『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』 作:マスターBT
メタリカ襲来以降、決して安全とは言えなくなった空の旅が着地を告げる微かな揺れと共に終わりを告げる。
「ん、着きましたか」
プライベートジェット機であるため、ホテルの一室を再現した様なとても飛行機の中とは思えない豪華な空間ではあったのだが、中身がただの一般人であるアルタにとっては気後れしてしまい、休めるどころか疲れる旅になっていた。
読んでいた本を机に置き、身体を大きく伸ばすその姿からは早くこの部屋を出たいという意思がはっきりと見て取れる。
「今のアメリカがどの様なものかは事前に座学しておきましたが……さて、上手くやれると良いのですがね」
髪を整え、白いスーツを羽織ると共に意識を盟主アルタへと切り替える。
プライベート空間と言い張り、どうにかライラがメイド服で世話をするという展開を退けた彼の一時の自由が終わり、盟主としての時間が戻ってくる。
「我らが偉大なる盟主アルタ・ミカエール様、御到着!!」
一歩外に出た瞬間、感じる異様な熱気。
気温だけのソレではないのは、正面に続くレッドカーペットと左右に直立している多くのアメリカ軍人が一本、筋の通った敬礼を見せているためだろう。
──
まさに今のアメリカを象徴する光景に苦笑しながらも、ゆっくりと降りていくアルタの視線の先、レッドカーペットが終わりを迎える場所で立っているのはアメリカ国旗を模したド派手なスーツに身を包み、前髪を一房前に垂らしそれ以外はオールバックで固めるという個性的な髪型をしている男性だ。
「まさか直々に出迎えられるとは思っていませんでしたよ。エリック・シーコール支部長」
「Oh!!常々言ってるではありませんか!!No!!支部長!!YES!!
「……貴方だけを特別扱いする訳にはいかないんですよエリック
「Meh……良いでしょう。盟主殿の頑固さはメタリカ以上ですからね!!」
別に耳元で騒がれている訳でもないのに、ガンガンと響くエリックの声にアルタが思わず顰めっ面を浮かべるのと同時に、彼の右横から暴風が吹き荒れ空を飛んで着いてきていたライラが着地する。
「おい。ヤンキー、アルタ様が無駄にやかましい声で苦しんでいる。さっさとその口を閉ざすか、今ここで私の剣に斬り捨てられるか選べ」
「HAHAHA!!噛み付く相手はよく選べよ狂犬?護るべき主と共に死にたいのなら構わんが」
殺意が空間を歪める。
後ろを見るまでもなく、先ほどのアメリカ軍人達がライラへと殺意をぶつけているのが丸わかりでアルタは静かにため息を吐き、疲れた様に見上げる。
「時間は有限ですよ。みなさん」
パンっと一度手を鳴らす──ただ、それだけの行動だ。
声色はいつも通りで、確かに笑顔を浮かべている筈なのに
「……申し訳ありませんアルタ様。罰は如何様にでも」
「shit、これでも精鋭を集めたんだが足りんか」
「「「「……」」」」
アルタ以外の全員が恐怖と圧に屈していた。
ライラは先程までの空気は何処へ消え失せたのか、召喚していた剣を消し頭を下げながらアルタの後ろへ控えていき、自らを大統領と不遜な振る舞いを続けていたエリックは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、アメリカ軍人に至っては奥歯をガクガクと震わせている程である。
「分かってくれたのなら良いですよ。では、エリック支部長、会議の場へと移りましょうか」
「YES……行きましょうか盟主アルタ」
やれやれ、空港に着いた時はどうなるかと思いましたがライラさんもアメリカの方々も大人しく下がってくれて嬉しい限りです。
ぶっちゃけて言ってしまえば、あんな殺気に満ち溢れた空気なんて俺には息苦しくて辛いだけですからねぇ。
「さて何やら貴方達が個人的に所有するレーダーが何かを捉えたとの話でしたが」
場所は変わり、アメリカ支部の本部ニューヨークにある会議室で中世ファンタジーでしか見た覚えのない長い机の両端に俺とエリック支部長が座っている状態だ。
見栄というものを重要視する彼等らしい細部まで拘りのある飾りと、出来ることならずっと座っていたい柔らかな椅子が揃えられている会議室ですね。
「早速Main Topicですか?こうして顔を合わせるのは数少ないChanceなのですからもっとSmall Talkでも」
「楽しそうなお誘いですが、互いに多忙な身。ゆっくりとお話をするよりも手早く本題に移った方が得だと思いますよ」
なんて言ってみますが、どう見てもエリック支部長の目は雑談を楽しもうってタイプじゃない気がするんですよね、ただの直感ですけど。
なんというか少しでも俺に余計な言葉を引き出させそれを利用して自分優位に話を進めたがっているというか……まぁ、本物の記憶通りならこの人は
「Hmm……ではそうしましょうか!!メタリカ襲来以降、海は連中により侵食された生物達で溢れ返り嘗ての貿易産業がほぼ機能していないのは盟主もご存知ですね?」
「えぇ。それ故、主に航空やアマルガメイトにより対処可能な陸上に限り物資運送が余儀なくされています。企業連や我々が独自に各支部単独で栽培可能な環境を整えてはいますが……全ての人々に行き渡っていないのが現状です」
「Exactly!!先に結論から言ってしまえば、我々は海洋のヌシと呼ぶべきメタリカの反応を探知したのですよ!!盟主には是非とも討伐戦への参加と、各支部へ協力の要請をしていただきたいのです!!」
パチンっと指を鳴らすのと同時にエリック支部長の部下が資料を俺の目の前に置く。
……なるほど、確かに数々の報告書を目に通しましたがこれほど大きな波形は一度も見たことがありませんね。
「映像ではなく音を拾ったのですね」
「YES。波形から考えるにクジラのメタリカであるのが一番有力でしょう」
「元々巨大な生物がメタリカにより更なる進化を遂げているとなるとその脅威は絶大と言えます」
「YES!!YES!!金属の生命体が海洋に適応するなどどんなNightmareかと思いましたが、これ程の巨大な獲物を仕留める事が出来れば海を人類の手に取り返す事が出来まーす!!」
優れた一個体を倒せたからと言って、他の個体も勝てるほど簡単な話ではないと思うのですがおそらく、エリック支部長が言っているのはそんな簡単な内容ではないのでしょうね。
「地球は我々人類のもの!!宇宙から飛来した寄生生物共に明け渡して良い物ではない!!……んんっ、失礼。少々、HOT!!になり過ぎましたね」
「構いませんよ。エリック支部長、貴方は我々人類が人類としての誇りを取り戻すべくこの海洋メタリカを討ち倒すという事で良いのですね?」
正直、どこまで彼を信じるべきなのかは分かりませんが俺個人への対抗意識ではなく、人類という大きな括りに対しての言葉であれば多少は信じても良いのかもしれない。
「YES。いつまでもあんな理解不能なメタリカに屈している訳にはいきません。何の為に全ての国民を
俺からすればあんな低い成功率の手術を全ての国民に強制的に実行し、総人口を三億四千万から一億八百万に減らした貴方も理解不能ですけどね。
「……わかりました。手配を進めておきましょう」
「Oh!!Thank you!!盟主アルタ!!」
本物のアルタなら満面の笑みを浮かべているエリック支部長の裏の考えを悟る事が出来たのでしょうかね?
今の俺じゃあ、警戒をしておこうと思うのが精一杯で彼の提案を飲むしかないのがなんだか情けない。
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