メカの兵隊──
進博士は自らが開発した機械の神『デウスエクスマキナ』の完成を邪魔させまいと、秘密の兵器を持ちだした。それは……
「それは、まさか本物の
博士のとなりに鎮座する彫像。
太陽の光を反射するのではなく、まるでそれ自体が光を放つような輝きを内包するオブジェ。
「俺たちが身に着けている人工のまがい物とは違う……」
「選ばれた
翔、大地、潮の三人は目の前にあるオブジェの存在を、信じられない思いで見つめた。
それもそのはず、聖衣は聖闘士を統括する
三人の反応を見て、進博士は愉快そうに謎解きをする。
「残念ながら、これは本物の聖衣ではないよ。私が、君たちと接触した
「では、これもまた
「いいや、それも違う。これは鋼鉄聖衣を改良した、いわば強化版」
「鋼鉄聖衣の次世代機……」
「アップデートしたこれは、限りなく本物の聖衣に近い力を持っている。人類の化学の結晶──名づけるなら、『
新造の聖衣が分解し、麻森進の五体をおおっていく。
青銅や白銀、鋼鉄とはシルエットを異にする、全身をくまなくつつみこんだ電子衣の姿。
それは──聖衣の最上位に位置する黄金の十二体の一つ、「サジタリアスの
科学的に再構成された、人の手によって生み出された新たなる闘士となった博士は、高らかに宣言する。
「電子衣をまとった今の私は、いわば『サイバー聖闘士』! これより私と私の造った機械の神、デウスエクスマキナが……女神に代わって地上を収めるのだ!!」
「そんなことはさせない!」
翔らは、自らと同じく人工の闘士となってしまった同士へと飛びかかった。
電子衣の表面を流れる川のように配置されている、無数の電子回路に科学の光が走る。
「
「うぅっ!?」
「な、なにも見えないッ」
進博士の言葉を合図として電子衣が太陽のごとく輝き、三人の
視界を奪われ、さらに鋼鉄聖衣からは緊急を知らせる警告音が鳴り響く。
博士はさらなる追撃を加えんと、腕を高らかに上げた。
「これは人工の
「「「ぐあああああ!!」」」
聖闘士同士の対戦のために造られた鋼鉄聖衣だが、電子衣から放たれた雷撃はその防御をもつらぬいて翔らの体を焼いた。
三人は、雷撃の余波で土煙の舞う大地に叩きつけられる。
「ば、バカな……鋼鉄聖衣は白銀聖闘士とも、対等以上に戦えるよう造られたはずなのに……」
「ど、どうやら……電子衣から発せられている妨害電波で、鋼鉄聖衣が本調子じゃないようだぜ……」
横たわる大地の疑問に、電波干渉を察知できる能力を持ったマリン聖衣をまとう潮が答えた。
事実、翔のスカイ聖衣のゴーグルにはいくつもの警告表示が浮かんでいる。
『システム エラー……。リンク アウト……。パワー ダウン……』
「各部の同期がとれない……聖衣が、重いッ」
本物の聖闘士も小宇宙を燃やせなくなった時、その身をつつむ聖衣はただの重り、枷となってしまうという。
進博士は誇らしげに口を開く。
「君たちの鋼鉄聖衣は、私が兄とともに造りあげたものだ。そのため君たちのデータ……行動パターン、攻撃の癖や反応速度、すべて把握しているのだよ」
一転、冷ややかな声音でつづく。
「鋼鉄聖闘士は、私がいなければ存在しなかった。いわば親である私に、勝てると思ったのかね?」
確かにその通りかもしれない。
悔しいが、電子衣の完成度は鋼鉄聖衣を上回るものがある。
進博士の頭脳もそうだ。
だが、しかし……
「ほう……」
納得できない。
その思い一心で翔、潮、大地は、痛む体を奮い立たせた。
感心するように攻撃の手をゆるめた進博士に、三人は──
「確かに、あなたは鋼鉄聖衣の生みの親だ……」
「でも、もう一人いる」
「それは……あなたの兄、麻森博士だ……!」
「その兄を、私は超えたのだよ」
満足げな進博士に対して、三人はフッ……と不敵な笑みを浮かべた。
「なにがおかしい」
「確かにあなたは、
だが……。
翔らはそれぞれの右腕をかかげ、博士に向けて伸ばした。
いったいなにを……、博士の疑問はすぐに解消されることとなる。
「これは、ここにくる直前に麻森博士がつけてくれた、あなたも知らない新機能……『スチールボルト アロー』だ!!」
「ッ!?」
鋼鉄聖闘士が差し出した腕。
そこからプラズマ状のエネルギー弾が三つ、まばたきする間もない速度で進博士を目がけて飛んでいった。
着弾。
エネルギー弾は電子衣の繊細な科学基板をショートさせ、その機能をあっという間に無力化したのだった。
進博士は重い枷となった鎧の中で身動きがとれなくなる。
身を守っていたそれは、そのまま彼を捕らえる
「そ、そんなバカな……」
「麻森博士は言っていましたよ」
「戦いに完成はない」
「鋼鉄聖衣は、戦う者といっしょに進化する、ってね」
終わった。
安堵するのもつかの間……変化は起きた。
「な、なんだ……とつぜん地響きが……!」
「見ろ! 壁のようにそそり立っていた黒い機械から光が!」
「あれは……まさか!?」
三人の視線の先にあったのは
「おお……ついに学習を終え、起動したのだ……デウスエクスマキナが!!」
進博士が息をのんだ。
黒い機械──デウスエクスマキナから、光の柱が天へ向かってのびる。
地面が割け、大地が鳴動する。
それはまさに、神の顕現か──。
デウスエクスマキナから無機質な音声が漏れる。
『人類ノ歴史、解析終了。闘争、憎悪、殺戮、環境破壊……結論。コノ世界ニ、人類ハ不要』
「……なんだって……?」
これで人は神の支配から解放される、そう歓喜していた麻森進の耳に、想像だにしない答えがかえってきた。
「まさか……人間を守るために人のことを学習させたのが……裏目に出たというのか……!?」
『スベテノ人類ヲ、コノ世界カラ排除スル。マズハ……アサモリ シン』
「っ!?」
博士に向けて、デウスエクスマキナから一筋の殺人光線が発射された。
生物の肉体のみを分解してしまえる、恐ろしい光の放射だ。
「ぅ……」
機能を止めた電子衣では身を守れない。
叫び声を上げる間もないわずかの時……機械の神と博士とのあいだに入り込む、三つの影が。
それは
「進博士は殺させはしないッ」
「き、君たち……!」
鋼鉄の闘士は、今まで敵対していた相手を、自らを盾として守った。
殺人交戦は、わずかに起動をつづける鋼鉄聖衣が防いでいる。
だが、それも長くはもたない。
機械の神の攻撃は周囲にもおよんだ。
あたりかまわず雨あられのごとく、無数のレーザーが撃ち放たれ、樹海を火の海へと変える。
森が割け、樹々は爆発によって吹き飛ばされていく。
黒煙の中で、デウスエクスマキナの漆黒のボディが怪しく存在を主張していた。
『世界中ノねっとわーくニ、侵入ヲ開始……』
翔らの顔に焦りが浮かんだ。
「マズい、このままでは」
「防衛システムが暴走を……!」
「それだけじゃない。もし核施設のプロテクトを突破されたら……!?」
攻撃を防ぎつづけている三人の背で、進博士はうなだれた。
「私は、人類を守る神を生みだしたつもりだった。しかし、実際は人を滅ぼすかもしれない悪魔をつくってしまったとは……」
やはり、人は神を超えることなどできないのか。
涙とともに悔いる博士に、三人は檄を飛ばす。
「神を超えるのは、機械に頼った力ではない!」
「人の心、想いだ!」
「あなたもその想いを抱いたからこそ、こうしてここにいるんだろう!」
進博士の瞳が震えた。
彼の脳裏に、かつて聞いた兄の言葉が思い起こされる。
──化学は、人を幸せにするためにある──
自分はどこで間違えてしまったのか。
麻森進の瞳から、人間としての温かさをとりもどした涙が流れた。
翔、潮、大地の三人は視線を交わす。
このままではあとわずかで、敵の攻撃で鋼鉄聖衣が耐久限界を超え四人ともにお陀仏だ。
その前に、逆転の一矢を放つ──。
「いくぞ、潮、大地!」
「おうよ!」
「いつでもいけるぜ!」
三人はデウスエクスマキナの攻撃をその身に受けたまま、敵の機械に対して高速で向かっていく。
ぐるぐると円を描くような動きは、そのまま鋼鉄聖衣の本領を発揮し、大きな渦巻きを発生させた。
「「「スチール ハリケーン!!」」」
これぞ鋼鉄聖闘士が三位一体となって放つ、必殺の一撃。
しかし渦の中心にあるデウスエクスマキナ本体の巨大コンピュータは微動だにしない。
破損した状態の今の鋼鉄聖闘士では、本来の威力を発揮できていないのだ。
「どうする、翔!?」
「こうなったら、限界を超えるしかない……!」
大地の問いに、スカイ聖衣の特殊な装備を起動させる。
左腕のアーマーにある四基のタービンが高速回転。
これは敵の攻撃を吸いとり、自らのエネルギーへと転換することができるスカイ聖衣にのみ備わった機能なのだ。
「けど今の状態の鋼鉄聖衣じゃ、負荷に耐えきれないぜ!?」
「わかっている! しかし……これしか勝機はない!」
吸収したデウスエクスマキナの攻撃的エネルギーが充満し、三体の鋼鉄聖衣が爆発寸前の臨界をむかえ
翔、潮、大地が意志を一つに、鋼鉄聖闘士最大最後の大技を放つ。
「「「ハリケーン ボルテックス!!」」」
渦はさらなる勢いを増し、もはや大嵐となったそれは周囲の地形を巻き込んで、デウスエクスマキナが宿った機械のボディにぶつかる。
人の想い、三人の友情、仲間を守る意思──それらの心が一つとなった正義のパワーは、ついに愛なきマシーンの本体を粉砕した。
かつてともに抱いた麻森博士兄弟の決意が、人工の神の力をも超えた瞬間だった。
◇ ◆ ◇ ◆
事態の終焉は、進博士によって兄、麻森博士に伝えられた。
グラード財団の救護チームが現地に向かい、火のくすぶりが残るなかから迅速に、翔ら三人は助けだされる。
重症の身を医療班による治療を受けながら、彼らは遠い地で戦いをつづけているであろう城戸沙織と、青銅聖闘士らに声援を送った。
「すまない、みんな。俺たちは援護に行けそうにない……けれど、信じているぜ。お前たちの正義と勝利を」
こうして、女神アテナと彼女を守る闘士たちを補佐するため、人の手によって生み出された鋼鉄の戦士たちの戦いは終わった。
彼らの存在は、まったくの無駄だったのだろうか……?
いや、決してそんなことはない。
遠くない未来において──彼ら鋼鉄聖闘士の意思を継ぐ者たちが、次代のアテナの聖闘士と肩をならべる日が、確実に待っているのだから。
原作ファンからはなにかと言われることの多い鋼鉄聖闘士ですが、個人的には好きなキャラたちなんで応援をこめてこの話を書きました。
アニメの星矢Ωでは鋼鉄聖衣の負荷に体が耐えられず戦線離脱した、というフォローが成されてましたが、この作品では別の場所で独自に戦っていたということにしています。
YOUTUBEの配信で数十年ぶりに見返して、瞬を呼びに行ったまま帰ってこずにフェードアウトした…と思ってたら一応出立前の場に帰っては来てたんですね。
その点矛盾してしまいましたが、まま、エアロ(視線逸らし)