白春の目覚め   作:ライム酒

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第十三話 皇将の参勤 # 01-05

# 01 献上の行列

 

 

 オシュトルたちは邸を出て、朝の大路へ下りた。四人とも箒を担いでいる。師に言いつかった川岸の掃除で、祭まではあと三日ある。

 辻の樽はまた増え、軒のぼんぼりが通りの端まで並んでいた。呼び売りの声は、樽の間から上がってくる。

 

 都の門の側から人垣が崩れて、道が空いた。

 ウマ(ウォプタル)の牽く荷車が来た。一輌、二輌、そのあとも続く。甕に、藁と葉で包んだ荷。金銀を張った箱と、布を巻いた槍の束も載っている。両脇に従者が付き、荷車のいくつかには人が乗っていた。

 四人で軒下へ寄った。仮面の縁が影で冷える。ミカヅチは白い仮面ごと、日の外に立っていた。

 

「わぁ、すっごい行列」

 シューニャが列を指した。

 

「南の湾の國、シャッホロの(オゥルォ)だ。溟海のソヤンケクル様よ」

 人垣の中からだ。別の声が、もう一つ重なる。

 

「クジュウリの皇もだ。西の氷の國を切り開いた、楽土のオーゼン様」

 

 先の車に、青い髪を撫でつけた男が乗っている。首の左右に、牙の形の白い飾り。國ごとの荷を一群おいて、もう一人が乗っていた。灰白の髪と、顎から胸へ二本の編んだ髭。

 車は人の頭より高いところを過ぎて、宮廷のほうへ遠ざかっていった。

 

「八柱将ですわね」

 ムネチカが小声で継いだ。

 

「皇が直々にか」

 ミカヅチが言った。列はまだ続いている。

 

 辻に差しかかった列が、積まれた樽と並んで過ぎた。列を見送る。背にしていた聖廟が、行く先に白い。

 

 空いた道に人が戻ってきた。

 四人も人波へ入る。川岸はまだ先だ。

 

 

# 02 溟海と楽土

 

 

 オシュトルたちは夜の縁側に居た。川岸から戻って夕餉も済み、柱に灯が一つ下がっている。ディコトマは縁の奥に寝そべっていた。ミカヅチは柱の陰に座っている。

 

「御館様、お二方いらっしゃいました」

 廊の口にユゥリが控えている。

 

「今回も来やがったか。律儀な奴らだ」

 

 塀の外で明かりが揺れて、門が開いた。庭を横切ってくるのは二人だけで、明かりは門の外に立ったままだ。

 朝の車の上に居た男たちだった。先に青い髪、後ろに灰白の髪。それぞれ壺を抱えている。青い髪のほうは二つ。

 

「やあ、馳走(ちそう)になりに来たよ」

 

「ワシ()も手ぶらでは来とらん。國の酒じゃ」

 

「ちったあ遠慮しやがれ」

 ディコトマが起き上がる。

 

「シャッホロ皇ソヤンケクル様、クジュウリ皇オーゼン様、であらせられます」

 ユゥリが廊の口で頭を下げる。

 

 四人で庭へ降りる。先に立って、二人の前で腰を折った。

 

「これはソヤンケクル様、オーゼン様」

 

「ウチの餓鬼どもだ。で、こっちがムラサメの娘よ」

 ディコトマがムネチカを指す。

 

 ソヤンケクルが、こちらの前で足を止めた。

 

「ほう。二人とも、仮面を着けているのだね。次代のヤマトを守る担い手だ。今夜は、それを見に来たのさ」

 

「頼もしいのぉ」

 

「買い被るな。まだひよっこだ」

 ディコトマが二人を縁へ上げる。

 

 縁へ戻ると、仮面の内側まで灯の色が入ってくる。壺が板の上に並んだ。

 

「ユゥリ、取って置きの(かめ)があっただろ。そいつを持ってきてくれ」

 

「判りました、すぐにお持ちします。でも、あまり飲みすぎないよう程々にして下さいね」

 

 甕が運ばれてきて、壺の列に加わる。封が切られて、匂いが灯へ上がった。ソヤンケクルも二つの壺を開けた。

 

「こっちは火を入れない果汁でね。酒の()めない者にも、リンタンの味は判るよ」

 椀が回ってくる。

 

「どうだい、今回のリンタンは。この熟成されたリンタンが醸し出す、芳醇(ほうじゅん)な香りと舌触り。これぞ、ヤマト一に相応(ふさわ)しいと思わないかい?」

 

「むふぅ、確かに美味い。ほいじゃがヤマト一()ぅにゃぁまだまだじゃのぉ。これ()んでみぃ。花の朝露を集めて濃くしたみたいじゃろ? 甘露()ぅんはこうゆぅんじゃ。ヤマト一の酒は、クジュウリの花酒(はなしゅ)じゃろう」

 

「美味いのは認めるが、リンタンに比べるとどうかね?」

 

「そっくりそのまんま返しちゃる」

 

「オメエ等、ンなことで喧嘩すんなよ。どっちが上とか、酒ってのは美味けりゃそれでいいだろうに」

 

「何を言うんだね。そこはとても重要じゃないか」

 

「ほうじゃほうじゃ。威信がかかっとるんじゃけん」

 

此奴(こいつ)等、面倒くせぇ……」

 ディコトマは自分の甕から()んでいる。

 

 ムネチカが果汁の壺から注いで、シューニャへ渡す。シューニャが一息に空けて、椀を差し出した。

 

「おお、それを気に入ってくれたかね。なら君も素質ありとみた。将来が楽しみだよ、うん」

 

「嬢ちゃんが決めたな。今回はソヤンケクルの勝ちだ」

 

「ぐぬ……次は覚えとれ」

 

 甕が半分になる頃には、客の二人が赤らんでいる。

 

「祭が済みましたら、すぐにお発ちになりますの?」

 

「君の御母堂(ごぼどう)と同じく、私達も普段は國務めだからね。君達はまだ会った事がないだろうが、イズルハの今の氏族長であるトキフサ殿もそうだね」

 

「ワシ()は聖上から、有事に備え、任地の守りをしかと固めよ、と仰せつかっとる」

 オーゼンが椀を板に置いた。

 

「ほいじゃが、上ってくる道々で聞いたんじゃがのぉ。西の森のほうで、行商やら山へ入った者やらが、獣に襲われとる()ぅ話じゃ」

 

「物騒なこったな。ほれ、()め」

 三つの椀に酒が足される。

 

「……いかんね。國の話をしていたら、アトゥイのことを思い出したよ」

 

「ルルティエ……」

 オーゼンが椀を抱えたまま言った。

 

「女のヒトの名前っぽいね。おじちゃんたちのお嫁さん?」

 

「ハッハッハ、惜しいが妻ではない。私の可愛い可愛い愛娘さ」

 

「ほうじゃ。目に入れても痛くない、玉のような娘じゃ」

 

 ディコトマが甕ごと縁の奥へ下がる。廊の口からユゥリが出てきて、それに手を掛ける。

 

「……御館様? 飲みすぎのようですね」

 

「やれやれ。年頃の娘ってのは、口に容赦がねぇ」

 

「ハハハ、キミとこの苦悩を分かち合う日が来ようとはね」

 

「ウチは女が多いだけじゃのぉて、一番(いっちゃん)上が女じゃけぇ。口が臭いとか、ほんま容赦ないけぇの?」

 

「止めたまえ、それは私にも効く」

 

 ユゥリが廊へ戻っていく。ディコトマは抱え直して、奥の柱に寄りかかった。

 

「フフン、娘の事なら一晩中語ってあげられるが、聞いていくかね君達?」

 

「一晩などで語り尽くせるものか。何夜だろうと相手をしてもらう事になるであろうよ」

 

「そ……それは遠慮(つかまつ)る……」

 ミカヅチが柱の陰へ身を引く。

 

「特に君のところはルルティエ嬢だけじゃなくて、息子も娘もたくさんいるからね」

 

「ほうじゃ……それを思い出したら、頭が……」

 

「え。まさか、シス嬢……」

 

「ああ、まだ嫁ぎ先が……」

 

「シス?それも女のヒトだよね。なんだか強そうな感じ」

 

「ああ、彼の一番上の娘さんでね。中々相手が決まらないそうで」

 

「器量は悪くないのだが、その通り、(いささ)か気が強くてのう……誰か貰ってくれれば……」

 オーゼンが、ソヤンケクルと揃ってミカヅチとこちらを見た。

 

「え、遠慮(つかまつ)る」

 ミカヅチのほうが早い。

 

流石(さすが)にまだ早いお話だと……」

 椀を板に戻して、頭を下げる。

 

「そうか、残念……まあ、シスはともかく、ルルティエはもし頼まれたところでやれぬがな」

 

「アトゥイもね。娘たちも都まで連れてきているのだよ。たっぷりと話をしてあげよう。期待していたまえよ」

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 もう一度、頭を下げる。

 

 奥で、甕の底が灯に向く。

 

「何でぇ、もう空になっちまったか。今夜はここまでだ。オメエ等、娘の話は持って帰りな」

 ディコトマが空いた甕を壺の隣へ置いた。

 

「馳走になったよ」

 

 二人が庭を横切って、門の外の明かりへ戻っていく。

 

「やはり、男親と娘となると、色々と違うようですわね」

 

「そう……なのかな?」

 

「そうだったな」

 柱の陰のミカヅチだった。

 

「そうかもな……」

 

 灯の下に、空いた甕と、まだ残りのある壺が並んでいる。

 

 

# 03 金のビッキ

 

 

 オシュトルたちは朝の庭に出ていた。祭まではあと二日ある。ディコトマは縁の端に立って、庭を見ている。

 

「祭に持っていくモンがまだ無ぇ。聖上への献上に、珍味の一つも添えりゃ格好がつく」

 ディコトマが縁の端に腰を下ろした。「金色のビッキだ。究極の珍味ってヤツだろう。獲ってこい」

 

「ビ、ビッキを……食べるんですの?お腹を壊したりしませんの?」

 

「貴様のところでは食わんのか?ホロロン鳥みたいで美味いぞ?」

 ミカヅチがムネチカの方を向いている。

 

「美味しいんだ?いいなぁ、わたしも食べてみたいなぁ……」

 

「ミカヅチ、何か知らないか」

 

「金色かどうかは知らんが、イッケウル街道に珍しい種類のビッキが出る、という噂は聞いた事がある」

 

 イッケウル街道沿いの湿地に着いたのは、日が高くなってからだ。街道は湿地の縁を南北に通っていて、その西に水と草が交互に広がる。足を置くたびに草の下から水が浮く。街道をウマの車が二つ、南へ下っていった。

 

 草の高いところに、人が一人立っていた。武官の身なりで、長刀を提げている。刃の片側に、短い枝が幾つも出ていた。

 

「ややっ、そこなる一行は!」

 武官が大股に来て、四人の前で止まった。濃い口髭の、眉間に皺の寄った男だ。

 

「フ、フフン、聞いたでありますぞ?貴様等でありますな、帝と謁見し、そしてディコトマ様への弟子入りを果たした連中というのは!」

 

「ええ、そうですわ。縁があり、運に恵まれていましたの」

 

「ほほう、謙虚なのはいい事であります。よろしいよろしい。うぉっほん、その素直さに免じて、先輩であるこのボコイナンテが新参者の貴様等に、武官のなんたるかを教えて進ぜよう」

 

「先輩でありましたか。オシュトルと申します」

 

「……ねえねえ、武官ってディコトマのおじちゃんみたいなヒトの事なんだよね?このヒト、スゴく弱そうだよ」

 

「━━ンガッ」

 ボコイナンテが咳払いを一つして、向き直った。

 

「ボコイナンテ殿も、金色のビッキを」

 

「いかにも。拙者はとある商家の頼みで参ったのであります。貴様等はあちらを探すであります。拙者はこちらを」

 ボコイナンテが草の中へ入っていく。四人は反対の側へ。

 

 草の間に、金色のビッキが浮いていた。人の膝より小さい。丸い胴が腹の側から膨らんで、水の上に留まっている。額に丸い斑が一つ、短い脚は水に届いていない。

 シューニャが槍の布を解いた。ムネチカが杖を提げて、草を回り込む。音を立てずに、一歩ずつ間を詰めた。ビッキは動かない。

 

「ぐぬ、オシュトルフン、せいぜい拙者の邪魔をせず引っ込んでいろ、であります。ビッキ如き、拙者一人でチョチョイのチョイ!で、あります!」

 ボコイナンテが後ろの草を分けて割り込んできた。ビッキが額をこちらへ向ける。長刀が振り上がるより先に、ビッキは浮き上がった。刃は空を切って、しぶきだけが上がる。ビッキはふわふわと高さを増して、西へ流れていく。ボコイナンテがその下を追っていった。

 

「あ、行っちゃった」

 

 追った。ボコイナンテの背が、ずっと先を行く。湿地の西の端で草が切れて、その先に丘が上がっている。森の口だ。

 口では茶の畝が並んで、摘む人の笠が幾つも動いていた。ビッキはその上を越えて、木の間へ入っていく。ボコイナンテが畝の間を抜け、四人は畝を回り込んで追う。人の声が後ろへ遠のき、木が詰んで、日が細くなった。

 木の間に、倒れた大木が横たわっていた。根が土ごと起きて壁になり、幹は胸の高さで向こうまで渡っている。ビッキはその上を越えて先の窪みへ下りていく。ボコイナンテは根の方を回っていった。幹に手を掛けて越えた。

 

 窪みの底、木の根の間の草の深いところに、ビッキが下りた。ボコイナンテが根を回って窪みへ下り、長刀を構えてその前に立つ。ビッキの後ろは、起きた根の壁だ。

 草が割れた。ビッキの胴に湾曲した角が二本、下から突き立つ。角は顎の左右から出て、根を緑の甲が覆っている。獣はその頭をビッキごと持ち上げて、噛んだ。音がして、ビッキは無くなった。

 

「ガウンジだ。話には聞くが、こんな所に出るような獣じゃねぇ」

 ミカヅチが大剣の柄を握る。

 

「昨夜、オーゼン様の仰っていた獣は」

 ムネチカが言い終える前に、声が来た。

 

「グォオオオオオオオオン!」

 獣は目の前のボコイナンテへ向いて吠えていた。首から背の白いたてがみが立っている。黄色い目だ。声が木の幹を伝って戻ってくる。ボコイナンテが長刀ごと、後ろへ倒れた。

 獣が倒れたボコイナンテへ、一歩出た。前脚が長刀を踏む。

 

 ミカヅチが先に出た。窪みの斜面を駆け下りて、大剣が頭の甲に当たり、跳ね返る。獣がこちらへ向いた。角が来た。ムネチカが杖で受けて半歩、押し戻される。シューニャの槍が横から入って、穂先が甲を滑る。揃って退いた。角の先が仮面と同じ高さを過ぎた。

 

「硬ぇ。オシュトル、もう一度だ」

 

「ああ」

 左右へ分かれた。ミカヅチが右から大剣を頭の上へ振り上げる。こちらは左から低く、脇腹へ入った。獣が首を回す。角が横へ薙いで、二人まとめて払われた。土の上を転がって、木の根で止まる。

 

「お待ちくださいまし、お二人とも。頭に血が上っては、三度目も同じですわ」

 ムネチカが杖を横にして、二人の前に立った。

 

「……すまん、ムネチカ」

 息を吐いた。獣は角を低くして、こちらへ頭を向けている。その後ろの斜面で、ボコイナンテは倒れたままだ。退いてきた斜面の上に、越えてきた倒木が横たわっている。幹は角の先と同じ高さだ。「角で突いて、それから顎だ」

 

「それがどうした」

 

「角を止めれば、顎は来ない」

 獣が前脚で土を掻いた。倒木までは、斜面を少し上る。

 

「あの倒木だ。角が刺されば、抜けない。ムネチカ、受けながら幹まで下がれ。あの男から離す」

 倒木を指した。ムネチカが杖を持ち替える。

 

「シューニャ、呪法で目を塞げ。ミカヅチ、刺さったら同時だ」

 

「同時か。クク、遅れるなよ」

 ミカヅチが右の木の間へ回り、こちらは左へ回った。ムネチカが正面へ出て、杖を横に構える。獣が向く。角が来て、杖が受ける。ムネチカは一歩退いた。獣が付いてくる。窪みの底から、倒木のある斜面へ。

 もう一度、角。杖が受けて、ムネチカがまた一歩、斜面を上がる。獣が付いて上がる。倒れたボコイナンテが、獣の後ろに遠くなった。倒木の幹がムネチカの背に触れた。

 

 シューニャの槍の穂先から、煙が出た。獣の顔の前で膨らんで、目の高さを覆う。ムネチカが幹に沿って横へ抜けた。

 獣が走った。煙の中から、真っ直ぐに。角が幹の高さで水平になる。

 角が幹に入った。二本とも、根元近くまで。獣が首を振る。倒木が揺れて枝の葉が落ちた。角は抜けない。

 煙が薄れて、脇腹が出ている。網目の淡い皮膚だ。

 

「オシュトル」

 シューニャが槍を下ろした。

 

 右からミカヅチの大剣が、左から太刀が、同時に脇腹へ入った。下から、柄まで。

 獣の胴が沈んだ。脚が折れて、腹が土に着く。首は幹の角に吊られたまま、それきり動かなくなった。

 

 

 窪みの底で、ボコイナンテが起き上がった。長刀を拾って、それを杖にして立つ。斜面を上がってきて、幹の前で止まる。

 

「ぐぬぬぬぬ……まさか拙者が獣ごときに後れを取るとは……」

 ボコイナンテが幹に刺さったままの角と獣の脇腹の傷を見比べた。「ぬぬっ。それは、とっくに拙者が弱らせておいた獲物でありますぞ。横取りでありますな」

 

「ハァ……」

 ムネチカが杖の先で土を突いた。

 

「し、失礼な。立派に務めを果たしたのは拙者であります。この事はちゃんと報告させて頂きますからな」

 

 獣から太刀を抜いた。ミカヅチが幹に刺さった角の根元を手で叩いて確かめている。

 

「大体、貴様等が追い立てるから、ビッキが獣に食われてしまったのでありますぞ」

 

 ミカヅチが角の根元に大剣の刃を当てた。

 

「オシュトル、オシュトルと言ったでありますか……拙者の顔に泥を塗ってくれたでありますな!」

 ボコイナンテが長刀を杖にして向きを変え、根を回って来た方へ下りていく。四人で、その背を見送った。まだ何か言っている声が、木の間に遠のいていく。

 

「ガウンジの角だ。武具の材なら上物だぞ。こいつを担いで帰る」

 ミカヅチが大剣を幹の際へ入れて角を断ち、二本を幹から引き出す。角は腕より長く、根の側は二人で持つ太さだ。

 二本を束ねて、ミカヅチと両端を担いだ。肩に重さが来る。

 

 森の口へ出ると、茶の畝はもう人が減っていた。湿地の縁を街道へ下りた。角の先が、ミカヅチの肩の向こうで揺れている。

 

「珍味、食べられなかったね」

 

「俺たちには、こっちの献上品の方が似合っている」

 担いだ角を揺すり上げた。

 

 日が高いところから、森の方へ下り始めている。角の重さが歩くたびに肩の同じところへ落ちてくる。

 

 

# 04 ナァラの皇

 

 

 オシュトルたちは縁側で茶を飲んでいた。祭まではあと一日ある。木刀は庭の隅に立てかけたままだ。縁の真ん中では、ディコトマが胡座をかいて湯呑みを両手で包んでいる。

 

 門の方からンハライが縁を回ってきた。

 

「御館様。門に、ナコク皇パロイ様と名乗られる方がいらしているのですが、お通ししてよろしいでしょうか」

 

「パロイか。所用を思い出した。オメエ等が相手をしな。ンハライ、俺は朝から出てる。そう言っとけ」

 ディコトマが湯呑みを板に置いて立ち、廊の奥へ入っていった。

 ンハライが門へ戻っていく。

 

「所用だと? 朝、何も言っていなかったぞ」

 ミカヅチが廊の奥を見ている。

 

「ねえ、なんで居ないことにするの?」

 門の方で、ンハライの声がした。

 

 門が開いて、ンハライが脇へ寄った。入ってきたのは二人で、先の男が縁側へまっすぐ来る。後ろの男は包みを抱えていて、縁の端にそれを置くと、頭を下げて門の外へ戻っていった。

 先の男が縁の前に立った。髪は明るい茶で、後ろへ撫でつけて肩に垂らしている。顎に短い髭。笑った顔だ。

 

「これはこれは。ナコクのパロイと申しましてな。ディコトマ殿はご不在と伺いましたが、上京の挨拶だけでもと思いまして」

 

「お出迎えもできず、申し訳ありません。師匠は朝から所用で。弟子の、オシュトルです」

 

「いえいえ、お構いなく。オシュトル殿ですな、覚えておきましょう。それで、そちらの姫君(ひめぎみ)は━━」

 

「姫君? わたし、シューニャだよ」

 

「小生はムネチカと申しますわ。こちらはミカヅチ殿ですわ」

 

「ムネチカ殿、ミカヅチ殿ですな。ナコクの魚と貝を少々、上京の土産に持って参りました」

 パロイが縁に腰を下ろした。

 ムネチカが土瓶から注いだ茶をその前に置く。

 

「これはよい茶ですな。用件が済んだということで。皆さん、ほんの少しお時間をいただけますかな?」

 

 四人で縁に並んだ。ミカヅチは柱の前、ムネチカとシューニャは土瓶の脇、こちらはパロイの隣だ。

 

「ハハハ、いやあ、こういった立場におりますと、若い方々と話す機会がなかなかないものでしてな。最近の帝都の話など伺いたいと思いまして。そうそう、帝都と言えば、市では魚と言えばトカラ、とよく聞きますな。トカラはご存じですかな。オムチャッコの平原の南の、海に面した町でしてな、商人たちが自分たちで町を治めておる。ヤマトの内にありながら、ヤマトの治めの下にはない。珍しい町ですな。毎年、テスクァ祭という、それは大きな祭を催しましてな」

 パロイが湯呑みを空けて板に戻した。

 ムネチカが注ぎ足す。

 

「ですが、市に並ぶ魚を獲るのは漁の國ですな。ヤマトの漁と言えばシャッホロ、ソヤンケクル殿の國でして、カッツにマソ、揚げてよし団子にしてよし。ソヤンケクル殿とは古くからの盟友でしてな、親戚でもある。だから言うのではありませんが、ナコクも負けず劣らずの漁の國でしてな。巷では魚と言えばシャッホロですが、帝都の市に出回る海産物はナコクのものも多いのですよ。そうそう、今の季節と言えばウォポヅラですな。刺し身に肝を和えて食せば、ンまい!これが絶品でしてな。ミカヅチ殿は、食べたことはありますかな?」

 

「む、まあ━━」

 

「無いですとそれはいけない。人生の半分は損をしておりますぞ。そうそう、ナコクは一年を通して暖かいのですよ。夏は海の風で凌げる。海と言えば、漁の話ばかりで浜の話をしておりませんでしたな」

 

「木刀にひびが入った。市で替えてくる」

 ミカヅチが縁から降りて、庭の隅の木刀を一本取った。門を出ていく。閉まる音がした。

 

「そうそう、海と言えば、ムネチカ殿は、海はあまりご覧になりませんかな」

 

「あ……はい。このような海━━」

 

「そうそう、海と言えば、ナコクの膳と言えばフォッカでしてな。フォッカはもともとナコクの家庭の料理でして、帝都ではフォカの方が通りがよいですかな。ナナバも毎日のように——」

 

「小生、使いを頼まれていましたの。失礼いたしますわ」

 ムネチカが頭を下げて、庭へ降りた。門の音が二度目だ。

 

「お気をつけて。そうそう、使いと言えば、姫君は魚はお好きですかな。ナコクの魚は——」

 

「わたし、(かわや)

 シューニャが縁から飛び降りて、庭を回っていった。門の音が三度目だ。

 三人の湯呑みが板に残っている。

 

「そうそう、姫君と言えば、私にも倅がおりましてな。ハハハ、いやあ、あれの話を始めると長い。それより、オシュトル殿。近頃の帝都はいかがですかな。祭の支度で、市は賑わっておりますかな」

 

「はい、パロイ様。辻には酒樽が積まれて——」

 

「そうでしょうとも、そうでしょうとも。そうそう、賑わいと言えば、宮廷で伺いましたぞ。先日、西の森でガウンジを討ったのはこの門下だとか。いやはや、お若いのに大したものだ。獣と言えば以前こんな面白いことがありましてな、オシュトル殿。一昔前、西方の山中深くに、それは強い隻眼の男が住んでおり━━」

 話が山へ入って、隻眼の男が出て、まだ山を下りない。注ぎ足した茶がもう冷めている。軒の影が庭から縁の下へ退いて、短くなっていく。相槌が、二度続けて同じ言葉になった。

 

「━━とまあ、嘘か真かこんな顛末(てんまつ)でして」

 

「な、なるほど……それは興味深く……」

 日が真上に来ていた。庭には木刀が一本だけ隅に残っている。三人の湯呑みは、そのままだ。

 

 門が開いて、ディコトマが入ってきた。縁側を覗いて、こちらの隣のパロイを見る。

 

「……まだ居たのか」

 

「おや、ディコトマ殿。お戻りでしたか。せっかくお目にかかれたところですが、この後に用がありましてな。いやはや、すっかり長居をしてしまいました。では、私はこれで。土産は皆さんで」

 

「おう。悪かったな、パロイ殿。所用でよ」

 

 パロイが縁から立って、頭を下げた。門の外に居た男と並んで、通りへ出ていく。

 

 縁の板に湯呑みが並んでいる。膝を崩して、冷めた茶を飲み干した。

 

 

# 05 調弦の弓

 

 

 オシュトルは門の外に立っていた。門は開けたままにしてある。日は軒の高さまで下りて、通りの人影はまばらだ。三人が戻る刻限だった。

 

 通りの向こうに、人の背より高いものが見えた。弓だ。負うた男の丈を、弓の先が越えている。後ろに従者が一人、包みを抱えていた。

 その後ろから三人が来る。ミカヅチの手に新しい木刀が一本ある。ムネチカとシューニャが並んで続いた。

 門の前で、男が足を止めた。三人がこちらの脇に並ぶ。

 

「こちらは、ディコトマ殿の邸かな」

 

「はい。師匠の邸です」

 

 門の内でンハライが身を翻し、庭を奥へ駆けていく。廊からディコトマが出て、庭を横切ってきた。門の内で足を止める。後ろにユゥリとンハライが並んだ。

 

「トキフサ。オメエが都に出てくるとは、珍しいな」

 

「ディコトマ殿。ご息災で、何よりです。祭の前に一度、寄らせていただきました。國の山の物です」

 

 従者が一歩内へ入って、包みをユゥリへ渡し、外へ戻った。ユゥリが両手で受けて、廊のほうへ下がる。

 

 トキフサがムネチカの白い耳を見て、こちらへ向き直った。髪を後ろへ撫でつけて、頭の上で小さく丸く結っている。顎髭に灰が混じる。臙脂(えんじ)の着物に、板を重ねた肩当てがある。

 

「そちらの方は、ムラサメ殿の娘御ではないのかな」

 

「はい。小生、鎮守のムラサメの娘、ムネチカですわ」

 

「四人とも、俺の弟子どもだ」

 

「トキフサ様」

 頭を下げた。三人も並んで下げる。

 

「宮廷に納められたガウンジの角を見ましてな。あれは、いい角でした。納めたのは、お弟子の方々では」

 

「はい」

 

「私の弓も、(ゆはず)はガウンジ。弦はムティカパの髭です。ぜひとも、あの角を賜る武功を立てたいものですな」

 トキフサが背の弓を肩越しに指した。ミカヅチが肩を一度回した。

 

「ムネチカ、あの弓、おっきい」

 シューニャがムネチカの袖を引いた。

 

「これですか。十人張りです。放てば、城壁とて貫きます」

 トキフサが弓を負い直して、門から一歩退く。

 

「明日は祭ですな。ディコトマ殿、またそこで」

 

「応よ。明日はな」

 

 トキフサが門に背を向けた。従者が続いて、弓の先が軒の下を遠ざかっていく。

 

 門先に、四人とディコトマが残った。通りの先のぼんぼりに、灯が入った。次の軒にも入る。

 




話13『皇将の参勤』 執筆の時系列

作業の記録。五場面=献上の行列/溟海と楽土/金のビッキ/ナァラの皇/調弦の弓。題は『皇将の参勤』——祭に先立って、諸國の皇と将が帝都へ上ってくる三日間。**各場面が単体で閉じるオムニバスで、客が門から来て帰っていく。**その合間に、四人は師の思い付きの献上品を獲りに出て、出るはずのない獣を討つ。

Ⅰ 話の層——八柱将の話と、子供世代の話に割る

【没】娘自慢と娘の登場を、同じ話に置かない
**八柱将と娘の話は分ける。**父たちが娘を語る場と、娘が別の誰かと会う場を同じ話に重ねると、紹介が二度になる。⇒ 話13=八柱将の話/話14=子供世代に割り、娘たちは名だけをここに置いた。パシュパクル一家・キウル・ゲンホウの登場も一話遅らせた。

芯=諸國の皇が、祭に先立って献上品と合わせて登場する
**八柱将組は祭に先立ち、献上品と合わせて登場させる。**ナァラの皇(ナコクのパロイ)を出すこと、師の献上品を獲ってくるお使いを挟むこと(品は担当が候補を出す)、ボコイナンテとの因縁をここで作ること——四つが同じ回で決まり、五場面の骨になった。

邸へ持ち込むのは献上品ではなく、上京の土産
献上の荷は宮廷へ入る。邸へ提げてくるのは自國の特産——原作④でも「私の持ってきたリンタン」は自國の酒だった。この線引きで、②の酒と④の魚が「土産」に揃った。

Ⅱ 順を入れ替える

【没】行列を見た日の夜に、その二人が訪ねてくる
当初は①行列→②金のビッキ→③溟海と楽土の順だった。**二人の来訪は行列を見た日の夜に置く。**⇒ ①行列→②溟海と楽土(その日の夜)→③金のビッキ(翌日)→④→⑤へ。ファイル名・番号・時を全数入れ替えた。⇒ ②で置いた獣の噂が、翌日の③で実物として出る運びになった。

Ⅲ ①献上の行列——名を告げるのは人垣の声だけ

仮面への群衆の反応は置かない
カードの確認点への裁定。大路で二人が仮面を着けていても、群衆は騒がない。⇒ 四人は見物の側に留まり、場面は八柱将が上ってきたことを目にするだけで閉じる。荷の中身(甕・藁と葉で包んだ荷・金銀の箱・布を巻いた槍の束)は固有名を付けない。

二人の名は、四人ではなく人垣が告げる
「南の湾の國、シャッホロの(オゥルォ)だ。溟海のソヤンケクル様よ」「クジュウリの皇もだ。西の氷の國を切り開いた、楽土のオーゼン様」。四人は誰も名を呼ばない。ムネチカが「八柱将ですわね」と継ぐだけで、二人が何者かは②へ持ち越す。

Ⅳ ②溟海と楽土——二つの顔を一度に見せる

来訪の目的は、挨拶と、仮面を受けた二人を見に来ること
**来訪の目的は、挨拶と、仮面を受け取った二人を見に来ること。**師の「今回も来やがったか。律儀な奴らだ」で、上京のたびに来る間柄だと判る。二人は〈國の威信〉と〈娘の話をする親〉の二つの顔を一晩で見せて帰る。

獣の噂を、酒の席に忍ばせる
**付近で大きな獣が目撃され、被害が出ているという噂を忍ばせる。**オーゼンが道中で聞いた話として置く。⇒ 翌日のガウンジが帝都近郊に出た理由が、翌日より前に読者へ渡る。

【再】ユゥリを娘として匂わせる
ユゥリの小言「……御館様? 飲みすぎのようですね」→師「年頃の娘ってのは、口に容赦がねぇ」→ソヤンケクル「キミとこの苦悩を分かち合う日が来ようとはね」。父の苦悩を共にする言い方で、明かさずに繋いだ。ミカヅチの相槌は過去形(「そうだったな」)——前の話の件は吹っ切れている、という表れとして。

Ⅴ ③金のビッキ——十七の裁定で組み直した一場面

【没】御触書ではなく、師の思い付きで始める
担当は公の触れから入る案を出したが、**ディコトマの思い付きで、献上品として金色のビッキを用意させる。**⇒ 発端が師の気まぐれになり、四人が湿地へ出る理由が軽くなった。

討伐の型=角が幹に食い込んで抜けない
角が倒木に食い込んで抜けなくなる形にする。原作④の獣は角で突き、弱ったところを顎で砕く。⇒ 本文はその手順をビッキが食われる場で読者に見せ、後で「角で突いて、それから顎だ」「角を止めれば、顎は来ない」と回収する形になった。

【再】ムネチカは冷静にさせる役に徹し、策は言わない
担当はムネチカに策を発案させたが、**ムネチカは熱くなる二人を抑える役であり、策は言わせない。**⇒ 「お待ちくださいまし、お二人とも。頭に血が上っては、三度目も同じですわ」だけを残し、策はオシュトルが継ぐ。読者二体がともに、この一行を今話で最も効いた場所に挙げた。

呪法で煙幕を出せる(本作の設定)
火は避けられるので誘導には使えない。⇒ 煙で目の高さを覆う形にした。獣は煙の中から真っ直ぐ走り、角が幹へ入る。ボコイナンテに従者は付けず一人にし、目覚めは角を取る前に置いた。

【再】情景の移り変わりが曖昧、と二度戻る
**情景の移り変わりが曖昧で判らない。**⇒ 出来事を十二に数え直して地の文へ落とした。同じ回に、**ビッキを金色、金色と色で表現するのもやめる。**次の稿へは、角の描写はいらない。ガウンジを仕留めたことがよりはっきり判るように。——仕留めは結果だけで書く。締めは「珍味、食べられなかったね」「俺たちには、こっちの献上品の方が似合っている」の趣旨で置いた。

Ⅵ ④ナァラの皇——長話に一人が耐える

師は名を聞いて居留守を使う
ディコトマはパロイの名を聞いて居留守を使い、弟子に相手を投げる。型は原作④で、辞した者が後を人に任せた流れ。⇒ 弟子四人が縁側に残され、パロイの話が始まる。後の稿で四人が師の行動に疑問を持つという指摘が加わり、ミカヅチとシューニャが声に出す(答えは返らない)。

【再】漁の話を一つに組み直し、魚の名を出す
**漁の話が飛んで後に来ているので組み直す。うたわれるものに登場する魚を調べ、適当なものを紹介させる。**⇒ ウォポヅラ・カッツ・マソを原作の辞典と料理から引き、ヤマトの漁國=シャッホロが有名だがナコクも負けず劣らず、パロイとソヤンケクルは古くからの盟友で親戚という本作の設定を添えた。

【再】隻眼の男へ、討伐の噂から繋ぐ
「樽と言えば」では繋がっていない。先日のガウンジ討伐を引き合いに出し、一昔前に西方にとても強い隻眼の男がいた、と繋げる。⇒ パロイは宮廷で討伐の噂を聞いている側になり、長話の一つとして西方の山中の隻眼の男が出る。名は出さない。

辞去は〈せっかく会えたが用がある〉の趣旨で
「用件はこれで済みましたな」を二度言わせない、辞去はせっかくお目にかかれたところだが、この後に用があるという趣旨で——という指示で、パロイは悪気のないまま半日を奪って帰る形になった。

Ⅶ ⑤調弦の弓——弓に謙遜させない

弓の材が、前の場面の角と結ぶ
トキフサの強弓の材をガウンジの角とムティカパの髭と定め、宮廷に納められた角を見た、という入りで③と結んだ。「あの角を賜る武功を立てたいものですな」——角が武功の褒美になりうることは、彼の願望として置く。誰に渡るかは温存。

【没】弓に謙遜はさせない。武功を誇る
担当は謙遜で流す案(と、勧めの形、所作だけの三案)を出して推奨まで添えたが、三つとも却下。**弓に謙遜はさせない。武功を誇らせる。十人張りの弓で放たれる矢は城壁も貫通する、といった形で。**⇒ 「これですか。十人張りです。放てば、城壁とて貫きます」。誇るのは弓の威力であって、立てた武勲ではない——原作②の彼は「他の将に比べ目立った武勲はない」人物で、だからこそ「あの角を賜る武功を立てたい」と一続きになる。

【再】画面を見て、二次資料の記述を三つ直す
本文の稿へ、私が立ち絵と戦闘の絵を添えて四件を指摘した——両方が立っていて表現が貧相/ンハライが働きすぎなのでユゥリも出す/髷というより団子/角ではなく弓か弭とする(弓の部位に角は無い)。⇒ 髪は団子に、角は(ゆはず)に。担当は画像で上下の弭が外へ反り、節が刻まれて先が尖る=角そのものであることを確かめ、二次資料のトキフサの項を是正した。

Ⅷ 校了——題と、読者二体

【再】題は『皇将の参勤』、場面⑤は『調弦の弓』
担当の候補は「諸國の客」(次点「諸國の皇」)だったが、いずれも採らず、**話の題は「皇将の参勤」、場面⑤の題は「調弦の弓」と決まった。**⇒ 仮題「諸國が上ってくる」は既刊十二話の「○○の○○」の型に合っていなかった。担当が原作の全文を検索したところ「参勤」「皇将」はどちらも原作に無い語で、本作の語である(同型の先例=話06「母兄の参観」)。

【再】読者二体——採用は四件
原作に厚い条件と創作に厚い条件で一体ずつ。両条件が一致したのは五件で、採ったのは金色のビッキ(登場時に色を書く)とオシュトルの聞き疲れ(相槌が二度続けて同じ言葉になる/膝を崩して冷めた茶を飲む)。原作に厚い側だけが挙げた二件——来客を迎える段の動作主と獣の死の姿勢——も採った。採用四件すべてを、原作に厚い側が挙げている。

【没】前の話の糸には触れない
両体がそろって「前の話で立った三つの糸(父が祭に来る/渡りを許さない/仮面の運命(さだめ))に一度も触れない」を最上位に挙げたが、**箸休めなので触れないままで行く。**⇒ シューニャに父の一行は足さない。

銃になるものの線引き
担当が「獣の噂が台帳に登録されていない=設計の穴かもしれない」と諮ったのへ、**話の中で回収されるものは銃にならない。話を超えて回収するものが銃である。**⇒ ②の噂と③の遭遇は同じ話で閉じるので、初めから台帳の対象ではなかった。この線引きを台帳の書式へ書き足した。

【再】校了
段4の六工程——記憶資料(検査一式=八項目すべて通過)/読者二体/台帳同期(開示・在席・銃・知識スコープ・群像)/題/この記録/帯の再測。

【再】通し読み——修正点なし
校了の後、私が五篇を通して読んだ。**通し読みの結果は修正点なし。**⇒ **本文は確定稿のまま話13を閉じた。**校了で作った記憶資料の段・台帳・題・この記録・帯の再測は、どれも作り直さずに済んだ——担当は「通し読みで本文が動けば全部作り直しになる」として、校了より通し読みを先に置く案を残していたが、順は校了→通し読みで通った。

開いたまま次へ渡るもの
ボコイナンテの遺恨の宛先(依頼主も、報告先の名も伏せたまま)/ユゥリが師の娘であることの明言/娘たち(アトゥイ・ルルティエ・シス)の顔/角が誰に渡るか/隻眼の男の名と顛末/パロイの倅の名/読者二体の条件をこのまま続けるか(今回は原作に厚い側だけで採用四件すべてが出た)/規格側の持ち越し——段落の二行目の適用単位、部位主語の計数対象、分量の「行」の数え方が場面カードと台本で食い違うこと。
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