転生ニトロ・兄弟三弟子 作:バナナアイス
グルメ界の過酷な環境を抜け、ようやく視界にアカシアの自宅が見えてきたその時だった。
――ヒュンッ!!!
猛烈な速度でこちらへと向かってくる、一つの人影があった。俺は一瞬、敵の急襲かと思い、構えを取ろうと身体を硬直させる。しかし、アカシアは優しく手を上げてそれを制した。
「大丈夫だ、敵じゃない。彼が待っていたんだ」
土煙を上げて俺たちの目の前に着地したのは、原作に登場するあの渋い「イケオジ」の姿とはまるで違う、精悍で若々しい一人の青年だった。
(若い一龍……!)
後にIGOの会長として人間界のトップに君臨し、最強の男と呼ばれることになる「一番弟子」の若かりし姿。一龍は遠征から無事に戻ってきたアカシアの姿を認めると、破顔して駆け寄ってきた。
「お帰りなさい、アカシア様! お怪我はありませんか?」
「ああ、ただいま一龍。留守中、家を守ってくれてありがとう」
アカシアが穏やかに労うと、一龍の視線はアカシアの後ろへと移動した。未だにアカシアに背負われて爆睡している鼻垂れ坊主の二狼、そして、その隣に佇む巨大な青い鳥人を交互に見つめ、一龍は不思議そうに首を傾げた。
「ところでアカシア様。……その背中の子供と、後ろにいる青い鳥人間は一体何ですか? 新しい食材か何かで?」
「食材じゃないよ」
アカシアは苦笑しながら、俺と二狼を交互に指差した。
「新しい家族だ。一龍、今日からこの二人がお前の弟達になる。お前はお兄ちゃんなんだから、意地悪するんじゃないぞ」
「……えっ!? 弟っ!?」
急に弟(しかも片方はブルーニトロ)を紹介され、一龍は一瞬だけ唖然と口を開けてフリーズした。だが、そこは後に世界を包み込む器となる一龍だ。すぐに状況を飲み込むと、爽やかな笑顔を浮かべて俺の目の前へと一歩踏み出し、ガシッと右手を差し出してきた。
「なるほど、アカシア様がそう言うならそういうことだ! 俺はアカシア様の一番弟子、一龍! 今日からお前たちの兄貴だ、よろしくな!」
裏表のない、真っ直ぐで力強い歓迎。差し出された手を前に、俺の心がじんわりと温かくなる…。俺はブルーニトロの大きな鉤爪を持つ右手を、一龍の手にそっと重ねて力強く握り返した。
「……あ、ああ。よろしく、兄さん」
「おお、ちゃんと喋れるんだな! なあ、お前の名前は何て言うんだ?」
気さくに名前を尋ねられ、俺はハッとして言葉に詰まってしまった。
名前か…
前世の大工としての名前は当然ある。だけど、俺はあの世界で一度死んだ身だ。完全に別の生き物として生まれ変わり、このグルメ界で新しい人生を歩み始めた今、前世の名前をそのまま使うというのは……どうにもしっくりこないし、過去の未練を引きずるような気がして、言い淀んでしまう。
「あ、いや……俺の名前、は……」
口ごもる俺の様子を見て、一龍が「ん? どうしたんだ?」と不思議そうな顔をする。すると、二人の様子を後ろから見守っていたアカシアが、ポンと俺の肩を優しく叩いた。
「ふふ、まあ紹介は後でもいいさ。ちょうど家も見えてきたことだしね。……よし、家に着いたら、みんなで2人の新しい名前を決めようじゃないか」
アカシアのその提案に、俺はホッと胸を撫で下ろした。
◆
アカシアの家の扉を開けると、中からふわりと、出汁と香草が混ざり合った何とも言えずに食欲をそそる、優しい香りが漂ってきた。
「お帰りなさい、アカシア。一龍も」
声のする方を見れば、そこに一人の女性が佇んでいた。その声はどこまでも透き通り、聞いているだけで張り詰めていた心がほどけていくような不思議な温もりを帯びている。
(……フローゼさんだ)
アカシアの最愛のパートナーであり、後に世界中から『神の料理人』としてその名を永遠に刻まれることになる、伝説の料理人!フローゼさんはまず、一龍が背負っている(移動の途中で一龍にバトンタッチした)すやすやと眠る二狼に目を向け、それから隣に立つ俺をじっと見つめた。
彼女の美しい眉が、少しだけ困ったように下げられる。
「アカシア? 私は事前に新しく増える家族は『一人』だけだと聞いていたのだけれど……?」
「あ、いや……」
世界の美食神ともあろう男が、フローゼさんの視線を前に少しバツの悪そうな顔をして頭を掻いた。
「グルメ界のエリア2で、どうしても放っておけない事情が変わるような出会いがあってね……。すまない、フローゼ」
(……あ、やっぱり俺、歓迎されてないのかな)
神の料理人と美食神の、ちょっとした夫婦喧嘩のような空気に挟まれ、俺は青い身体をごく小さく縮めて気落ちしてしまった。姿もブルーニトロだし、いきなりこんな大所帯に押しかけたら迷惑に決まっている。
すると、俺の落ち込んだ気配にいち早く気づいたフローゼさんが、大慌てで両手を振った。
「ああっ、違うのよ! ごめんなさい、あなたを歓迎していないわけじゃ絶対にないの!」
「そうだ弟よ!フローゼ様はそのような御方ではないぞ!」
一龍も横から身を乗り出す。フローゼさんがアカシアを少しだけ責めるような口調になった理由――それは、あまりにも現実的で、そしてあまりにも『この家族らしい』理由だった。
「私が困ってしまったのはね、今日の夕飯の食材を、アカシアと一龍と私、そして新しく来る予定だった小さな男の子の分の、ちょうど『四人分』しか用意していなかったからなのよ。あなたみたいな立派な体躯をした子が食べる分の食材が、家に足りなくて……」
「なんだ、そういうことなら話は早い! アカシア様、フローゼ様、俺が今からもう一人分の食材をソッコーで狩りに行ってきます!」
一龍は快活に笑うと、俺の肩をポンと叩き、そのまま風のような速さで家を飛び出していった。相変わらず、とんでもなく気が利いて頼りになる最高の兄貴だ。
一龍が去った後、フローゼさんは俺の目の前まで歩み寄ると、しゃがみ込むようにして俺と視線を合わせた。その瞳には、偏見や恐怖など一ミリも存在しなかった。
「一龍を驚かせるくらい繊細なあなたの心を、少し傷つけてしまったわね。本当にごめんなさい。……改めて、自己紹介をさせてね」
フローゼさんは聖母のような、世界を包み込むような最高の笑顔を俺に向けた。
「私はアカシアのパートナーのフローゼ。よろしくね。――私たちの『うちの子』として、心から歓迎するわ」
「……っ……」
その言葉と笑顔に、またしても視界がじんわりと熱くなる。冷酷なブルーニトロの肉体に宿った、前世で餓死した大工の孤独な魂。それが、グルメ界の狼王ギネスに認められ、美食神アカシアに救われ、今、神の料理人フローゼによって本当の「家族」として迎え入れられた。俺は言葉にならない感謝を胸に、何度も、何度も、ブルーニトロの大きな頭を縦に振るのだった。
一龍が風のように食材ハントへ飛び出した後、アカシアはまだ眠っている二狼を寝かせ、俺とフローゼさんに席に着くよう優しく促した。木製の頑丈な椅子に腰掛けると、アカシアは腕を組み、真剣な表情で思案を始めた。
「さて、我が家へ迎えるにあたって、二人の名前を決めなくてはね」
アカシアは俺たちの顔を見つめ、自身の名前に対する『理念』を語り出す。
「私が最初に家族とし、一番弟子にした子には、いずれ天に昇る天駆ける龍のようになってほしいという願いを込めて『一龍』と名付けた。ならば、今回迎える二番弟子――二人同時だから、二人とも『二』の付く名前にしようと思うんだ」
アカシアはまず、大人しく眠っている鼻垂れ坊主へと視線を向けた。
「この子はバトルウルフに育てられた。ならば、その出自への敬意と誇りを込めて、名前は『二狼』にしよう。――だが」
そこでアカシアの表情が、少しだけ厳しく引き締まる。
「先ほど戦って確信したが、この子の持つ力はあまりにも強すぎる。今の段階でこの破壊の力を解放し続ければ、本人の精神が持たない。だから、私が施したノッキングでその膨大な力と本来の記憶の一部を一度『封印』しておく。
名前も、本気で戦うその時が来るまでは、狼の字を変えて『二郎』ということにしておこう。本来の『二狼』を名乗るのは、彼が真の力を制御できるようになった時だ」
(なるほど……。原作のあのノッキングでの封印を二郎がすぐに解かなかったのは記憶を封印されてたからなのか……!)
俺は原作知識の伏線回収に心の中で深く感動し、フローゼさんは「そのほうがいいわね」と深く同意して頷いた。
「よし、あの子は二郎だ。……となると、次に君の名前だが……」
アカシアは再び腕を組み、うーむと唸りながら俺の顔を見つめた。ブルーニトロの巨体、大工の魂を持つ男。どんな大層な名前が来るのだろうかと、俺は少しだけ緊張して身を硬くする。なかなか名案が浮かばないアカシアを見て、横で静かにお茶を淹れていたフローゼさんが、ふふっと微笑みながら口を開いた。
「ねえ、アカシア。この子はとっても立派で可愛い、鳥みたいな頭をしているでしょう?」
「うん? ああ、確かにそうだね」
「だったら……『二鳥』なんてどうかしら?」
(――ニ、ニトリ……!?)
フローゼのあまりにも直球で、しかしどこか聞き覚えのある(前世の某家具チェーン店のような)お茶目な提案に、俺は心の中でずっこけそうになった。
だが、アカシアの反応は違った。
「二鳥……! 『二』の文字が入り、その容姿を示す『鳥』の字! おまけに響きもとてもスマートだ! フローゼ、それは最高の名前だよ!!」
アカシアはポンと膝を叩き、これ以上ないほど激しく大絶賛した。
「どうだい、気に入ってくれたかな? 今日から君は、一龍の弟であり、二郎の兄となる、我が家の二番弟子……『二鳥』だ」
アカシアとフローゼさんの二人が、どこまでも温かい眼差しで俺にその名前を授けてくれる。前世で死に、グルメ界で彷徨っていた名無しのブルーニトロ。それが今、この伝説の家族の一員として、新しい命を吹き込まれたのだ。
「……ニトリ」
俺は自分の新しい名前を、噛み締めるように、そっと声に出して復唱した。
「……二鳥。良い名前ですね!俺……今日から『二鳥』として、この家のために一生懸命働きます!」
前世の大工としての職人気質、そして新しい家族への感謝を胸に、俺は『二鳥』としての第一歩を力強く踏み出したのだった。
「ただいま戻りました! 良い肉が手に入りましたよ!」
ちょうど名前が決まったその瞬間、抜群のタイミングで扉が勢いよく開き、一龍が満面の笑みで帰ってきた。その両腕には、人間界でハントしてきたであろう新鮮で立派な食材が抱えられている。そんな一番弟子を、アカシアは穏やかな笑顔で迎えた。
「お帰り、一龍。ちょうど良かった。今、二人の名前が決まったところだよ」
「おお、本当ですか! なんて名前になったんです?」
一龍が興味津々で身を乗り出すと、アカシアはまだ眠っている二郎と、俺を順番に指差した。
「あの子はこれからは力をノッキングで抑え、名前の字を変えて『二郎』、そしてこの子は『二鳥』だ」
「二郎に、二鳥……。ははっ、二鳥とは随分と可愛らしい名前を付けられましたね」
一龍は俺のブルーニトロの厳つい頭を見つめながら、ニヤニヤと楽しそうに笑った。
「さては、フローゼ様が命名しましたな?」
「あら、分かっちゃった? とっても可愛いでしょ!」
フローゼさんが「どう、名案でしょ?」と言わんばかりに胸を張って誇らしそうに微笑む。一龍もそれに乗っかるように、大きく何度も頷いた。
「ええ! 実に可愛らしいです。顔はちょっと怖いのに、名前がニトリなんて、そのギャップが最高に可愛いですよ弟よ!」
(う、うわぁ……。前世じゃ汗水垂らして働くガチガチの現場大工だった俺が、まさかこの世界で『可愛い可愛い』と連呼される日が来るなんて……)
男として、そして職人としてのプライドがほんの少しだけ擽ったく、恥ずかしくなって俺が青い顔を赤くして俯いていると、見かねたアカシアが苦笑しながら助け舟を出してくれた。
「一龍もフローゼも、その辺にしておきなさい。二鳥が真っ赤になって困っているじゃないか」
アカシアはそう言って俺たちを優しく制すと、そっと二郎を抱き上げた。
「フローゼ、私はこれから奥の部屋で二郎のノッキングをしっかりと固定してくる。後のことは頼むぞ」
「ええ、気をつけてね、アカシア」
アカシアが二郎を連れて隣室へと消えていくのを見送った後、フローゼさんは一龍が持って帰ってきた新鮮な食材を受け取った。そして、キッチンへ向かおうとしてから、ふと振り返って俺に優しく微笑みかけた。
「さて、今日の夕飯は何にしようかしら。二鳥、何か食べたいリクエストはある? 食べられないものじゃなければ、何でも作ってあげるわよ」
神の料理人からの、贅沢すぎる逆指名!俺は一瞬だけ躊躇したが、前世からの悲願、そして旅の途中でアカシアから貰ったあの一にぎりの温かさを思い出し、少し恥ずかしそうに、しかし切実な声を絞り出した。
「あの……お米が……白いご飯が、たくさん食べたいです……!」
「お米ね。ええ、もちろんいいわよ! 炊き立てを山盛り用意するから楽しみに待っていてね」
フローゼさんは俺の強い想いのこもったリクエストを快く了承し、嬉しそうに頷いた。そして、キッチンの奥へ行く前に一龍へと声をかける。
「一龍、二郎はまだ寝ているけれど、二鳥と二郎のお部屋を案内してあげて。荷物を置く場所も必要でしょうからね」
「分かりました! よし、行くぞ二鳥! 俺たちの部屋を見せてやる!」
一龍に元気よく肩を叩かれ、俺は「お米、いっぱい食べられるんだ……」という幸福感に包まれながら、これから二郎と共に過ごすことになる新しい自分の部屋へと案内されるのだった。
◆
「ここが、今日からお前と二郎、そして俺の部屋だ!」
一龍に案内されたのは、木の温もりがあるシンプルな和室だった。部屋の床には、すでに綺麗に並べられた布団が敷かれている。一龍は「ここで三人、川の字になって寝るんだ。よろしくな!」と嬉しそうに胸を張った。
だが、俺はその部屋の広さと敷かれた布団を見つめ、大工としての計算(レイアウト)を爆速で始めた。
(うーん……一龍と二郎、人間の子供二人が暮らすならまだしも、現段階ですでに一龍よりも一回り以上体格の大きい俺が横になるには、明らかにちょっと狭いな……)
それに、と俺は未来の展開を思い起こす。二郎はこれから野生の英才教育とグルメ細胞の活性化でどんどん大きくなる。そして何より、そう遠くない未来には、もう一人の弟――あの『三虎』もこの家に加わるはずだ。
それを考えると、この部屋のキャパシティは完全に限界を迎えている。職人の血がウズウズと騒ぎ出した。俺は一龍に向き直ると、真剣な顔で提案を持ちかけた。
「……兄さん。明日、この部屋……いや、いっそのこと、この家を丸ごと『改築』しようと思うんだ。俺はモノ作りには自信があってさ。もし良ければ、一龍兄さんも手伝ってくれないか?」
「えっ、家を丸ごと改築か!?」
一龍は一瞬だけ驚いて考え込んだが、すぐに持ち前の快活な笑顔を見せた。
「なるほど、お前はモノ作りの職人なのか! アカシア様のお許しが出たら、俺は全然構わないぞ! 今日の食事の時にでも、アカシア様に直接聞いてみるといい。……ちなみに、俺は大賛成だ! 賑やかで頑丈な家になるのは楽しそうだからな!」
「ありがとう、兄さん。そうさせてもらうよ」
頼もしい兄の言葉に、俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「それじゃあ、設計図の参考にしたいから、他の部屋も色々と見せてほしいんだ」
「おう、任せろ! 案内してやるよ」
一龍の後ろについて、家の中の構造や柱の配置をチェックしながら歩く。まさに大工の現場下見だ。一龍は廊下を歩きながら、楽しそうに俺を振り返った。
「なあ二鳥、お前がもし家を建てるなら、何か『こんな部屋が欲しい』っていう希望はあるか?」
「俺の希望、か……?」
急にそんなことを聞かれ、俺は前世で激しい肉体労働に明け暮れ、四畳半のボロアパートで一人寂しく死んでいった孤独な独身大工の記憶を思い出してしまった。ブルーニトロの厳つい嘴を少しもぞもぞと動かしながら、俺は恥ずかしそうに頬を染めた。
「……いつか、俺にも可愛い恋人ができたらさ。二人きりで誰にも邪魔されずに、こう……いちゃつけるような部屋が、一つくらいあったら嬉しいなぁ、なんて……」
「ガハハハハ! 恋人か! お前、鳥人間なのにそんなこと考えてるのか! 面白いなぁ!」
一龍は腹を抱えて大爆笑し、俺たちの間に年相応の平和で温かい笑顔が咲いた。まあ……心の中で俺は、こっそりと別の未来を確信していたけれど……
(……まあ、多分その俺の『恋人といちゃつく部屋』は、数十年後に若き日の二郎と、あの料理人の節乃ちゃんが盛大に使うことになるんだろうなぁ……)
大人の泥酔二郎と節乃のイチャイチャぶりを原作知識で知っている俺は、生温かい笑みを浮かべつつも、それは口に出さずに胸の奥にそっと仕舞い込んでおいた。その時だった。
「一龍、二鳥、アカシア! ご飯ができたわよー、リビングに集まって!」
廊下の向こうから、フローゼさんのどこまでも透き通るような優しい呼び声が響き渡った。
(……えっ!? もうできたの!?)
俺は心の中で激しく驚愕した。一龍が食材を担いで帰ってきて、アカシア様が二郎を奥の部屋へ連れていき、俺が一龍に部屋を案内されてから、ほんの数十分しか経っていない。あんな規格外の食材たちを、この短時間で完全に調理し終えたというのか。
(流石は、世界最高峰の『神の料理人』……!)
前世の職人として、その異次元の手際の良さに内心で脱帽せざるを得なかった。驚きと共に、俺の胃袋がグゥと大きく鳴る。アカシア様が旅の道中でくれたおにぎりであれほど感動したのだ。今度はフローゼさんが本気で腕を振るい、俺のリクエスト通り「お米をたくさん」用意してくれた夕食…!
きっと、前世の俺では想像もつかないほど、涙が出るほど美味しい料理に違いない。
「よし、行こうぜ二鳥! フローゼ様の飯は世界一なんだからな!」
「ああ、行こう、兄さん!」
俺はまだ見ぬ伝説の食卓に胸を激しく躍らせながら、一龍と共にリビングへと急ぐのだった。
◆
リビングへ足を踏み入れた瞬間、視界に飛び込んできた光景に、俺の魂は激しく震えた。
(な、なんだこれ……!?)
食卓の中心で、山盛りにされた炊き立ての白米が、まるで『星米』のように一粒一粒、眩いほどの輝きを放っている。それだけじゃない!周囲を彩る肉や魚、そして新鮮な野菜たちに至るまでが、あの『ジュエルミート』の輝きを放っているかのような強烈な存在感を放ち、リビング全体を黄金色の光で満たしていた。
「お待たせ、二鳥。さあ、冷めないうちに座って」
奥の部屋から、ノッキングの固定を終えたアカシア様が戻ってきた。その傍らには、一部の記憶と凶暴性を封印され、すっかり大人しく、どこかあどけなさの残る男の子になった二郎もちょこんと付いてきている。
全員がそれぞれの席につく。俺たちは一斉に手を合わせ、「いただきます」と深く一礼した。お米を食べたい一心で、俺はブルーニトロの特異な肉体……縦にパカンと大きく割れるあの独特の口を開いた。それを見た一龍が「うおっ!?」と一瞬だけ目を丸くして驚いたが、俺はそんなことを気にする余裕すらなく、炊きたてホカホカの白米を箸で豪快に口へと放り込んだ。
(あ、熱っっっ……!!)
尋常ではない熱さに一瞬、口の中を火傷したかと思った。しかし、次の瞬間に脳を突き抜けたのは、そんな痛みを完全に置き去りにするほどの、圧倒的で濃密な「お米の旨味」だった。噛み締めるたびに瑞々しい甘みが溢れ出し、グルメ界からの疲れを綺麗に洗い流されていく。
「二郎、箸はそう持つんじゃない。こうだ。ほら、食事は逃げないから、二人ともゆっくり食べなさい」
アカシアが隣で二郎に優しく箸の使い方を教えながら、俺たちの暴食ぶりに苦笑して諭してくれる。二郎も大人しく「あーい」と返事をしながら、お米を口に運んでいた。
(ふぅ……落ち着け俺。次は……おかずだ)
じっくりと皿を見つめ、職人の目で次のターゲットを定める。やはりお米の最高のパートナーといえば「肉」だろう。俺は綺麗に大皿に盛られた薄切りの肉へと箸を伸ばした。
「おお二鳥、そこに目をつけたか!」
一龍が嬉しそうに身を乗り出してくる。
「それは俺がさっき狩ってきた『蟹豚』の肉だ! 良い締まり具合で、絶対に白米に合うと思ってな。美味いぞ~!」
(蟹豚……!)
期待に胸を膨らませながら、俺はその薄切り肉で、ホカホカの白米をくるむように挟んで口へと運んだ。咀嚼した瞬間、俺の脳内に衝撃が走る。食感は豚肉でありながら、その身の解け方はまるで極上のカニの繊維のよう。そして何より、驚くほどお米の甘みと調和する。細かく入ったサシの脂はほんのりとした品の良い甘みを帯び、肉本来のコクと合わさって、口の中で暴力的とも言える究極の旨味の相乗効果を生み出していた。
(美味すぎる……! 箸が止まらねえ!!)
「ふふ、二鳥、お肉とお米だけじゃなくて、お野菜もちゃんとバランスよく食べるのよ?」
見惚れるように食べている俺に、フローゼが母親のような優しい笑顔で野菜炒めの皿を差し出してくれた。そこには、大根のような瑞々しい味を持ったブダイ『ブダイコン』、鬼のような形相をした強烈な香りのニンニク『鬼オン』、そして妙に生意気な人間の顔の形をしたヤングコーン『ギャングコーン』といった、人間界ならではの個性的な食材たちが絶妙な火加減で炒め合わされていた。
箸で掴んで口に入れると、鬼オンのガツンとしたパンチのある風味と、ブダイコンのさっぱりとした水分、ギャングコーンの小気味良い歯応えが完璧な黄金比率で弾けた。これまた、信じられないほどにお米を進ませる。
気がつけば、あれほど山盛りだった俺のお茶碗のお米は、一粒たりとも残らず一瞬で消え去っていた。ブルーニトロの胃袋はまだまだ余裕を訴えている。俺は少し、男として恥ずかしげに頬を染めながら、お茶碗を両手で持ってフローゼ様の方へと差し出した。
「あの……フローゼ様。お、おかわりを……いただけますか……?」
「ええ、もちろん! いっぱい食べなさいね」
フローゼ様は嬉しそうに微笑むと、俺のお茶碗を受け取り、再び『星米』のように輝く白米を、これでもかとてんこ盛りに注いでくれるのだった。温かい家族の食卓の光景に、俺の胸はどこまでも満たされていった。
ものづくりの得意なエンジニアということで最初に思いついたのが東方の河城にとり
次点で本文にも出てきた某家具チェーン店のを連想し、『二鳥』としました。
案の一つとしては一龍に命名されて『チチ』『ジジ』『カカ』に並んで『ガガ』(餓牙)なんてのも考えてましたね。