白春の目覚め   作:ライム酒

26 / 26
第十一話 巣立の雛鳥 # 01-06

# 01 帰都

 

 

 都の門は、オシュトルたちが出ていった日と同じ顔で立っていた。

 人も荷車も検めを受けずに吸い込まれていく。その流れに乗るまでに、オシュトルは三度足を緩めた。フユの歩幅に合わせているからで、ムネチカは叔母の半歩うしろを離れない。

 

 門をくぐった。

 

 大路は覚えているよりも詰まっていた。

 呼び売りが四方から重なるのはいつものことだ。饅頭に串焼きに甘酒、湯気と油の匂い、軒の暖簾と幟。だがその下に人が溜まっている。露店の台の前で列が折れ、折れた尻が道の真ん中まで出てきている。石畳の目地はどこを見ても足に隠れていた。

 露店の列に押されて、シューニャが半歩ずれた。

 

「ねぇ、オシュトル。この前より、人が多くない?」

 

「確かにな」

 返してきたのはミカヅチだった。「……祭でもあるのか」

 

 前のほうで人波が二つに割れる。

 飾りを付けた車が列になって進んでくる。轅から幌まで色布で包み、金具が日を弾いていた。笛と太鼓が乗っているが、拍子は人の声にほとんど負けている。その脇を、酒樽を積んだ荷が幾つも抜けていった。荷方が肩で人をどけながら、車列とは逆の方角へ急いでいる。

 人垣の切れ目に二人ぶんの顔が覗いていた。娘の頭から羽根が二枚、後ろへ長く伸びている。片方は先が反り返っていた。隣の細身の男のそれは短く、扇のように左右へ張り出している。男が目を細めて何か言い、娘が声を上げて笑った。人波が閉じてそれきり見えなくなった。

 

 うしろで、フユが袖を口へ当てた。

 

「コフッ━━」

 

 ムネチカが傍らへ寄る。

 

「オシュトル殿。……聖上のもとへ、参りましょう」

 

「……どう取り次いでいただくかだな」

 道は前へ流れていく。ミカヅチが横に並んだ。

 

「前は鴉印で通ったとは聞いた。今日は何がある」

 

 黒衣が二つ、うしろから人波を割って追い越していった。

 同じ背丈、同じ形の衣。前へ出たところで足を緩め、片方が手を上げてこちらへ招く。

 シューニャが二人を見て、それから振り返った。

 

「オシュトル、このコ達、こっちだって」

 

 二人はもう先を歩いていた。大路の脇の小路へ入っていく。

 追って角を曲がると、霧が出ていた。さっきまで日の差していた路地の先が、白く沈んでいる。

 

「願い出るより先に、お呼びか」

 霧は足元まで来ていた。

 

「行こうか」

 

 

# 02 咎の鴉

 

 

 オシュトルたちを包んでいた霧が晴れた。

 足の下が石だった。さっきまでの人いきれが丸ごと消えている。

 

「……ここは」

 

 長い床が奥へ延びている。磨かれた石の面に列柱が影を落とし、その左右に人が並んでいた。束帯のウォシス。仮面を着けたディコトマ。そして、鋭い目のライコウ。突き当たりに一段高い台があり、白い装束のホノカがその脇に控えている。壁の高みに白い灯が並び、その光が床の中ほどに帯を作っている。

 台の上に、帝がいた。

 オシュトルは示された位置で膝を折った。同じ列で衣擦れが三つ、それに倣う。フユは列の後ろに、布当てのままで控えた。

 

 台の脇に黒衣の二人が立っていた。そろって台の上へ小さく頭を下げる。台の上から頷きがひとつ返り、ホノカがその遣り取りを見ていた。

 

「聖上。召しにより、ムネチカ殿達が参られました」

 ウォシスが滑るように進み出る。「ムネチカ殿。御前です。申し述べなさい」

 

「ハッ。小生が叔母、フユの件にございます」

 声が高い天井へ吸われていった。

 

「躰を悪くしております。聖上の御前へ、お連れ致しました」

 

 帝が列の後ろへ顔を向ける。

 

「面を上げよ。……其の布も、取るが良い」

 

 列の後ろで、フユが顔を上げた。耳の後ろへ手をやる。結び目がほどけ、紫の布が手の中へ落ちた。

 白い毛が頬から顎を覆っている。石の間の光の下でも、口許の形は人のそれから遠かった。

 帝はそれを一度見る。

 

「鴉となる時に、言うたはず。……深入りするな、と」

 

 フユが深く頭を下げた。

 

「其の躰は、生命樹(アクシャナ)によるものである」

 帝の目は、まだフユの顔にあった。

 

「……余にも、治せるかは判らぬ」

 

「なれど、手立ては探そう」

 台の際で衣の音がする。

 

「ホノカよ。余の鴉を、奥へ通せ」

 

(わたくし)を、まだ……鴉と」

 フユの頭が、床のほうへ垂れた。そのまま続ける。

 

「ありがとうございます」

 

「フユさんは、こちらへ」

 ホノカが階を下りて列の後ろへ回った。二人が並んで下がっていく。

 

 

# 03 武を示せ

 

 

 オシュトルは頭を下げたまま声を出した。

 

「恐れながら——お取り次ぎを、お願い致します」

 ウォシスが一歩、前へ出る。

 

「聖上。オシュトル殿が、言上を願い出ております」

 

「オシュトルよ」

 石の面が、その一声を短く返した。

 

「……まだ、その思いは変わらぬか」

 

「はっ」

 膝の位置を改める。

 

「父の任を、自分に継がせていただきたく。……足りぬと仰せられたことは、忘れておりません」

 一度、息を入れた。

 

「あの願いに、偽りはありません」

 

「ディコトマよ、其方はどう見る」

 

「……いまは、無駄死にするとは思いませぬ」

 ディコトマが一度、間を置く。

 

(それがし)の指南は、あらかた終えました」

 

 帝がディコトマから目を戻した。

 

「アーヴァ=シュランへ渡りたくば、それ相応の武を示してもらわねばならぬ」

 

「はっ」

 

「ハッ」

 ミカヅチとムネチカの声が重なった。

 

 四つの頭が下がる。石の間はそのまま静まっていた。

 

 

# 04 ミカヅチの仮面

 

 

 オシュトルが頭を上げると、列が動いた。

 静まりを破ったのはライコウだった。両手に乳白色の箱を捧げている。格子の枠が三つと二つに仕切られていて、内側から光っている。

 列を出たところで、高みから声が掛かった。

 

「ライコウよ、前へ」

 

「ハッ」

 箱が胸の高さまで上がる。

 

「故國の至宝、弟に命じて墓所より持ち帰らせ、これを預かり、確かに帝都まで運びました」

 箱がわずかに下りた。

 

「これを弟へ渡す御許しを、賜りたく存じます」

 

 帝が箱へ目を落とした。

 

「其方は、中を知っておるか」

 

「開けずとも、見当は付いております」

 帝が顔を上げる。

 

「構わぬ。渡すが良い」

 

 ライコウの指が枠に掛かった。仕切りの一つが退いて、中のものが現れる。仮面だった。持ち上げて弟のほうへ向き直る。

 ミカヅチが進み出て、両手を差し出した。仮面が兄の手を離れ、弟へ渡る。

 

「ミカヅチよ。其方が受けたのは、象徴である。この意味、判るな」

 答えを待たず、帝が続けた。

 

「過ぎたる力は、使わぬに越したことはない」

 

 高みから来たのは、過去を見る声だった。

 

「ハッ。謹んで、拝領致しまする」

 

 隣でシューニャがわずかに身を前へ傾ける。ムネチカの目は仮面から自分の手元へ落ちた。

 ディコトマが喉の奥で低く笑う。

 

 台の上で衣が鳴った。

 

「ライコウよ。大儀であった」

 

 

# 05 天子アンジュ

 

 

 オシュトルたちは聖廟を出た。

 板張りの廊が長く延びている。艶の出た板が足の下でわずかに鳴った。壁は無く、腰高の手すりが柱のあいだを渡っている。横桟は三段。朱塗りの角柱に金の飾り金具が並び、柱の上では組物と垂木がそのまま天井になっていた。

 手すりの向こうは庭だった。池の石のあいだを鯉が回っている。白い砂利の先に朱塗りの反り橋、親柱に黒い擬宝珠。大樹の向こうを白壁と瓦屋根の殿舎が囲っていた。

 

 行く手に、子供が立っていた。

 黒い髪が顎の線で切りそろえられ、頭の上で一房だけ長く跳ねている。髪に金の鈴。白い毛の耳が左右へ張り出し、毛先だけが黒い。淡い黄の衣は襟の合わせが朱で、肩に白い布が掛かっていた。廊の真ん中で四人を見上げている。

 

「そなたら。ほのかをしらぬか」

 大宮司の名を呼び捨てにしている。

 

「まっておるのに、こぬのじゃ」

 オシュトルの足が止まった。ただの子ではない。

 

 シューニャの声が先に出た。

 

「ホノカさんなら、あっちに行ったよ」

 

「ならば、()をあんないいたせ」

 

 オシュトルが廊の先へ足を向けた。子供が当たり前の顔でその横に並ぶ。

 

「おい、どこの子だ。こんな所を独りで」

 ミカヅチだった。ムネチカが袖を合わせる。

 

「ミカヅチ殿。少し、お言葉が過ぎますわ」

 

「そなたらこそ、どこのくにのさんだいじゃ」

 歩きながら、一人ずつ顔を覗き込んでいく。ミカヅチ、ムネチカ、シューニャ。

 

「クジュウリか。……シャッホロか」

 最後にオシュトルの横へ来て、そこから離れなくなった。

 

「いずれの國の者でもありません」

 

「……おぼえたかおには、ないのう」

 

「なまえがたくさんありすぎて、わからなくなるのじゃ」

 

「では、だれのみょうだいじゃ」

 

 オシュトルは首を振った。

 

「いえ。名代で参ったのではありません」

 

 柱が二本、三本と流れる。刈り込みが途切れ、白砂利が庭の奥まで広がった。

 

 角のところで、ホノカと行き合った。

 

「この様なところで何をなさっておられるのですか、アンジュ様」

 四人へ小さく目礼してから、アンジュへ向き直る。笑みのまま、歩みは緩まない。

 子供がオシュトルの背へ寄った。

 

 オシュトルが半歩、前へ出る。

 

「ホノカ様。……道を尋ねられていただけです。引き止めてしまったのは、自分たちにございます」

 

 子供がその背から顔を出した。

 

「そなた、きにいったぞ。なをなんともうす?」

 

「オシュトルに御座います」

 

「そうか、オシュトルか」

 

「ホノカ様、この御方(おかた)は……」

 

「はい。アンジュ姫殿下にあらせられます」

 

 オシュトルが腰を折った。

 

「これは、大変失礼致しました」

 

「かまわぬ。()のけらいにしてやろう」

 

「……勿体なきお言葉」

 

 ホノカが二人のあいだへ入る。

 

「アンジュ様。オシュトルさんたちには、これからなさることがあるのです。困らせてはいけませんよ」

 アンジュが爪先で板をこすった。

 

「アンジュ様は、御勉学(ごべんがく)の時間です」

 

「いやじゃ、まだ……」

 

「御勉学の時間です」

 

「……ハイ」

 

 ホノカが手を引いて歩き出す。アンジュがその半歩うしろを付いていった。

 四人は立ったまま、二つの背が柱の間に消えるまで見ていた。

 

 

# 06 聖誕祭

 

 

 宮廷を出たオシュトルたちは、大路の人だかりに行き当たった。

 ミカヅチの手に、御前で受けた仮面が下がっている。まだ着けてはいない。

 呼び売りも湯気も油の匂いも変わらないのに、人が動かない。辻には酒樽が積み上がっていた。荷方はまだ運んでくる。人垣の向こう、通りの突き当たりに聖廟が白く立ち上がっている。

 

 人の頭越しに、屋根を載せた木造の構えが立っていた。高札だった。

 人だかりの中から声が届く。

 

「お触れが出たぞ」

「なんだ、なんだ」

「聖誕祭の出し物か」

 

 この人いきれに、名が付いた。

 

「聖誕祭?」

 シューニャが背伸びをする。ムネチカがその隣に並んだ。

 

「ええ。姫殿下のお生まれになった日を、都をあげて祝うのですわ」

 

「……そっか。じゃあ、さっきの子のお祭りだったんだ」

 

 ムネチカが小さくうなずいた。

 人垣がまた沸く。

 

「仕合もあるってよ。天覧仕合(てんらんじあい)だ」

「腕に覚えがありゃ、誰でも出られるとさ」

「勝ち残りゃ聖上から褒美が出るってな」

 

 ミカヅチがオシュトルを見た。

 

「聖上が御覧になる仕合だ」

 

「……武を示す場は、これだ」

 オシュトルが人垣に背を向けた。「出るからには、支度を揃えないとな」

 

「フン。上等だ」

 ミカヅチが仮面を持ち直して人垣から離れる。

 

 軒の一つに、ぼんぼりが上がりはじめる。

 どこかの家の奥で鼓が鳴り、笛が遅れて入った。拍子はまだ揃っていない。

 




話11『巣立の雛鳥』 執筆の時系列

作業の記録。六場面=帰都/咎の鴉/武を示せ/ミカヅチの仮面/天子アンジュ/聖誕祭。題は話04『御前の雛鳥』への呼応——あの日は雛鳥と見られた者が、渡りを願い出て条件を課され、その形を都の高札に見つけて、自分から出ると決めるまで。師が前話で言った「見事に巣立ったぞ」の語にも届く。

Ⅰ 場面割り——組み替えと廃止

七場面を六場面へ。
フユの退場は②の末へ移した。
主題が④に決まった
至宝の授与の場で、帝が許しと同じ息で「過ぎたる力は、使わぬに越したことはない」と言う。渡す側が、使うなと言って渡す。原作④に同じ逐語があり、そこも至宝を託す場だった。

カード検証2体
六枚とも回した。条件C(実物を読む)と条件D(依頼文だけ)。⑥では四点が変わった——繋ぎの一拍をシューニャからオシュトルへ(彼女は都の祭を知らない側)/台詞なしの静止の行を統合/密度を既刊の行数で与える/呼称の是正(「兄さま」はネコネの呼び方で、シューニャは呼び捨て)。

Ⅱ 謁見の三場——咎の鴉/武を示せ/ミカヅチの仮面

聖廟に窓は無い。壁の高みの灯と、床にできる光の帯へ書き換えた。

②咎の鴉——帝がフユを引き受ける
帝が布を取らせ、獣の顔が露わになる。見立ては〈生命樹による/余にも治せるかは判らぬ/なれど、手立ては探そう〉。締めは「ホノカよ。余の鴉を、奥へ通せ」。後の是正三件——「直せる」を「治せる」へ(躰の話である)/末尾の「紫の布は、もう顔へ戻っていた」を落とした/感謝の一言の前に置いたムネチカの動作を落とした。

③武を示せ——二度目の直訴
帝が許すより先に「まだ、その思いは変わらぬか」と問う形にした。返しの芯は既刊にある——「あの願いに、偽りはありません」。あの日は邸で、今日は御前で。床に頭を付ける所作は使わない。条件の中身は問わせない——形は⑥の触れで判る。師の口調を二度直した——「存じません」→「存じませぬ」→「思いませぬ」/「あらかた教えました」→「某の指南は、あらかた終えました」。条件の語も「それなり」→「それ相応」へ。

④ミカヅチの仮面——既刊が確立していた流れ
読者エージェントが「弟から預かったものを弟に渡す形に読める」と挙げたのを、〈向きが逆だ〉と読んで「渡す」を「返す」へ改めた。しかし、向きは逆ではなく、読者エージェントが読めなかったのは経緯だった。是正は〈弟に命じた〉を言上に入れることで、「返す」は至宝の帰属を書き換えてしまう。あわせて渡してから宣言する順に組み直した(旧稿は宣言が授与より前に在り、九段の〈渡したことの宣言〉が欠けていた)。削った一行も戻した。

「面」ではなく「仮面」
話11を「仮面」へ直した。⚠ ところが既刊が「面」=仮面を確立していた(前話の受け渡しの場面に七度、ほか)。校了済みなので据え置き、改稿作業リストへ。一括置換は避ける——語の重さが変わるため。箱の形も同じで、読者エージェントの「形が浮かばない」を受けて書き換えたところ既刊の逐語と食い違い、差し戻して既刊側の課題として送った。

Ⅲ ⑤天子アンジュ——実見と口調

立ち絵を見ずに書いた
姿を二次資料の一行だけで書き、画像はリポジトリに無いと結論した。ドライブから取得して実見したが、実見してなお二箇所を読み違えた。轍=〈実見した〉ことを〈正しく見た〉ことの保証にした。以後、姿を書く場面は立ち絵を実見してから起稿する条を正本へ入れた。

口調は原作で数える
原作の幼いアンジュに裸の「ない。」終止は0件で「〜のじゃ」系のみ。⇒「……おぼえたかおには、ないのう」。オシュトルに「勿体ない」は0件、「勿体なき」だけ。⇒「勿体なきお言葉」。表記の則も確かめた——この頃のアンジュはすべてひらがなではなく、漢字は「()」だけ、カタカナ語と固有名はカタカナのまま。本文は既にその則と一致していた。

歩きながらの場へ
歩き出しを〈案内いたせ〉の直後へ繰り上げ、以後のやりとりを歩きながらにした。要求に応じている形にもなった——旧稿は〈案内しろ〉が宙に浮いていた。あわせてアンジュの五帯連続を割って否定を入れ、問いも「どこのくにのものじゃ」→「どこのくにのさんだいじゃ」へ。参内と名代が同じ筋の上に並ぶ。名乗りの「はっ、」は御前ではないので落とし、ぐずりの所作も「足先を回した」から「爪先で板をこすった」へ具体にした。

Ⅳ ⑥聖誕祭——四度の作り直し

前の場面との繋ぎ/会話の二又
検査エージェントの体も同じものを挙げていた——「三つの台詞が互いに応答していない。会話ではなく、独白が三つ並んでいる」。それを〈設計どおりの三拍〉と読んで据え置いていた。⇒ 規律=体の指摘を据え置くときは、〈設計にそう書いてある〉ではなく〈書かれたものがそうなっている〉で判定する。

仕込んだことと回収したこと
①でシューニャが「人が多くない?」と問い、答えが返らない設計だったのに、⑥では触れが名を言うだけで、誰も受け取っていなかった。轍=前の場面で宙に浮かせたものは〈画面に出す〉のではなく〈誰かが受け取る〉ところまで書く。

触れを二段に割る
受ける側が二拍なのに投げる側が一拍だった。前半=聖誕祭/後半=天覧仕合。語は数え直した——「御前試合」は原作②の語で④⑤は「天覧仕合」、「力自慢」は原作に0件なので「腕に覚え」へ。後に順序も直した——旧稿はシューニャが先に納得し、ムネチカの説明が後追いになっていた。⇒ 聞き返し → 説明 → 納得。納得の一言も、割れていた二帯を一息へ。

仮面をどうしたのか
カードの「仮面の件を出さない」を、器にまで及ぼしていた——縛りは機能や貸与を口にしないことであって、彼が何を手にしているかという場の与件ではない。同じ轍が削除ログに既に登録されていた。答えは〈まだ着けていない・手に提げたまま〉。続けて設計文書の説明用の言い回しを地の文へ転用していた。

Ⅴ 校了——読者と、道具と、二便のレビュー

読者エージェント2体で17件
条件A(精読・話者特定)と条件B(一読・引っかかり)。両体ともツールを Read のみと自己申告し、開いた六本を全数申告した。採ったもの——感謝の一言の話者が確定できない/場面①に話者標識が無くシューニャの名が四場面目まで出ない/「両隣で衣擦れが三つ」/「頭を上げた」の主語が命令の宛先と食い違う/箱の形/一括弧に話者2名/「足を止めさせた」のねじれ/「揃えないとな」の目的語/読点六件/「……」始まりの反復。採らなかった6件も理由つきで残した(ムネチカの口調は設定どおり、チラ見せ、前話既出、沈黙の設計)。

道具が壊れていた
校了工程が要求する帯の再測を回したら、例外で落ちた。器へ文末と読点の指標を足した回に戻り値が伸びていて、こちらは古い数で受けたままだった——器へ指標を足すたびに黙って壊れる形。篇数と話の並びも書き付けで、新しい話を足しても出てこなかった。どちらも実物から取る形へ直した。測り直した結果、話11は三指標とも見本の帯の内側へ戻った(部位主語2.8・定型所作1.6・台詞比0.36)。前話の部位主語14.0は、劣化の傾きではなく前話だけの跳ねだった。

読者の指摘を、そのまま診断として採った
至宝の受け渡しの件(Ⅱ参照)。体は「矛盾と断定はできませんが、辻褄が繋がりません」と書いて確度を下げ、末尾で〈前話の本編が要る〉と自分から申告していた。断定したのは私である。規律の側は「既出であることを確認してから捨てる。『既出のはずだ』で流さない」と定めており、私はその逆をやった——既刊を引かずに、本文の言い回しを変えて辻褄を合わせにいった。体が挙げたのは症状で、診断は書き手の仕事だった。

技法の再使用が咎められた
既刊で一度使った手だった。あわせて〈いつの間にか居た〉という受け身の不思議さから、〈追い越して前に立つ〉という運動へ変わった。規律=前に効いた書き方は、次の場面では〈既に説明済みの手〉になる。

Ⅵ 運用の側で起きたこと

段を四つへ束ねた
段は〈盤と一行を更新する単位〉と定め直し、執筆七段→四段(カード/台本/起稿と検査/校了)、通読・二次資料編集・運用方針更新・感想も同じ考えで束ねた。コミットは段から外して全段の締めへ。節の差し替えで正本を二度壊した——タグ名で検索すると本文中の言及を先に掴む。行番号で切り、両端が開閉タグであることを確かめる規律を追加。

工程盤
フロー図の依頼から始まり、レイアウトで三度作り直した。主フローは横、割り込みはその下へ縦、全段に掛かる点線の帯から落ちる形へ。図の道具では帯が描けず縮尺も揃わないので、最後は一枚の図に手で描いた。途中で盤の更新が止まった。更新の時機の判定を記憶に委ねていたのが原因で、〈一行に割込と書いた回は同じ回で盤も更新する〉と、判定を一行へ委ねる形に変えた。

確は改稿禁止ではない/冒頭で視点人物を指す
止まるのは話の校了であって、場面の確ではない。

Ⅶ 題

命名則を引いていなかった
既刊の題は九話すべて「○○の○○」で片側に人という則で付いており、命令形は最初から則の外だった。あわせて〈場面の題は適当でよい〉の読み違いも正された。裁定不要なのは仮題であって、本決めの題ではない。

『巣立の雛鳥』と、場面六件
②「咎の鴉」は、帝の「余の鴉」とフユ自身の「私を、まだ……鴉と」を一語で受ける——旧「フユを診せる」は工程の説明で、場面の顔ではなかった。⑤「天子アンジュ」は、四人が知らずに相対した相手の位を題に出す。本文五篇と話フォルダ、この記録を改名し、生きた資料の参照を全数貼り替えた——履歴は当時の名で残す(一度は検討と申し送りまで書き換えて戻した)。貼り替えの途中で古い誤りも一つ見つけた(話の目的が「④の末にフユの退場」と書いていたが、退場は②の末である)。

校了
段4の六工程を終えた——記憶資料(分量検査 超過0件)/読者2体/台帳同期/正式な題/この記録/帯の再測。持ち越した三件も裁定が下りた(①の台詞比は現状で良し。⚠ 一場面の裁定であって条の改定ではなく、規格も器も変えていない。残る二件は該当の場面を触る回にその場で諮る——待ち行列ではない)。

開いたまま次へ渡るもの
仕合が渡る試験であること(公には奉祝の仕合で、繋げるのは四人と読者だけ)/帝の正体の断定と、戒めの理由/師が苦笑いした理由/フユの消息(帝の預かりとなり、聖廟の奥へ)/双子の名と素性/「双子の証言」の着地先(所作だけで渡す設計が本文で成り立っていない)/⑤にも仮面の在りかを置くか。

正本=5_記録/決定録.md(D-8dea-06〜14・D-1387-01〜30・D-6bc7-01〜70)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。