今回は共和国軍視点です。
私――オビ=ワン・ケノービは、揺れるヴェネター級スター・デストロイヤーのブリッジで、冷徹な戦況ホログラムを凝視していた。表面上はいつものように冷静沈着なジェダイ・マスターの仮面を被っているが……その実、私の精神はジェダイの戒律から最も遠い場所で、激しく揺れ動いていた。
マンダロアの伝統派にして過激派集団『デス・ウォッチ』が、平和主義を掲げるサティーン・クライズ公爵を捕らえ、政権を掌握した。それだけであれば単なる星系の内政問題であり、共和国が軍事介入する法的根拠は乏しかった。
しかし、奴らが独立星系連合との同盟を公に宣言した瞬間、事態は一変した。マンダロアを連合の魔の手から解放するという大義名分のもと、ジェダイ評議会は即座に侵攻を決定したのだ。
だが、現状はあまりにも厳しかった。現在、アウター・リムへと繋がる主要な航路は全て独立星系連合によって遮断されている。加えて、グリーヴァス将軍率いるドロイド軍の艦隊が銀河の各地で電撃的な猛攻を仕掛けているため、共和国軍は完全に戦力を分断され、各地の防衛に兵力を削がれきっていた。
だとしても、伝説の鋼鉄『ベスカー合金』を連合に独占させるわけにはいかない。今回の作戦に派兵できた艦隊はヴェネター級5隻、アクラメイター級3隻という限られた兵力だったが、私達には選択の余地などなかった。そして何より――私の胸を締め付けていたのは、政治的な危機感だけではない。
───サティーン・クライズ。
かつて若きパダワンだった頃、激動のマンダロアで彼女を護衛し、共に逃避行を続けた日々。もしジェダイの掟さえ無ければ、全てを捨てて彼女と共に幸せな生活を送っていただろうと思えるほど、私は今でも彼女に秘めたる想いを抱き続けていた。
その彼女が、凶暴な戦士達に捕らえられ、冷たい独房に監禁されている。デス・ウォッチは手段を選ばない過激派だ。奴らがいつ、サティーンを無惨に処刑するか分からない。
いや、最悪なのはそれだけではなかった。ジオノーシスの地下牢獄で不気味に嗤った金髪の少女の姿が、脳裏によぎる。ドゥークーの養女、ドラヴェナ。
銀河の悪意を凝縮させて煮詰めたような、あの怪物のことだ。サティーンの処刑を至高の余興として嬉々として引き受け、民衆の前で大々的に執り行うに決まっている。彼女に捕まれば、サティーンは死んだ方がマシと思えるほどの、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わうことになるだろう。
(急がねばならない。一刻も早く、あの忌々しい連合軍の艦隊を撃破し、彼女を救い出さなければ───)
「全戦闘機部隊、発艦せよ! 敵艦隊の接近を許すな!」
私は心の動揺を打ち消すように、鋭い指示を出した。カタパルトから、V-19トレント・スターファイターを主力とする戦闘機群が、暗黒の宇宙空間へと次々に飛び出していく。その混成部隊の中には、ロールアウトしたばかりの新型戦闘機『ARC-170スターファイター』も少数ながら混じっていた。
ARC-170は、従来のV-19よりも遥かに高機動かつ重武装、三人乗りの重戦闘機だ。今はまだ製造数が極めて少なく、試験的な運用に留まっているが、やがて共和国艦隊の主力を担うであろう、期待の新星だった。
光線と爆炎が宇宙を飾り、我が方の戦闘機部隊が敵のヴァルチャー・ドロイドの大群と激しい乱戦に突入した。――だが、異変が起きたのは、全ての航空戦力が母艦を離れた直後のことだった。
「報告! 衛星コンコーディアの陰から高速の熱源が接近! 連合のドロイドではありません、マンダロアの戦闘艇です!」
「何だと……!?」
正面のドロイド艦隊に意識を奪われていた私達の死角――背後から突如として、全長約70mのコムルク級スターファイターが何隻もハイパースペースを通らずに飛び出し、完全な奇襲を仕掛けてきたのだ。
───デス・ウォッチ。奴らは戦場の空気を読むことにかけては、天才的な一族だった。
接近したコムルク級のアクセス・ハッチが一斉に開放される。そこから虚空へと飛び出してきたのは、伝統的なアーマーを纏った戦士達の群れだった。彼らは各々のジェットパックから青い炎を噴射し、凄まじい速度で丸裸になったヴェネター級の巨体へと肉薄していく。
『だ、ダメです! 敵の歩兵が直接装甲に張り付いています!』
『シールド発生装置が爆破されました! ブリッジに侵入者が――うわあああ!』
通信回線が悲鳴と銃声で埋め尽くされる。防空能力を戦闘機部隊の出撃によって失っていたヴェネター級は、あまりにも脆かった。デス・ウォッチの戦士達は驚異的な身体能力でブリッジへと突入し、操舵システムやジェネレーターを悉く内側から破壊。制御を失ったヴェネター級の1隻が、苦悶の炎を上げながら戦闘能力を喪失していく。
更に悪夢は重なった。制御を失ったヴェネター級が、避けきれずに隣にいた別のヴェネター級に激突。凄まじい大爆発を起こし、2隻の主力艦が一度に大破、轟沈していった。
「コーディ! ブリッジの防衛に回れ!」
私が叫んだ瞬間、私の乗る旗艦のブリッジの防爆扉が、強力な熱線によって焼き切られた。爆煙の中から飛び出してくる、ベスカーに身を包んだデス・ウォッチの戦士達。
「ジェダイめ、マンダロアから去れ!」
「断る!お前達こそマンダロアから去れ!」
私は腰からライトセーバーを引き抜き、瞬時に青い光刃を起動。襲いかかる戦士達のブラスターを弾き返し、その喉元を鮮やかに斬り伏せた。コーディやクローン兵達も必死に応戦するが、ブリッジの半分は既に火の海と化し、劣勢であることは誰の目にも明らかだった。
窓の外に目を向ければ、更に目を覆いたくなるような惨劇が繰り広げられていた。
艦隊戦に向かない兵員輸送艦アクラメイター級3隻が、遥か遠距離から放たれるミュニファスント級の強力な正面主砲の長距離射撃を浴び、その薄い装甲を易々と貫かれて全艦大破。宇宙の藻屑と消えていく光景が映った。
戦術的に、完全に敗北していた。正面からはミュニファスント級の圧倒的な長距離砲撃、背後からはデス・ウォッチによる神出鬼没の白兵奇襲。これ以上の戦闘継続は、無駄死にを意味する。
「……全軍、撤退だ! 残存艦は即座に反転、ハイパージャンプの準備を急げ!」
私は無念に唇を噛み締めながら、悲痛な退却命令を下した。炎上する旗艦が辛うじてハイパースペースへと逃げ込んでいく最中。私の脳裏を支配していたのは、敗北の屈辱ではない。
(サティーン……すまない。私は、君を……)
遠ざかるマンダロアの暗黒の宙空。そこには勝利を確信して残虐に嗤っているであろう、あの悪魔の令嬢ドラヴェナの影が、不気味にそびえ立っているように見えた。