた叫びを腹の底に沈めた。
そして絞り出すように言うのだ。
「大丈夫だ、医務室に行って包帯を巻いてもらえば、すぐにまた仕事に戻れる」
そう言って俺は、左手でミィの頭を撫でた。
けれど、ミィは瞳を潤ませ、服の裾を掴んでいた。何かを言おうとして、言い出せない。いや、言っていい言葉が見つからないのかもしれない。とにかく、歪ませた口元から何かが出てくる前に俺は立ち上がり、旅館の医務室に向かおうとする。
「すいませーん、チュロスください」
タイミングが悪い。
「すいません。ちょっとトラブルがあって、いったん店空けます」
「あっ、えっと……大丈夫なんですか?」
「はい。すぐに戻りますので、ご安心を」
お客さんにも笑顔を見せて、できる限り右手が見えないように動く。
すまん、ミィ。
すぐに戻るから、待っててくれ。