「よし、作業に取り掛かるぞ……と、その前に。フローゼ様の料理が終わらねえと調理場の改築には着手できないな」
大工として現場の段取りは絶対だ。調理の邪魔をするわけにはいかない。俺はフローゼ様の作業が終わるまでの時間を利用して、一龍兄貴が持ってきてくれた山のような資材の山をじっくりと見分することにした。
「まずは木材の性質、材質の確認だな……。お、この木は前世のヒノキっぽいな。独特のいい香りだし、耐腐朽性がかなり期待できそうだ。土台や構造材に回そう。
……こっちのは密度の高いハードウッドだな。耐水性が抜群に良さそうだし、今度風呂場の壁を直す時に使おう。ほかの一般的な木材は、あとで窒素加熱処理を施して菌が住み着かないように加工しねえとなぁ。あー、やることが沢山だ!」
充実感と忙しさに頭を悩ませながら別の材木に触れた瞬間、手のひらに独特のぬめり気がまとわりついた。
「ん? これ……妙にヌルヌル……。一龍兄さん、これ『ヤル気マンマングローブ』の木だろ!」
「カカカ、大正解だ!」
一龍はまたしても悪い顔でニヤニヤしながら、俺の横顔を突っついてくる。
「お前がいつか恋人とイチャイチャする部屋を作ったとき、ローション代わりに使うことがあるかもしれないと思ってな! 気が利くだろ?」
「だから俺の純粋な男のロマンを茶化すのはやめてくれって!!」
少し拗ねてそっぽを向きながら、俺は次の資材である石材の確認へと移った。
「切り替え、切り替え……。これは凝灰岩か? 軽くて加工しやすいし、耐火性、蓄熱・断熱効果が優れているな。これならフローゼ様の大釜の隣に、ピザとかパンが焼ける本格的な『石窯』もついでに作っちゃおうかな?
……おっ、こっちは御影石! 細かく磨き上げれば鏡面みたいに滑らかになるぞ。静電気が起きないし、夏場の金属みたいにカンカンに熱くならないから、これは二郎たちの公園の『滑り台』の素材に最適だ!」
大工としてのインスピレーションが、石を見るたびに次々と湧き出してくる!
「あとはそうだな……公園で遊びながら自然と足腰を鍛えられるように、クライミング遊具の突起にこの安山岩っぽいのを埋め込もう。プラスチックのボルダリングと違って、本物の石の冷たさやゴツゴツした質感を肌で感じるから、将来グルメ界の崖を登るリアルな練習になるはずだ。
それから……砂場の枠石な。子供が転んでぶつかっても怪我しないように、角に丸みを帯びさせる『アール加工』を施そう。
あ、そうだ! 枠石の一部を縦に長く設置して、地面から頭だけ出すように等間隔で埋め込めば、ぴょんぴょん跳ねて遊ぶ『飛び石遊具』にもなるじゃないか! その踏み面は、逆に滑って転ばないようにザラザラにする『ブッシュハンマー加工』を忘れちゃいけないな。
残りの端材はそうだな……公園のシンボルとしてパンダとか馬の彫刻でも作ろうかな? ……いや、いっそのことアカシア様の石像でも建ててみるのもありか!?」
一人でどんどん現場監督の妄想を膨らませていると、最後に残った特殊な『金属鉱石』の入った箱が目に留まった。一見すると、箱の中には何も入っていないように見える。
「あれ? これはなんだ? 空っぽ……?」
「おいおい、よく見てみろ二鳥」
一龍が横から首を突っ込んで、ニカッと笑った。
「それは『カメレオン鉱石』っていう代物だ。常に周りの景色に完全に同化する、透明な鉱石なんだよ! 見た目はガラスみたいだけど、強度は普通の鉄の何十倍も頑丈だぞ!」
「透明で、しかも頑丈な鉱石……!!」
一龍の説明を聞いた瞬間、俺の脳内設計図のパズルがカチリと完璧に噛み合った。
(それなら……! さっき悩んでた、リビングの真ん中に通す大黒柱の素材にこのカメレオン鉱石を使えばいいじゃないか! 2階を支える強度は完璧だし、なおかつ透明だからリビング全体の視界の邪魔に一切ならない! 円形テーブルの中心から天井へ抜ける透明な柱なんて、めちゃくちゃモダンで格好いいぞ!!)
「よし、資材の使い道は全部決まった!!」と、俺が歓喜の声を上げようとした、まさにその時。家の奥の扉が開き、フローゼ様の心地よい声が響いた。
「はーい、みんなお待たせ! 朝ごはんができたわよ!」
「お、飯だ飯! 行こうぜ、二鳥!」
「ああ、行こう、兄さん!」
カメレオン鉱石という最高の解答を見つけ、おまけにフローゼ様の絶品朝食のタイミング。俺は一龍と顔を見合わせ、期待でお腹を鳴らしながら、温かい光の溢れるリビングへと足を向けるのだった。
◆
一龍兄さんと席に着こうとした、まさにその時。タイミング良く玄関の扉が開き、街へ出かけていたアカシア様が戻ってきた。
「ただいま、みんな。二鳥、すまないね。街の薬局をいくつか回ってみたんだが、生憎と強力な消臭剤は見つからなかったよ。その代わり、帰り道に森で『匂い消しの効果がある薬草』をたくさん集めてきたから、これを使って毛皮を洗うといい」
「ありがとうございます、アカシア様! 薬草でも十分助かります!」
「それとね」
アカシア様は優しい笑みを浮かべ、抱えていた大きな荷物を俺たちの前に嬉しそうに差し出した。
「消臭剤は買えなかったが、本当に買いたかった『こっちの物』は無事に買えたよ」
「……服?」
包みを開けると、そこに入っていたのは二郎の可愛らしい子供服、そして、明らかに人間離れしたサイズで作られた大きな、しかし仕立ての良い無地の服だった。
「二郎の服はともかく、二鳥はかなり体格が大きいからね。体に合うサイズの服が見つからないかもしれないと思っていたんだが……。服屋の店先で偶然これを見つけた時には、もう体が勝手に動いていて、気づけばお会計を終えていたよ」
アカシア様は「よく似合うと思うぞ」と温かく微笑んでくれる。前世でボロボロの作業着を泥だらけにして働いていた俺の魂が、その新しい服を見つめてジンと温かくなる。……だが、同時にブルーニトロとしての現実が、俺の頭を少し冷やした。
「……あ、ありがとうございます。すごく嬉しいです。……だけど、俺、どこからどう見ても『鳥人間』ですからね。普通の人間から見たら、ただの恐ろしい化物です。……せっかく服をいただきましたけど、俺が街に出ることなんて…きっと一生ありませんよ」
俺は少し寂しそうに、自分の青い鉤爪を見つめながらぽつりと呟いた。街の人々を怯えさせ、家族であるアカシア様たちの顔に泥を塗るわけにはいかない。しかし、美食神の辞書に「諦める」という言葉はなかった。
「ふふ、もちろんそのくらいの対策は最初から考えているさ」
アカシア様は自信満々に微笑むと、荷物の底から、これまた特注サイズの立派な『シルクハット』を取り出した。そして、俺の大きな鳥頭の上に、それをスッと被せる。
「いいかい、二鳥。君のその嘴の長い独特な頭部に、こうしてシルクハットを深く被せれば……ほら! 街の人たちには『ペストマスク』を付けた、ちょっと風変わりで大柄な男にしか見えなくなるだろ?」
「え……?」
言われてみれば確かにそうだ。ブルーニトロの縦に裂けた鋭い顔立ちと嘴は、人間界の医療従事者が付ける防毒マスク、いわゆるペストマスクの形状に酷似している。
「本当だ! 人前でうっかり口をパカンと空けなきゃ、誰も鳥人間だなんて気づかないし、恐れられることもないだろうな!」
一龍兄さんが俺の姿を見て、ポンと手を叩いて嬉しそうに笑った。
「まぁ、これなら私と一緒にお買い物にも出かけられるわね! 買い出しの時に力持ちの男の子がついてきてくれたら、とっても心強いわ」
フローゼ様も「ふふ、よく似合っているわよ」と母のような笑顔を向けてくれる。服を着て、シルクハットを被った自分の姿を鏡で見る。そこに映っていたのは、化物ではなく、確かに「ちょっと背の高い怪しげな紳士」の姿だった。
「俺……この姿なら、隠れずに…普通に外の人たちと、ちゃんと触れ合えるのか……!」
前世の孤独な餓死から、ブルーニトロという異形に転生し、一生日陰者として生きる覚悟をしていた俺の胸に、小さな、けれど確かな喜びの光が満ち溢れていく。
「よし、それじゃあ二鳥、まずはそのお洒落な格好のまま、フローゼの美味しい朝ごはんを腹一杯に食べようじゃないか!」
アカシア様のその言葉を合図に、俺たちの賑やかで温かい、そして未来の「大工事」を予感させる幸せな朝食がスタートした。
◆
(う、美味すぎる……!!)
食卓に並んだフローゼ様の朝食は、大工の現場仕事に備える俺にとって、これ以上ないほど理想的な一汁三菜のメニューだった…!
昨日と同じく『星米』のように眩しく光り輝く白米。そしておかずには、弱い魚と書いて鰯とは真逆の性質を持つ、人間界一強靭なイワシ『ツヨシ』の塩焼きがドンと鎮座している。箸を入れると、青魚特有の濃厚な脂がジワリと溢れ出し、噛み締めるほどに力強い旨味が脳を揺さぶる。
さらに、朝から汗を流し続けている俺の身体の水分を補給するのにはベストな水分量を持つキュウリ『ホキュウリ』の浅漬け、そして、見ているだけでこちらの気分まで明るくなるような、楽しそうに笑っている顔がついたエリンギ『笑リンギ』のミニサラダが並ぶ。
極めつけは、お椀から湯気を立てるお味噌汁だ。具材に何が入っているのかは俺の知識では分からなかったが、とにかく出汁の効き方が尋常ではなく、一口すするごとに温かい汁が五臓六腑へと深く、優しく染み渡っていくんだなこれが!
「ハグ、ハグ、モグ……ゴクン! ふぅ、美味い……!」
あまりの美味さに夢中で箸を動かしている最中、俺はふと、今日これから始まる大工事の段取りを思い出して、アカシア様に向かってうっかりいつもの大工のノリで声をかけてしまった。
「あ、そうだ。アカシア様、フローゼ様。今日のこれからの工事なんですけど、一応夕飯の段階……夕方までにはすべて終わらせる予定です。ただ、日中は家の中を盛大に解体して粉塵も舞うので、お昼の食事はどこか街の食堂にでも出かけて食べてきてください」
前世の現場で、施主にいつも言っていた定番のセリフ。だが、それを聞いた一龍兄さんが、お茶碗を持ったまま「ぶっ」と吹き出しそうになりながら、呆れたように笑って俺の頭を軽く小突いた。
「何を言っているんだ、弟よ。お前、さっき自分でシルクハットを被って変装を確認したばかりだろう? 街に飯を食いに行くなら、お前も一緒に連れて行くに決まってるじゃないか!」
「……あ」
一龍兄さんの言葉に、俺は間抜けな声を上げてフリーズした。そうだ。俺はもう、人目を忍んで物陰に隠れてなきゃいけない化け物じゃないんだ。アカシア様がくれた服を使い、シルクハットを深く被れば、街の人たちには「大柄なペストマスクの男」にしか見えない。普通に街を歩いて、一龍兄貴たちと一緒に食堂の席に座って、飯を食べることだってできるんだ。
「そうか……俺も、一緒に行っていいんだな」
「当たり前だとも。家族なんだからな。フローゼの仕込みの邪魔にならないよう、お昼は男三人で街の美味い店にでも突撃しようじゃないか」
アカシア様も嬉しそうに目を細めて頷いてくれる。
「そうだったな……。へへ、ありがとな、兄さん」
長年、日陰の現場で泥にまみれ、最後は孤独に死んでいった前世の記憶。それが、この温かい家族の言葉によって、また一歩、光の当たる場所へと引っ張り上げられた。俺は少し照れくさそうに鼻をこすりながら、再び活力を取り戻した目で箸を握り直した。最高の家族、最高の朝食。そして、お昼にはみんなで街へ出かけるという初めての楽しみ。
「よし! 食ったらソッコーで現場に入るぞ! 兄さん、遅れるなよ!」
「おう! どんと来いだ、二鳥親方!」
俺たちは残りの『星米』と『ツヨシ』を豪快に口へと掻き込み、人間界での初現場となる「アカシアの家・大改築」に向けて、最高のエネルギーを身体中に満ち溢れさせるのだった。
◆
「よし、それじゃあ朝飯も食ったし、早速工事に取り掛かるぞ!」
俺はハチマキを締め直す勢いで、シルクハットの下の鳥頭をキリッとさせた。隣で「うっしゃあ!」と腕をぶっとくまくっている一龍兄さんに向き直り、まずは最初の指示を出す。
「一龍兄さん、まずはあの透明な『カメレオン鉱石』を、天井を支える一本のぶっとい大黒柱に加工してほしいんだ。それが終わったら、次はフローゼ様のために凝灰岩を使った特注の大釜と、ピザを焼くための石窯の製作に入ってくれ!」
「おう、任せろ! ……って、釜とか窯なんて、俺に作れるか?」
「大丈夫。そのために、これを用意した」
俺は一瞬でペン(爪)を走らせ、描き終えたばかりの設計図をバッと広げた。そこにはミリ単位の寸法だけでなく、建築の初心者である一龍兄さんでも一目で構造が理解できるように、三次元の立体的なイラストが分かりやすく添えられている。
「うおお! すげえ、絵が飛び出して見えるみたいだ! これなら構造がハッキリ分かるし、俺にもできそうだぞ!」
一龍兄さんは嬉しそうに目を輝かせると、カメレオン鉱石と石材を抱えて庭の加工スペースへと元気よく飛び出していった。さすが現場の若い衆、飲み込みが早くて助かる。
「よし、兄さんが加工してる間に、俺は中の『解体』を終わらせるか!」
俺はリビングのど真ん中に、仮設の支柱をガチッと完璧に固定した。これで2階のアカシア様の部屋が落ちてくる心配はない。安全を確保したところで、いよいよ本格的な壁剥がしのスタートだ。
シュババババババッ!!!
ブルーニトロの圧倒的なスピードと、前世の大工としての精密な手捌きが火花を散らす。まずは2階のアカシア様の部屋から丁寧に壁を剥がし、続いて1階のリビング、フローゼ様の調理場、そして俺たちの寝室とアカシア様たちの寝室に至るまで、柱や梁といった重要な骨組みを傷つけないように、ミクロン単位の精度で次々と丁寧に壁材を削ぎ落としていった。
大工の心地よい爆音が響き渡り、やがて家全体が綺麗に骨組みだけとなった、まさにその時。
「二鳥親方! 言われた通り、カメレオン鉱石の大黒柱が完成したぞ!」
外から一龍兄さんが、透明に光る巨大な柱をひょいと担いで戻ってきた。ガラスのように透き通っているが、強度は鋼鉄を遥かに凌駕する最高級の大黒柱だ!
「さすが兄さん、最高のタイミングだ! まずはこれをリビングの中央に建てるぞ、手伝ってくれ!」
「おう!」
俺の指示に従い、一龍兄さんがその規格外の怪力で、カメレオン鉱石の大黒柱をリビングの中央、仮設支柱のすぐ隣へと完璧な垂直でズドンと嵌め込んだ。これで2階の荷重は完全にこの透明な柱へと引き継がれ、リビングの視界を一切遮らないモダンな大空間のベースが出来上がった。
「よし、大黒柱は設置完了! 兄さんは予定通り、次の大釜と石窯の製作を頼む!」
「了解だ、任せとけ!」
一龍兄さんが再び庭へと向かうのを見送り、俺はリビングの本格的な拡張工事へと入った。今ある空間をさらに大きく広げるため、不要な骨組みを一度慎重に分解。
一龍兄さんがハントしてきてくれたヒノキ系の極上木材を使い、さらに大きな新しい骨組みを爆速で組み上げていく。プレナー・スライスで仕口を寸分の狂いもなく削り出し、パチリ、パチリと完璧に噛み合わせていく快感!
気がつけば、元のリビングの約1.5倍もの広さを持つ、圧倒的な大空間の骨組みが完成していた。
「よし、ここから一気に壁の組み立てだ!」
俺は一龍兄さんが量産してくれた理想の厚みの板材を使い、トンカチをテンポよく振るいながら、調理場以外のすべての外壁と内壁を組み立てていった。トントン、カンカンと響くリズミカルな大工の音が、新しく生まれ変わっていくアカシアの家に、力強い命を吹き込んでいく。
あとは一龍兄さんの大釜たちが仕上がれば、フローゼ様の調理場を組み立てて家本体は完成だ。俺は額の汗を拭いながら、劇的に広くなった新しいリビングを見つめ、大工としての最高の充実感に胸を震わせるのだった。
「よし、このままのペースで一気に終わらせるぞ! 兄さん、手伝いに入る!」
俺はリビングの壁を組み立て終えると、すぐに外の加工スペースにいる一龍兄さんのもとへと駆けつけた。見れば、凝灰岩を使ったフローゼ様用の特大の大釜は見事に完成していたが、初めて挑戦する『石窯』のドーム状の曲線を組むのに少し苦戦しているようだ。
「二鳥、この頭頂部の噛み合わせが上手くいかなくてな。力任せにやると石が割れちまいそうだ」
「あ、そこは力じゃなくて『テコの原理』と重心の計算なんだ。兄さん、手本を見せるからよく見ててくれ!」
俺は手元にあった凝灰岩のブロックを掴むと、ブルーニトロの精密な手捌きで、石の接合面を爪でほんの数ミリだけ均した。そして、絶妙な角度でカチリ、カチリと組み上げていく。
(前世のピザ職人の現場で、石窯は何回も造ってきたからな。熱が綺麗に循環する
一龍兄さんが「おおっ! すげえ、魔法みたいに石が吸い付いていくぞ!」と目を丸くしている間に、俺は兄さんよりも圧倒的に高速で石窯のドームを完璧な形へと形成していった。
「よし、これで石窯も完成だ。中に運び込むぞ!」
「おうよ!」
俺と一龍兄さんは、完成したばかりのズッシリと重い大釜と石窯を二人で器用に抱え、まだ骨組みだけになっている調理場のスペースへと運び込み、一度仮置きしてみた。
(なるほど……これくらいの存在感か。フローゼ様が何人分もの飯を一気に仕込むんだ、この大釜のサイズに合わせて、調理場自体のスペースをさらに外側へ増築しなきゃ収まりが悪いな)
現場監督としての判断は一瞬だ。俺は調理場をさらに広く頑丈にするため、既存の調理場の古い骨組みを躊躇なく一度すべて分解し、拡張のための新しい基礎を打ち始めた。
「一龍兄さん、ここの増築は俺一人で爆速で仕上げるから、兄さんは今のうちに『公園用の石材の加工』に入ってほしいんだ!」
「公園の石材か! よし、具体的にどう削ればいい?」
俺は昨日話した設計図を思い浮かべながら、テキパキと指示を出す。
「まず、子供たちがぴょんぴょん跳ねて遊ぶ『飛び石遊具』にするために、御影石をいくつか『縦長』に加工してくれ。踏み面は滑り止めのためにザラザラにするのを忘れないでくれよ。それから、メインの滑り台だ! 小さな滑り台じゃなくて、全部繋げて一つの『超特大滑り台』にしたい。だから、横に長くて真ん中が『凹みの形』になったパーツを、全部で10パーツくらい均一に加工してほしいんだ!」
「横長で凹の形を10パーツだな! 分かった、ソッコーで仕上げてやる!」
一龍兄貴は新しい任務にニカッと笑うと、御影石の山へと向かって再び凄まじい手刀を振るい始めた。兄貴が石材の量産に入ったのを見届け、俺は調理場の増築工事へと全神経を集中させる。
カメレオン鉱石の大黒柱に負けないくらい太い梁で広くなった新しい調理場の壁をトンカチでリズミカルに組み立てていく。そして何より重要なのは、フローゼ様のリクエストである大釜と石窯のポテンシャルを100%引き出すための仕組みだ。
(グルメ界の規格外の火力にも耐えられるように……排気効率を最大まで高めるための、特殊な『排気ルート(煙突構造)』もセットで壁の内部に組み込んでおくぞ!)
大工としての知識と、ブルーニトロの爪による超精密加工。カンカン、トントンと響く小気味良い音が一段と高くなり、神の料理人が世界一の腕を振るうための『ボクの最強のシステムキッチン』が、みるみるうちにその全貌を現そうとしていた。
(よし……これで、家本体の
調理場の壁をパチリと完璧に嵌め込み、火効率を計算し尽くした排気ルート(煙突)を屋根の上へと繋げ終えた調理場、元のリビングの1.5倍に広がった大空間、そしてその中央を貫く、透明で頑強なカメレオン鉱石の大黒柱!
どこを見渡しても、前世の一級建築士としての知識と、ブルーニトロの肉体が融合した最高の仕上がりだ。
「あとは家族みんなで囲む円形テーブルや椅子といった家具、それに各部屋の扉さえ出来れば、家本体の工事は完全終了だな!」
俺が額の汗を拭いながら満足感に浸っていると、タイミング良く庭の向こうから、アカシア様とフローゼ様が歩いてやってきた。二人は新しく生まれ変わった家の外観を目にした瞬間、その場に足を止めて絶句した。
「おや……二鳥、一龍。完成するのは夕方頃だと聞かされていたが、これは一体……!?」
アカシア様が、世界の美食神ともあろうお方なのに、信じられないものを見るかのように目を丸くしている。フローゼ様も驚きに口元を抑えていた。
「へへ、アカシア様! 夕方に完成するっていうのは、中に入れる円形テーブルや椅子といった『家具』、それに扉まで含めた工程の話ですよ! 家の枠組み自体は、これから作成するつもりです!」
俺はシルクハットの下の鳥頭で、職人らしい自信満々の笑顔(嘴は見えないが)を浮かべてみせた。
「まぁ、素晴らしいわ……! 二鳥、中に入って見させてもらってもいいかしら?」
「もちろんです、フローゼ様! ご案内します!」
フローゼ様が嬉しそうにリビング、そして新しくなった調理場へと足を踏み入れた。元のサイズの何倍にも拡張され、凝灰岩を使って俺と一龍兄貴が爆速で造り上げた特注の大釜と本格的な石窯が鎮座する、最強のシステムキッチン。
「なんて素敵な調理場かしら! これならどんなに大きなお肉でも、一度にたくさん美味しく調理できるわ! 本当にありがとう、二鳥!」
フローゼ様は目を輝かせ、大喜びで大釜に触れている。その姿を見て、大工としての苦労が一瞬で吹き飛ぶような最高の充実感が胸を満たした。
「アカシア様、2階の書庫の『部屋自体』もすでにバッチリ完成しています。あとは、中に設置する書棚さえ作れば完全に完成しますよ!」
「そうか……! まさかこれほどの短時間で、これほど完璧な家を造り上げるとは。二鳥、君の職人としての技術には本当に驚かされるばかりだね」
アカシア様も深く感心したように何度も頷いてくれた。
「よし! では、みんなお腹も空いてきたことだし、そろそろ『昼メシ』にしようじゃないか! 街にとてもいい店があるんだ、私が紹介するぞ!」
アカシア様がマントを翻し、楽しそうに声をかけた。当然、留守番ではなく――
「フローゼも、それから二郎も一緒だ。みんなで街へ出かけよう!」
アカシア様のその言葉通り、昼寝から目を覚まし、あどけない顔をしている二郎が、フローゼ様に手を引かれてトコトコと歩いてきていた。俺はアカシア様から貰った新しい服の襟を正し、シルクハットを深く被り直した。
「ペストマスクを付けた、ちょっと風変わりで大柄な男…」
この姿なら、もう日陰に隠れる必要はない。大好きな家族と一緒に、堂々と人間界の街を歩き、同じテーブルで美味しいご飯を食べられるんだ。
「おっしゃあ! 飯だ飯だ! 二鳥、行こうぜ!」
一龍兄さんが俺の背中をガシガシと叩く。
「ああ、行こう、兄さん!」
俺は新しく授かった『二鳥』という名前と、自分の職人としての腕が家族の笑顔を生み出した誇りを胸に、初めてみんなで出かける人間界の街へ向けて、期待でお腹を鳴らしながら一歩を踏み出すのだった。
次で完成かな?
皆さんはどっちだと思います?二鳥は…
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攻め?
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受け?