白春の目覚め   作:ライム酒

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第九話 『始祖』の介入 ♯ 05-07

# 05 『試練』の結果

 

 

 石畳が冷たかった。

 

 ミカヅチが目を開けると、厨子が正面にあった。幕が張られ、円い紋が三つ横に並んでいる。左右の建具の格子越しに白い光が射していて、空気に細かい粒が浮いていた。奥のほうで水の噴き上がる音がする。あとは何も聞こえない。

 ムネチカが肘をついて身を起こしかけている。オシュトルも、シューニャも動いていた。

 

 ミカヅチの手に、何かがあった。

 乳白色の箱だった。枠が三つと二つに仕切られていて、内側から光っている。

 

 箱から厨子へ目を移した。石段の上には、誰も立っていない。

 黒い靄も、大剣を担いだ男も、腕を組んだ細身の男も無かった。

 

 ミカヅチは背へ手をやった。大剣はそこにあった。躰のどこも痛まない。

 幕の裾が動いていない。風が無かった。

 

 ムネチカが石畳に落ちていた杖を拾い、立ち上がった。オシュトルとシューニャも立つ。厨子を脇にして、四人で向かい合う形になった。

 

「……申し訳ありませんわ。小生は、答えを出すことが叶いませんの」

 ムネチカが袖を合わせた。

 

 三人が彼女のほうを向いた。

 

 何に対して詫びているのかを言わない。「見せられたのは、父上様のことですわ」

 

 間があった。「どこまでが本当のことだったのか、小生には判りかねますわ」

 

 シューニャが彼女の空いているほうの手を取って、両手で包んだ。ムネチカは黙ってされるままにしている。

 

「俺のほうは、突破した」

 ミカヅチが箱を持った手を少し上げた。

 

 ムネチカが箱を見て、それから彼の顔を見る。

 

「見せられたのは、妹のことだ」

 ミカヅチが息を吐いた。

 

 ムネチカの手が、シューニャの手の中で動く。

 

「渡しへ下りる前に、妹がいると言った。それきりにした。……察しはついていただろう」

 

 続きが出るまでに一拍あった。「ミライという。俺には妹がいた。もう死んでいる」

 

「それを、頭から終いまで見せられた」

 

親父(オヤジ)の言っていた通りだった。千差万別、己の弱い心を映すとな。……本当だった」

 

「俺が見せられたのは、少し違う」

 オシュトルが石畳のほうへ目を落とした。「俺自身の、これから先だった」

 

「名も顔も知らない相手に、何かを託していた。何を託したのかは判らない」

 

「判らないのに、どこかで見たことがある気がした。知らないはずのものが、覚えのあるものとして出てきた」

 

 少し間を置いた。「去り際に、誰かが俺の名を呼んだ」

 

 杖の先が石畳を鳴らした。すぐに止まる。

 

「……これは、試練だったのだろうか」

 オシュトルが息を吐いた。

 

 水の噴き上がる音が続いている。

 

「わたしのは、試練っていうか……お話だったよ」

 シューニャが箱のほうを見ないまま言った。「教皇(シャントゥーラ)様と話したの」

 

 ムネチカとオシュトルが顔を見合わせた。

 

「アーヴァ=シュランで一番偉いヒト。生命樹(アクシャナ)にお祈りをするヒトだって」

 

「郷がどうやって始まったのかを、ぜんぶ見せてもらった。追われてきたヒト達が、なんにも無いところに木を植えて、それで郷になったの」

 

「あのヒト、ずっと待ってた。赦してもらえるのを、ずっと」

 

 息を継いだ。「でも、わたしの……」

 そこで止まった。

 

 シューニャは三人の顔を順に見た。ムネチカ、オシュトル、それからミカヅチを。

 見終わっても続きが出てこない。顔が三人から外れて、その先へ向いた。そのまま止まった。

 

「━━っ」

 喉が鳴った。

 

 ミカヅチはその顔の向きを追った。

 右手。建具の格子から差す白い光の下に、黒衣が二つ、倒れていた。

 

「ねえ! ねえ、ふたりが!」

 シューニャは言い終わる前に走り出していた。ミカヅチが振り向いたときには、もう黒衣の脇に膝をついている。

 

 ムネチカが続き、屈み込む。しばらく黒衣に手をかけていた。「息はありますわ」

 

「傷は」

 オシュトルがもう一人のほうへ回った。

 

「見当たりませんの。……起きませんわ、この二人」

 ムネチカが手を離した。

 

 ミカヅチが箱を差し出した。ムネチカが杖を脇に挟み、両腕で受け取る。

 

「運ぶぞ。オシュトル」

 ミカヅチが黒衣の脇へ膝をついた。

 

「ああ」

 

 オシュトルが一人を負い、ミカヅチがもう一人を負った。背にかけた重みが軽い。

 シューニャの手だけが空いていた。先に立って通路へ入り、幾度も振り返っては、背に負われた二人を見ている。

 

 船の間へ戻った。天井の高いところで足音が返る。上部の窓から落ちる青い光の中を、四人で横切った。

 壁の開口まで来た。幅は人ひとり分しかない。

 

 オシュトルが先に、背の重みを横向きにして抜けた。ミカヅチが続く。肩が石を擦った。

 

 外へ出た。

 

 日の光があった。石壁の面に苔の筋が縦に走っている。

 

 四人は浜のほうへ下りていった。ミカヅチは一度も後ろを見なかった。

 

 

# 06 帰りの舟

 

 

 砂を駆ける音が四つ続いた。

 

 舟は浜へ乗り上げたままだった。帆は下ろしてある。艫は水に浸かったままで、そこに舟侍が立っていた。

 

「お早いお戻りで、坊っちゃん。首尾は━━」

 棹を持ち替えかけて、そこで止まった。

 

 棹の先が水を離れない。目だけが、背に負われた重みへ上がっていく。「……こいつぁ、いけやせんね」

 

「向こう岸へ急いでくれ」

 ミカヅチが舟縁へ足を掛けた。

 

「へい。すぐ出しやす」

 

 ムネチカが杖を脇に挟んだまま、箱を抱えて乗り込む。シューニャが舟底の場所を空けた。

 オシュトルは背の重みを下ろした。ミカヅチがもう一人を並べて置く。黒衣が二つ、舟底に伸びた。

 

 棹が砂を押した。舟が浮いて、向きが変わる。棹が舟底へ寝て、櫓が水に落ちた。掻く音だけになる。

 

 岸が退いていく。霧が来て、島の形がほどけた。

 

 舟底の二人は動かない。黒衣は乱れていなかった。

 シューニャが二人の脇に膝をついた。黒衣の胸のあたりへ目を落として、上がって下がるのを数えている。一度顔を上げ、それからまた落とした。

 

「この二人は、そもそも何方ですの」

 ムネチカが箱を膝へ置いた。袖を合わせてから続ける。「小生は皆様より後から加えていただいた身ですわ。ずっと伺えずにおりましたの」

 

「俺も知らん」

 ミカヅチが舟底へ目をやった。舷へ肘を置く。「思えば、オシュトルとシューニャの側にずっといたような気がするが」

 

「始まりなら、俺が知っている」

 オシュトルは舟底の二人から目を上げた。「俺とシューニャが都へ上ったのは、鴉印を帝へお返しするためだ」

 

「鴉印……」

 ムネチカの手が箱の上で止まった。「イヅモの門で、幾度か目にしましたわ。帝直下の隠密だけが賜る御印ですの」

 

 箱を抱え直して、オシュトルのほうへ膝を向ける。「それを、どなたがお持ちでしたの」

 

「俺の父だ。パシュパクルという」

 オシュトルが答えた。

 

「……お姿は存じ上げておりますわ」

 ムネチカの膝の上で、箱を抱えた腕が動かなくなった。「門を潜られるところを、幾度か。言葉を交わしたことはございませんの」

 

 箱の縁を撫でる。「帝が信を置かれる、八柱将と同格の才を持つ御方ですわ」

 

「父はそれをシューニャに預けた。中を判じられるのは帝おひとりだという」

 オシュトルが頷いた。「城の詰めでは書面だ順路だと言われて、埒が明かなかった。鴉印を出して検めさせた」

 

「そしたら、いたの。文机の横にふたり」

 シューニャが指を二本立てた。立てた指をそのままにして続ける。「いつから立ってたのか判らなかった。腕輪を覗き込んでうなずいて、いなくなったの」

 

 指を下ろした。「次の朝から、後ろにいた」

 

「妙じゃねぇか。今まで一度も気にならなかった」

 ミカヅチが眉を寄せた。

 

 オシュトルにも返す言葉が無かった。

 

「ねえ。呪法って、相手の頭に働くのもあるよね」

 シューニャが二人から目を離さないまま言った。言ってから自分の掌を見る。「……気にならなくさせるのもあるのかな」

 

 誰も答えなかった。

 

「……前から、そうではないかと思っていた」

 オシュトルは霧のほうを見たまま言った。舟底の二人へ目を落とす。「父が帝の鴉だったのなら、影はほかにも居る」

 

 舷を握った。「この二人は、帝の耳目ではないか」

 

「そういえば、御前で帝が鴉印をお読みになった」

 オシュトルが舷から手を離した。

 

「読み解かれる間、独り言のように呟いておられた。(とき)の種と聞こえた。それから救刻の巫(ラーヴェンダーナ)

 オシュトルは一度、口を閉じた。「最後のひとつで声が変わった。━━記録消去(ロストナンバー)

 

 霧へ目を戻す。「意味は判らない。聞き慣れない言葉だった」

 

「……聖上は何をご存知でいらっしゃいますの」

 ムネチカが箱の上へ手を置いた。

 

 霧が濃くなっている。前も後ろも白い。

 

 舟底に二人が寝ている。四人はそこから目を離さない。

 櫓が水を掻く音だけが続いた。

 

 

# 07 二人の眷属

 

 

 黒の中に、二人が立っていた。

 

 足の下に床は無い。黒はどこまでも続いていて、その奥に青と赤の混じった雲が幾重にも掛かっている。雲の粒のあいだに、細かい光が散っていた。

 白い肌の娘と、褐色の肌の娘だった。裸足の足が、何も無いところに乗っている。手は繋がれていた。外套は無い。

 

 二人が顔を上げた。

 

 正面に女が居た。

 黒い翼が一対、躰の丈を超えて後ろへ広がっている。薄い銀の髪は左右だけが胸まで垂れていた。額の白い帯に、赤い石が三つ並んでいる。目は赤い。

 

記録消去(ロストナンバー)

 白い肌の娘が言った。

 

「抹消された者。ウィツァルネミテアの眷属と判断します」

 褐色の肌の娘が続けた。

 

「貴女達は、あの子に近づきすぎている。誰かがあの子の力を求めれば、あの子は形を保てなくなる」

 女が答えた。

 

「我等は鎖の(カムナギ)

 

「ヤマトに仇なす者を封じ、調伏(ちょうぶく)する使命があります」

 

「だから、告げる。見るべきはあの子ではない。あの子を生んだ者たちのほうだ」

 女は二人から目を離さない。「十数年前、向こうの地が裂けた。埋もれていたものをあの者たちが持ち出した」

 

「そこから生まれたのが、あの子。あの者たちは(とき)の種と呼んでいる」

 

「それは、私から取り出されたもの」

 

 繋いだ手が、震えた。

 

「目を向けるなら、向こう。望みを遂げたいなら、今は退くことだ」

 

「望み?」

 

「我等の望みを、何故ご存知なのですか」

 

「目覚めるはずのなかった白き者が、目覚めた」

 女の翼が一度だけ畳まれた。

 

「白き者?」

 

大神(オンカミ)ウィツァルネミテアのことでしょうか」

 

「貴女達が思う者ではない。けれど、そこから遠い者でもない」

 女が答えた。「刻の流れが、本来あるべき筋から外れた。このまま進めば誰も望まぬ終わりへ着く」

 

「それは私の望むところではない。そして、貴女達の願いも届かないままになる」

 

 繋いだ手が、握り直された。

 

 女が目を伏せた。話はここまでだと言うように、翼が開く。遠くの雲が遠のきはじめた。

 

「そういえば、あの時はちょっとやりすぎちゃったかも。ごめんね?」

 声が遠くなっていく。幼い娘の声だった。若い女の声でもあり、老いた女の声でもあった。

 

「でも、先に仕掛けてきたのはあなた達だからね」

 

 二人が同じ拍で互いを見た。それから、また女のほうへ目を戻した。

 

「……またね」

 

 光が一つずつ消えて、黒だけが残った。

 




話9『始祖』の介入 執筆の時系列
作業の記録。七場面=9-1 妹と兄/9-2 親と娘/9-3 我等が友/9-4 教皇の記憶/9-5 『試練』の結果/9-6 帰りの舟/9-7 二人の眷属。題の鉤括弧は、四人と読者の落差を指す——四人は始祖の試練だと思って入るが、見せられたものはいずれも始祖のものではない。介入していたのは始祖より古い側である。
Ⅰ 設計

試練の中身を「四種類の窓」に置き換えた
原作④の試練は「己の弱き心を映す。その姿は千差万別」とだけ定めている。これを四人全員に「己の弱さ」として課すと同じ場面が四度続くので、千差万別のほうを取って四種類に割った。
ミカヅチ=自分の過去/ムネチカ=父の罪/オシュトル=自分の未来/シューニャ=他者の内側。
突破の判定は四人が揃ったこと自体とし、誰も名乗らず、誰も戦わない形にした。原作の名乗りと戦闘の帯は丸ごと使えない。

9-5と9-6を主題で分けた
当初は「試練を出て舟で帰る」までを一場面に置いていたが、語り合いと推量が同じ場面で混ざる。
9-5=見たものを語り合い、倒れている双子を見つける/9-6=舟の上で、あの二人が何者なのかを考えはじめる。9-6の視点をミカヅチからオシュトルへ移した。

9-7を新設した ── 四人が一人も出ない閑話
それまで介入者の理由は宙に浮いており、四度も介入していながら一度も動機が出ていなかった。
在席は介入者と双子の三人だけ。視点は客観三人称で、誰の心内も書かない。本作で双子が初めて言葉を発する場面とし、この一話に限って声を出す扱いにした。

場面の枠組みを二度取り違えた
9-7を〈情報を取る場面〉として組み、次に〈相手を動かす場面〉として組み直したが、どちらも誤りだった。双子は監視を緩めない。得た事実を報告するだけである。
正しくは〈読者へ渡す場面〉——画面の中で変わるのは読者の理解だけで、人物の判断も行動も変わらない。
以後の手順に「欄を埋める前に、この場面で誰の何が変わるのかを一行で言えるか確かめる」を足した。言えないまま欄を選ぶと、枠が場面を歪める。
Ⅱ 起稿

9-1 妹と兄
病の妹に薬を飲ませようとする兄。妹は皆の分が足りないことを知っていて、飲まないと決めている。兄は押し切り、妹は死ぬ。
題は当初「兄と妹」としたが「妹と兄」へ改めた——選んだのは妹の側だからである。

9-2 親と娘
父の凶行を、娘が見えない立会人として見る。声は届かず、触れても抜ける。
主な是正=父について何も知らないという事実を、噂と沈黙の積み重ねで出す/「訊けば黙られ、黙られれば引き下がった。引き下がったのは、こちらだ」という自責の一文を置いた。

9-3 我等が友
仮面の力をまとった自分の未来を見る。誰にも届かず、名も顔も知らない相手に何かを託している。
芯になる語の全用例を先に引き切るという手順を、この場面の失敗から立てた——「義」の語で五稿を費やしたのは、書きながら探したためである。

9-4 教皇の記憶
郷の始まりを、その場に立って見せられる。追われてきた者たちが何も無い土地に木を植える。教皇は赦されるのを待ち続けている。
四場面のうちここだけが〈他者の内側〉で、題も一人だけ形が違う。

9-5 『試練』の結果
四人が同時に目覚め、見たものを持ち寄る。噛み合わないまま、倒れている二人を見つける。
本文確定後に段落を組み直した。台詞の文言は一字も変えず、地の文の人名と主格だけを整理している。

9-6 帰りの舟
舟の上で、あの二人が何者なのかを考えはじめる。
最大の変更は、鴉の禁が解けたこと——それまで父が帝の隠密であったことは口に出せない扱いだったが、緩んだのは〈隠密であったこと〉と〈預かり物〉の二つで、生きていることは温存のままと整理し直した。これで「父が帝の影だったのなら、影はほかにも居る」という中間項が立ち、推量の飛躍が構造ごと解けた。

9-7 二人の眷属
精神の空間。双子が介入者を名指し、押し返し、問い、告げられる。
発言の順序を三度組み替えた。最終形は名指す → 制止 → 押し返す → 告げる → 問う → 答える → 警告 → 望みを述べる → 去るで、双子の問いを一箇所に畳まず、会話の中へ差し込んだ。「望みを遂げたいなら、今は退くことだ」と言われて「望み?」と拾う形にすると、問いの引き金が直前の一語になる。
介入の理由を五点で明かす——白き者が目覚めた/刻の流れが本来あるべき筋から外れた/このまま進めば誰も望まぬ終わりへ着く/それは私の望むところではない/貴女達の願いも届かない。〈なぜ望まないのか〉は最後まで言わない——原作もそこは言っていない。
種の来歴を開いた。十数年前に向こうの地が裂け、埋もれていたものを教団が持ち出し、そこから子が生まれた。その種は介入者自身から取り出されたものである。方角・教団の長の名・掘り出すという動詞は出さない。
双子の可動域は極小(術を使えず、立ち歩かず、名を呼び合わない)なので、反応はすべて〈繋いだ手〉に集めた——握り直す/震える。最後だけは手を離さず、互いを見てから、また相手へ目を戻す形にした。態度がやわらいだことへの困惑である。
Ⅲ 工程と規格の是正

段落の作り方が既刊と違っていた
実測すると、既刊の複数行段落は26〜67%あるのに、9-5は3%、9-6は4%だった。ほぼ全行を空行で割っていた。
既刊は台詞を段落頭に置き、地の文をその後ろに置いて次の台詞へ繋ぐ。逆に置いていたため段落頭に人名が立ち続け、地の文の人名が既刊の二〜三倍になっていた。
規格へ三条を足した——①段落は〈一人の発話の塊〉にする ②台詞に接する地の文の主格は、その台詞の話者と一致させる ③段落の二行目に他者の名を置かない。

「動きかけたが何もしない」を禁じた
「手をやる。何も言わない」「口を開きかけて、閉じた」の型。人物を動かさずに間を埋めるための便法であり、四人いる場では全員に配れてしまう。
検査エージェントにも全数を数えさせるようにした。
⚠ 一度は禁じたあとで再発した——9-7の初稿に「翼が大きく開いて、また閉じた」と書いていた。人体から翼へ部位が移っただけで、骨格は同じである。⇒ 条文を〈動作の起こりと取消を一組で書かない〉と読み替えた。部位を問わない。

場面カードの段にも検証を入れた
それまでカードには検証を掛けておらず、欠陥を全部こちらが見つけている状態だった。カードの稿が動いた原因を数えると、大半は既存の設計資料を読めば出たものだった——隣の場面の裁定との衝突、台帳との突合漏れ、引いた資料自体の誤り。
カード段に突合と受け渡しの二つの観点を入れた。以後、両方が一致して挙げた指摘はすべて真の欠陥だった。

指摘の射程を三度広げすぎた
一句への指摘を設計全体の変更と取り、説明を句の差し替え指示と取り、口調の参考にせよという指示を人称の置換と取った。いずれも直す範囲を勝手に広げている。
手順に足した——発言を受けたら、何を変えろと言っているかを、変える対象の大きさ(一語/一句/一段/設計)で先に言い切ってから手を動かす。言い切れないなら、変えずに諮る。

Ⅳ 校了

予備知識ゼロの読者に全篇を読ませた
設計資料を一切渡さず、話9の全篇だけを二通りの読み方(精読と一読)で読ませた。
両方が一致して挙げたのは、介入者の姿の描写——「項目が多すぎて一枚絵にならず、装備表を読んだ感覚」。原作①の立ち絵を実見した直後だったので、「装いを数え上げない」という自分で決めた縛りを破って全部入れていた。四項目へ削り、双子の衣装も落とした。
ほかに削っても失われない文を五つ、要らない読点を九つ、同じ所作の反復を三系統是正した。
⚠ 削除が話者標識を壊しかけた——反復として落とした一文が、実は誰の発話かを示す唯一の手掛かりだった。削る前に、その文が話者標識を兼ねていないか確認するという条に従い、別の動作へ置き換えた。
届いていたもの——最終行について「ここまで四つの試練がすべて同じ語+暗転で閉じてきたので、同じ型で七つ目の場面も閉じる閉幕の合図として読める」。五場面を同じ徴で揃えた狙いが、予備知識ゼロの読者に届いていた。

題を決めた
話9『始祖』の介入。場面題は妹と兄/親と娘/我等が友/教皇の記憶/『試練』の結果/帰りの舟/二人の眷属。
9-1〜9-3が続柄で揃い、9-4だけが記憶の持ち主——形が違うことが、あの場面の異質さと合っている。
話8の題「始祖の墓所」と、その最終場面「始祖より古い声」に対して、話9の題は鉤括弧つきの『始祖』で受ける。本文のファイル名も題に合わせて改めた。
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