教皇アーレスとの戦いに向かう城戸沙織と青銅聖闘士たち。
 だがそこに、鋼鉄聖闘士の姿はなかった。
 彼ら三人には、語られることのなかった別の任務が課されていたのだ──。

 これは、『神にあらがう戦士たち』の話ではない。その間で起きた、『人間たち』の物語である。

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前編 女神の影の戦士たち!隠された使命

 一台の個人旅客機を前にたたずむ、数人の男女がいた。

 男一人をのぞいて、まだ十代前半の幼い顔ぶれだ。

 

 女性は一人。

 幼いながらにその容姿は、まさに「女神」と形容するに相応しい、この世ならざる美しさをそなえている。

 少女──城戸沙織は、静かに口を開いた。

 

 

「……どうやら、()()は間に合わないようですね」

 

 

 待ち人来たらず。

 沙織に追従する従者、この場に集うただ一人の大人である辰巳は、怒りをあらわにする。

 

 

「まったく、あいつらどこをほっつき歩いとるんだ!!」

 

 

 この一大事に、とスキンヘッドに青筋を浮かべる辰巳。

 

 ()()()()()……。

 そう。

 彼女たちにとって──否、この世界にとって、かつてない一大事がこれから始まるのだ。

 

 

「世界を守るべき聖域(サンクチュアリ)、そして聖闘士(セイント)。それらを裏から支配する教皇アーレス……彼らとの戦いに、()()()()を巻き込まない方がよいのかもしれません」

「し、しかしお嬢様……奴ら三人も一応は聖闘士のはしくれ。星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)にはおよばずとも、お嬢様を守る盾くらいにはなるのでは……」

「ですが三人ともに『小宇宙(コスモ)』もつかえず、機械で(おぎな)うようでは……これから先の戦いに同行させるのは、あまりにも危険すぎます」

 

 

 そうして沙織と辰巳は、四人の少年を連れて旅客機に乗り込んだ。

 エンジンに火が入り、いざ飛び立たんとする直前──沙織のもとへ、急を知らせる一方が届いたのはその時だった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「よしッ、報告完了っと」

 

 

 東京のど真ん中に建造された古代闘技場、コロッセオを模した会場があった。

 今は超常の力によって跡形もなく破壊され、残骸が残るのみのこの場所──地下深くに()()()()はいた。

 

 

「お嬢様と青銅聖闘士たちは、無事に聖域に向けて飛び立ったようだぜ」

 

 

 最新のハイテク機器を設備された地下の、まるで秘密基地とでもいったいで立ちの施設。

 コンソールを叩き、沙織への報告を終えた「(ウシオ)」が、うしろに立つ同年代の少年二人──「(ショウ)」と「大地(ダイチ)」に言った。

 

 三人はともに、共通規格の特殊なアンダースーツをまとった姿で、白衣の男性を前にする。

 白衣の男、麻森(あさもり)博士は地下施設で働く職員を代表するような立場の人物であり、翔ら三人のような()()()()()を見出した人間でもある。

 

 

「それで麻森博士、どうして俺たち鋼鉄聖闘士(スチールセイント)の出動に待ったをかけたんです?」

「そうだよ! やっとお嬢様や天馬星座(ペガサス)たちと一緒に、敵の聖域に乗り込もうってところだったのに!」

 

 

 翔が疑問を投げかけ、大地は非難するような声を上げた。

 

 城戸沙織と彼女を守る四人の少年はこれから、地上を支配せんとたくらむ邪悪な(やから)の巣窟へ、無謀な勝負を挑みにいくのだ。

 沙織らが負ければ、それはすなわちこの世が邪悪に侵されるのとイコールである。

 

 

「俺たち三人はそのお嬢様、いや──女神アテナと聖闘士たちを支援するために、博士がつくってくれた人工の聖闘士なんだ。それなのに、まさか出番の前にお役御免ってことはないだろうな」

 

 

 潮も大地とおなじく、一番の活躍の場を奪われた悔しさをにじませた。

 麻森博士は一瞬迷うようなそぶりを見せたが、観念したように神妙な顔で答えをのべる。

 

 

「……これを見てほしい」

 

 

 四人の前にあるブラウン管サイズのモニターにノイズが走ったあと、一つの映像が流されはじめた。

 

 画面には一人の男性が映っている。

 その顔は、麻森博士によく似ていた。

 

 

「私の弟、『麻森 (シン)』だ」

「博士と共同で、俺たちがまとう『鋼鉄聖衣(スチールクロス)』を開発したという……」

「この地上は、古くからさまざまな神々に狙われている。それを守り続けてきたのが女神、アテナだというのは君たちも知っているね?」

「ええ、そして現代のアテナこそ城戸沙織、その人だということも」

「戦いの神アテナはしかし暴力を嫌い、そんな彼女と地上を代わって守るために闘う少年戦士たちが現れた」

「それが聖闘士。その蹴りは地を割り、その拳は空を裂いたという伝説の闘士」

「しかし、地上と人間を護るためには、それだけでは足りない」

「だから博士は、城戸のお嬢様を育てた光政翁に頼まれた」

「うむ。グラード財団の科学力を総動員して、人工的に聖闘士を生み出し、世界を守る一翼を担うことを」

 

 

 鋼鉄聖闘士はすでに稼働済みだ。

 これまで何度か戦闘を経験し、沙織らの危機を救ってきた実績がある。

 

 

「だが……私と弟は、根本の所で考えかたが違っていたのだ」

 

 

 まるで神に懺悔するような顔で言葉を続ける麻森博士。

 

 

「私は、あくまで人間は自らの力で神に挑み続けるべきだと考えていた。鋼鉄聖衣を造ったのも、その模索の一環なのだ」

「けれど、進博士には別の思惑があったと?」

「弟は言っていた。『挑み続けるだけでは犠牲が増える。だったら神を造ってしまえばいい』、と」

「神を……造る……!?」

 

 

 およそ常識外の発想に、翔らは衝撃を受けた。

 

 

「そして進は、ついに自らの考えを実現してしまったのだ」

「こ、これは……」

 

 

 モニターに、無数のパイプや配線をデタラメに()いつけたような、(いびつ)なコンピューターのごとき機械が映される。

 

 

「『デウスエクスマキナ』……弟が造りだしてしまった、『機械の神』だ」

「機械の、神……こんな不気味なものが……!?」

「進はこれを起動させ、自身がアテナに代わってこの地上をおさめると宣言したのだ」

「沙織お嬢様に代わって……自分が他の神々から人々を守ると……?」

「だが、行き過ぎた化学は必ず人間に牙をむく。それは科学を信奉する私が、誰よりも理解していることだ。ゆえに、君たちに頼みたい」

「進博士の凶行を止め、デウスエクスマキナを破壊しろ、と」

「その通りだ……頼めるかい?」

 

 

 大地、潮、翔は顔を見合わせ……麻森博士に向かって、力強くうなづく。

 

 

「任せてください!」

「これが別の任務なら、やりがいがあるってもんだぜ!」

「必ずマシンは止めてみせます。そして……進博士も連れ帰ります!」

 

 

 三人の戦士としての覚悟を見た麻森博士の瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。

 それは彼ら鋼鉄の戦士たちを育て上げた、いわば父親としての熱き(しずく)であった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ガッチリと硬い握手を交わした四人は、即座に行動にうつった。

 

 麻森博士はグラード財団の地下オペレーションルームから、翔らのために集めた情報をもとに、敵である進博士の座するであろう本拠の位置を割り出す。

 三人の戦士は割り出された情報を手がかりに、現在、富士の樹海へと踏み入っていた。

 

 

「この樹海の一番奥深いところに進博士が待ち構えているんだな」

「ああ、そうだ。……しっかし、地上が舞台じゃ俺の活躍は望めそうにねえなぁ」

 

 

 移動形態の鋼鉄聖衣──スケートボードを模したオブジェ形態に乗り疾走する大地と、おなじくオブジェ形態を狩っている潮。

 水上戦を想定した戦士である潮は今、潜水艦を模したオブジェ形態の聖衣の上でボヤいた。

 潮の聖衣は現在、応急処置的に地上走行モードの車輪を使用している。

 

 そんな二人に、上空を旋回する翔──彼は小型飛行機を模したオブジェ聖衣にぶら下がって、地上のようすを探っていた──から連絡が。

 

 

「いまだに進博士の本拠は発見できない。どうやら樹海一体に、レーダーを妨害する電波が流れているようだ」

「用意周到だなぁ」

「それじゃあどうする? しらみつぶしに探しまわるにしちゃ、この森は広大すぎるぜ」

 

 

 返答する大地と潮。

 そこに翔が滑空して合流を果たす。

 

 

「いや。どうやら向こうから、お迎えに来てくれたようだぜ」

 

 

 樹々の暗がりの奥……その中に、何者かが潜んでいる。

 聖闘士が身につけている不思議な力──小宇宙(コスモ)こそ使えない三人だったが、かわりに訓練できたえた五感が潜伏する怪しい存在を発見せしめたのだ。

 

 気づかれたことに気づいたのか、何者かは樹々の中から姿をあらわにする。

 それは……まるで、いや、機械(マシン)そのもの……。

 

 

「な、なんだこいつら!?」

「黒い……ロボット!?」

 

 

 虚を突かれたように目を開く大地と潮。

 たたずむは異質な影。

 

 人目につかないようツヤのない黒一色に染められた硬質のボディー。

 人型をしているが、両腕に当たる部位は凶悪な銃器で装飾されている。

 

 そんな人型戦闘ロボットが樹海の奥からゾロゾロと、溢れ出てくるようにとめどなく出現してきたではないか。

 数えきれない敵の出現に、翔がその正体を口にする。

 

 

「こいつらは麻森博士が集めたデータにあった、『機械闘士(マシーンズ)』! 進博士がつくった、聖闘士でいうところの雑兵ポジションの兵士だ!」

「なあんだ、雑兵か」

「驚かせやがって。それなら仮にとはいえ聖闘士の名を冠する、俺たちの敵じゃねえ!」

 

 

 翔、大地、潮は敵の大部隊を前にしても、動じることなく立ちはだかっている。

 三人の背後に、それぞれのオブジェ形態の聖衣が待機した。

 

 翔が、リーダーとして号令をかける。

 

 

「いくぞ! クロス・オン!!」

 

 

 三機の人造聖衣が分解。

 はじける様に分かたれた各パーツが、三人の四肢、胴体、そして頭に装着されていく。

 

 

「スカイ聖衣の翔!」

「マリン聖衣の潮!」

「ランド聖衣の大地!」

 

「「「我ら、鋼鉄聖闘士!!」」」

 

 

 赤き巨嘴鳥をモチーフとしたスカイ聖衣。

 水色のカジキ魚をモチーフとしたマリン聖衣。

 イエローの子ぎつねをモチーフとしたランド聖衣。

 

 三者三様の鋼鉄の鎧をまとった戦士たちは、高らかに自らの存在を名乗った。

 

 

「やるぞ、二人とも!」

「おうよ!」

「任せなって!」

 

 

 翔、潮、大地は果敢に敵の集団へと飛び込んでいく。

 

 機械闘士(マシーンズ)の両腕の重火器が火を噴いた。

 敵の数は百体以上、それらすべてが放つ弾丸の雨の威力は、まさに正規の聖闘士の繰り出す音速(マッハ)の拳にもひとしい。

 だが──

 

 

「そんな豆鉄砲が俺たちに通じるものかよ!」

 

 

 潮が叫ぶ。

 深海での活動をも視野に入れ開発されたマリン聖衣は、三体の鋼鉄聖衣のなかでも一番の硬度を誇っているのだ。

 

 潮が盾となり、敵の攻撃を一手に引きつけている。

 銃撃が集中し、他への警戒が薄れたスキを見逃す翔と大地ではない。

 

 スカイ聖衣の脚部にあるジェットエンジンを噴射し、翔は上空へ。

 大地はランド聖衣の持つスピードを生かし、機械闘士(マシーンズ)の背後へ回った。

 

 敵は二人の挙動に自動的に反応し、それぞれのロボがてんでバラバラに動き始める。

 なかには同士討ちの形で互いに銃弾が当たり、自滅的に破壊されていくものもでてくる。

 

 

「畳みかけるぞ!」

 

 

 三人はパンチと蹴り、体当たりなどを駆使して、統制の乱れたロボット軍団をおもしろいように蹴散らしていった。

 

 小宇宙を駆使した聖闘士の攻撃は、「原子を砕く」という破壊の究極。

 鋼鉄聖闘士の三人は小宇宙こそ使えないものの、厳しい訓練の果てに常人を超える力と技を体得しているのだ。

 そしてそれらは科学の粋を集めた鋼鉄聖衣によって、さながら本物の聖闘士にも匹敵するパワーを発揮する。

 

 敵ロボットと遭遇して数分もしないうちに、百体を超す機械闘士(マシーンズ)は地面を転がる鉄くずへと変換された。

 戦士たちには呼吸の乱れは一つもない。

 聖闘士を目指す者らと同様の、否、それ以上の過酷な訓練を経た影の実力者の姿がそこにはあった。

 

 

機械闘士(マシーンズ)はこの先からやって来たようだ。つまり……」

「そこをたどっていけば」

「敵のアジトにたどり着くって寸法だな」

 

 

 翔、大地、潮の三人は、一時的に相手の妨害が止んだことを見抜き、その間に急いで歩みを進める。

 

 鋼鉄聖衣のパワードスーツとしての役割のおかげで、目的地である樹海最深部へも時間をかけずにたどりつことができた。

 そして今、彼らは敵の首魁である麻森博士の実弟──進博士と対面している。

 

 そこは深い森のさらに奥深くであるにもかかわらず、不自然なまでに開けた空間となっていた。

 まるで周囲の木々をすっぽりくり抜いてつくりだしたような、そんなスペースの中央に麻森進は立ち、彼の周りには大小さまざまな機械が乱雑に配置されている。

 

 

「よく私の造った戦闘兵器の妨害を乗り越えてきたね」

 

 

 まるごしの進博士はしかし、鋼鉄聖闘士の三人を前にしても落ちついた態度を崩さない。

 

 

「博士、これいじょうバカげた真似はやめてください!」

「なにがバカげているのかね? 人の化学は、人ならざる超常の存在を打ち負かすためにあるのだよ?」

 

 

 翔の説得にも、進博士は耳を貸さなかった。

 

 

「その化学は、今あなたを捕まえるために来たんだよ!」

「人が神を超えるなんて、思い上がりもいいところだぜ!」

 

 

 大地と潮も口々に叫ぶ。

 進博士の考え、行動がいかにおかしなものであるかを。

 だがやはり博士は、それらの言葉にも納得するそぶりは見せなかった。

 

 

「兄にも言ったことだが、いい加減神に頼るのはやめにしようじゃないか。アテナであろうと、いつ心変わりして人間を見捨てるか、わかったもんじゃないだろう」

「しかし……だからって人間であるあなたが神を真似るなど、それはもはや(おご)りじゃないのか!?」

「人は成長する。化学は進歩する。それが神を乗り越えようとするのは、もはや自然の摂理だ」

 

 

 なおも説得を試みようとする翔を、潮と大地は止めた。

 

 

「もう無駄だ、翔。進博士の中で答えは決まってるんだよ」

「だから早く、デウスエクスマキナとやらを壊しちゃおうぜ」

 

 

 大地の目は、博士の背後に壁のようにそそり立っている一台のマシンに向けられている。

 無数のパイプや配線をデタラメに()いつけたような、(いびつ)なコンピューター……。

 それこそが人の造りし機械の神、デウスエクスマキナ。

 

 

「それも無駄だよ」

 

 

 静かに発された進博士の声が、樹海深くで不気味に響く。

 暗い海の底であげられた悲鳴が反響するように。

 

 

「機械の神はまだ()()()でね。それが完了するまで邪魔はさせないよ」

 

 

 三人と対峙する中で進博士は、野ざらしのまま置かれているコンピューターの数々のうち、一台を操作した。

 

 博士をはさんでコンピューターの反対側に置かれていた、箱状の置物のトビラが音もなく開かれていく。

 それはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が解き放たれるさまに酷似していた。

 

 

「うッ」

「な、なにぃ!?」

「そ、それは……まさか!?」

 

 

 翔らが驚愕の声を上げる。

 博士が開封したボックスの中から出現したのは、星の(きら)めきを内包するかのように輝く、ひとつの彫像(オブジェ)……。

 

 

「まさかそれは……鋼鉄聖衣ではない、()()()()()!?」

 

 

 悪の巣窟と化してしまった聖域(サンクチュアリ)が管理しているはずの聖闘士の装備、聖衣。

 門外不出であるべきその聖衣と思わしき鎧は、いったいいかなる代物であるのだろうか……。




鋼鉄聖闘士が主役の作品ってたぶんまだ無いはずなのでつくってみました。
ないよね…?

後編はまたこれから執筆して後日投稿します。しばしお待ちを…

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